オーバーロード~割と日常で桃色な日常の結末~   作:へっぽこ鉛筆

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※今回も、特定の団体や個人は一切関係ありません。さらに、No028に意図はありません。学歴なんて関係ないよね。その他、特定のキャラがひどい目にあいますが、他意ありません。



オーバーロード~割と日常で桃色な日常の結末~(アインズ様ベストエンディング&家政婦によるバッドエンディング)

 

 

 

 デミウルゴスは、黒檀で出来ているであろう漆黒のディスクに並べられた書類を見て、満足気な笑みを浮かべた。

 

 そこには、牧場の羊たちの報告や、羊皮紙の生産、異種族間の交配実験、奴隷としての農作業効率、さらには効率的な拷問や尋問に対する実験など多岐に渡る。特に、オークやゴブリンなどの異種族との交配に使う牝の被検体が増えたのが喜ばしいことだ。自傷などで、直ぐに減ってしまうのをアインズ様が『SOLEDs』という羊の群れを提供してくださったことによって、若く、妊娠適齢期の牝の被検体が増えたことで、試行錯誤だった実験が、ようやく軌道に乗り始めたのだ。

 

 八本指から入手した媚薬や麻薬を多様することで、羊の嗚咽や悲鳴が聞けなくなったのは寂しいが、アインズ様が人間とアンデットの交配の研究を指示されたので仕方がない。至高の御方の言葉は、自分の嗜好などより優先するのは、分かっている。それに、最近では、もっと面白い玩具を手に入れた。

 

「デミウルゴスさま、羊の革を剥ぎ終わりました。」

 

 静かにノックして入ってくる男に目を向ければ、満足そうに笑みを浮かべる。

 

「ご苦労様です。ところで、No028、ほかの羊たちの様子はどうですか?」

 

「はい、何匹かはまだ反抗的な態度を取っていますが、プルチネッラさまとトーチャーさまの協力で、今は大人しく厩舎に繋いでいます。」

 

 喜々として報告をする『NO、028』彼の本名をデミウルゴスは頭の隅の方で思い出す。たしかアーキ・オダーウだったような気がする。愚かにも、アインズさまの統治に逆らい、路上で騒乱を起こしたところ、シャルティアの人間による治安指導員;親衛隊に逮捕された人物だ。

 

 現在は、右手の甲に刺青でNo、028と掘られた羊として、デミウルゴスのお気に入りの玩具だった。支配の言呪を使わずとも、犬のようになついてくる。下等で低脳な羊といえどもこうなると可愛いものだ。

 

 その少年の報告に、笑いがこみ上げるのが抑えつつ、デミウルゴスはメガネの淵を上げる。今、一番お気に入りの玩具の持ってきた報告書の文字は汚く、誤字が多かったが、それすらも可愛く思える。

 

 この羊は最初は、他の羊と同じように強制労働と再教育によって、アインズ様への忠誠と、過去の贖罪を自白させるという通常の収容生活を送らせていたのだが、当然というべきか、動作が遅く、知能が低いNo、28は作業の邪魔となった。さらには、空気を読まない行為や言動が目立ち、ほかの収容された羊たち疎まれた。

 

 平和と人権を叫び、リーダーとして注目された少年が、無視され、避けられ、それが陰湿なイジメに変わるのに、それほど時間がかからなかった。食事に汚物を入れられ、就寝中に呼び出され殴られ、そして男性に性的な行為を強要される頃に、優しい声でデミウルゴスが声をかけたのだ。

 

(まぁ、子供の時から疎外されていたのでしょうね。承認欲求が強い少年です。それだけに、面白い)

 

 それから、ケーキと甘いお茶を与えれば、簡単にアインズ様の熱狂的な信者に変わっていた。今では、笑顔で仲間たちの皮をはいでくれる可愛い玩具になっていたのだ。

 

(しかし、流石はアインズ様・・・このような、システム化した思想矯正施設を建設するとは・・・やはり、あの方の英知には敵いませんね。)

