学校嫌いな彼と鮮烈な少女たち   作:勇忌煉

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第26話「模擬戦」

「はあぁっ!」

 

 二回目の模擬戦が始まって以降、私とコロナさんはイツキさんとサツキさんのお姉様であるスミレさんと対峙していた。

 彼女は旅人が着るような薄茶色のローブを着用し、右腕にガントレットのようなデバイスを装備している。

 私が手も足も出なかったサツキさんを子供扱いしていたほどの人だ。一人じゃまず勝てない。

 でも、これはチーム戦。それに大人組にはある程度のハンデがあると聞いている。一人じゃ無理でも二人なら……!

 

「おっ、ナイスパンチ」

 

 私が打ち出した拳をあっさりと受け止め、余裕の笑みを浮かべるスミレさん。もしかしなくても余裕なのだろう。

 彼女の後ろでは、コロナさんが創成した巨大ゴーレム――ゴライアスが拳を構えている。

 それに気づいていないのか、スミレさんはあくびをしながら私を蹴り飛ばした。

 

「ゴライアスッ!」

 

 懐に蹴りが入り、数メートルほど後ろへ引きずられるもどうにか踏ん張ったところでコロナさんの声がはっきりと聞こえた。

 スミレさんも片眉を吊り上げ、後ろを振り向く。私も痛みを堪えて彼女と同じ方向へ視線を向けると、放たれたゴライアスの巨大な拳が目に入った。あれされ決まれば――!

 

「お見事」

 

 しかし、直撃まであと数センチというところでその拳は右手で受け止められてしまった。

 不敵な笑みを浮かべるスミレさん。彼女は間髪入れずに受け止めたゴライアスの拳へ軽く、それでいて素早く左の拳を振り下ろし――

 

「え……」

「ふえぇっ!?」

 

 ――ゴライアスを粉砕した。受け止めていた拳だけではなく、本体ごと。

 ガラガラと音を立てて崩れ落ちるゴライアスを見て私は呆気に取られ、コロナさんは驚きの声を上げる。こういう現象をデタラメと言えばいいのだろうか。

 魔力を込めた一撃とか、渾身の一撃ならまだ納得はできる。でも今のはどう見ても軽く振り下ろされた拳でしかない。

 

「二人に教訓ー」

 

 あっけらかんとした態度で私達にそう告げると、スミレさんはゴライアスを粉砕されて隙ができたコロナさんを掌底で吹き飛ばし、魔法で加速でもしたのか一瞬で私の目の前に現れた。

 彼女の背後に目をやると、力なく倒れるコロナさんの姿が見えた。

 

「試合だろうと実戦だろうと――一瞬の隙が命取りだよ」

 

 ハッとなってすぐに繰り出した左の拳が彼女の顔面に突き刺さるも、何かしたのかと言わんばかりに平然としている。

 続いて右の拳を放とうとするも、それより速くスミレさんの拳が私の顔面に炸裂した。

 拳を叩き込まれた私はきり揉み回転しながら宙を舞い、数十メートル離れたところに建っていたビルへ叩きつけられた。

 

「あ、が……」

 

 まさかこれほどの威力とは思わなかった。毒でも射たれたかのように意識が遠退いていく。

 このままじゃダメだ。もう負けたくない。覇王流が最強であることを証明するためにも。

 そう思いながら私達に背を向けてその場を立ち去るスミレさんの姿を目に焼きつけ、私の意識は途絶えた。

 

 

 □

 

 

「いきますよイツキさん!」

 

 とうとう模擬戦が始まった。とはいってもこれは二戦目であり、一戦目は最終戦争が起こったせいか引き分けに終わっている。

 そのとき印象に残ったのは終始共倒れを狙った二人の姉の姿だ。あの人達にチーム戦は無理だろう。まあ、それは俺もだけど。

 俺はもう一人の姉、緒方サツキと入れ替わりで参加したので赤組となっており、ポジションも同じFA(フロントアタッカー)だったりする。前線とか最悪だよ。

 

「先輩、覚悟してくださいっ!」

 

 しかもどういうわけかヴィヴィオとウェズリーに挟まれている。いわゆる2on1ってやつだ。

 なんで君たちはそんなにワクワクしているのさ。俺なんて心臓がバクバクしてるんだぞ。

 スカジャン風のバリアジャケットは……以上なし。体調も万全。やってやるか!

