オーバーロード~割と日常で桃色な日常の結末~   作:へっぽこ鉛筆

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今回は、ナーベラルさんと純愛ものです。

ナーベラルさんと、プラトニックなラブです。

――か~ら~の~


オーバーロード~割と日常で桃色な日常の結末~(家政婦は見た。ナーベエンディング)

プレアデスの一人、ナーベラル・ガンマは誇りを持っていた。

 

 至高41人、その最奥を守護する戦闘メイドとして、その支配者、アインズ・ウール・ゴウン様に仕えていることだ。

 

 さらには、他の六姉妹と違い、こうして直にアインズさまの計画を手助けし、役に立っているという至福

 

 誰も口に出さないが羨望を注がれ、僅かに優越感を感じるその役目、それを滞りなく果たすことが、ナザリックすべてのものに対する、自分の義務だとさえ思っている。

 

 いざとなれば、この身を捧げ、心臓もを差し出す覚悟

 

 それは、至高の存在に作られ、忠誠を尽くしものにとって、神に対する信仰と同じことだ。

 

 何度も言うが、ナーベラル・ガンマは、プレアデスとして、ナーベとしてアインズ様に傍に仕えることを誇りに思っている。

 

 それは、今後、どのような事が起こっても、その忠誠は変わらないだろう。

 

 

 

 

 

 

「殿、今日はどこまで出かければ良いでござるか?」

 

 騎乗モンスター、ハムスケに跨りながら、ナーベとともに西を目指す。鞍が付けられたといっても、乗り心地は良くはない。これは、ハムスケの責任ではなく、道が悪くなっているからだ。

 

 轍も見当たらず、舗装もされていない獣道一歩手前の道を進みながら、そう言えば、エ・ランテルから、カルネ村への街道は舗装が付いたのだろうかと考える。

 

「下等生物達の話では、もう直ぐなのですが、お前は黙って、モモンさ――んの命じた通りに走れば良いのです。」

 

「よい、ナーベ・・・もうすぐだと思うのだが、辛ければ、速度を落とすか、我々が降りようか?ハムスケ」

 

 ナーベが軽く横腹を蹴れば、気遣うようにモモンが背中を撫でる。周りを警戒しながら、とりあえず、今回の依頼を思い起こす。

 

 久々の、冒険者の依頼、アインズ・ウール・ゴウン魔導王国、支配地域の最西部とも言っていい、人外魔境の地・・・でもないのだが、本当に、最新の開拓地、ザクセン開拓村からの依頼だった。

 

 普段なら、このような依頼がアダマンタイトであるモモンが受けることはないのだが、この依頼は、アインズ・ウール・ゴウンが自ら下した。ややこしいのだが、ようするに辺境地というものを自分の目で確認しようと思ったのだ。

 

「だが、予想以上に田舎・・・と、いうより辺境だな。」

 

「このような場所、モモンさん自ら来なくてもよかったのでは?」

 

 確かに、依頼自体は自分でなくてもできるレベルのなのだが、これを機会に、辺境の視察をしてみようと考えたのだ、ついでに依頼の報酬も貰おうという、一石二鳥作戦なのだが

 

(でも、やっぱりインフラの整備というのは大切だよな。たしか100年前に政権を取った野党が、インフラ予算を福祉や生活保護に使ったせいで、数年後にえらい事になったって習ったけど)

 

 確か、その政党は、中国分裂の原因になった南シナ海戦のときに、内乱罪とスパイ容疑で、党員がほとんど逮捕され、モモンが生まれた時には少数政党になっていたのだが、支配者としてやはり、そういう内乱分子には気を付けないとな。デミウルゴスに相談してみようと、くだらないことも真剣に考えながら

 

「いや、タマにはモモンとして、人々の役に立つのも良いだろう。それに、ハムスケの騎乗訓練も兼ねてな。」

 

 そして、騎乗兵器のシモベの頭をポンポンと撫でるモモンさま、それを見れば、ナーベはハムスケの毛を毟った。

 

「ひぎゃ・・・い、痛いでござるよ。ナーベ殿ぉ・・・」

 

「うるさい、だから、お前は前だけを向いて」

 

「こらッ、二人共、騒がしい――うぉ!?」

 

 その時、拍子で、モモンの持つアイテムボックスから、ポーションが零れ、ハムスケの頭にぶちまける。突然のことに急ブレーキをかけたハムスケ、そして、それに耐えられず、前のめりに振り落とされる、モモンとナーベ

 

「くっ、大丈夫か、ナーベ・・・ッ!?」

 