 

「さて、それではNo028、そろそろNo037の拘束を緩めてあげましょう。瞼を開きすぎると失明するらしいですからね。あと、4日間睡眠をとらせずに吊るし続けたNo009の様子も、ああ、そう言えば彼女は発狂して地面に頭を打ち付けて死んだのですね。他の羊で試さなくては」

 

 実に楽しげにデミウルゴスは天井を仰ぎ見た。そこには、収容所のいたるところに掲げられているアインズの標語『労働は君たちを自由にする』の言葉が掲げてあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナザリックの第六階層、コキュートスは細心の注意を払いつつ、手に持った木剣を振るっていた。

 

 これは、相手を攻撃するためではない。逆に、かすり傷すらつけてはいけない。相手を撃つ直前で剣を止め、決して、その相手にダメージを与えない。もっとも、木剣事態にダメージ無効のデータが組み込まれているが、万が一のことがあってはいけない。

 

「てや――ッ!!」

 

 可愛い少年の声が響き、コキュートスの腹甲が僅かにダメージを負うが、それに嬉しそうに大げさに一歩後退する。

 

「ハハ、ヨイ太刀筋デス、若サマ――」

 

「もー、コキュートス、てかげんしたでしょう。」

 

 小さな少年が、その長い耳を立てて、はるかに凶悪で恐ろしい蟲王に文句を言う、その少年を見れば、闇森妖精だと気づくのだが、勝気な少年の態度にコキュトスは闊達な笑いをした。

 

「シカシ、本当ニ、太刀打チガ上達シテオリマスゾ、ソノウチ、コノ爺ナド、スグニ敵ワナクナッテシマウ」

 

「もう、コキュートスは、すぐぐにそんな事を言うんだから・・・僕は将来、りっぱな戦士になって、ナザリックを守るんだから、ちゃんと、練習してくれないとダメなんだよ。」

 

 口を尖らせ目の前のナザリック最強と言われる戦士にそっぽを向くモモル、アインズの第一王子の言葉に、コキュートスは胸に熱いものを感じてしまう。一時期、守護者として冷遇されていたと考えていた自分を恥じる。アインズ様が、この第一王子の教育係に自分を指名したとき、まさに自分にとってと天命だと感じそれを拝命した。

 

 もっとも、まだ幼く、さらに、アインズの教育方針として、基礎的な学力を身に付けさせるために、朝と夕方に遊びのように剣を交えるだけだが、数十年後には自分を越える戦士に成長する王子の姿を想像するだけで、気管から熱い息が漏れてしまう。

 

「ソレデハ、若様・・・モウ、一手合ワセヨロシイデスカ」

 

「うん、コキュートス、今度はてかげんしちゃ、ダメだからね。」

 

 そして、また、お互いに剣を正眼に構える二人、だが、それは一人の声に邪魔された。

 

「コラー、モモル、学校に遅れから、すぐに準備しなさいって言ったでしょッ」

 

 アウラが襟首をつかみ、剣を構えたままのモモルをつまみ上げる。借りてきた猫のように、耳を伏せるモモル、それを見てコキュートスが不満の声を上げる。

 

「アウラヨ・・・王子ハ今、剣ノ稽古ヲシテイルノダ、後ニシテモラエナイカ」

 

「そう言って、この前は遅刻したんだからね。アインズ様も、王子だからって特別扱いしないって言ったでしょ。」

 

 腕を組み、困ったように「ウムー」とうなるコキュートスに手を振るモモル、すぐに“制服”というモノに着替えさせられてしまった。仕方がない、学校というものが終わるまで、リザードマンの村を見回るか、まるで、孫と遊ぶのが楽しみで仕方がないお爺ちゃんのように、コキュートスは肩を落として第六階層を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 魔導都市アインズ・ウール・ゴウン――カルネ村の南に位置する大都市・・・に、なる予定だが、今はまだ、目抜き通りになる予定の石畳の道、両脇に疎らに商店と屋台のような露店が並ぶ、客も、この都市の住人よりも建設の為派遣された大工や職人の方が多い、現在の人口は1087人、ちょっと大きな村といった感じだ。

