とある安心な人外さんの独白
芯の強い人という表現があるが、階下から現れた少女はまさしくそれにピッタリ当てはまる少女であった。
身を震わしながらも俺の視線を真正面から受け止め、俺が抱きかかえている少女のために一人前へ出る。
「もう一度言います。その人から手を放しなさい」
「いきなり出てきてそんなこと言われてもな。一応理由を聞いておこうか?」
「危害が加えられようとしている人を助けるのに理由が必要ですか?」
やだこの子、ステキング。いや、ステクイーン。
やけに剣呑としていると思ったら、危害って酷い勘違いもあったもんだ。
まぁあんな大声でそう叫ばれたら、そう思われても仕方がないか。
とはいえ、俺もそうそうに言う通りには出来んのだよ。
いや、そうしたいのはやまやまなんだけどさ。
なんかこの子が出てきてから一気に空気がざわついたんだよね。
周りの空気がおかしくなったというか、目の色が変わったというか。
今腕の子を放したら一斉に飛び掛られるような、そんな危機感があるんだ。
だから、申し訳ないけどもうちょっとこの状態を保たせてもらう。
「悪いが、この子に用があってね」
「・・・・・この場で問題を起こすのは得策ではないと思いますが?」
「その通りだ。だが、それは君ら次第だと思うのだが」
そういって視線を後ろにやる。
用があるのは事実だし、辺に騒ぎ立てることなく、事の成り行きを見守ってくれれば静かに事は運んで万事解決。
だから、わかるだろ?
それが通じたのか黙る野次馬たち。
よかった。
この子の乱入で一時はどうなるかと思ったけど、冷静にこちらの話を聞いてもらえそうだ。
これなら必要以上に焦って誤解を解くより、ゆっくりことの経緯を話して笑い話にしてしまおう。
と思っていたら、少女が変なことを言い出した。
「交換条件といきましょう」
「交換条件?」
「私がその方の代わりになります」
「うん?話が見えないんだが」
「その方にしようとしていたことを私が全て引き受けましょう。あなたが私を嬲るというのであれば受け入れましょう。だから、その方を放してください」
この子いきなりなに言い出してるの?
一瞬の静寂の後、爆発する周りの喧騒。
彼女の友達であろう女の子たちが、彼女に思いなおすように言い寄っている。
だがまるで魔王に身を捧げんとするかのような態度で、静かに眼を伏せている彼女。
一瞬本気で何を言われたのかわからなかったが、今のこの状況が犯罪者と人質の構図になっていることに気が付いた。
どこからどう見てもその通りですありがとうございました。
なんてこったい!今日は厄日か!?
一瞬で状況が変わった。
これは早急に誤解を解かないといけない。
上も下も人が集まっているこの状況下では既に手遅れな気がするけど、逆に言うとこれはチャンスだ!
俺はただ人形を渡したかっただけなのだと。
誤解を解けばここにいる皆が証人になる!
「いや、俺はただ「私では役者不足だというのですか?」」
「そんなことは「では交渉は成立ですね」」
少しはこっちの話を聞いてくれよ。
随分余計なことしてくれちゃってるんだけど君!
なんていうか、この子暴走しすぎじゃないか!?
冷静そうに見えて、実は相当テンパッテいるだろう!?
「やばい、このままだと万理谷さんがあの男の魔の手に・・・・・」
「いや、まだ今からでも遅くは・・・ッ!」
「馬鹿野郎!何のために万理谷さんが身体張っていると思ってるんだ!!今俺達が動いたら本末転倒だろうが!」
「クソっ、俺にっ・・・・・・俺たちにもう少し力があればッ!クソォッ!」
「ちげぇよ・・・・・・俺たちに足りないのは一欠けらの勇気だよ・・・・・・ちくしょう・・・・・・」
どんどん大事になりすぎて、どう収集つければいいのかわからん!
クマさーん、俺だー助けてくれー!
じゃないと俺泣いちゃうぞーーー!!