「は、はい、モモンさん、申し訳・・・お前、モモンさんが騎乗しているとうのに、なんという失礼な・・・ッ!?」

 

 二人が草むらに飛び込み、どうにかナーベを助け起こす。そして、ハムスケが無事かどうか、確認をするが、ハムスケがいない・・・いや、あのような巨体の魔獣、見失うわけがない。

 

 そして、道の真ん中に、巨大ジャンガリアンハムスターの代わりに居たものは・・・

 

 何も着ていない少女が、きょとんとしてこちらを見ていた。

 

「と、殿・・・大丈夫で、ござるか?」

 

 その言葉を発した少女、クリクリとした丸いつぶらな瞳と、柔らかな栗色の髪は、おかっぱのように肩まで切り揃えられ、さらには八重歯がアクセントとして、開いた口ちから覗いている。

 

 さらに、この口調と声・・・恐る恐るだが、モモンは、その少女に問いかける。

 

「お、お前・・・もしかして、ハムスケ、なのか?」

 

 一度、首をかしげれば、絶対に、人間の少女がしないような四つ這いの格好で、近づき

 

「何を言っているでござるか?それがし、殿の忠実な家来、ハムスケでござるよ。」

 

 モモンの前で、そう答えれば、堂々と大股を開いて仁王立ちする。とりあえず、その姿に、モモンは慌てて顔を背けた。

 

 

 

 

 

 

 

「殿ぉ、この服と言うものは、なかなか慣れないモノでござるな。」

 

「やかましい、取りあえずは、ちゃんと立ってあるけよ。まったく・・・しかし、お前、人間になると、そういう姿になるのだな。なんというか・・・」

 

「なんでござるか?勇ましいでござるか?それがしは、コキュートス殿のようになりたかったでござるが」

 

 いや、あれは蟲王だし・・・なんというか、美女というより、可愛いという風貌が似合うハムスケ・・・いや、今はハム子と言うべきか、流石に全裸でいるわけには行かず、今はとりあえず予備の装備のクローズアーマーと胸鎧、さらには、左右に太刀を装備している。さながらサムライソルジャーという感じだ。

 

(しかし、あの変身水薬・・・いったいどういう効能なんだ?もう少し、実験して使うべきなんじゃないか?)

 

 今のところ、原液のまま使うと、生涯変身したままで、50%を蒸留水で薄めたものは、1週間の変化、そして25%液は1日で効果が切れるという実験結果があるが、ハムスケの頭に散布したものは、50%液、つまり1週間はこの姿のままということになる。さらに、モモンもこのポーションを使い1週間ほど人間に変身することにしている。このポーションが完成してから、魔法よりも多用しているような気がするが、やはり、服用実験もするべきなのだろうか

 

「ほらっ、アナタのせいでモモンさんが徒歩になったのだから、早く歩きなさい。」

 

「よせ、ナーベ、ハム・・・子も二足歩行に苦労しているのだ、もう少し、ゆっくり行こうではないか」

 

「はっ、モモンさま、その言葉、もったいなく思います。」

 

 まったく――ハムスケ・・・いまは、ハム子と呼んでいるが――の荷物を担ぎながら、未整備の道をゆっくりと歩くモモン一行・・・時々、ハム子が慣れない歩行に躓くが、順調といって良い進行だった。この調子ならもうすぐ・・・

 

 クンクンと、ハム子が小さな鼻を鳴らす。昼食の煙だろうが登る場所が近づいていた。

 

「どうやら、あの場所のようだな。ザクセン開拓村という場所は――」

 

 自分の支配地域の、最果ての地はどういうものか、不安を覚えつつも、モモンは歩く速度を速めていった。

 

 

 

 

 

 

「しかし、予想以上に・・・田舎だな。」

 

 村・・・と言うよりも、集落を見回して、モモンは諦めに近い言葉を吐く、幻想に近い話だが、ユグドラシルで拠点制作で見る最初のチュートリアルに近いザクセン開拓村の内観に、絶望に近い感想を述べた。

 

 なんというべきか、集落の中央、井戸を中心に家畜の小屋に近い木製の家屋はまだマシなほうで、中にはテントを張っただけの家や、更には、竪穴式住居に近い外観のものもある。住民の来ている服も、布に穴を開けたものを紐で縛る。という感覚で、先ほど通り過ぎた子供は、下半身に何も身につけていなかった。

 

 これでは、カルネ村の方が、大分に都会に見える。いや、あそこが、モモンが想像する田舎というものなのだが、ここはひどすぎる。

 

「どうしたんだべ、冒険者さま?」

 