 

 まだ、城壁もなく、建築物の目印である縄張りが目立つ中、建造物として使用され比較的人の出入りが激しい建物があった。木製だが立派な作りの2階建ての建物、広いグラウンドと緑のある公園、そして、柵で囲われたその建物に通う子どもたちの表情はみんな明るいものだった。

 

 その子供たちに、満足な顔を浮かべ、メガネの縁を直す、ユリ・アルファは校門の前、メイド服姿という異様な格好だったが、あまりに似合いすぎて誰も咎める者はいない、その、石作の校門には『アインズ・ウール・ゴウン魔導学校』と書かれた木板がかけられている。

 

「おはようございます。ユリ先生」

 

「はい、おはようございます。もうすぐ、授業が始まりますよ。みなさん――」

 

 「はーい」と元気な声が響く、それに言い知れない満足感を覚えるユリは、つい頬が緩んでしまう。そして、こうして自分の創造主たる至高の41人、やまこい様と同じ務めを行える事に、深い喜びを感じている。

 

 他の先生たちや子どもも早足で教室に駆け込み、授業の準備を始める中、その様子を伺いにか、タキシード姿の老人も目を細めて、ユリの隣で穏やかに子供たちを見守っている。連れ立った男性と、子供たちに気が付けば、ユリはスカートの裾を上げ、礼儀よく頭を下げた。

 

「これは、セバスさま・・・えーっと、ジルクニフさま、ごきげんよう。」

 

「おはよう。ユリ・アルファ・・・こちらは紹介しておかなくてはいけませんね。」

 

 そして、バハルス帝国皇帝の後ろに隠れるように立っている少年、父親に似て美少年と言って良いだろう。愛らしい子供がペコリと挨拶をする。

 

「バハルス帝国、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス、第4王子、エルブン・ルーン・ファーロード・エル=ニクスです、今日よりアインズ・ウール・ゴウン魔導学校に留学生として来ました。」

 

 礼儀よく一礼する少年に、眼鏡の女性もスカートの裾をつまみ優雅に挨拶を帰す。セバスとジルクニフが微笑ましく、頬を緩める。セバスは本心からだが、ジルクニフは当然のように、社交辞令としての仮面に貼り付けたような笑顔だ。

 

「そういう訳です。ユリ・アルファ先生、息子をよろしくお願いします。」

 

「ええ、セバス様・・・いいえ、セバス校長から聞いております。言っておきますが、皇帝陛下の息子だと言って、特別扱い和しませんので」

 

 また、爽やかな笑顔で「手厳しい」と、歯の浮くような声を上げる。その時、エルブン王子の表情が変わった。年相応の明るい笑顔で、向かってきた少女二人に手を振る。

 

「あー、モーレちゃん、おはよー」

 

 その声に、優雅にボールガウンに優雅なゴシックドレス、さらに、その白い肌が日に晒されるのを避けるように、日傘に全身をレースの生地で覆う少女の後ろに隠れるモーレ、幼年の学生が着るブレザーにスカートの姿という愛らしい少女が、一瞬、オドオドと顔をのぞかせるが、すぐに表情を明るくした。

 

「あ、エルブンくん・・・あ、あの、おはよう・・・ひゃ」

 

 以前、友達になった少年の姿に、嬉しそうに声を上げた少女に、貴人を思わせる少女・・・シャルティア・ブラッドフォールンが冷たい視線を向けた。

 

「モーレ様、そのような言葉使い・・・あなた様は、あの至高なる御方の御息女、その事を忘れんでおくんなませ。」

 

「はは、それはスマナイ、シャルテイア・ブラッドフォールン殿・・・私の愚息も教育をしておかなければ、しかし、この学び舎は、すべての子供が平等なはず、ここは、私に免じて――」