 

「雷神装!」

 

 最初に仕掛けてきたのはウェズリーだった。彼女は電気を纏って加速し、右側へ回り込むと炎熱を纏った左の拳を繰り出してきた。

 それを紙一重でかわし、同時に反対側から放たれたヴィヴィオの蹴りを右脚で相殺する。

 次に突き出されたウェズリーの左腕を掴み、彼女をヴィヴィオに向かって投げ飛ばすと同時に二人まとめて蹴り飛ばした。

 一つ言えるのは、二人とも大人モードに変身しているので比較的やりやすいことだ。体格差がなくなってるからな。

 壁が崩れたことで舞っている煙から先に飛び出してきたのはヴィヴィオだった。

 

「ディバインバスター!」

 

 左手に溜められていた虹色の魔力が、右の拳を突き出すことで砲撃として放たれる。

 もちろん俺はこれを回避する。生憎と姉さん達のように素手で弾き返すことはできないからな。ていうか、あの人達が特殊なだけなんだ。

 

「隙ありっ!」

 

 声がした方を振り向くと、いつの間にか復活して背後へ回り込んでいたウェズリーが笑顔で拳を打ち出していた。

 一発目は避けられずに食らってしまうも、二発目は咄嗟に受け止めた――

 

「――轟雷砲!」

 

 が、バックステップで後退して跳躍し、炎熱の飛び蹴りを繰り出してきた。

 俺は交差した両腕で蹴りをガードしたが、それを待ってましたと言わんばかりに取っ組み合いへ持ち込まれる。けど、この場合有利なのは……

 

「あれ?」

「力比べなら負けません……!」

 

 おかしい、全然押しきれないぞ。それどころか全く動いていない気がせんでもない。しかも炎熱の飛び蹴りの影響か腕が熱い。

 えーっと……なんだコイツ!? こんなに腕力強かったか!? いや待て、さっきティミルの巨大なゴーレムを投げ飛ばしていたな――

 

「――がっ!?」

 

 後頭部に鋭い衝撃が走る。痛みを堪えながら振り返ってみると、左脚を突き出すヴィヴィオの姿があった。蹴りやがったなクソガキ……!

 一発ブチかましてやりたいが、未だにウェズリーと取っ組み合ったままだ。

 少し強引だが……こうなったらやるしかなさそうだ。でなきゃ墜ちる。

 

「チッ……!」

 

 ウェズリーの脇腹を何度も蹴りつけ、彼女が離れたところを後ろ回し蹴りで吹っ飛ばす。

 さらに間髪入れず周囲に無数の魔力弾を生成、後方にいるであろうヴィヴィオへ全弾撃ち込む。

 アイちゃんと違って、ヴィヴィオには魔力弾を受け止めて投げ返す技術はない。倒せなくとも足止めはできるだろう。

 

「いぃっ!?」

 

 後ろからヴィヴィオの慌てた声が聞こえるが、今は放っておく。それよりもまずは――

 

「――雷龍!」

 

 元気っ娘のウェズリーを撃墜してやる!

 

「って雷の龍!?」

 

 なんかウェズリーの奴、ドラゴンの形をした電撃を放ってきたぞ!?

 これって……射撃? 砲撃? 属性攻撃? どれも違う。――魔力砲か!

 そんなものをどうにかできるわけがなく、襲い来る雷龍をひたすらかわす。ええい、追尾式かよこれ! しつこいんだよ!

 必死に雷龍をかわしていったが、俺が壁にぶつかったことで回避劇は幕を閉じた。

 

「追い詰めましたよ!」

「笑えねえなおい」

 

 これは笑えない。ウェズリーは雷龍に続いて炎の龍も生成しやがった。変換資質だけでも貴重なのに炎と雷のダブル変換とか反則かよ。

 すかさず周囲に弾幕陣を生成して迎え撃とうとするも、突如飛んできた虹色の魔力弾をかわすのが先になった。

 虹色……姿が見えないけど間違いなくヴィヴィオだろう。

 

「どぉりゃぁーっ!」

 

