「……珍しいな」
〈ええ、本当に〉
アイなんとかが学校に来ていない。一体なんの前触れだこれは。
もしかしたら夢なのかこれは。でなきゃアイツが来ないなんてあり得ねえぞ。
とりあえず夢かどうかを確かめるため、俺は自分の頬をつねってみた。
「いてて。夢じゃないのか――」
「すみません、遅れました」
「――夢じゃないのか……」
なんつータイミングで来ちゃってんのお前。
「……なんで遅れたの? ――通り魔さん」
「っ!」
間違いない、この反応。やっぱりコイツが自称“覇王”だったのか。
まあ、スミ姉から姉さんが襲われたって聞いたときに気づいたんだけどね。
「その様子だとなんかあったみたいだな」
「……いろいろありました」
あっそ。
「イツキさーん!」
「……あ?」
昼休み。たまにはぶらつこうと適当に歩き回っていたら高町ヴィヴィオと出会った。
どうやら知らないうちに初等科の校舎に来てしまっていたらしい。
『お、おい、あの人って……』
『うん。確か魔法以外は私たちよりダメだって噂の……』
『なんで初等科の校舎にいるんだよ?』
『大方迷子になったとかだと思う』
『カレーパン食べたい』
なんか不穏な噂しかされていない件について。
あと誰だカレーパン食べたいとかいったクソヤローは。ボコボコにしてやるから出てこいよ。
「イツキさん……?」
「ん? ああ、どうした?」
「話、聞いてましたか?」
「雑音のせいで全く聞こえなかった」
一体何を話していたのか全くわからなかったんだけど。それどころか話してることにすら気づかなかった。
もしかしてお前、ステルス機能でもお持ちですか? だとしたらここで透明になってほしいな。
「雑音なんて聞こえませんよ……?」
「あれ? おかしいな。確かにカレーパン食べたいって雑音が聞こえたはずなんだけど……」
「それは雑音じゃ――」
「さらばだっ!」
「――あー! また逃げたっ!」
またってどういう意味だコラ。まあいい。俺はとにかく走った。その場から立ち去るために。
「あ、先輩っ!」
「なんなんだよ立て続けに!」
あれから数分後。初等科の校舎から逃げたのはいいが、途中でコロナ・ビ――ティミルと出会ってしまった。
なんでこんなところにいるんだよ。お前、いつもならヴィヴィオと一緒にいんだろうが。
「立て続けに?」
「あ、ああ、気にすんな。俺にもいろいろあるんだよ」
「初等科の校舎から走ってくるのが見えたらしいんですけど……」
「待て。ということは見ていたのか?」
「はいっ! ――リオが!」
なんでお前が胸を張る必要あんの? 年相応だからペッタンコなのは仕方がないけど。
あ、コイツがペッタンコなら初等科の女子は皆ペッタンコか。
ていうかウェズリーどこにいんだよ? 俺を見たっていうウェズリーはどこだ?
「今、先輩を殴らなきゃいけないような気がしたんですけど……」
「やめるんだティミル。お前はそんな暴力系女子じゃないだろう?」
お前が殴るつったら絶対に素手じゃないのが目に見えてる。
「そんじゃ、俺はこれで――」
「あ、コロナ! 先輩!」
「――わかってたよちくしょう!」
ああ、わかってたよ! そんな簡単に終わるわけないって!
「…………なんだよウェズリー」
「それはこっちのセリフですっ! どうして先輩とコロナが一緒にいるんですか?」
「たまには愛の逃避行をしようと思って」
「殴りますよ!?」
「…………嘘に決まってるじゃん」
マズイ。下手に口を開くと殺される。
「わたし、信じてますから……! 先輩がそんな人じゃないって信じてますから……!」
「あ、そう――待て。それだと俺が犯罪の容疑を掛けられているみてえじゃんか」
「「違うんですか!?」」
「違うわっ!」
勝手に信じられても困るだけなんだよなぁ。あとマジで違うから。
にしてもめんどくせえガキ共だ。思い込みが激しいとはまさにこの事である。
「……もういいわ。疲れたから戻る」
「道わかるんですか?」
「殴るぞ!?」
さすがに中等科の校舎に戻る道ぐらいはわかるっつの!
そんなこんなで俺はギリギリではあったが教室に戻ることができたのだった。
《今回のNG》TAKE 34
「……もういいわ。疲れたから戻る」
「道わかるんですか?」
「俺を誰だと思ってやがる?」
「「ちょっぴりやんちゃでおバカな先輩」」
「ぶっ殺すぞクソガキ共!!」