 

 まったく、宮廷で婦人を相手にするような流れる作業で頭を伏せるジルクニフだが、その口元には僅かに打算的な笑があった。

 

 彼がこの学校に、しかも、エルブン(=森妖精)などと名づけた子供を送り込んだのは、少しでもこの姫と王子に近づくためだった。エルフならば人間との婚姻が可能であり、もし、血縁ができればアインズに対する強力な外交カードになる。アンデットがどうやって子供をなしたかはよくわからないが、彼が、この子供たちを愛しているのは間違いがない。さまざまな情報も、それを裏付けしていた。

 

 二人並んで、校舎に向かう幼子を見て、どこか、幼い時に捨てたものを思い出したような気がするが、皇帝とセバス校長は今後、両国の留学や交流に関しての言葉を交わしながら校長室へ、さらには、子供たちを呼ぶ、ペストーニャ・S・ワンコ保険医の声が聞こえる。ユリもそろそろ、受け持ちの教室へ行こうとすると、そのスカートの裾を掴む手があった。

 

「あ、あの、なんでしょう・・・シャルティア様?」

 

「ふふっ、イケズな言葉でありんすね。ユリ・アルファ」

 

 完全に欲望に染まった紅い瞳で舐め回すように肢体・・・特に胸の部分を見るシャルティアに、一瞬顔の筋肉がひきつる。

 

 正直、ユリにとって天敵のような人物なのだが、こんな、公共施設の前でも、やはりその性癖は隠せないらしい。いや、学校+女教師というシュチエーションが、さらに彼女を燃え上がらせたのか、熱く激しい呼吸をするシャルティアは、完全に危ない変質者だった。 

 

「ああ、ユリ・アルファ・・・教師と言うのも良いものでありんすね。どうでりんしょ、私と誰もいない教室で、あま~い、個人授業を・・・ふぎゃ」

 

「このバカ、いい加減にしなさいッ!!」

 

 後ろから落とされた手刀に、潰れたカエルのような声を上げるシャルティア、チャンスとばかりに「で、では、授業がありますので・・・」と逃げていくユリを涙目で追うシャルティアが、目を吊り上げ振りむく

 

「な、何するでりんす。この、ちび助――ッ」

 

「何するはアンタでしょ。こんな、昼間からッ、しかも、子供のいる学校でッ」

 

「ふん、学校でありんすから、ユリ先生と正しい性教育を――」

 

「なお悪いわッ!!」

 

 また、頭を叩かれ、ヘッドドレスの上から頭を押さえるシャルティア、拗ねたようにアウラを見上げれば、こちらも拗ねたようにそっぽを向く――

 

「もう、そんなに大きい胸が好きなんだったら、ほかの娘と仲良くすればいいじゃん――で、でも、私だった、結構大きく・・・ッ」

 

 頬を赤く染め、怒ったような口調のアウラ、悪戯をするようにクスリと笑えば、紅く小さな舌が褐色の頬をチロリと舐める。

 

「ひゃぁ――も、もう、だから、学校でそういうことをしちゃダメだってッ、ひゃ・・・ぁ」

 

「――チュッ・・・それじゃ、誰もいないところで遊びましょう。可愛い私の愛玩動物(アウラ)

 

 その言葉に、こくりと俯くアウラ、うるんだ瞳でシャルティアと向かい合って手を握る。お互いの瞳が重なれば、そのまま、自然と唇が重なり合い――

 

 

 

 

 

 

「ふんふんふ~ん、ああ、アインズさま~、愛しい、アインズさま~♪」

 

 守護者統括、最近与えられた自室にて、ちゃんと中身の入った鍋を、鼻歌交じりでかき回すアルベドは上機嫌だった。

 

 第二王妃として、アインズと同じ部屋に住むことはできないが、マーレとの取り決めで、日付が偶数の日はアルベドの自室にて夜を共にする。最近では、産後ということもありお優しいアインズ様は夜の営みを控えてくださったが、今日あたりからは、きっとお相手くださるだろう、マーレの華奢な身体にも、そろそろ飽きてきた頃だろう。きっと、明日には――