 今度はウェズリーの掛け声が聞こえたかと思えば、炎と雷の龍が襲い掛かってきた。

 一頭だけでも不味いのに今や二頭だ。これはヤバイ。急いで両手に魔力を纏わせ、二頭の龍(の形をしたエネルギー)を張り手で打ち消した。

 

「嘘ぉっ!?」

 

 少し大袈裟に驚くウェズリーだが、もちろん張り手で打ち消したわけじゃない。正確には、張り手を繰り出した際に手のひらから放った魔力の衝撃波で消し去ったのだ。

 動きが止まったウェズリーに肉薄し、右の拳を顔面に打ち込む。拳がヒットして我に返ったのか、痛そうにしながらもミドルキックを放ってきた。それを左脚で受け止め、彼女が打ち出した右の拳を左の拳で相殺してから腹部を蹴り上げる。

 最後に前屈みになったウェズリーの顔面目掛けて、姉さんのものを真似て覚えた豪快なサッカーボールキックをぶっ放した。

 

「が……!」

 

 その蹴りをモロに食らったウェズリーは仰向けに倒れ、動かなくなった。

 や、やっと一人目か。思ったよりも疲れたぞ。しかし、まだ敵は残っている。

 

「――ここっ!」

「ぐぁっ!?」

 

 いきなり下顎を殴られ、意識が翔びそうになるも歯を食いしばって耐える。

 体勢を整え、拳が飛んできた方向を見るとヴィヴィオが足裏に魔力を纏った姿で立っていた。あんな魔法あったか……?

 それにしても、あの弾幕を無傷で切り抜けたのか。なかなかやるなこのガキ。

 

「私だけになっちゃいましたね……」

 

 くたばったウェズリーをチラッと見てからそう言うと、ヴィヴィオは加速するかのように肉薄してきた。いや、加速してるぞこれ。

 まるで敵討ちと言わんばかりに打ち出される拳の連打を一つ一つ丁寧にかわしていき、そのうちの一発である左の拳を受け流して頭突きをお見舞いすることで距離を広げ、

 

「だらぁっ!」

 

 渾身の跳び後ろ回し蹴りを顔面に炸裂させた。

 これをモロに食らったヴィヴィオはその場に倒れ伏せたが、震えながらも起き上がろうとしていた。ガキって皆タフなの?

 

「……起きたいのなら早くしろよ」

「言われなくても――ッ!?」

 

 唇を噛み締め、怒るように起き上がったヴィヴィオをもう一度跳び後ろ回し蹴りで沈める。

 

「起きろつってんだろ!」

「……ッ!!」

 

 二度も同じ技で沈められたのが悔しかったのか、ヴィヴィオは今度こそ起き上がると握り込んだ右の拳をぶつけてきた。

 俺はその拳を左手で受け止め、右拳を連続で彼女の顔面にブチ込む。

 五発目を入れようとしたところでヴィヴィオが紙一重で拳を避け、針に糸を通すほどの精密さで左拳を顔面に打ち込まれた。

 やっぱりコイツ……高い学習能力を活かし、相手を一撃で沈めるカウンターヒッターか!

 

「やば……!」

「アクセル――」

 

 彼女が構えた右の拳を見て、背筋に嫌な汗が流れるのを感じる。これを食らってはいけないと、俺の直感が告げていた。

 本能的な感覚で身体強化に使っていた魔力の量を増やし、

 

「――スマッシュ!」

 

 放たれた右のアッパーを、直撃スレスレのところで上体を反らして回避した。

 ヴィヴィオが目を見開いて驚いた一瞬の隙をつき、左脚に魔力を集中させて、

 

「一撃必殺!」

 

 渾身のハイキックをブチかました。

 隙をついたということもあり、これをなす術もなく食らったヴィヴィオは目を回してようやく倒れ伏せた。

 ……勝負の世界に性別なんて関係ない。だから女子相手にやり過ぎとか言われませんように。

 

 

 その後、縦横無尽に暴れ回るスミ姉を止められる者がおらず、赤組は敗北したのだった。

 

 

 

 




《今回のNG》TAKE 5

「おっ、ナイス――」


 ゴスッ(スミレさんの鳩尾に私の拳が直撃する音)


「――クソガキがァ!」
「おぶふっ!?」

 怒ったスミレさんに思いっきり殴り飛ばされた。何が間違っていたんだろう。



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