 気づけば、小太りの中年男性・・・こちらは一応、まとも服を着ていた。が、話しかけてきた。どうやらこの者が村長らしい、まだ、村長というには若いのは、この村自体が新しい村落だからだろう。

 

「はい、依頼を受けた。冒険者のモモンです、そしてこちらが、パートナーのナーベと・・・」

 

「家来のハム・・・子でござる。よろしくでござる。」

 

 ペコリと頭を下げるハム子、癖なのだろう、首をかしげれば、村長につぶらな瞳に笑顔を向ける。なんというべきか、ハムスターをそのまま擬人化したような。愛想のある態度だった。一方ナーベは、まるでゴミをみるような、冷たい視線で、不機嫌そうに黙り込んでいる。

 

「いや、綺麗なおじょうちゃんを連れて、うらやましいべ・・・そのー、立ち話もなんだべか、とりあえず、ウチでお茶でも飲んでくれ」

 

「かたじけないでござる。村長殿、殿、それでは、それがしらも・・・」

 

 見上げた顔に、口元に八重歯を覗かせながら、ハム子の先導で村長の家について行くモモン一行

 

 その間、ナーベは絶えず不機嫌な顔をしていた。

 

 

 

 村長の家は、この集落の中では、豪華と言って良い作りだった。

 

 土壁でできた簡素な作りの家で、居間と台所、さらには寝室に以前、子供たちが居たときに使っていた部屋があるらしい、今では空き部屋になっている部屋があり、まさか、テントに泊められるのではと思っていたモモンは、少し安堵した。

 

 その後、何やら、草を沸かしたようなお茶を出されながら、今回の依頼について詳しい説明を聞くことにした。

 

 なんでも、数週間前から、家畜が石化する事件が多発しているらしく、その犯人、またはモンスターを退治して欲しいという依頼だった。正直に言えば、金クラスの冒険者で事足りる依頼なのだが、あまり、受けたがる冒険者はいない。

 

 なぜなら、状態異常の中でも、石化というのは厄介な状態といえる。毒や麻痺に比べ、かかった時のリスクが高すぎるのだ。さらに、解除するには薬草やポーションではなく、高位の解除魔法か、アイテムを使わなくてはならない。この世界からして、そのリスクは高く、即死や精神支配の次くらいに、厄介な状態異常といえる。

 

 だから、こうして高位の冒険者としてモモンがアインズ・ウール・ゴウンの支援を受け(この当時、冒険者の依頼に補助金を出す制度をアインズは継承している)この依頼を受けたのだが、まぁ、敵はバジリスク・・・強くても、ゴルゴンくらいだろうとタカをくくっていた。

 

 ちなみに、ユグドラシルでもゴルゴンはLv50くらいの牛のモンスターだが、その上位種でレイドボスのステンノ、エウリュアレ、メデューサがいたけど、どうして女の子の姿だったんだ。いや、神話で言えばそうなんだけど・・・もしかして、蛇頭の女の子だったら嫌だな。と考えながら、取りあえずは対策は明日からにすることにした。

 

 滞在中は、空き部屋を使ってくれという村長の言葉を断りつつ、最後にモモンがガントレットをはめたまま握手をした。少し、無礼だとも思ったが、村長は気にしなかった。ハム子だけが、お茶という草の匂いのする水を呑み「ごちそうさまでござった。」と、ちょこんと頭を下げた。

 

 ナーベに至っては、少し鼻を鳴らしただけでアインズの後を追う、郊外の拓けた場所にグリーンシークレットハウスを使えば村人は随分と驚いていたが、気にしないことにした。ようやくこれで一息つける。

 

「しかし、予想以上に田舎だな。」

 

 無限の水差しからグラスに水を注げば、モモンは一気にそれを飲み干す。出された草の匂いのするお茶をどうしても飲む気にはなれなかった。そう言えば、ハム子はあれを飲んでいたな。

 

「そう言えば、石化のモンスターだが、ハム子は知っているのか?」

 

「申し訳ないでござる。それがし、自分の縄張り以外のモンスターは知らないのでござる。」

 

 心底、申し訳なさそうに頭を下げる。ナーベがこれみよがしに舌打ちをして「役に立たない。」と、悪態をついた。

 

「ナーベ、そういう態度はやめよ。しかし、これなら、ソルシャンかアウラを連れて来るべきだったな。いや、今晩にも、交代で家畜を見張るか・・・〈センス・エネミー/敵感知〉でも張り巡らせるか」

 

「それではモモンさんは、お休みを・・・見張りは私と、ハム――子の交代でいたします。」

 

