《お待たせしました。それではこれより、St.ヒルデ学院大運動会の開催です!》
「やってやるぞお前ら!」
『うおおーっ!』
「緒方の援護をするついでに勝つぞ!」
『やってやるぜぇぇーっ!!』
とうとう始まった初・中等科合同の大運動会。だが、俺の目的は優勝じゃない。女子の体操服姿をカメラに納めることだ。
クラスメイト――『イツキ派』の皆も優勝そっちのけである。というかついでになっている。
委員長率いる『委員長派』は真面目に優勝を目指している。まあ、頑張れ。
ちなみに言っておくと対立しているだけで『イツキ派』と『委員長派』は同じクラスの連中の集まりである。
「まずは『短距離走』か……」
「負けませんよ、イツキさん」
最初の競技である短距離走が行われるグラウンドへ行く。そこにはアイちゃんと――
「あっ、イツキさん!」
――初等科の高町ヴィヴィオがいた。あれ? この競技って学年対抗だっけ?
とりあえず体操服姿のヴィヴィオをこっそりとカメラに納め、位置につく。
「本当は一緒に走りたかったんですけど、初等科と中等科は別々なので応援してますね!」
「ありがとうございます。ヴィヴィオさんの応援があれば百人力です」
ヴィヴィオが応援すると聞いて気合いを入れるアイちゃん。仲の良いことで。
そろそろ時間なのでスタートの構えを取る。短距離なら一瞬だな。この競技は多少の魔力を使用しても問題ないらしいし。
両足に魔力を集束させ、いつでもロケットダッシュができるようにした。
「それではよーい……スタート!」
パァンと火薬の音が聞こえた瞬間、俺は集束させていた魔力を噴射するイメージで暴発し、ロケットダッシュをかまして一気にゴールした。その間、わずか一秒ほどである。
二、三秒ほど遅れてゴールしたアイちゃんをよそに、俺は走ってくる女子達をカメラに納めていく。おっ、あの子は揺れてるな。儲け儲け。
「……イツキさん」
「さいならっ(パシャッ)」
ゾンビみたいに揺れながらお怒りのアイちゃんをカメラに納め、すぐさま逃走する。捕まったら俺の明日はない!
こうして、俺と委員長の戦いは本当の意味で幕を開けた。
~ 競技№2 借り物競争 ~
「イツキさん。何も言わずについてきてください」
「えっ? 何? アイちゃん? なんか目が怖いんだけど!? ねえ、アイちゃん!?」
「…………えーっと……」
「ご本人も了承済みなので問題はありません」
「まあ、そういうことならゴールしてもいいよ。君、若いのに大変だね……」
「おい待て! 中身を見せろ! その紙にはなんて書いてあるんだ!? 頼むからぐぁっ!?」
~ 競技№3 チーム対抗リレー ~
「待てコラァァァァッ!!」
「あんたなんでそんなに速いの!? もしかして人間やめちゃってる!?」
「カメラを返せアイちゃぁぁぁぁんっ!!」
「返しません! 返したら負けてしまうので!」
「ちゃんとリレーをしなさいよあんた達!? ガリュー! あの二人を止めて!」
~ 競技№4 障害物競争 ~
「ふえぇっ!?」
「こ、コロナがびしょ濡れに!?」
「…………!!(パシャパシャパシャ!)」
「こら緒方くん! なに撮ってるの!?」
「げっ!? 委員長!」
「さあ、大人しくそのカメラを――」
「さらばだぁっ!」
「あっ! 待ちなさい!」
~ 競技№5 パン食い競争 ~
「うぅ……お腹が空いて力が出ない……」
「リオ! 頑張って!」
「ウェズリー! はい、ピース!」
「へっ? あ、はいっ!」
「……よし! 次だ次!」
「しまった! 出遅れた!?」
「やっと午前最後の競技か……」
女子の体操服姿をわずかな休憩時間の間に激写しつつ、妨害してきた委員長とアイちゃんからとにかく逃げまくった俺は疲労のあまり自分のクラスのベンチに座り込んでいた。
今から行われる競技は初等科による『ゴーレム棒倒し』だ。ティミルのゴライアスであっさりと終わりそうだからベストショットは難しい。
にしても、ウェズリーが手のひらに乗せている変な生き物が気になる。人型のゴーレムを作ろうとしたらできちゃった的な感じの生き物だし。
「ゴライアスッ!」
ほら、やる気満々で創成しちゃったよティミルの奴。アイツらのクラスは勝ち確定だな。
巨人並みの体格を持つゴライアスは他のゴーレムの攻撃も何のそので棒に拳を入れていく。
誰もがヴィヴィオのクラスの勝利を確信した瞬間、目を疑うような出来事が起きた。
「ゴライアス――ッ!?」
ティミルのゴライアスをウェズリーの手のひらに乗っていた変な生き物が一撃で倒してしまったのだ。デタラメにもほどがある。
念のためその瞬間はカメラに納めていたので何度も確認した。どう見ても手のひらサイズの生き物が頭の触角のような部位でゴライアスの懐を突いている。あの小さな体にどんだけパワーが秘められているんだよ。
皮肉にもそれが決定打となり、ヴィヴィオのクラスは敗退したのだった。
□
「お前ら! これが午前中の結果だ!」
『キタァァァァッ!』
お昼休憩に入るや否や俺の派閥の連中に結果を現物を見せることで報告する。これで少しは士気が上がるだろう。
ちなみにうちのクラス、得点は三位だったりする。何気に運動部のエースが集まってるからなぁ。そりゃふざけていても上位にいるわけだ。
結果報告を終えた俺は、観に来ていたスミ姉の元へ一直線に向かった。
「やっはろーイツキちゃん」
「はいはい。で、昼飯は?」
「これだよ」
スミ姉から弁当箱を受け取り、敷かれていたシートの上に座り込む。
さてさて、中身は何かな? できれば鯖の味噌煮以外で頼む。
「おっ……スミ姉が作った弁当にしては美味しそう――じゃねえ!?」
中にはマグロの頭が丸ごと入っていた。あまりにもリアルすぎて怖い。もはやホラーだこれ。
よく見てみると、マグロの頭をメインに、マグロの目玉、骨、ヒレが入っている。
……よし、言いたいことはまとまった。後はスミ姉に抗議するだけだ。
「スミ姉!」
「ん~?」
「これ刺身が入ってないぞ!?」
「大丈夫だよ。そのままでも食えるから」
確かに食えるが精神的なダメージが半端じゃない。せめて調理してほしかった。
すぐ近くではなのはさんとテスタロッサさんが何か言い争っていたが、俺はその二人と呆気に取られていたヴィヴィオをカメラに納めることで頭がいっぱいだったので、さすがに何を言い争っているかまではわからなかった。
さーて、もうすぐ午後の部が始まるな。今度こそポロリを頼むぞ!
