全てのアラガミの原型にして完成体()
今から五十年以上先の未来。
世界は「神」によって食い荒らされていた。
ある日、北欧地域にてこれまでの生物の組成とは全く異なる細胞「オラクル細胞」が発見される。
その後爆発的に発生・増殖していったオラクル細胞は地球上のありとあらゆる対象を「捕食」しながら急激な進化を遂げ、凶暴な生物体として多様に分化。ほとんどの都市文明は彼らによって短期間の内に崩壊したのであった。このオラクル細胞の集合体からなる脅威を、人は「アラガミ」と呼んだ。
アラガミに対して既存の兵器は補喰効果により一切無効であった。既存の軍や政府は無力化し、人々に残されたのは世界の終焉を待つことしかないかと思われた。
そんな時、同じオラクル細胞を埋め込んだ生体兵器「神機」が生化学企業フェンリルによって開発される。そして、自らの体にオラクル細胞を接種し、神機と自らを連結させることでそれを操る特殊部隊、通称「ゴッドイーター」が編成されたのである。
人類は、その崩壊の一歩手前で「神を喰らうもの」を手に入れたのである。
ゴッドイーターの任務は、地下居住区に近づくアラガミを撃退し、そのオラクル細胞のコアを素材として持ち帰ること。しかし、無尽蔵に増殖するアラガミに対抗する彼らの戦いは、常に死と隣り合わせの苛烈なものであった。大切な人を守るために、あるいは豊富な報酬を目当てに、様々な理由で集まったゴッドイーターたちの終わりなき戦いが今日も始まる。
そんな中、俺は新人ゴッドイーター、ではなくアラガミ「オウガテイル」としてこの世界を生きていくことになったのだった。
オウガテイル。
鬼の顔のような尾を持つ、二足歩行のアラガミ。比較的小型の部類に入るものの、通常の人間では為すすべなく喰われてしまう。巨大な尾を振り回したり、バネのように折りたたんで跳躍したり、棘を飛ばしたりと、かなりの攻撃バリエーションがある。このオーガテイルを倒せて初めて、一人前のゴッドイーターと言えるだろう。
とされるアラガミヒエラルキーの最下層に位置する存在である。
何で? てかなぜ? 何がどうしてこうなった? どうすんの? どうなっちゃうのよ、俺?
いや! 待て! ともかく、まずは状況整理を……ってやってられっか!
俺は尻尾を振り回し建物に打ち付けた。元々壊れかけでヒビの入っていた壁は容易に崩れる。
そのまましばらく周りのものに当り散らした結果、ようやく気分が落ち着いてきた。
そして、暴れたおかげで逆に自分の状況が分かった。
ここは本当にあのゴッドイーターというゲームの世界らしい。最後にプレイしたのは三か月くらい前だっただろうか?
辺りを見渡せば砂漠のような荒野に穴の空いたビル群と、見覚えのあるフィールドが広がっている。
なんて名前だったっけ? 断罪の街とか贖罪の街みたいな感じだったと思うが、覚えてねえや。
尻尾を見るに自分はどうやら最弱のアラガミ、オウガテイルらしく、暴れた惨状を見てもオウガテイルってこんなもんだろ、程度の強さしかもっていないようだ。ただ幸いにも記憶は保ったままのようで、原作知識を生かせばこの身体でもなんとか生きていけるかもしれない。
にしてもなんでこんなことになったんだ? たとえこれがリアルな夢だとしても後免被る。
オウガテイルじゃソーマさんやリンドウさんはおろか、名前も憶えてないサブキャラ達にも敗けるぞ。どうせならゴッドイーターになりたかったし、アラガミになるならウロヴォロスまでいかなくともせめてヴァジュラになりたかった。
とはいえ夢にしろ現実にしろどうせなら楽しむぐらいの余裕が欲しい。そうなるとまずは情報収集からだな。
もしこの世界がゲームそのままで相手の動きもそのままなら楽だが、変にリアルな動きをされたらどうしようもない。まずは他のアラガミを探して観察するとしよう。