「そうでござるな。しかし、それがし、人間の目では闇夜を見通すことはできないでござる。暗視能力の魔法をかけて欲しいでござる。」

 

 ハム子の甘えたような声に、ナーベが不機嫌に小さな子供の頭を叩いた。「酷いでござるよー、ナーベ殿」と、、泣きべそをかいたハム子の頭を撫でてやれば、拗ねたようにそっぽを向くナーベ

 

「まったく、お前たちは・・・しかし、取りあえずは夕飯にするか・・・幸い、アルベドが弁当を作ってくれたので、それを食べるか」

 

 アイテムボックスから取り出しながら、少々、モモンはウンザリとした。以前、食べようと弁当を開けた瞬間にイモリの黒焼きや、山羊の睾丸の天ぷらなど精力のつくものが出てきたときには、殆どを、ハムスケに与えてしまった。

 

 アイテム欄に“愛妻弁当”と表示されそうなピンクにハートの三段がさねの弁当箱を取り出せば・・・中身は、案外まともな内容だった。ピンクのデンプンでハートマークがある以外は、カラアゲや卵焼き、ポテトサラダや焼き鮭、さらにはミニトトマトなど、バランスの良い食材が並べられた弁当だが、さすがに三段重ねをひとりで食べる気にはなれずに、ナーベとハム子と分けながら、ローテーションを組み見張りに立つことにした。ちなみに、モモンも平等に3時間交代で夜回りをすることにする。

 

 結局は、その日は何事も起きず、ナーベの機嫌が悪い以外は、静かな夜が過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

翌日、日が昇り始めた頃、村長に連れられ現場に行くことにした。

 

 ほかの村人は、家畜の世話をし、畑を耕し、謎の野草を採るなど忙しく働く中、モモンとナーベ、そして、ハム子は、何の変哲のない牛の石像の周りを調べている。

 

「足跡は・・・もう、わからないな。」

 

 周りの地面を調べたが、数日前の雨で完全に足あとはなくなっていた。どちらにしても、モモンはレンジャー技能を持っていないので、追跡などはできないが、そう言えば、ナーベに付きまとっていたルクルットという男、彼のことをナーベはどう思っているのだろう。彼女の横顔を覗いてみるが、当然だが変化はない。

 

「殿、匂いが微かに残っているでござるが・・・それがしの知らないモンスターの匂いでござる。」

 

 こういう時に、野生動物は役に立つ、小動物のように・・・実際は森の賢王という魔獣なのだが、見上げるハム子の頭をついなでてしまう。「くすぐったいでござる」と、目を細めるハム子に、ナーベが背を向けて、ハム助が指した森に歩き出す。

 

 なにか引っかかるものを感じながら、ナーベを追い越すモモンとハム子、獣道だろうか、確かに、何かが分け入った形跡がある森の中、警戒をしながらも、ハム子を先頭に、ナーベが真ん中、モモンは後衛を守ることにした。なにか、効率が悪そうな並びだが、アンプッシュを警戒してのものだ。

 

 流石に〈センス・エネミー/敵感知〉〈プロテクション・ミサイルウエポン/射撃武器防御〉〈カウンターマジック/魔法抵抗強化〉などの付与魔法をかけているが、一応、警戒は怠らない。まぁ、ハム子も森の賢王と言われる程の間じゅうなので一撃でやられるはずはないと思うのだが、この世界では、何が起こるかはわからない。

 

 羽虫がうるさいくらいに飛ぶ森の中、大体、5m間隔で進む、途中、1mほどの巨大な蜘蛛と遭遇したが、向かうから逃げていった上、探しているモンスターでもないので無視をした。

 

 日が差さない森の中、人間の習性としてそろそろ空腹を覚え、さらには、いい加減に精神的に疲れた時、少し拓けた平地が見えたのでそこで休憩をすることにした。

 

「ナーベは場所を確保し、我々は、薪を探しに行くか・・・」

 

 もう暫く探索して見つからなければ、帰るしかないか・・・いや、ここを拠点にしばらく森の中を探索するかと考えながら、ナーベはウインドカッターの魔法で下草を刈り、10m四方の急速ができる場所を確保し、何か、手頃な石を見つけ簡単な囲炉裏を作っている。取りあえずは、森の中に戻り薪を探せば、5分もしないうちに、火をおこし、今後の事を考える。

 

「ん、そう言えば、ハム子はどこにいったのだ?」

 

「殿、果物をとってきたでござるよ。お腹がすいているでござろう。」

 

