「あのさアイちゃん」
「はい」
「これって勉強なんだよね?」
「はい」
「これはこれで学力を知るためなんだよね?」
「もちろんです」
「そっかそっか。それなら問題ないな。はっはっはっは――」
「――じゃあなんで俺はお前とスパーしてんだ!? これ勉強じゃなくて練習だよな!?」
アイちゃんの協力もあって勉強すると決心した日の放課後。
俺はなぜかアイちゃんとスパーをしている。本人は勉強だと言っているが……
「本音は?」
「模擬戦の続きをしましょう」
「んなことだろうと思ったよちくしょう!!」
勉強を口実にしやがったぞコイツ。
「ですから逃げないでください!」
「こっちはハメられたってのにやる気出るわけねえだろ!」
いつかの模擬戦のときと同じく、俺はアイちゃんの攻撃をひたすら受け流している。
ていうかコイツ、なかなかやるな。もしも正面から激突すればおもしれーことになりそうだ。
だが今はやる気が出ない。なんせ騙された感がすげえし。
「あ、イツキさんだ!」
「ジーザス」
声がした方を見ると、ヴィヴィオとその取り巻き――ティミルとウェズリーがいた。
なんつータイミングで来てくれちゃったんだよお前らは。
〈ここは練習場なので仕方ないかと〉
正論すぎて何も言えない。
「アイちゃん。そろそろ終わりにしない?」
「まだ始まったばかりでしょう!」
「知るかそんなもん!」
こうなったら力ずくで終わらせる!
俺はアイちゃんの拳をバックステップでかわし、すぐに詰め寄ってから懐に蹴りを入れる。
反応が遅れたのか、アイちゃんは防御すらできずにヴィヴィオたちのいるところへ吹っ飛んだ。
「…………あれ? やり過ぎた?」
〈やり過ぎです〉
ま、まあ大丈夫だろう。近くにいたヴィヴィオたちが吹っ飛んだアイちゃんの元へと駆けつけた。
よーし、今のうちにずらかろう。でないとまたスパーやらされそうだ。
こうして俺は、なんとか練習場から離脱できたのであった。
「ま、魔女……だと……?」
「……どうも」
練習場から離脱して数十分後。俺はちっこい魔女と遭遇していた。
なんだろう、よくわからんがただの他人じゃなさそうだ。
なんだ? 今なんて言ったんだ?
「い、今なんと?」
「なんでもない」
「さいですか」
なぜだろう。今姉さんの顔が浮かんだのだが。
「………………ファビア・クロゼルグ」
「緒方イツキだ」
「…………緒方?」
「そうだけど」
俺の苗字を聞いた途端、魔女――クロゼルグは少し驚いたような顔をした。
そんでもってやっぱり姉さんの顔が浮かんだのだが……あの人関係あんのか?
「いや、まさかな……」
「……??」
まあいいか。姉さんに聞けばわかることだし。
「で、クロゼルグは何をしていたんだ?」
「……悩んでいた」
「え」
悩みながらケーキを食っている人なんてそうそういねえぞ。街のど真ん中で。
ていうかそれチーズケーキじゃねえか。あと手にぶら下げている袋には何が入ってるんだ?
「悩み?」
「……うん。知り合いにあだ名で呼んでもらえない」
「…………その知り合いってどんな人?」
なぜかすげえ気になる。
「……決して良い人ではない。でも嫌いになれない。そんな感じの人」
えーっと、善人ではないけど嫌いにもなれない。どんな人物だよソイツ。
ていうか今日はやけに姉さんの顔が浮かぶな。なんの前触れだよ一体。
「そ、そうか……ならストレートに伝えるってのはどうだ?」
「…………ストレート?」
「ああ。小細工なしの直球勝負だ」
下手な小細工をするぐらいならストレートに伝えた方が断然いいに決まってる。
誤解もされにくいし、気持ちも伝わりやすい。
「…………やってみる」
「おう、頑張れよ」
「……ありがとう、イツキ」
おっと、一つだけ聞いておかなければ。
「ところでさ、なんでさっき俺の苗字を聞いて驚いたんだ?」
「……………………知り合いと同じだったから」
「……苗字が?」
「うん」
マジか。ソイツも緒方って名前なのか。いつか会ってみたいな。
という感じで今日は不思議な日だった。魔女と出会うわ、やけに姉さんの顔が浮かぶわで。
《今回のNG》TAKE 3
「あ、イツキさんだ!」
「ジーザス」
声がした方を見ると、ヴィヴィオとその取り巻き――ティミルとウェズリーがいた。
なんつータイミングで来てくれちゃったんだよお前らは。
「あたしだけセリフがない……」
「わたしもだよ……」