 

 料理などに精を出すのもそのためだ。こういう、目に見える女子力が男性を虜にする秘訣なのだ。マーレは確かに可憐で、保護欲を掻き立てる容姿をしているのは認めるが、それだけでは、アインズさまの心をつなぎとめられない。まさに、女子力こそパワー

 

 と、デミウルゴスに貰った。今朝絞りたての羊乳を煮込んだ、ホワイトシチューを作りながら、「アインズ様、アーン」「美味しいぞアルベド、では、私のホワイトシチューを食べてもらおうか」「ああ、ダメですは、アインズさま、モモベラが眠ってから――」など、ひとりで、クネクネとヒロインに有るまじき踊りを踊っている。

 

 

「くふぅー、次は男の子が良いですわ、アインズさま」

 

 良くわからない奇声を発するアルベド、それに触発されてか、ベビーベッドで眠る赤子がぐずり始める。鍋に気をつけながらも、その子を抱き上げ、あやすアルベドに悪魔のしっぽを揺らし、子供が機嫌の良い声を出す。

 

「よしよーし、モモベラちゃん・・・あなたは、弟と妹、どっちがいいですか~、お母さん、頑張りますからね~」

 

 穏やかな声をかけるアルベド、その、薔薇のようなホッペの幼い娘、アインズ様との愛の結晶が笑えば、心に染み渡るような幸福な気持ちになれる。

 

 少しだけ、ニグレド姉さんの気持ちがわかるような気がする。これが母性というのかはわからないが、この子のためなら何でもできるような気がする。そう、この子供のためにも――

 

「必ず、アインズさまの寵愛を受け続けてみせる――あ、いけない・・・鍋が吹きこぼれている。」

 

 ゴールデンガーリックの焦げた匂いに、ジャイアントオイスターと、エレキテルイールの生肝のエキスを混ぜながら、ヒロインと言うより魔女の大釜を混ぜているような調理をするアルベド、鍋からは、何故か甘い匂いが漂った。これが女子力らしい。

 

 そんな、母親の愛に包まれながら、サキュバスの赤子は楽しい夢を見ながら、眠りに就いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「マーレさま、今日こそは、三人目のお世継ぎを――」

 

「そ、そんな、恥ずかしいよ・・・ぼ、僕は、アインズさまと、同じベットで・・・」

 

 三人のメイドエルフに髪を梳かれ、爪を磨かれ、さらには、下着まで指定のものを着せられたマーレは困ったように長い耳を伏せる。ここは、アインズの自室、本来なら主人である本人しか入れない場所だが、マーレを正妃に迎えてからはマーレと彼女の付き人も入室を許可されている。もっとも、入室と退出の際には暗殺防止の為、厳しいチェックを受けるだが――

 

 そんなメイドエルフが最後の仕上げとばかりに、少女の褐色のなめらかな肌に、乳液を塗り広げる。最初に冷たい感触が肌に触れれば体温で溶けた薬液が、甘く蠱惑的な匂いを醸し出す。自分でも匂いに酔ってしまいそうな麝香の匂いが男性をその気にさせるらしいが、マーレとしては、一緒に手をつないで、その、頭を撫でられたり、抱きしめられて・・・キスをするだけで十分なのだが・・・

 

 

「そんな弱気ではいけません。ただでさえ、アインズ様を寵愛を狙う女性は多いのですから、それに、マーレさまは十分に魅力的です。もっと、自信を持って迫るべきです。」

 

 何故、頭の中で考えていたことがわかったのだろう。年長のエルフに窘められ、思わず身体を跳ねさせてしまった。

 

 もちろん、エルフ達がこうしてマーレを女性として磨くのには理由があった。単純に言えばエルフ族の地位向上だ。アベリオン丘陵やトブの大森林に住まうエルフ族の後ろ盾になって欲しいという答えしかない。特に、年長者の女性エルフはスレイン法国の奴隷刈りで苛烈な目にあい、その後の悲惨な境遇から救ってもらえたという経緯がある。