 後ろから、嬉しそうに現れたハム子が両手いっぱいにブドウのような果物を手に持って現れた。それを、モモンとナーベに渡せば、嬉しそうに火の回りに腰を下ろす。ハム子が口に入れたのを確認すれば、モモンも警戒しながら口に運び

 

「ん、食べることができそうだな・・・しかし、ハム子よ。よくこのようなものが見つかったな。」

 

「ふふーん、殿、それがし、伊達に森の賢王などと言われているでござらんよ。」

 

 褒めてくれと言わんばかりに、胸を張るハム子、胸甲に覆われた部分が大きく揺れる。そして、ナーベが立ち上がり、森の方に歩いていけば

 

「モモンさま、食料をお持ちしました。」

 

 持ってきたものは、ひと目でわかる程、毒々しい色のキノコだった。

 

「ナーベ殿、それは毒キノコでござるよ。一部のモンスターしか食べないでござるよ。」

 

「そう、ならお前が、喜んで食べなさい。ホラッ」

 

 そう言って、紫と青の気持ち悪いキノコをハム子に押し付けるナーベ・・・なんか、昨日からハム子に突っかかるなと、呆れたように周りを見回す。と――

 

 下草を刈った場所に落ちている石に、違和感を感じる。さらには、他の石や岩、草を分け入り、ほかの場所を探せば・・・そこにあったのは

 

「ナーベ、ハム子、何かおかしいぞ、警戒しろ。」

 

「殿、モンスターの匂いが、近づいて来るでござる。」

 

 そこにあった岩・・・いや、苦悶の表情を浮かべたゴブリンの石像の影、そこから、草を分け入り動く1m程の小さな動物、ナーベが指を向ければ、それに向けてファイアーボールの轟音が響く

 

 それに触発されたのか、他のモンスターも羽ばたきながらモモンを襲う。剣を振るいそれを打ち落とせば、それは、巨大な鶏に似たモンスターだった。

 

「ハム子、ナーベ、コカトリスだ。嘴の石化攻撃に気をつけろ。」

 

 いや、羽で撫でられたらだったか、とにかく、直接接触を警戒するように警告する。ナーベが、ファイヤーボールの魔法を連射しながら、下草で見えなかった広場が徐々に焼け野原に変わり、コカトリスの群れの全貌が明らかになってきた。

 

 全部で、20~30くらいか、じりじりと円を書くようにモモン立ちに襲いかかるが、単体ではそう強いモンスターではない。現に、慣れない人間姿のハム子ですら、善戦をしている。

 

「よし、ハム子、ある程度は武技などの技を試して戦え、しかし、決して油断をするな。」

 

「ハイでござる。武技〈斬擊〉でござるよ。」

 

 二刀を振るうのだから、二刀斬擊だと思うのだが、その戦いを満足そうに見て、数も半分ほどに減ってきた。恐れを知らないのか、確実に仕留めるつもりなのか、ナーベを中心にコカトリスたちの攻撃は終わりそうになく

 

「クソッ、こいつら、何が目的なんだ・・・ッ、ナーベ、一匹そちらに行ったぞ、オイッ、ナーベラルッッッ」

 

 そして、飛びかかるコカトリスの爪が、ナーベに襲いかかる。

 

 

 

 

 

 

(まったく、あの愚劣なる生き物の分際で、モモンさまに馴れ馴れしい)

 

 火球の魔法を唱えつつ、心の中でそう悪態をつくナーベがちらりとモモンさんを見る。

 

 余裕を持って、剣を振るう姿を見るたびに、下等な怪物が屠られていく、流石は至高なる存在であり我が主、圧倒的な強さだと、羨望の気持ちが沸いてくる。

 

 それに比べ、あの、愚劣な者は・・・

 

 よちよちと、刀を振るい無様な戦いをしている。わたしの援護魔法がなければ、今頃、鳥の餌になっているだろう。仕方がなく、雷撃の魔法で援護すれば、こちらを振り向き、ぺこりと頭を下げた。

 

 その、慇懃な態度も癪に障る。

 

 ナザリックに所属するものとして、他の生物・・・特に下等生物などは、蔑む存在として、虫程度に思っていれば良いのだ。いくら、深遠なる考えがおありで、下等生物にある程度の慈悲を見せなくてはいけないと言えども、至高なるお方と、同じように下等生物に接するなど、あってはいけないことだ。

 

 そもそも、ナザリック以外のものが、至高なる者に仕えること自体が間違いなのだ。いや、それでも、騎乗兵器として、所詮は家畜と同じ扱いとして、扱われるならまだ我慢ができる。

 