俺が黙っているのを了承と受け取ったのか、少女はこちらに向ってくる
動きが多少ぎこちないが、確実に一歩一歩上ってくる少女にどう対処しようか迷っていると、腕の中の少女が気絶から眼を覚ました。
なんてタイミングだ。作為的なものを感じる。
だけど・・・・・・よし、あっちが無理ならこっちだ。
すぐこの子の誤解を解いて助力を求めよう。
「あれ・・・私・・・?」
「起きたか。なら話を聞い「いやぁっ!!」」
こちらを拒絶するようにして、俺を押す彼女。
起きて早々錯乱である。
誤解をといて助力を求めるとかそんな次元の話ではなかった。
階段でそんなことすれば当然、バランスを崩してしまい倒れこむ。
いきなりでびっくりした勢いもあり、俺は両腕を思いっきり振り上げてしまった。
結果。
少女の身体が宙に投げ出された。
一瞬何が起こったのか分かっていない少女の顔がやけに印象的であった。
そして少女の落下軌道上にいたもう一人の少女が咄嗟に腕を広げて抱きとめようとしているのが目に入る。
階段でそんなことすれば、二人とも大怪我を負ってしまうだろう。
誰もが息を呑む中、身体を動かす。
「―――ッ!!」
時間が圧縮されたように全てがスローな世界にただ一人俺だけが普通に動く。
俺の腕から離れて落ちていった少女の腕を掴み、そして入れ替わるようにして投げる。
無事に、階段の踊り場へ落ちたのが目に入り、今度は身体をひねって腕を広げている少女を軌道上から外す。
後は俺が体勢を整えて着地すれば誰も怪我せずに住む。
この身体のスペックさえあれば、そんなことを一瞬で可能なのだよ!
速さが足りた!
だが、ここで予想外のことが起こる。
「危ないっ!」
「えっ」
視界端で亜麻色の髪が踊る。
そこには必死な形相で手を伸ばし、飛び出している少女の姿があった。
(あ、やべ)
思いっきり腕をつかまれて勢いを殺された。
しかも、この少女が邪魔で体勢整えられない。
このままでは二人そろって大怪我を追いかねない。
仕方がないか。
せめてこの子だけでもと俺は少女を抱き寄せる。
なあに、俺の身体は何度でも言うが凄まじいスペックを誇っている。
なら、この程度の高さなんてものともしないだけの力はあるはずさぁ!
(なるほど、これが女の子の匂いか)
少女の甘い匂いが鼻腔をくすぐるが、それは今意識の外に置いておく。
身体に当たっている柔らかい感触についても、考えない。
役得だなんて思ってないんだからね!
なんてそんなふざけられる時間もないので、さっさと自分は下に、少女は上にする。
衝撃はその後すぐに来た。
背中をたたきつけられたことで、一瞬息が詰まるも、この身体のおかげか、大したことはなかった。
人一人分の体重をものともしない。
咄嗟に受け身を取れたのが効いたのかもしれない。
少女の方はというと、友人と思われる人たちに安否を問われている。
どうやら無事のようだ。
「大丈夫ならさっさとどいてほしいのだが。重くはないけど立てないんでね」
「え、ぁ、すぐにどきます」
なにやらあっけに取られている様子だが、素直にどいてくれた。
きっと、落ちたことにビックリしたのだろう。
だが、友人二人に危険人物から遠ざけられるように離されたとき、少し名残惜しさを感じたのはここだけの話。
いやね。俺も男子高校生で、そういったことに多感な時期でもあるわけですよ。
それを表に出すような愚は起こさないけどね。
え?ただのむっつり?
ほっとけ。
「よし、女子はそのまま離れてろ!万理谷さんと階段の子を頼んだ!」
「この野郎!よくも好き勝手してくれやがって!」
「溜まりに溜まった鬱憤を晴らさせてもらうぜ!」
しかし、これどうしようか。
思いっきり予想的中してもうたやん。
成り行きでも、女の子回収した瞬間これですよ。
めっちゃこいつら俺を殴るつもりでいるよ。
平和な学園生活は何処に行ったんだ。
目的の少女も逃げたのかいなくなってるし。
「てめぇなんざこわかねぇんだよ!このグラサン野郎!」
そういって、一人殴りかかってきた。
すると、一人また一人とどんどん蹴る殴る。
実はそんなに痛く無いのだが、うっとうしいので防御くらいはする。
信じられるか?ここ日本の高校なんだぜ?
