やはり俺の数学教師が一色というのは間違っている   作:町歩き

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八幡のお父さんが初登場です。




うざすぎる親父

一色を駅で見送った俺は雨上がりの道を自転車を漕いで家路へとつく。

二十分後、家に到着した俺がリビングに入ると、親父が嬉しそうに俺を見やった。

もちろん俺は親父のことは見なかったことにして、母親と小町にだけ只今とつげる。

 

「あ、お兄ちゃん、おかえりー」

 

「あら、おかえりなさい八幡。遅かったわね」

 

「どちら様ー?」

 

俺にお帰りと返す母親と小町の声に混じって、俺を他所様他人様扱いする声が聞こえた。

苛立って向けた視線の先に、邪悪な笑みを浮かべた奴がいる。

 

「小町ちゃん。そこのアレなおじさんに、ぶぶ漬け出してあげて」

 

キッチンで御飯の用意をしてくれている小町に、親父への京都風「もうかえれ」の作法を頼む。

 

お兄ちゃんの御飯出したらねー! と愛想のよい返事を返したきた小町に頷くと

温め直してる御飯を椅子に座って大人しく待つことにした。

 

そして暇つぶしがてらテレビのバラエティ番組を眺めていると、俺の視界を黒い影が遮る。

その正体は、俺や小町と同じクセ毛をその頭頂部に装着した中年のおじさん、親父である。

 

俺は右に左に頭を動かして視界の確保に努めるが、敵もさるもの引っ掻くもの

親父も俺の動きに合わせて左に右に頭を動かし視界を遮ってくる。

邪魔くさい……そう思っていると親父が絡んできた。

 

「おい八幡。最近どうよ? どんな調子よ? おい八幡 おい、おーーーい、八幡!」

 

「……普通だよ」

 

「普通ってなんだよ! 訳わかんねーよ! もっとこうなに、あるだろうよ具体的なことが。

ないのか? ないのかー! ないの? ねーねー八幡 ねーたら!」

 

「だから普通に学校いって授業を受けて、たまに図書館に……」

 

「と・しょ・か・ん! きたね、きたねこれは。なに? 一人で? 一人ぼっちで?」

 

「そーだよ、悪いかよ」

 

「んー、悪くないよ! うん全然悪くない! まったくこれっぽちも悪くない。

でも一人かー! 一人なのか。一人なの? そっかそっかー! 一人?」

 

うぜえ……

 

材木座と戸部を足し二で割って十を掛けたくらいのうざさを感じる。

ただ下手に反論するともっとうざくなるのはこれまでの経験で痛いほどわかっている。

なので無視を決め込む。

 

そこへ小町がぱたぱたとスリッパを鳴らしながら晩御飯を運んできてくれた。

小町にお礼を言うと、急いで食べてこの場を離脱しようと

茶碗を片手に箸をせわしなく動かしていると親父がまた絡んできた。

 

「なあ八幡。お前ひょっとして、早く飯を食べて自分の部屋に行こうとしてない?」

 

「うんうん、ごめんごめんそうだよね。久しぶりの息子との会話を楽しんでいる父親を前に

さすがにそれはないよね?」

 

「そーんな親不孝なこと考えてないよね? 知ってる知ってるわかってる!」

 

「おい八幡! ご飯はちゃんと噛んで食べないと、ダ・メ・だ・ぞ✩」

 

ほんとにうぜえ……

 

助けを求めて母親と小町に視線を送るが、二人とも俺に絡みまくる親父を見慣れているせいか

まーた始まったくらいの反応しか示さずテレビを見て笑ってる。

いや、助けようよ……と思いつつ、日曜日の件を伝えておくかと思い口を開く。

 

「今度の日曜なんだけど、昼過ぎくらいに俺の客が来るから」

 

母親と小町にだけ伝えるつもりで口にしたのだが、なぜか親父が嬉しそうに会話に入ってきた。

 

「おいおい八幡。残念だけどな、Amazonの商品を運んでくるヤマトのお兄ちゃんは

お前の友達じゃないんだぞ? 勘違いするなよ?」

 

「Amazonじゃねーよ」

 

「なんだ。じゃあ楽天か?」

 

「楽天でもないし……。そもそも宅配便じゃねーよ。ちょっと女の子が二人来るんだよ」

 

俺の言葉に、お茶をずずっと啜っていた小町が口を開く。

 

「お兄ちゃん、雪乃さんと結衣さんが来るの?」

 

「いや、あの二人じゃなくて」

 

「えっ! あの二人以外にも、お義姉さん候補が!?」

 

「えっ、なに八幡。あなた彼女ができたの?」

 

「女の子が来る」という単語に母親も小町も興味が湧いたのか、椅子に座って俺に続きを促す。

親父は親父で興味を通り越し怒りが湧いたようで、身体を小刻みに震わせると

恨みを込めた声でさらに俺に絡んでくる。

 

「おい、八幡。お前、お前さ……、一体全体どういうつもりだ?