 それが、下等生物に変身し、その姿でお声をかけられ、さらには、お褒めの言葉を預かり、あまつさえ、頭をナデナデされるなど・・・この私など、名前を間違え、致命的なミスを犯し、注意を受けることなどあっても、優しく褒めてもらい、お食事の用意などしたこともない。さらには、先に私がアインズ様のパートナーという栄誉ある職務を承った私は・・・手刀で頭を叩かれたことはあっても、ナデナデなどされたことなどないのだ。 

 

(さらには、あのキノコも・・・きっと、アンデットなら食べられるはずなのに、あの愚劣なる生き物の果実を口にするなど・・・)

 

 さらに、火球の魔法を連射すれば、コカトリスの焼けた匂いがあたりに充満する。後ろから狙ってやろうかと、刀を振るうハム子と、目があった。どうしてか、目を開き、驚愕の表情を向ける。

 

 

「――ッ、ナーベ、一匹そちらに行ったぞ、オイッ、ナーベラルッッッ」

 

 

 その言葉に我に返り、顔を上げてしまう。巨大な鶏の足がこちらに向かって振り下ろされ、思わず腕で防いでしまう。

 

 鋭い痛み、クリティカルヒットというものだろうか、僅かなかすり傷だが、痺れるような皮膚の痛みに顔をしかめ、近距離でマジックアローの6つの光弾が鶏をミンチに変えた。

 

 また、失態を犯した。と、心の中で舌打ちをしながら、周りを警戒する。しかし、その時には、最後の1体をモモンさんの剣が屠った後だった。

 

 安心感と僅かな疲労に身体が体に重みを感じた。戦闘の後の興奮からだろうか、身体に熱も感じている。

 

「大丈夫か、ナーベ・・・一応、傷口を洗った後、ポーションをかけておけ」

 

 水差しを取り出せば、ナーベの怪我をした腕に水をかける。その冷たさが心地よかった。

 

「申し訳、ございません、モモンさ、ま・・・」

 

「気にするな。数も多かったし、防ぎきれなかった我々の失態だ。それと、私を呼ぶときは『モモンさん』だ。」

 

 僅かに、めまいを感じる。近くにいるはずの主の声が、やたらと遠くに感じた。

 

「――申し訳、ございま、せん・・・モモン、さ――ん・・・ッ・・・」

 

 そのまま、急激に地面が近くなる。意識が遠のいていく中、モモンさんとハム子の声が、遠くのことのように耳の中でこだました。

 

 

 

 

 

 

「あんれーオメエさんら、この病気になってしまったべか?」

 

「それで、この病気は治るのだなッ」

 

 剣幕を立てながら村長に詰め寄るモモン、それを、のんびりとした口調で受け流す村長に、かなりの苛立ちを覚えている。

 

 アンデットなら、すぐに平静になる精神も、人間の状態なら収まることはない。それに、この村長に余裕があるのには、理由があった。

 

「んだ、村の薬草を飲ませれば、すぐに回復するだ。んだど、あんな綺麗な姉ちゃんなら、アンタが裸になって、同じベットで温めてやったほうが、治るんじゃねぇか?」

 

 下品に笑い腰を動かす村長に、殺意に近いものを感じながら、モモンは、乱暴に村長から薬草をもらう。

 

 あの戦闘の後、高熱を出し倒れたナーベをマントで作った即席のタンカで村に運んだモモンは、村人が、特に心配した様子もないことに、驚きよりも怒りを感じた。

 

 が、村長に話を聞き、その怒りも少しずつ安堵へと変わっていった。なんでも、この高熱は、この村特有の風土病であるらしく、治療方法も確立されているらしい。それが、村長の言う薬草だ。

 

 特に珍しくもない山草を湯で煎じたものを飲ませれば、2~3日で治るらしいのだが、それでも、LV50以上のナーベが倒れるほどの病気なので、油断することもできない。

 

 グリーンシークレットハウスに帰れば、ベットで激しい呼吸を繰り返すナーベを心配そうに看病するハム子、アインズの姿に気づいたのか、ベビードールのようなシャツだけの姿のナーベが起き上がろうとする。

 

「おかえり、なさいま、せ・・・モモン、さ・・・ん、っ・・・」

 

「そのままで良い。それよりも、どうだ?」

 

 ハム子がモモンを見上げれば、暗い顔で首を横に振る。

 

「ダメでござるよ。すごい熱でござる。」

 

 見れば、白い肌に熱で赤みが差し、さらには、寝間着の厚手のシャツはベッタリと汗で濡れ、体に張り付いている。

 

「すぐに薬を用意する。ハム子は、表で一応、警戒をしておけ」

 

「わかったでござる。」

 

