やはり俺の数学教師が一色というのは間違っている   作:町歩き

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失敗が多いのは

モノレールに揺られ家路に着く。隣には先輩が居てくれている。

電車の窓に映る自分たちの姿をぼーっと眺めながら、本当に今日、葉山先輩に来てもらって

良かったなと思う。

そのおかげで映画館では、先輩と二人きりにしてもらえたり、今もこうして先輩に、

家まで送ってもらえている。

 

もともと私は駅で、先輩方とさよならするつもりでいた。

そしたら葉山先輩が「もう暗いし、いろはのこと送ってやれ」と先輩に言ってくれた。

ナイスです!葉山先輩、と心の中で喝采を送っていると、先輩の方は全然ナイスじゃ無い事を口にする。

 

「いや俺は家に帰って、政宗くんのリベンジ、観ないといけなくってな」

 

ええ……。私よりアニメ優先? なんかさっきから、二次元に負けているような気がする。

てか誰よ、政宗くんって。

 

呆れてしらっとした目で先輩を見る葉山先輩と私。

その視線を受けた先輩は少々狼狽えた様子をみせていたが、ひとつ咳払いして気を取り直すと

葉山先輩をずびしっと指さす。

 

「つーか、葉山。お前が送ってやれよ」

 

先輩は言うと、なあ?とばかりにこちらに顔を向けてきた。

好きな人は葉山先輩、という事にしてある手前、なんと応えれば良いのかと困っていると、

葉山先輩が苦笑しつつ先輩の胸をぽんっと叩く。

そして「いろはに世話になってるんだろ?」と言うと、他の先輩達とともに、その場から

立ち去ってしまった。

 

残された私たちは顔を見合わせ、どうしたものかと困っていたが、しばらくすると先輩が

「帰るか」といってくれたので、私は「はい」と答える。そうして、今に至る。

 

これは私も葉山先輩とはるさん先輩が上手くいくように、なんか手伝わないとだなぁ……。

などと考えていると、私の名前を呼ぶ先輩の声が聞こえた。

 

「一色、お前さあ…。せっかく葉山と二人になれるよう俺が悪役引き受けたのに、ダメだろ、あれじゃ」

 

ほんとかなあ…。単にアニメを観たかっただけにしか、見えなかったんだけど。

疑念を抱きつつも、こうやって家まで送ってくれているのも、また事実な訳で。

なら素直にお礼を言うべきかな?と考え、しおらしいことを口にしてみる。

 

「やっ、その…。気を使ってもらったのに、すいません」

 

「えっ、あー、うん。それはまあ、いいんだが……」

 

普段とは違う殊勝な態度の私に、先輩は戸惑った様子。効いてる効いてる。

ふむ。いつもはどうしても売り言葉に買い言葉になって、いい雰囲気になれずじまい。

ここはひとつ路線を変更して、いじらしさを前面に押し出す方がいいのかも知れない。

と企てた私はさっそく実行に移す。

 

「最近その、物騒な事件も多いですし、こうやって送ってもらえて嬉しいです」

 

言うと、にっこりと微笑む。

微笑みを受けた先輩は頬を赤らめ、困ったように顔を逸らす。

効いた。てか効きすぎ。いけるね、これ!

確かな手応えを感じ先輩に見えないようガッツポーズを取っていると、先輩がそれまでと違い

心配げな声を出す。

 

「つーか、お前、大丈夫なのか? サッカー部の方」

 

サッカー部? なんのことだろ?

 

はて?と首を捻っていると、先輩は呆れたように私を見てくる。

 

「いや、顧問の方針に逆らうようなことしてさ」

 

ああ、なるほど。まあそう思うよね。

 

「えっとですね、大丈夫ですよ? 上手くやりましたから」

 

言って、事の経緯を先輩に説明する。

 

今回の件は、顧問の善意から始まったこと。

だからこそ、優遇されてる部員もそれは不味いと口に出せなかったこと。

その事を他の部にも伝え、事を荒立てないようお願いしたこと。

そもそもの原因は、グラウンドが狭いのが問題だったこと。

なので生徒会の方で市役所に赴き、市営グラウンドの使用の許可を貰えるよう頑張ったこと。

そのおかげでより多く練習したい部は、そららに足を運ぶようお膳立てができたこと。

ただ各部の部長は三年生が多く、二年の私が出しゃばるとあまりいい顔をされないということで

副会長が各部の調整にあたったこと。

 

