「イツキさん」
「ん? どったの?」
「以前から気になっていたんですが、その手首に着けているものはなんでしょうか?」
「ああ、これか」
通学路にて、俺はアイちゃんに昔から愛用しているリストバンドについて聞かれた。
ていうか今まで忘れていたよ。体が慣れすぎたのかもしれない。
「これはリストバンドだよ。ま、俺のは特別製だけど」
「特別製?」
「おう。ほら、着けてみなよ」
「は、はい――っ!?」
うむ、予想通りの反応で何より。
それにしてもよく持っていられるね。確か一つだけでも5㎏はあるはずなんだけど。
いや、アイちゃんなら余裕なんだろうな。納得いかないけど。
「こ、これは……」
「中に重りが入っているという簡単な仕掛けだよ。要はトレーニング用の道具」
「なるほど……」
実は足首にも重りが入ったアンクルバンドを着けているというのは内緒である。
「やはり不足はありませんね……」
「不足?」
「いえ、こちらの話です」
あ、そう。
「あのさあ……」
「どうかしましたか?」
「これなに?」
「確かヴィヴィオさんの……」
昼休み。いつも通りアイちゃん同様、席に座ったまま弁当を食べようとしたら空飛ぶウサギ人形が現れたのだ。
アイちゃんによるとヴィヴィオのデバイスらしい。へぇ、新型じゃん。
「で、コイツは何が言いたいの? アイちゃんに用があるみたいだけど」
「さ、さあ……」
誰か異種翻訳機持ってきてー。
「なんか必死になってんぞ」
「……はっ! まさかヴィヴィオさんの身に何かあったのでは!?」
「は?」
何を言っているんだこの中二病は。
「イツキさん! 行きましょう!」
「待て。なんで俺まで行かなきゃ――っておい! 人の話聞けやゴラァ!」
勝手に自己解釈したかと思えば俺の手を掴んで走り出したぞ。
ホントに待ってくれ。引っ張られてるこっちはめちゃくちゃ痛いから。
そんなことを考えていると中庭に到着した。うわー、あそこの木まだ直ってないのかよ。
「アインハルト・ストラトス! 参りました!」
「……なんで先輩がいるんですか?」
「ごめん。それは俺にもわからないんだ」
わかる方がどうかしてると思う。
「――暴漢はどこですか!」
「へ!?」
何をどうしたらそんな解釈になるのか教えてほしいんだけど。
ていうかこれさ、どう見ても昼飯の誘いだよね?
「もー! どんな説明したのクリス!」
「ただひたすら両手を振り回してたぞ」
あれで伝えられることって結構限られてくるよなー。
ちなみに手話ならそれなりにわかるが、まあコイツには無理だろう。
「…………それで結局、なんのご用だったんですか?」
「いえ、大したことじゃないんですけど……皆で一緒にお弁当どうかなって」
果てしなく予想通りの答えだった。
「…………」
「ご、ごめんなさい! くだらないことで呼び出したりして――」
「取りに戻ります」
「え?」
「…………お弁当、ご一緒したいので」
その言葉を聞いた瞬間、ガキ共の表情が明るくなった。
やったねアイちゃん! ついにぼっち卒業だよ! あとは同い年の友達だけだね!
「さて、俺も教室に戻るかな」
「え? 先輩も取りに戻るんですか?」
「ちげえよ」
なんでお前らと食わなきゃなんねえんだよ。俺はただ巻き込まれただけだっつうの。
そして早くこないだ手に入れた参考書を読みたい。
「大体、誘ったのはアイちゃんだけだろ?」
「それはそうですけど……」
「乗りかかった船ということでご一緒しましょうよ!」
ウェズリー、お前はホント元気だなぁ――うぜえほどに。
「とにかく、俺は帰る」
「せっかくなので、イツキさんもご一緒にどうですか?」
「待て! 誰が弁当を持ってこいと言った!?」
なんとアイちゃんが俺の弁当を持ってきちゃった。クソッ、参考書を読むのは諦めるか……。
そんなこんなで、俺は初等科の三人とアイちゃんと一緒に弁当を食べたのだった。
「そういえばあそこの木、まだ直ってませんね」
「でもどうして破損していたんでしょうか?」
「…………」
「さあ、どうしてだろうな」
「…………」
「アイちゃん、こっち見んな」
《今回のNG》TAKE 29
「乗りかかった船ということでご一緒しましょうよ!」
「タイ○ニックだから無理」
「へ?」
「先輩の言ってることがたまにわからなくなるときがあります……」