次に捕食だ。アラガミはたしか喰えば喰うほど強くなるはず。死骸でも良いからなるべく強いアラガミを喰って、なるべく早く強くなりたい。
でゴッドイーター勢はとりあえずパスだな。見かけたら一目散に逃げよう。痛いのは嫌だし。放電チェーンソーとか絶対に嫌だ。
というわけだからとりあえず散歩がてら外を歩くか。同族に会えるかもしれないし。
ぶらぶらと荒れた街を徘徊していると、案外早くオウガテイル四匹の群れを見つけた。
しばらく観察してみたがこれといってゲームと違った動きはない。
というわけで早速交流を図ってみた所、意思疎通は出来るようだが人間らしい会話は出来なかった。どうやら俺の言葉は人語ではないらしいが、かといってアラガミにも大体のニュアンスしか伝わらないようだ。
そのまま行動を共にするという選択肢もあったが、自分がボスなら仲間になってもいい的な意思をつげると四匹に襲われそうになったので断念した。獣並みの知能四匹に従ってたら確実にヴァジュラか神機の餌になる。
仕方なく一人、いや一匹で群れから離れた。
そういえば人間の時も大親友が一人いたぐらいでそれ以外に親しい友人なんてものはいなかったなあ。まあ、あいつと家族さえいればいいって思ってたし。
とはいえここにはあいつどころか知り合い一人この世界にはいない。人間側にはこっちから一方的に知ってる存在がいるもののアラガミなんてNPCに知ってるやつはいない。いや、この世界の年代によっては黒ハンニバルのリンドウさんもいるんだろうが、さすがに近づきたくないな。
なんつーか、元の世界が恋しいな。夢ならさっさと覚めてほしい。まっ試しに死んでみるつもりもないが。
そんなことを考えながら歩き続け数時間。
「……腹減った」
思わずそんなことを呟いてしまった。アラガミは死んだあとしばらく経つと身体が霧散する。だからか都合よく死にたてのアラガミを見つけることは出来ず、さらにオウガテイルという身では生きたアラガミを仕留めるのも至難の業だった。
群れをなす同族に挑むのは愚の骨頂。その他勝てそうなアラガミの内、女と卵と目玉をくっつけたようなザイゴートというアラガミも見かけたが空を飛んでいるためほとんど一方的な展開になるのが目に見えていた。針飛ばせばいいじゃんとか最初は俺も思ったが、やってみると重力のせいでそこまで遠くに飛ばせないのだ。だれだよオウガテイルが原型にして完成体とか言った奴。
後、勝てそうなのと言えばアイアンメイデンことコクーンメイデンだがあいつらは普段地中に潜っているのか、そもそもここにはいないのかで全く見かけなかった。
「……マジ帰りてえ」
人間からすれば腹を減らした動物のような鳴き声でも出しているのだろうかと思いながら壊れかけの建物を見やる。
そういえばアラガミって無機物も食えるんだっけ。
いやいや元人間としてそれだけはやってはいけない気がする。無機物なんか喰ったらクアドリガみたいになるぞ俺。胸からミサイルとか嫌だろ俺?
そう自分に言い聞かせながら教会らしき建物に入った。
食べ物があると思ったわけではない。ただちょいと会ったこともない神様に文句を言うつもりだった。
教会には鮮やかなステンドグラスが所々残っており、本来ならキリストさんでも吊るされていそうな場所には馬鹿でかい穴が開いている。
たしかここはリンドウさんが閉じ込められた場所だったっけと少し感慨に拭けった後、さっそく神に向けて届かぬ罵声を浴びせ始めた。
「この糞ガミが! たとえ信じれば戻れるって言われても絶対にてめえのことなんか信じねえからな、バーカ!」
するとその叫びが天に届いたのか正面の穴を通り、陽の光を後光のように浴びながら、天使と蝶を合わせたようなアラガミ、サリエルが降臨した。
あっ、これ終わったな。
続く?