 そして、ハム子が部屋を出ていくと同時に、竈で湯を沸かし、薬草を煮詰めていく、どこかで嗅いだ匂いを感じながら、それを冷ませば、その間も苦しそうな吐息を立てるナーベの額を、濡れたハンカチで拭ってやる。

 

「ゴ、ゴホッ・・・モモン、さん・・・そんな、私などに、勿体、な、い・・・っ・・・」

 

「何度も言うが、気にすることはない。ナーベ・・・お前は、回復することだけを考えよ。」

 

 ベットから出た手を握れば、子供のような安堵した顔を見せるナーベ・・・普段は、人間を見下すような表情しか見せない彼女からすれば新鮮なものだ。そして、激しい咳を繰り返し、首筋や、額の汗をぬぐってやれば、気持ちよさそうに頬を緩める。

 

「ナーベよ。少し苦いが、ガマンせよ・・・飲めるか?」

 

 しばらく冷ました薬湯をナーベの口元に持って行く、身体を起こしてやり、ゆっくりと流し込むが、喉につまりすぐに吐き出してしまう。咳を吐きながら、申し訳ないと潤んだ瞳で見上げるナーベ

 

 苦しそうに咳をを続ける彼女、仕方がない。と、覚悟を決めたモモンは一度「すまない」と呟けば、薬湯を口に含み、ナーベの顎をつかみ

 

「――ッ」

 

 そのまま、唇を近づけた。一瞬、何が起こったのか分からずに、受け入れるナーベの細い喉がわずかに動き、温かいものが流し込まれる。

 

 僅かな余韻が唇に残り、それを払うようにモモンがハンカチで彼女の唇を拭う。色々な罪悪感を感じながら、ナーベの顔を見れば、顔に紅みが差しているが、喘息は収まったようだ。

 

「――も、も、ももん、しゃ――ん・・・?」

 

 よほど恥ずかしかったのか、子供のような舌足らずな口調のナーベが、布団で口元を隠す。

 

「すまぬ。その・・・非常事態だ・・・」

 

「わ、わかって、います。モモンさ、んには・・・マーレさまや、アルベド・・・さまが、私など・・・コホッ」

 

 そういう意味ではないのだが、ハンカチで顔を拭えば、ほんのりと体温に熱せられた彼女の甘い匂いが広がる。彼女は「・・・今日のことは、忘れます。」と繰り返し、口元を隠すだけで、表情を見ることはできない。 

 

 気まずい沈黙とともに、額に手を当ててやると、随分と熱も落ち着いてきたような気がする。その感触が心地よかったのか、ナーベはそのまま眠りに落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴホッ――ッ、で、次は、私の番か・・・」

 

 ナーベが回復したのに入れ替わるように、モモンが熱を出して寝込んでしまった。

 

 流石に、薬草を煮詰めたモノを飲み、すぐに安静にしたので、ナーベのように酷い事にはならなかったのだが、蜂の巣をつついたように混乱したナーベが、さらに新しい薬草を取りに、朝から、森の中を駆け回っているらしい。

 

 根こそぎ乱獲をしなければいいが、そんな心配をしながら、よって、今は部屋の中、ハム子がモモンの看病をしている。

 

「早く元気になってほしいでござるよ。殿――」

 

「ああ、ありがとう、ハム子――」

 

 なんだか、ナザリックで一番常識的なのは、なんだかんだ言ってこいつかもしれないな。濡れたタオルで額の熱を冷ましながら、そんなことを考えて天井を見た。

 

「それでは、殿――村長殿に教わった。病気の治療法をやってみるでござるか?」

 

「なんだ、それは・・・うぉッ、ハ、ハム子、おまッ」

 

 突然、服を脱ぎだしたハム子、ふくよかな部分を押し付けるように、ベットに入ってくるのに、病気で重いからだが逃げようと身じろぎするが、汗で衣服が張り付き、思うように逃げられない。栗色のオカッパを引き剥がそうとすれば、不思議そうにクリクリとした瞳を向けてくる。

 

「どうしたでござるか殿?村長殿が「病気の時は、ベットの中で、男女が裸で汗をかくのが一番」だと言っていたでござるよ。」

 

「オイッ、そんなものを真にうけるな。コラッ、どこを・・・ゴホッ、ゴホッ――」

 

 下着を脱がそうとするハム子、下半身は悲しいか、生命の危機に対しても、立派に反応していた。

 

「ほう、殿・・・流石でござるな。それがし、生物は病気やケガの時に、子孫を残す為、生理的に反応すると聞いたことがあるでござる。大丈夫でござる。その役目、このハム子が引き受けるでゴザル」

