「ではここを――緒方くん」
「へあっ!?」
英語の授業にて、またまた当てられてしまった。マズイ、全く読めない。
これで五回目だ。もちろん、どれもまともに答えることはできなかった。
隣のアイちゃんに助けを求めようにも、全員が俺に注目してる以上は無理だ。
「え、えーっとその……わかんないっす」
「はぁ、仕方ないですね。ではストラトスさん」
「はい」
まただ。また答えられなかった。初等科のときもこんな感じだったな。
そう思いつつ席に座ると、周りが少しだけざわつき始めた。
『あれ読めないとかあり得なくない?』
『俺、英文は読めないけどさすがに英単語くらいは読めるぞ』
『前期試験で補習確定だな』
そして聞こえてくる俺への非難。一回だけならまだしも、何度も聞いてるとさすがに腹が立つ。
とはいえ、ここで姉さんみたいに暴れたとしても自業自得でしかない。
だからといって我慢できるほど人間ができてるわけでもなく――
「――っ!」
俺は両手で机を思いっきり叩いて立ち上がった。もう無理だ。
一気に先生やクラスメイトの視線がこっちに向けられたが、そんなことはどうでもいい。
そのまま教室から出て、溜め込んでいたものを一気に吐き出した。
「はいはい、俺はバカだよ」
まず最初に、廊下で呟きながら壁を蹴飛ばす。
「バカで悪いか文句あんのかオラァ!」
次に反対側の壁に持っていた鉛筆を投げつける。
「俺は英単語も読めねえバカなんだよ。つーかわかってんだよ俺だってよ、学校が無理だってわかってんだよ!」
さらに上着を脱ぎ捨て、噴水のある中庭みたいなところにたどり着いた。
「クソがぁ!」
最後に近くにあった木を蹴飛ばし、ベンチに寝そべった。
思わず上着を脱ぎ捨ててしまったが、今日はなぜかTシャツを着ていたために寒くはなかった。
「またやっちまったよ……」
あれから時間が経ち、ただいま放課後。
どうやら俺は寝てしまってたようだ。なんてこったい。
ただ、姉さんみたいに暴れなかったのは不幸中の幸いだろう。
「この癖も治さないとなぁ」
そう呟きながら、教室にあるであろう鞄を取りに行こうと起き上がったときだった。
「――見つけました!」
「ふぁいっ!?」
後ろからいきなり声をかけられ、思わず跳ね上がってしまった。
誰だ俺をビビらせようとしたバカヤローは。目から眼球が飛び出しそうになったじゃねえか。
「って、アイちゃん?」
「その呼び方はやめてください」
だが断る。
「どしたよ? もう放課後だぞ?」
一体何しに来たというのだろうか。見つけました! とか言ってたし俺に用があるのかな?
いや、真面目なアイちゃんのことだ。きっと急いでいて誰かと間違ってしまったんだな。
「えっと……相手間違ってない?」
「いいえ、イツキさんで合っています」
俺だったのか。
「なんの用かな? って言いたいところだけど今はそんな気分じゃないんだわ。んじゃそゆ――」
「鞄と上着ならここに」
あるぇ? 俺まだなんも言ってないんだけど。
「今のイツキさんの考えなら手に取るようにわかります」
「マジか」
すげえぞコイツ。読心術が使えるのか。今度教えてもらおう。
さて、教室に戻る必要もなくなったし、帰るとしますか。
「………………い、イツキさん?」
「今度はなんだよ」
「その格好で帰るんですか……?」
「あ……」
あらやだTシャツのままだった。けどこれ、下着じゃないから別に問題はないはずだ。
そうだ、これはクールビズなんだよ。だったらなおさら問題ないな。
「クールビズだから別にいいよね?」
「よくありません」
ダメだったようだ。
「そういや、お前何しに来たんだよ」
「そうでした! イツキさんに提案があるんです!」
「て、提案?」
なぜだろう、イヤな予感しかしない。
「少し早いですが、前期試験に向けて勉――」
ダッ(俺、猛ダッシュ)
「――い、イツキさん!?」
勉強という言葉が聞こえそうになった瞬間、俺は条件反射でその場から逃げ出していた。
勉強とか授業だけで足りてるっつうんだよこんちくしょう!
「あ、でもどうせ学校で会っちゃうしなぁ……」
今逃げたとしても明日また学校で鉢合わせするに違いない。
ヤバイ。退路なんてどこにもなかったんだ。明日までにいろいろ考えておくか。
《今回のNG》TAKE 4
「クールビズだから別にいいよね?」
「よくありません」
「じゃあ下も脱げってか!? お前は鬼か!」
「どうすればそんな発想に繋がるんですか!?」