女の子がふたりお前に会いに休みの日にわざわざ家に来るだと……」

 

「そう言われても、それに……」

 

反論しようとした俺を、親父は片手を上げて黙らせる。

 

「で、その二人はどんな女の子なんだ? 可愛いのか? それとも、お綺麗さんか?」

 

「どっちかと付き合ってんのか? ん? おい、八幡、おいったら!

それかあれか、お前まさかどっちとも付き合ってるとかじゃねーだろうな?」

 

「そういう関係じゃねーよ」

 

「まあそうだろうなー! うんうん、知ってた知ってたわかってた!

そんなことがもし現実に起きたら、天が許しても俺が絶対に許さん!!」

 

拳を握りしめエキサイトしている親父のことは取り敢えず放っておいて

放課後の出来事を母親と小町に伝える。

 

そしてその流れで、日曜日に我が家で秒速を観ることになったと伝えたのだが

親父がやはり絡んできた。

 

「家に出張サービスだと……。いくらだ? いくら払った? リボ払いか?」

 

「ちげーよ、そういうんじゃねーよ」

 

「違う? どの辺が違うんだ。金も出さず女の子が二人も家に来るとか、

アニメや漫画じゃあるまいしありえんだろう!」

 

「えっと、めぐり先輩が、みんなで秒速見ようって誘ってくれてたんだ。

それではじめは先輩の家にお邪魔するはずだったんだが、一色がウチがいいって」

 

「なるほどなるほど。じゃあ、うちに来ると決めたのは、その一色ちゃん? という

女の子なんだな? ふむふむ。まあ……それはわかった」

 

「なら、どうして秒速をみる話になったんだ?」

 

仕方なく事の経緯を説明すると、それを聞いた親父が腕を組んでうーんと唸る。

 

「八幡お前さ、今まで女の子と付き合ったことあったか? ないだろ? ないよな?

そんなお前が、そんなお前がだよ? いきなり女の子二人と遊ぶとか、いくらなんでも

難易度高すぎやしないか?」

 

「遊ぶっていうか、映画を一緒に見るだけだぞ?」

 

「それを遊ぶっていうんだよ! そんなこともわからないのか!!」

 

テーブルをドン! と叩いて熱弁をふるう親父。

かまくらがびっくりしてこちらを見つめている。ごめんよ、かまくら。

そして親父は立ち上がると、食卓の周りをぐるぐる回りながらさらに続ける。

 

「父親だから、だけで言ってるんじゃないんだ。

同じ男としてお前が悪い女に引っかからないか、俺は心配なんだよ」

 

「いいか? これをただの大人のつまらない説教と片付けないでくれ。

世の中には笑顔で絵やら壺やら買わせようとする、怖い女の子がいるんだ。

ちゃんと考えないとダメなんだよ、八幡」

 

「八幡、お前はまだ若い……。人間として、いや男としてまだまだ未熟なお前に

一緒に遊びたいとか家に行きたいとか迫ってくる女の子がいるとしたら要注意だ」

 

「なぜならそれは、お前がいくらくらい出せる男なのかを見極めるものでしかないからだ!!」

 

そう叫んだ親父は立ち止まると、急に黙り込む。

うんざりした顔でそれを見ていると、親父は何か思いついたように顔をあげ

俺の顔をまじまじと見ながら口を開く。

 

「八幡。お前もう、デートとかはしたのか?」

 

「一色とは一回だけ、出かけたことはあるけど」

 

「えっ! お兄ちゃん。いろは先輩とデートしたの!?」

 

「やるじゃない八幡、見直したわ!」

 

「いや、デートっていうか……。

卓球やって、ラーメン食べて、お茶して帰ってきただけだぞ?」

 

「「「それをデートっていうんだよ!!」」」

 

三人から勢いよく突っ込まれ、俺は驚いて椅子から転げ落ちてしまう。

なんとか起き上がり椅子に座りなおすが、三人の尋問はまだまだ終わりそうになかった。

 

 




ぶぶ漬けとはお茶漬けのことです。

お茶漬けくらいしか出せないから、はよかえれという意味らしいです。京都怖い。

それでは次回で。

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