 

 いい加減、無理矢理にでも引き離そうともがくが、流石に元・魔獣、病気のモモンではなかなか引き離せない。そして、ドアの開く音とともに、パサリ、と、何かが床に落ちた音がした。

 

 思わず、その音の方向を見る二人

 

「ナ、ナーベ・・・ッ!?」

 

「おお、ナーベ殿、ナーベ殿もご一緒に、いかがでござるか?」

 

 何を言っているんだこの動物は・・・と、お互いのどういう体勢かを冷静に考える。全裸のハム子は半裸のモモンにまたがる姿はどう考えても・・・

 

 そして、目に涙を溜め・・・なんというか、憧れのアイドルが、トイレから出てきたのを目撃した熱狂的なファンのような、悲しみと絶望の織り交ざった顔をするナーベ

 

「ア、ア、ア――ッ」

 

「ま、まて、ナーベッッッ、お前は、何か勘違いを――ッ」

 

「ッ――アインズさまの、ケダモノォォォォォ!!!!」

 

「マテェェェェェ――ッ」

 

 引きとめようと伸ばした手が、力なくベットの端に落ちた。そして、以外に毛深く、そして、柔らかい感触を下半身に感じ

 

「さて、殿――家来の勤めでござる。殿の子種を、それがしに仕込むでござるよ。」

 

「そういう生々しい言い方はやめろッ、って、お、おい、ほんとに・・・ら、らめぇぇぇぇぇぇ――ッ」 

 

 

 

 

   

 

 

――そして3ヶ月後

 

「うわぁ・・・か、可愛いです、ね。アインズさま」

 

 ふわふわの毛玉を抱き上げながら、何故か罪悪感を感じるアインズはナーベとアウラ、そしてアルベドとともに、第六階層巨大樹の前にいた。理由は簡単だ。新生児に他の階層の環境が悪いからだ。

 

「ふん、所詮はけだものね。どこでできたのやら・・・ああ、アインズさま、それよりもご覧下さい。私と、アインズさまの愛の結晶・・・このような美しい宝、この世界、宇宙にすら存在しない。まさに、愛と美と・・・美の結晶」

 

 ゆりかごの中、頬ずりをするアルベドに、危険なものを感じながらも、アインズは素直に頷いた。まだ小さいが、悪魔の尻尾と蝙蝠の羽を揺らす小さな命が「だぁだぁ」と嬉しそうに声を上げている。

 

 さらに、足元を這う、5つの毛玉、マーレが持つものを合わせると6つなのだが、それも「なぁーなぁー」と声を上げて鳴いていた。もちろん全てハムスケの子供だ。ちなみに、父親は・・・わからないことになっている。

 

 あの後、ハムスケの記憶を消すのには成功したが、ナーベラルは頑なに「何も見ていません」「何も聞いていません」の一点張りで、一応、口外するなと言いつけてはいたが、態度は今でも、どこかよそよそしい。さらには、ハムスケに対して敬語を使うようになり、アインズの頭痛の種になっていたりした。

 

 ちなみに、もしかしたら兄弟だとも知らずに、モモルとモーレの双子は、ハムスケの子供達と仲が良い。早速跨り、騎乗兵器にして遊んだりしている。マーレも注意はしているのだが、子ども同士のことなので、怪我や喧嘩にはならないだろう。

 

「でも、一体、誰がお父さんなんでしょうね。アインズさま。」

 

 穢れのないはずのマーレの瞳に見つめられ、アインズはそっと視線を逸らすしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 




偶然、主の情事を目撃したナーベラル・ガンマ、その日から、彼女の深夜の御奉仕が始まった。

アインズ「何を見ている。ナーベラル、お前も一緒に夜の勤めをするのだ」

ナーベラル「お、お許し下さい。アインズさま、奥様・・・マーレさまとアルベドさまには、決して、決して話しませんのでッ」

アインズ「ふん、メイド風情が、貴様等こうしてやる。」

ナーベラル「ああ、お許しを、お許しを、アインズさま――」

ナーベラルを責めるアインズ、しかし、その中にある優しさに安らぎを見出す彼女、さらには、アルベドの執拗な追及、他のメイド達との確執、ああ、ナーベラル・ガンマの明日はどっちだッ




ルプスレギナ「おッ、ナーちゃん、何書いてるるっすか?」

ナーベラル「なッ、もう、ルプー、後ろから近づかないでッ」


・・・


アインズ「うう、こんどは獣○って・・・俺、ナザリックの絶対的支配者なのに・・・」







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