学校嫌いな彼と鮮烈な少女たち   作:勇忌煉

33 / 42
第31話「私欲まみれの大運動会(後編)」

「…………これは何の陰謀だ」

 

 第九種目の玉投げでウェズリーが足を挫くというハプニングが発生したものの無事に終わり、いよいよ本日最大の目玉競技、二人三脚が始まろうとしていた。

 初等科とは合同で、アイちゃんはヴィヴィオとペアを組んでいる。ティミルも当初はウェズリーと組む予定だったらしいが、そのウェズリーが足を負傷したので棄権せざるを得なかったとか。

 そんで俺はクラスメイトを影武者に仕立てて撮影に回るつもりだったが……

 

「言ったでしょ? 撮らせないって」

 

 委員長に捕まってしまい、無理やりペアを組まされてしまったのだ。普通なら万歳してでも喜ぶところだが、今回は目的が目的なので喜べない。

 やむを得ずバンドで委員長と足を繋ぎ、グラウンドにあるスタートラインへ向かう。

 ……視線が痛い。主に俺の派閥の連中の視線が果てしなく痛いです。

 軽やかにその場で駆け足の練習をしてみるも、恐ろしいほど息が合わなかった。

 

「お前わざとズラシてるだろ!?」

「それはこっちのセリフだよ! こんなときぐらいちゃんとしてよ!」

「してるわボケ! テメエがちゃんとしろよ!」

「そのセリフ、伸しつけて返すよ!」

 

「「…………!!(ガンのくれ合い)」」

 

「あちらは随分と賑やかですね……」

「多分違うかと……」

 

 ヴィヴィオとアイちゃんがなんか言っているが気にしない。

 スタートラインに付き、もう一度駆け足の練習をしてみたがやっぱり息が合わない。

 

「いい加減にしろよお前!?」

「緒方くんこそ、いい加減他の女の子をジロジロ見るのやめてよ!」

「女子を見て何が悪い! 見ない奴なんて同性愛者だろうが!」

「偏見なうえにこの上なく最低だ!?」

「なら俺を今すぐ解放しろ!」

「ダメに決まってるでしょ!?」

 

「「…………!!(メンチの切り合い)」」

 

「やはりあちらは賑やかですね……」

「絶対に違うと思います……」

 

 またしてもヴィヴィオとアイちゃんがなんか言っているがこれも気にしない。

 全員の準備が整ったのか、教員は黒いピストルが握られた手をゆっくりと天に持ち上げ――

 

 

 パァンッ!

 

 

 銃声が響き渡る。

 それがスタートの合図だとわかった瞬間、俺らを始めとする参加者は一斉に走り出した。

 確かコースは校舎全域だった気がする。グラウンドだけならまだしも、これは辛い。

 しかも各所に障害物があるとのことだ。障害物競争やった意味なくね?

 

「遅えんだよバカ!」

「緒方くんが速すぎるんだよバカ!」

 

 そんな会話とは裏腹に、さっきのゴタゴタが嘘のようにリズムはピッタリ合っている。

 校舎へ続く道を一直線に走っていたが、

 

「曲がるぞ」

 

 なんか嫌な予感がしたので方向転換して直角に折れ曲がる。委員長が耳元で文句を言ってくるがそれどころじゃない。

 もう一度方向転換してゴールへとコースを取り直した瞬間、後ろから悲鳴と何かがハマったような不可思議な音が響き渡った。

 何かと思って立ち止まり、振り返ってみると何もなかったグラウンドにぽっかりと大きな穴が開いている。

 ……え? 落とし穴?

 

「いつの間に掘ったの!?」

 

 それは俺も気になるところだが……まず委員長が取り乱しているのでその姿をカメラに納める。

 教員の後出し説明によると、穴に落ちた人は失格になるとのことだ。

 スリルがあるのは面白いが、ヴィヴィオとアイちゃんのペアが驚異的なスピードとコンビネーションで追い上げてきたのでひとまず二人を振り切ることに集中しよう。

 

「走れ委員長! 俺はさっさとゴールして女子の体操服姿を撮りたいんだ!」

「穴に落ちたらどうするのさ!?」

「俺の言う通りにすれば絶対に落ちねえ!」

「不安だよ~!」

 

 委員長を引きずるようにグラウンドを駆け抜け、トップで校舎内へ進入する。

 所々にある矢印に沿って走っていると、中等科の教室にたどり着いた。

 教室内には机がいくつか置かれており、その上にある一枚の用紙が目に入った。

 ……まさか。

 

「あ、これ小テストだね」

「委員長、後は任せた!」

「何さらっと逃げようとしてるの!?」

 

 嫌だ! せっかくの運動会なのに小テストをするなんて嫌だ! 俺はただ女子の体操服姿を撮りたいだけのに勉強するなんて嫌だ!

