やはり俺の数学教師が一色というのは間違っている   作:町歩き

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後で足します。


前回の付け足し分です。

「お父さん、お母さん、そういうのは私がもう用意してあるから」

 

「そういえば、めぐり。あなた朝から、なにかバタバタしてたわよね」

 

「もう、良いから。そういうこと言わないで」

 

めぐり先輩はわたわたと手を振っていうと、俺の方に横足でそそっと寄ってくる。

そして、箱を開けるよう促してきたので、言われるがままに箱を開けてみる。

すると箱の中には、和紙で丁寧に包まれた浴衣と帯、それと草履が入っていた。

素人の俺でもぱっと見でわかるくらい高級そうなそれに着替えるよう言われ、

リビングから先輩の部屋へと場所を移す。

 

めぐり先輩の部屋にて姿見の前に立ち、上から下まで自分の姿を眺めてみる。

帯ってこれでいいのかなと、着慣れない浴衣にあーでもないこーでもないと四苦八苦していると、

コンコンと小さく扉がノックされる。

振り向くと薄く開いた扉の隙間から、めぐり先輩がぴょこんと顔を覗かせていた。

 

「どーお?着れた?」

 

「やっ、その、帯がこれでいいのかと…」

 

めぐり先輩はうんっと頷くと、部屋に入ってくる、そして、着付けを手伝ってくれる。

 

「よし、できた!」

 

「ありがとうございます」

 

お礼をいうと、めぐり先輩はむふーっとちょっと得意げに胸を張る。

 

「いい感じ!」

 

その満面の笑みに戸惑いつつ、尋ねてみる。

 

「そうですかね?」

 

「うんうん、やっぱり八幡くん、和服似合うよ」

 

その言葉を受けて、自分の着ているものに目を落とす。

 

「浴衣って着慣れてないんで、なんか服に着られてる感じがするんですよね」

 

「そんなことないよー、似合う!」

 

こうも手放しに褒められると褒められることに慣れてないのもあって、凄まじく照れくさい。

てかこれ、やっぱ高いやつだよな。着心地が滅茶苦茶良いし。

 

「あのこれ、結構たかかったんじゃないんですかね…?」

 

恐る恐る尋ねると、めぐり先輩は首をふるふると横に振る。

 

「前におばあちゃんに貰った反物で作ったものだから、お金は掛かってないよ。

草履くらいかな、お金出して買ったの」

 

「え? これ、めぐりさんが自分で?」

 

「うんうん。サイズ平気?きついとこないかな?」

 

「え、ええ、ぴったりです」

 

「良かった!」

 

感心しつつ、不思議に思ったことを聞いてみる。

 

「凄いですね……。てか、よく俺のサイズ、わかりましたね」

 

「ほら、この前、動物園の帰りに抱き合ったでしょ?」

 

「えっと、はい」

 

「あのときにね、計ったの」

 

ああ、なるほど。だから身体中、ぺたぺたと触ってたのか。

痴女りんとか思ってたわ、ごめんね?

 

「やっ、でもこれは…」

 

さすがに、高価すぎる気がする。

馬子にも衣装という言葉はあるが、猫に小判という言葉もある訳で。

この気持ちを例えて云うなら、童貞がお年玉あげてもいいのか?みたいな感覚というべきか。

いやまあ、頂いてる立場なんだけどさ。

でもなあ、これはなあ……と、そんな困った様子の俺を見て、めぐり先輩は不安そうに身を捩る。

 

「もしかして、気に入らなかったかな?」

 

いやいや、と慌てて首を振る。

 

「逆です、逆。すごく良いものいただいちゃて、もったいないというか申し訳ないというか」

 

俺の言葉に、めぐり先輩はほっとした様子で息を吐く。

そして、ニッコリと微笑む。

 

「気にしないで。その、私の夢というか憧れだったの、好きな人と浴衣デートするの」

 

「浴衣デートですか?」

 

「うんうん。んとね、お爺ちゃんとお婆ちゃんがよく、浴衣姿でお散歩してたのね。

それを見てて、自分も好きな人とそうしたいなーってずっと思ってて、それでなんで」

 

めぐり先輩はいうと、照れくさそうに頬を掻く。

 

「他にもね、いろんな柄の反物一杯あるから、欲しいものあったらゆってね。なんでも作るよ!」

 

めぐり先輩は自信ありげにいうと、なんかない?と視線で問うてくる。

 

「その…ちょっとすぐには思いつかないんで、考えておきますね」

 

と答えながら、なるほどっと合点がいく。これはあれか、着せ替え人形八幡くんってやつか。

まあ、めぐり先輩の気持ちは分かる。

俺もめぐり先輩に、メイド服とかスク水とかセーラー服とか白ワンピに麦わら帽子とか、

猫耳に猫尻尾、眼鏡やらなんやら身につけて欲しいと願ってるし。

変態だと? 違うな、夢があるといえ!

 

「ありがとうございます。大事にしますね」

 

感謝の言葉を伝えると、めぐり先輩は嬉しそうに微笑んでくれた。

その笑顔を見ながら、お礼がてらに俺にも何か出来る事はないかと思案する。

とはいえ、相手は完璧おさげ。俺がしてあげられることなどたかがしれている。

ふむーと悩んでいると、そこで以前、親父に聞いた話を思い出す。

親父が言うには今は昔、平安時代の頃、当時の貴族には屁をこいたときに、

代わりに屁をこいたことにする専用の付き人がいたとか。

ならば俺もめぐり先輩が粗相をした時、自分がしたことにするべきではなかろうかと考える。

なかなかの名案。とまあ、これほどまでに可憐なめぐり先輩がおならをするのか?という

疑問はあるものの、めぐり先輩も人の子、おならのひとつふたつするだろう。

実際、我が家でも、母親や小町が極まれに粗相をしたりする。

しかもあのふたりは厚かまし事に、自分がしでかした粗相を「もう、お父さんは!」とか

「もー、お兄ちゃん!」などといって、俺や親父に擦り付けてくるのだ。

最初の頃は驚いて「俺じゃねーよ」などといっていたが、その内慣れてきて

「あー、わりい(棒)」で返したりしてる。

なのでこれから先は営業範囲の拡大とかそういった感じで、めぐり先輩の分も引き受ければ良い。

それとあれだ。なんか「かばう」って、いかにも騎士っぽいよね。

 

俺、めぐりんの騎士になります!

 

誓いを立てた俺は、この気持ち、まさしく愛だ!!と自分に酔いつつ、

めぐり先輩の細く繊細な指先をぎゅっと握り締める。

 

「めぐりさん、俺、頑張りますね」

 

俺の言葉に、めぐり先輩は不思議そうな顔で「えっ、えっ?」と狼狽えながらも

こくこくと頷いてくれた。

 

 


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