「…………お、おはよう」
「…………おはようございます」
あの試合から二日後。どういうわけか俺とアイちゃんは気まずい状態にある。
俺の方は力があるにも関わらず女相手に勝てなかったという事実があるけど、どうしてアイちゃんまで気まずくなってるのかはわからない。
いやホントになんで? 納得がいかないのでまたやりましょう、とかならまだわかるんだけど。
「……あのさアイちゃ――」
「イツキさんっ!」
「あっ、はい」
とりあえず適当な話題を述べようとしたらアイちゃんの方から話しかけてきた。
「え、えっと……」
なんか話しづらそうだな。もしかして転校とか?
「そのですね――」
「あ、先輩とアインハルトさんだっ!」
「おう…………」
アイちゃんが何か言おうとしたところでティミルに遮られてしまった。
うん、その気持ちはよくわかるぞ。それにしても久々だな。通学路でガキ共と会うのは。
「よっす」
「おはようございますっ! 先輩っ!」
「お前は無駄に元気だなぁウェズリー」
構ってちゃん属性(だっけか?)がなければただの元気っ娘なのに……残念だ。
残るヴィヴィオはこっちを見ながら心配そうな表情をしていた。
そして他の連中に気づかれないように俺のところへ近づいてきた。
「ま、まだ仲直りできていないんですか……?」
なぜそうなる。
「いや、仲直りとかそういうことじゃ――」
「え? でもアインハルトさんとケンカしましたよね?」
「してねえよ」
ケンカなんてやった覚えは微塵もない。アイちゃんとやったのは試合だよ。
「あれは試合というよりケンカに見えたんですけど……」
「悪いがお前らの言うケンカと俺の知るケンカは絶対に違うから」
ケンカに試合のようなルールはない。
「ヴィヴィオと先輩、何を話してるんですか?」
「もしかして逢い引きの計画――」
「違うよっ!」
確かに違うけどさすがにここまではっきりと否定されるのは悲しいな。
もし俺がロリコンだったら膝をついて涙を流していたに違いない。
そもそも逢い引きの計画ってなんだよ。地球にいた頃ですらそんな言葉は聞いたことがない。
「……はっ! まさか次世代語か!?」
「違うと思いますけど……」
声がした方を見ると、いつもの表情になったアイちゃんがいつの間にか俺の隣に戻っていた。
「先輩とヴィヴィオって付き合っていたり?」
「だから違うってば!」
「そうだよリオ! 付き合ってるじゃなくて愛し合ってるだよ!」
「コロナはコロナで何を言ってるの!?」
うわぁー……。なんか盛大な勘違いをされてらっしゃる。
まあ実際のところ、君たちは俺のストライクゾーンに入ってないけどね。
「……アイちゃん」
「はい」
「…………行こうか」
「……はい」
「えーっとだな……ここがこうなるわけだから……そうかっ! 答えは0か!」
「非常に惜しいです」
放課後。俺とアイちゃんはいつも通り勉強をしている。
勉強が日常化しつつあるんですが……僕とてもイヤなんですが……。
ちなみにアイちゃんは自主勉まで始めている。なんだこの偉い子ちゃんは。
「そういや、朝なんて言おうとしたの?」
「え」
え?
「…………また俺なんか悪いことしたの?」
「い、いえっ! そういうわけでは……」
じゃあどういうわけだよ。気になって仕方ねえんだよ俺は。
このままじゃ薄い本にも集中できねえじゃんか。今は勉強してるけど。
「…………も、もう一度お手合わせできたらいいなと」
「……うん、もっと他に言うことないの?」
アイちゃんなりに勇気を出したのはわかるけどさ、やっと出た答えがそれってどうなのよ。
俺てっきりデートの誘いかと思っちゃったよ。こないだの喫茶店を思い出すなぁ。
そういえばそのときにも何か言おうとして同じ答えではぐらかされたんだよな。
「…………アイちゃん?」
「きょ、今日はここまでにしましょう!」
顔を赤くしたアイちゃんは今までで一番早く勉強を早く切り上げた。
ちくしょう、コイツ逃げる気だな。
「では明日っ!」
「待てコラァ!」
このあとアイちゃんとの追いかけっこが展開されたが、結局捕まえることはできなかった。
《今回のNG》TAKE 35
「…………また俺なんか悪いことしたの?」
「い、いえっ! そういうわけでは…………なくもありませんね」
「待て! 俺はなんもしてねえぞ!?」
「中庭にある木を破損させたのはイツキさんですよね?」
「否定はしない」
「……………………」
あ。