すると、誰かの拳が俺のサングラスを掠めた。
どこかへ飛んでいくサングラス。
サングラスを学校で外すのは初めの経験だった。
「うわぁあああああああああああああああああああああ―――――!」
「なっ・・・なん、なんだよこいつぅ!?」
「ひぃっ!?こ、こっちみんじゃねぇ!」
「ひぃ、きひひ、きひひひひ、あああはははははははあはは」
その瞬間、俺の眼を見て、殴っていた奴らが騒ぎ出す。
・・・・・・いい加減俺は怒っていいだろうと思う。
確かに騒動の原因は最初の時点で誤解を解けなかった俺にあるかも知れないが、向こうも向こうで悪い。
話を聞いてくれなかったのだから。
単なる親切心がこんな有様だよ。
それに、助けたのにこの仕打ちってどういうことだ。
しかもサングラスを外した瞬間、錯乱するし。
いや、それ以上に、それ以前に。
そもそも、こいつらの俺を見る目だ。
(どいつもこいつも嫌なことを思い出させやがる)
彼らが俺を見る目は、いつも一緒だ。
違うのは本当に稀だ。
両手で数えられるんじゃないだろうか。
この目が嫌になったからサングラスをつけたというのに。
『どうして**君はそんなことばっかするの!?』
前世での記憶が刺激される。
その瞬間、目の前が真っ赤に染まる。
「どいつもこいつも好き放題してくれる」
気が付けば、俺は怒りに任せて行動をしていた。
それを冷静に見る部分がいる反面、とめようなどとは思わなかった。
「クマさん曰く、俺の
俺は能力を軽く発動させる。
俺の手には市販ではまずない、等身大の釘が握られた。
「「全員釘付けにするくらいは構わないだろう?」
「『いやいや、ほどほどにっていったじゃないか』」
能力を全力で解放しようとしたら、横から凄まじい衝撃を受けて吹き飛んでしまった。
ゴキリッと何か凄く嫌な音を響かせながら、その勢いのまま壁に激突する。
眼を白黒させていると俺がさきほどまで立っていた場所には親友が立っていた。
く、クマさん!
「『まったく、なんか騒ぎが起こっているから見にきたら、案の定太朗ちゃんだったし。太朗ちゃんは一度ほどほどの意味を知ったほうがいいよ』」
いや、好きでこんな騒ぎ起こしたわけじゃないし。
むしろ極めて穏便に済ませようとしていたし。
でも、おかげで冷静になれた。
「・・・・・ありがとうクマさん。おかげで頭が冷えた。少しかっこ悪いところ見せたかな」
「『あはは、気にしないでいいよ。僕たちにとってそんなのは日常茶飯事なんだから』」
クマさんが俺の右腕を引っ張り挙げて立たせてくれた。
クマさんのどこにそんな筋力が!?
そして俺の右腕がさっき折られたような気がするけど、そんなことはなかった。
相変わらずクマさんってチートだなぁ。
それはさておき、サングラスを拾って俺は亜麻色の少女の前に立つ。
「すまなかったな」
俺が声をかけるとびくりと身体を震わせる亜麻色の少女。
何故か凄く疲れている様子だ。
その目には色んな感情がないまぜになって浮かんでいた。
一番濃いのは恐怖だろうか。
もう慣れたが、これほどの美少女にそんな目をされるとやっぱりショックだ。
なので、さっさと用件を済ませて去ることにする。
「それと、疲れているところ悪いがこの人形をあの少女に渡してくれないか。彼女の落し物だろうからな」
もう自分で渡すことは諦めた。
なので、誰かに預けることにしたのだが、丁度この女の子は彼女の顔を知っているし、俺に対してあれだけ強く向ってこれたのだから、とてもいい子なのがわかるしやってくれるだろう。
「『あー、太朗ちゃんってば一年生をパシリに使うなんて~。それも女の子を。よっ、この不良!』」
うるさい。
あんたは口を閉じてなさい。
さて、後は・・・・
この死屍累々の空間から逃げることだけだな。
てか、今日はもう俺はいない方が学校的にもいいだろう。
というわけで、俺は逃げる!
「クマさん、今日はもう俺帰るわ。悪いけど、今日の放課後の話はまた今度で」
「『えぇ~!酷いよ太朗ちゃん、僕の一世一代の告白をなんだと思っているのさ!』」
「え?なんとも思ってないけど」
俺は学校を後にした。
「タロ兄さん・・・・・」
残された場所では、意識を失った亜麻色の少女を抱き、悲しげに顔を伏せる護堂の姿があった。
信じられるか・・・・・?これ、まだHRが始まる前の出来事なんだぜ・・・・。
というわけで次もよろしくb