 

 そんな、神への奉仕と、その更に上位の絶対な存在の寵愛を集める為なら、エルフ達は自分たちの命すら捧げる覚悟すら持っていた。その為、マーレが肌を潤すための化粧品は、驚くような労力を持って作られている。アインズやマーレはその辺のことに疎いが、いま、肌に塗っている薬液を作るために、エルフの集落が総出で薬草と鉱物、錬金水液を探し出しているくらいだ。

 

 そんな気持ちもつゆ知らず、マーレはキングサイズのベットを見る。二つある枕の一つには『Yes』と大きく刺繍されている意味がイマイチわからないが、今日は一緒にお食事をして、御本を読んでおしゃべりして・・・その、オヤスミのキスをして一緒に眠ろうと思ったのに・・・いや、もちろん、アインズ様に望まれれば、僕も・・・

 

 そこまで考えて、顔を上気させてしまう。次は、白のナイトドレスか、深緑のワンピースかで言い争うエルフ達を尻目に《メッセージ/伝言》が入る。その声にマーレの顔が明るくなり。

 

 

『マーレか――』

 

『はい、ア、アインズさま・・・どういたしましたか?』

 

『スマン、少し仕事で今日は帰れそうにない。今晩は、ナザリックに戻れないので、そのことを伝えたくてな。』

 

『――そ、そんなぁ・・・』

 

 落胆した声に『すまんな。』と謝罪をすれば、そのまま《メッセージ/伝言》が切れてしまう。その様子にエルフ達が慰めの言葉をかけた。その一人がポツリと「そう言えば、お連れのナーベラル様、最近――」という言葉に、エルフの長い耳がピクリと立ち上がる。

 

 泣きそうな顔で、女の勘・・・いや、愛する人が同じ共通点だろうか、そう言えば、シャルティアやお姉ちゃんも、最近、妙に肌がツヤツヤしている。まさか、そんな、ナーベラルさんも――

 

「・・・ぼ、僕、アインズ様に、会いに行く――ッ」

 

 三人のエルフが「お供します」と声を合わせる。女性の共通意識なのか結束力は硬かった。

 

 

 

 

 

 

 

「しかし、良かったのでござるか殿?マーレ殿と今日は過ごす予定だと、聞いたのでござるが」

 

 グリーンシークレットハウスの中、心配そうに顔を上げるハムスケと、黙々と旅支度の荷を解くナーベラル、本来なら一日で目的を終えるつもりだったが、村人から話を聞くうちに夜になってしまい様子を見るために今日は一泊、村で過ごす羽目になった。

 

 しかし、領主が不老不死の魔法の実験でアンデットになるって、なんというべきか、テンプレな依頼にどうしてモモンが駆り出されたかというと・・・単に、存在の主張みたいなものだ。それ程、高価な依頼ではなく尚且つ正義の味方と主張できる。あと、もうひとつの目的は・・・

 

「これで、ズーラーノーンの情報でもあれば良いのだが・・・まぁ、雲をつかむような話なのだがな。一応、3時間ごとに見回りだな。」

 

 今日は、久々にマーレと一緒に眠れると思ったのに・・・深々とモモンはため息をつく、それを見て、なんというべきか目を伏せるナーベ、そう言えば、彼女もモモンに取って悩みの種だった。

 

(なんでコイツ、最近、元気がないんだ?)