 俺が混乱している間にも、委員長はスラスラと問題を解いていく。どうやら一人で半分は解かないといけないようだ。

 

「ほら、後は小学生レベルの問題だから頑張って!」

 

 渡された用紙に目をやると、中学生レベルの問題が全て解かれていた。委員長スゲえ……。

 少しやる気が出た俺はすかさずペンを持ち、最初の問題を書こうとしたときだった。

 

「終わりました。先を急ぎましょう」

「はいっ!」

 

 聞き覚えのある声がした方を振り向くと、こんなの余裕だと言わんばかりに小テストをあっという間に解き終えたヴィヴィオとアイちゃんのペアがいた。いつの間に追いついたんだ?

 

「あっ、お先に失礼しますっ!」

 

 ヴィヴィオは俺達に礼儀正しく挨拶すると、アイちゃんと共に教室を出ていった。

 ……上等だクソッタレ。こうなったら男の意地ってやつを見せてやる!

 そうと決まればさっさと解いちまおう。小学生レベルならいくら俺でも――

 

 

 次の問題に答えなさい。

『古代ベルカ式と近代ベルカ式の違いを一つでもいいから挙げなさい』

 

 

 わかるかそんなの。

 

 

 □

 

 

 かなり順位が落ちてしまったものの、委員長の懸命な助言もあってどうにか小テストをやり終えた俺と委員長のペアは、ようやく第三の障害に差し掛かっていた。

 どうやらお次は借り物競争のようだ。こいつは運が重視されるな……。

 委員長が教員に差し出された数枚のカードから一枚のカードを引く。

 そしてカードを引っくり返すと、お題であろうメッセージが書かれていた。

 

 

『お互いの好きな人』

 

 

「「…………」」

 

 新手の公開処刑だろ、これ。何でもこっちの様子はモニターで観客に知られてるらしいし。

 委員長も言葉の意味を理解したのか、かつてないほど顔を真っ赤にしている。あら可愛い。

 何にせよ、これでリタイアできるぞ。さすがの委員長もこれを真面目にやるほど――

 

「……そ、それならここにいます! 本人も了承済みなので!」

「お、そうかい? なら先に進んでいいよ」

 

 どんだけ優勝したいんだお前。そこまで本気だとは思わなかったぞ。

 まあ、クリアしてしまったものは仕方がない。言われた通り先に進みますか。

 

「見つけました」

「は?」

 

 一歩踏み出すと同時に腕を掴まれたので誰かと思って振り向くと、片手にカードを持ったアイちゃんとヴィヴィオのペアが立っていた。

 ていうか、今見つけたって言ったよな?

 ヴィヴィオは困惑しているが、アイちゃんは至って冷静である。

 

「この人がそうです」

「あ、アインハルトさんがそう言うのなら……」

「…………ま、まあ合格でいいよ」

 

 どうやら俺はこの二人の借り物のお題にされたらしい。助け船を出してしまったか。

 お題が何だったのか確かめるためにアイちゃんが持っていたカードを覗き込む。

 

 

『大人の女性にちゃん付けで呼ばれる男子』

 

 

「殺すぞキサマァ!?」

 

 思わずアイちゃんにブチギレた俺は絶対に悪くない。俺だって男なのに……!