□
「負けるかぁ……!」
「こっちのセリフです……!」
午後の部が始まった。最初の競技は『学年対抗綱引き』だった。
不幸にもヴィヴィオのクラスと当たってしまい、力のある俺とウェズリーを中心に抗衡し合っている。要は互角になっているわけだ。
それに先輩としてのプライドもあるから負けるわけにはいかないっ!
「諦めろクソガキぃ……!」
「諦めません……! 絶対に……!」
さっきから本気で引っ張っているのに全く動かない。どうしたものか。
「……お?」
ここで俺はある事に気づいた。なんとウェズリーの服が捲れそうになっていたのだ。つ、ついにポロリ来るか!? ポロリ来ちゃうか!?
すぐさま綱から手を放し、ウェズリーを連写で撮る。もう少し、あともう少し……!
「どっせーい!!」
『うわぁ――っ!?』
「あ」
馬鹿力のウェズリーに唯一対抗できる俺が手を放したことにより、彼女がありったけの力で中等科のメンバーごと綱を引いてしまった。あらら、俺のチーム負けちゃったね。
だがしかし、本日屈指のベストショットは撮れた。こいつは儲けもんだ。
「……緒方くん?」
「はっ!? 邪悪な気配っ!」
背後から委員長の声が聞こえたので条件反射で走り出す。捕まったらカメラがお陀仏に……!
後ろを振り返ると、委員長だけでなく拳を握り締めたアイちゃんまで追いかけてきていた。俺が一体何をしたというんだ!?
このあと『委員長派』の連中全員に怒りの形相で追い回されたが、教員が止めてくれたことで事なきを得た。死ぬかと思ったぜ……。
□
「どうしてそんなに速いんですか……!」
「はっはっは! 俺が速いんじゃなくてアイちゃんがノロすぎるだけだよ!」
休憩する間もなく迎えた『長距離走』にて、俺はトップを余裕で独走しながらアイちゃんを始めとする女子の走る姿を激写している。
けど、残念ながら揺らすほどの胸を持っている女子はいない。こうなったら……
「君に良いことを教えてあげよう!」
「良いこと、ですか……!?」
「大人モードになるんだ! このまま無様に負けたくなかったらなぁ!」
軽くアイちゃんを挑発してみたが、思惑通り彼女は豊満な胸の大人モードになってくれた。
よしきた! そのまま走れ! 走って揺らしまくるんだ!
……まあ、これくらいなら教員達も許してくれるだろう。てか許して。
「ん?」
激走するアイちゃんを連写していると、彼女は怒りに身を任せているのか俺との距離をどんどん詰めてきた。マジで追い越されるな。
一位を取ることよりも大人モードのアイちゃんをカメラに納めることにした俺は、あと少しのところで彼女に勝ちを譲った。これまたベストショットだな。これを待っていたんだよ!
そして二着でゴールした俺はそそくさとその場を立ち去ろうと――
「あとはこいつを――」
「どこへ行くんですか……?」
立ち去ろうとしたら大人モードのアイちゃんに捕まってしまった。怖い、今のアイちゃん冗談抜きで怖いです。
後ろを振り向かなくてもわかる。これガチギレしてるぞ。どうにかしないとヤバイ。
「アイちゃん」
「歯を食い縛ってください」
必死に弁明しようとするよりも先に彼女の鉄拳を顔面に食らうはめになった。
幸いにもカメラは守りきったから良かったものの……もしも壊れていたらどうすんだ全く。
《今回のNG》TAKE 34
「……緒方くん?」
「はっ!? 邪悪な気配っ!」
「君にだけは言われたくないよ!?」
「失礼な! 俺ほど純粋な奴がどこにいるってんだバカヤロー!」
「バカは君だよ! 女の子ばっかり撮って!」
「なんだとこのバカ!」
「バカって言う方がバカなんだよバカ!」
どうやら彼女とはここで決着をつける必要があるみたいだ。