 

 なんにしても、ガジットとクレマンティーヌの情報でもあれば良いのだが、ハムスケの毛繕いを手伝うナーベに一抹の不安を感じていた。ナザリックの下僕たち全ては、信仰に近いほど至高の41人に仕え、裏切る事などないと思われるが、もしかして疲れているのだろうか・・・悪魔は疲労を感じないはずなのだが、どこか精神的な作用かも知れない。

 

「ナーベよ。この依頼が終わったらで良いのだが、少し休まないか・・・ほかの六姉妹と交代で、休暇をとらないか?」

 

 できるだけ優しく、気遣いをする上司のように声をかけたつもりだったが、その言葉に目を向いくナーベ

 

「モ、モ、モモンさ――ん、そ、それは、私に暇を・・・従者としての任を解くと言うことでしょうか・・・も、申し訳ございません。至らぬところがあれば改、どのような、処罰設けます。だから・・・ッ」

 

 濡れた瞳で、今にも土下座しそうなナーベに手を前に振り制止するモモンは慌てた。

 

「ち、違う、違うぞ・・・ただ、一時的に、疲労があるようであれば休ませようと思ったのだが」

 

「そ、そんな、至高の方にお仕えして疲労など・・・この身が砕け磨り減ろうとも傍にいられるだけで、我々には喜びです。」

 

 うーん、どうやら疲労や精神的な疲れではないらしい、では、対応に不満か・・・そう言えば、ナーベには普段感謝の言葉をかけてないような気がする。たまには、労って・・・いや

 

 そこで、モモンは偶々、エ・ランテルの露天で買った小物だが、ナーベに似合うだろう。

 

「そうか、ナーベよ・・・それでは、少し近くによれ-―」

 

 近くに寄れば、膝をつくナーベ、少し大げさなような気がするが、顔を伏せ言葉を待つ、その頭に骨の掌が下ろされ

 

「ひゃ、モ、モモンしゃ、ま・・・ぁ?」

 

 飛び上がるように高い声を上げたナーベ、構わずに、その頭を撫で、髪を指で梳いてやると紅く紅潮させた、潤んだ目でこちらを見上げた。

 

「スマナイな、普段、それだけ私に仕えているのに何の労いもなく・・・お前の忠誠、私は嬉しく思っているぞ。ホラッ、頭を上げ立つのだ。ナーベ」

 

「そ、そんな、勿体無い・・・モモンさ――んのその言葉だけで、私は・・・いえ、ナザリックに仕えるもの全てのモノは救われます。それを私だけになど・・・とんでもない。」

 

 心の底からの喜びを伝えるナーベ、それを肩を抱き・・・少しやりすぎだと思ったが、アイテムボックスからアイテムを取り出す。日本的な髪飾りがあるので、思わず買ってしまった。おそらく珊瑚だろう。幾つもの珠が連なる組紐の髪縛りを普段、ポニーテールでまとめている髪を縛る。

 

「いいや、それでもお前の働きを労いこれを送らせてくれ・・・気にすることはない。お前の黒い髪に似合うと思ってな・・・あとは、そうだな、私が普段、お前たちに感謝していると伝われば嬉しいのだが――ん?」

 

 少しやりすぎた。不快に思われたかな、と一瞬思ったのだが、震える肩から手を離し、モモンは少し後悔した。匂い立つような香りが鼻腔をくすぐり、濡れた瞳が映し出す。普段、怜悧な印象を持たせる顔つきが溶けて、熱を持ったように紅みが差す白い肌

 

「モ、モモンさん・・・このような素晴らしい・・・う、ひっぐっ・・・私の気持ちを・・・ひぐっ・・・モモンさま、ひと晩の、慰みでも、どうか、どうか、私の身体に・・・ッ・・・」

 

 

(藪蛇だったぁーッ!!)  