それらの事を順序よく先輩に伝えると、話を聞いた先輩は感心した声で褒めてくれた。

 

「なんかお前、すごいな。やることやってるつーか」

 

「やっ、生徒会のみんなで話し合って、そうしてるだけなんですけど」

 

「そうは言っても、なかなかできないと思うぞ? 市役所までいくとか」

 

「そういう事出来たのは、先輩のおかげなんですよ?」

 

「へ? 俺?」

 

驚いた様子で、目を丸くする先輩。

あー、自覚ないんだなあと思いつつ、話を続ける。

 

「去年、クリスマスイベントあったじゃないですか?」

 

「あ、ああ……」

 

「それでですね、イベントに来てくれた人たちからのお褒めの電話が、学校に何件も掛かってきたらしいんです。楽しかったとか、またやって欲しいとか、そういうのが。

そういう実績?みたいなものがあったんで、学校の方も協力してくれまして。

市役所に行く時も、平塚先生がついて来てくれたりとか」

 

「なるほど……」

 

「なので本当に、先輩には感謝してるんです」

 

いじらしさをさらにチャージ!倍率ドン!とばかりに、ぐいぐいいってみる。

まあ本当に先輩には感謝している訳で、嘘はいってない。

いつか伝えないとだなっと考えていたので、丁度良かったように思う。

私の言葉に、先輩は照れくさそうに頭をガシガシしながら、

「別に俺だけじゃねーだろ」と口にする。

こういう所がほんと、この人らしいなあと、頬が緩んでしまう。

 

「それはまあ、そうですけどね。でも先輩のおかげな部分も、ちゃんとありますよ」

 

「そうか……。まあ、うん、なら良かった」

 

「はい」

 

しばし沈黙のあと、先輩が思い出したように口を開く。

 

「そういや最近、奉仕部に頼ってこねーし、上手くやってんだな」

 

ここで「はい」と言えればいいのだけれど、そうでもないんだよなぁとため息が出てしまう。

それを聞きとがめた先輩が、心配げに聞いてくる。

 

「なんかあんのか?」

 

「ウチの学校、生徒数多いじゃないですか? なんでそれなりに色々と……」

 

いやホント、あれをすれば「そんなことよりこっちをどうにかしろ」と言われ、こっちをやれば

「それやってる暇があったらあっちをやれ」と何をやっても茶々を入れられる始末。

やればやったで、「もっと早くそうしろ」だの「要領が悪い」だのと言われることも多い。

 

「私、仕事できませんし、仕方ないんですけどね」

 

などとつい、愚痴をこぼしてしまう。

すると、黙って私の話を聞いてくれていた先輩が、ゆっくりと優しい声を出す。

 

「失敗が多いのは行動してる証拠だろ? 

お前に文句を言う奴らがどれだけ大層な事をしてるか知らんが、だからってそういう事を

言っていい理由にはならないと思う」

 

「実際、何かをこなしてる人間は、他人に対してケチを付ける様な事をしないと思う。

そんな暇ないし、何かをこなす大変さを知っているからな。

ただ、こうした方がいいんじゃない?ってアドバイスを、言ってくれたりするから、

そういう優しい人の言葉には、耳を傾けたほうがいいと思うぞ」

 

「でだ、只々文句をいうだけの口だけの奴らは、何も出来ない自分への鬱憤を、

お前にぶつけてるだけだと思う。

そんな奴らの言うことを真に受けて、気に病んだりする必要なんか、全くない」

 

「ただまあ、その手の奴らはどこにでもいるからなあ……。

そうだ、一色。もしなんか困った事があったら、遠慮せずに言えよ」

 

ホント困る。普段は邪険に扱うくせに、なんでこうピンポイントに優しくするの、この人。

 

涙で滲みそうな目をこすり、嬉しさに震える声で「有難うございます」と応えるのが、

私の精一杯だった。

 

 




書いた後、思い出した事があり、活動報告の方にその事を書いてみました。

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