 

「落ち着いてくださいイツキさん! いくら事実だからって怒るのは良くないです!」

「おどれもブチのめしたろか!?」

「ひぃっ!?」

「下級生に手を出しちゃダメだよ! 何かあったのかは知らないけどほんとに落ち着いて!」

 

 ヴィヴィオと委員長に制止されること十五分、俺はようやく落ち着きを取り戻した。

 

 

 □

 

 

「もうすぐで終わりだね……」

「だな……俺もう疲れたよ……」

 

 あれから俺と委員長は様々な障害を切り抜け、五体満足でグラウンドへ舞い戻ってきた。

 改造された体育館とか、お化け屋敷の迷路とか、金魚すくいとか、皿回しとか、ゴーレム討伐とか、それはもう大変だったぜ。

 特にゴーレム討伐。ティミルのゴライアスだけならまだしも、ウェズリーの作った変な生き物が大量に現れたときはガチでトラウマになるかと思った。お願いだから夢にだけは出てくんな。

 ここまで来たからには走りきろう。何でも俺達がトップらしいし。

 

「優勝したらなんかあるんだっけ?」

「賞品があるって聞いたけど――」

「あっ! いました!」

 

 もう声と足音だけで判別できる。やはりと言うべきか、ヴィヴィオとアイちゃんのオッドアイペアが猛追を掛けてきていた。

 俺と委員長もできるだけ全力で走るが、相手は覇王の子孫と高町なのはの娘。そう簡単には突き放せず、逆に距離が縮まっていく。

 気づけばゴールテープがすぐそこまで近づいていた。あそこを突っ切ればゴールだ。

 

「あと少し……ッ!」

 

 すぐ隣で声がしたかと思えば、オッドアイペアが俺達と並走していた。

 ちくしょうが、ここまで来たってのに負けてたまるかぁ……!

 

「もっとスピード出せ委員長! 追いつかれちまったぞ!」

「これが限界だよ……!」

 

 相方の委員長はとっくに体力が尽きていたらしく、息切れを起こしている。

 もうこうなってしまえば結果など見えている。勝利を確信したのか、ヴィヴィオとアイちゃんが一気に前へと躍り出た。

 それでも気合いで二人と並んだ瞬間、

 

 

 バコォォォォォ!

 

 

 という聞き覚えのある音が足元から聞こえてきたと同時に、俺の視界が茶色一色に染まった。

 思いっきり叩きつけられるように尻餅をつき、痛みで顔を歪めてしまう。

 何が起こったのか確かめるべく周りを見渡すと、上から落っこちたような状態のアイちゃんとヴィヴィオが目を回していた。俺の隣では委員長が砂煙で咳を拗らせている。

 

 ――どう見ても落とし穴です。本当にありがとうございました。

 

「最後の最後で落ちるなんて……」

 

 呆れるように呟く委員長。

 

「あー……嫌な予感はあったかも」

 

 ふと思い出したように呟く俺。ヴィヴィオとアイちゃんを追い越すのに夢中で忘れていたよ。

 俺の呟きを聞いた委員長は恨めしそうに睨んできた。これは酷いや。

 

「……なんで避けなかったの?」

「少し歩いたら忘れてた」

「君は鳥頭か何かなの!?」

「おい待て怒鳴られる覚えはねえぞゴラァ! 大体テメエがスタミナ切らしてなければ普通に勝てたんだよ!」

「うっ……それは否定しないけど、忘れる前にかわしてほしかったよ!」

「忘れてたんだから無理に決まってんだろ! 無茶言うなアホンダラ!」

「バカにアホって言われたくないよ……!」

「なんだとこの……!」

 

「うぅ……なんで落とし穴があるの~……?」

「少し静かにしてもらえると助かります……」

 

 言い争いから取っ組み合いへ発展させていく俺と委員長をよそに、ヴィヴィオとアイちゃんはくたくたになっていた。お疲れさん。

 競技が終わってから数分後、俺達は救出されたが俺と委員長の言い争いと取っ組み合いはさらに数十分ほど繰り広げられた。

 そして、優勝したのは全く知らないクラスであった。ちなみに俺のクラスは二位で、初等科限定ではヴィヴィオのクラスが一位だった。

 ……ま、ベストショットは撮れたから俺個人だと大勝利だったけどな!

 

 

 

 




《今回のNG》TAKE 10

「言ったでしょ? 撮らせないって」
「やはり悪魔か……!(パシャッ)」
「本当に人の話を聞かないよね、君」

 はっはっは、何のことやら。



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。