 

 

 マントが床に落ち、ブラウスのボタンを外していくナーベの小さな紅い唇が近づく、逃げられない。本能的に同じ部屋にいるハムスケに視線を送るが、動物としてなのか「いやー、流石でござる殿」など、気をきかせてなのか、丸くなり向こうの方を見ていた。

 

 甘い香りのする吐息が、骨の頬を撫でる。何度も味わったシュチュエーションを思い起こし、心の奥に熱いものを感じたとき、突然、扉が開けられた。

 

 

「ア、アインズさま、来ちゃいました・・・」

 

 メイドのエルフを引き連れたマーレだった。何故か、手には『YES』と刺繍された枕を抱いている。

 

「アインズさま・・・今日のお夕飯です。旦那様の食事を管理するのは第二王妃に役目・・・・・・あら、マーレ、居たの?」 

 

 そして、フリフリのエプロンを着たアルベドは、何故か、シチュー鍋を持っていた。

 

「アインズさま、そんな、ペットを放って酷いでありんす。」「ちょ、シャルティア、突然、アインズさまに・・・や、まだ、尻尾、大きくて、歩くと痛い・・・ッ」

 

 さらに、シャルテァとアウラまで押しかけてきたが、尻尾ってなんだ?

 

「お、お前たち、今はモモンとして・・・こら、マーレ、聞き分けぬかッ」

 

 右腕に、シルクのナイトドレスにある膨らみを押し付けるように擦り寄る少女は目を潤ませ

 

「い、嫌です。アインズ様・・・今日は、一緒に御本を読んで・・・一緒のベットで、あ、あの、その・・・とにかく、一緒にいるんです。」

 

 そして、左手の腕に、その膨らみで挟み込むアルベド

 

「まぁ、マーレ、もう一人で眠れる年齢のはずよ。はい、アインズさま、今日は、この、愛妻が作った『一撃発起シチュー』で、私を一撃必殺してくださいませ。もちろん、アインズ様が望むなら、二擊でも十擊でも・・・ポッ」

 

 そして、腰のあたりに擦り寄るシャルティアが勝ち誇ったように、白い牙を唇から見せ、呆れたようにシャルティアを引き離そうとするアウラ

 

「ふふーん、一撃なんてちゃんちゃら可笑しいでありんすね。私は、アインズさまに、お尻を百回・・・ああ、アインズ様、あの時の快楽を思い出し、また、下着が――」

 

「へッ、シャルティア、あんた、そんな事・・・・・・ア、アインズ様、わ、私も・・・」

 

「って、お、お、お姉ちゃんとシャルティア・・・ア、ア、アインズさまと、どういう関係、なの・・・ッ?」

 

「ふん、黙りなさい。所詮、愛人は日陰の恋ッ、私たち正妻には敵わないのよッシャルティア・・・あなたたちは、精々、アインズさまの性のはけ口に・・・」

 

「ふふーん、本当の愛を知らない女ほど見苦しいものはないでありんす。どうせ、義理で抱いてもらっているのでりんしょ・・・さぁ、アインズさま、野外で、私とアウラに真実の愛を・・・その、学校でも良いでありんすよ。」

 

「シャルティアー、あんた、べ、別に私は、野外が好きなわけじゃ・・・・・・で、でも、アインズさまが、どうしてもって言うなら・・・学校で、も・・・ッ」

 

 頭を抱えるアインズとそれぞれ姦しく言い争う寵姫たち、ハムスケが目を細めてあくびをする。

 

「仲良きことは、美しいでござるな。産めよ増やせよ・・・ん、オヌシ『死の宝珠』という割には、妙な事を言うでござるな。おおっ、ナーベどの、どこに行くでござるか?」

 

 そして、一人寂しく、グリーンシークレットハウスを出て、涙を堪えるナーベの姿に気づくものはハムスケ意外にはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 んでもって、夜の森の中、怪しい人影

 

「はははははっ、我こそは、命なき者の王、不死の支配者、命あるものの絶対なる敵対者、さぁ、今日の哀れな我への生贄はお前――」

 

『《チェイン・ドラゴン・ライトニング/連鎖する龍雷》』

 

 全力で放ったナーベの魔法により、どうやら今回の依頼は解決してしまったらしい。

 

 

 

 

 

 




みなさま、長いあいだご愛読ありがとうございます

毎回、とんでもない内容でしたが、皆様が喜んで下されば幸いです。

では、またお会いできる機会を楽しみに



・・・次は、エロくないのを書くぞ



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