「俺は緒方イツキ。まあ、一応知ってると思うけど」
「名前は聞いたことがあります。物凄くバカだけど魔法だけは優れている人だと」
「…………」
教室に着いた途端これだよ。目から涙が出そうでござる。いや、マジで。
確かに頭は悪いよ? だけどそれを他人に言われるのはイヤなんだよね……仕方ないけど。
「はーい皆席についてー!」
先生も来たことなので、さっそく教科書を開いてみる。……はにゃ?
なんだこの次世代語は。漢字でなきゃ読めねえぞおい。わけわかんねえもん並べやがって。
「あー………………」
「い、イツキさん?」
「はっ! な、なにかな?」
「寝てはいけませんよ?」
「……あ、はい」
アイなんとかに注意されて目が覚める。どうやら教科書を見ているうちに寝ていたらしい。
筋トレの疲れが今になって響いてきたか。やっぱり睡眠は取るべきだった。
「……寝てないんですか?」
「うん。ちょっと筋トレしてたんだよ……徹夜で」
「…………」
お願いだからそんな興味深そうな目で俺を見ないでくれ。恥ずかしいから。
ていうか筋トレって言葉を聞いただけでこうなるってどうなの?
「さて……なあアイなんとか」
「なんでしょう?」
「あれなんて読むの?」
「え」
英語読めないでござる。
「やっと終わったぞ~」
「……どうして私ばかりが当てられたのでしょうか」
昼休み。授業でよくあるここを……○○さん、みたいなやつで俺が当てられそうになったので何度も視線誘導を活用させてもらった。
もちろん標的はアイなんとか。だってコイツ、外見で俺より目立ってるもん。
「飯飯っと……なんで一人?」
「それは私の台詞です」
もしかしてコイツ、ぼっちというやつか?
「まあいいか。……次って体育だっけ?」
「はい。体育です」
確か模擬戦やるとか言ってたなぁ……。よし、久々に暴れてやるか。
おっと、まずはこの弁当を食わねえとな。今日は鯖の味噌煮かぁ……鯖の味噌煮?
「弁当に鯖の味噌煮とか合わねえんだけど!? 何回言ったらわかってくれるんだよあの人は!」
ぶっちゃけ弁当に鯖の味噌煮が入ってなかったことなんて一度もない気がする。
ま、ご飯がある分この間よりはマシか。この間はミカンしか入ってなかったのだから。
「そのお弁当、イツキさんが作ったんですか?」
「うんにゃ、姉が作った」
めちゃ怖い本性を秘めたすんげえお姉さんが作りました。
「……もう飽きたよこの味。うん、弁当食うのはやめだ」
「…………」
「……な、なに?」
なんかすっげえ非難の眼差しを向けられてるんだけど。俺またなんかやらかしたの?
そう疑問に思っていると、アイなんとかがこう言ってきた。
「食べ物を粗末にしてはいけません」
「しねえよ!? いくら俺でも粗末にはしねえよ!?」
コイツはどこか抜けてるみたいだ。
「オラァ!」
「うわぁ!?」
そんなこんなで迎えた体育の授業。いきなり体育館で模擬戦である。けどまあ、俺からすればめちゃくちゃ楽すぎる。
だって他の奴弱いし。アイなんとかとは性別の問題でやり合うことはないだろう。……さっきからすげえ見られてるけど。
「緒方。少しやり過ぎじゃないか?」
「へいへい。以後気をつけまーす」
担当の先生に注意されたので適当に返事を返す。まあ、無理だろうけど。
にしてもマジでろくなのがいない。どいつもコイツもヘボばっかだ。
「ふむ。その様子だともう一戦やれそうだな?」
「は?」
なに言ってんのコイツ。
「次、緒方とストラトス」
「はい!」
「いやちょお前待てよゴラァ!」
アイなんとかも元気よく返事してんじゃねえよ。
つーかなんで急に男女混合になってんだよ。いきなり過ぎて笑えないんだけど。
「今回は特別だ」
全然嬉しくない。
「やりましょう! イツキさん!」
「なにイキイキしちゃってんのお前」
無表情だけど目が無駄に輝いている。やめて、そんな目でこっちを見ないでください。
周りを見ると、男子からは嫉妬の眼差し、女子からは軽蔑の眼差しを向けられていた。
この状況で嫉妬するとかどんだけ女に飢えてるんだよ。年齢考えろよバカ共。
あとさ、なんで軽蔑されてんの俺。君たちにはなんにもしてないよね?
「あのさ、やっぱりやめな――」
「始め!」
「人の話聞けやぁあああああっ!!」
前言撤回。やっぱり楽じゃない。
《今回のNG》TAKE 10
おっと、まずはこの弁当を食わねえとな。今日はポテトチップスかぁ……は?
「なんで菓子なんだよあのアマァ!!」
「……か、変わったお弁当ですね」
それ以前の問題だと思う。