やはり俺の数学教師が一色というのは間違っている   作:町歩き

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ラストまで下書きが書き上がったので友人に読んでもらったところ
「R18ネタは本編から抜いたほうがいいと思う」と言われました。
なんで?と聞いたところ、八幡が良い目見すぎてて「来ない明日」以降の展開に
同情出来ないとの事。ちなみに「来ない明日」は四章最終話です。
うるせー黙れと顔パンしてそのまま投稿しようかと思いましたが、彼は元ラクビー部の
ムキムキ君なのでそれは危険だと判断し、そのアドバイスに従うことにしました。
なので本編全て投稿後、その余韻をぶち壊す感じでR18の話を投稿しようと思います。
と今回、方言というか聞きなれない単語が出てきます。

お勝手。台所のこと。昔の家には(現在もあるけど)玄関から見えないところ(裏側)に
もうひとつの出入り口(かって口)があり、御用聞き、使用人(お手伝いさん)、近所の
主婦などが使用していました。
現在では、土地がせまくてかって口が作れない、玄関で応対出来ないような人(身分上)が
いなくなったことから、おかって、かって口という言葉は残っても、若い人には縁の薄い
言葉になってきたわけです。
でも一応めぐり先輩の家は日本家屋の設定なのであえて使いました。

千早(ちはや)。巫女さんが神事の時に羽織る、模様入りに薄羽織。神々しさが増す。

水引き。巫女さんが神事の時に付ける和紙の髪留めというか髪飾り。黒紐で髪を結び
その上に巻くように使用する。




雨上がりの午後に

草むしりも終わり雨も大分小雨になったのでめぐり先輩の家へと帰る事にした。

そして今、菜園から直接家の裏側へ出れる道をてこてこと降りているのだが、

先輩は変わらずすけすけのままなので目のやり場に困ってしまう。

それは見られる先輩もなのか腕で胸元を隠すのだが、お手てが細すぎてあまり隠れてない様子。

大変結構、俺今満足などと不謹慎な事を考えていると、めぐり先輩が俺の腕にしがみついてきた。

 

「その……、離れてると見えちゃうから」

 

そこに気づくとは天才か! まったくもってその通り、なんという隙のない理論。

そしてその素晴らしい理論に基づいた行動よって、先輩は透けた胸元が隠せ俺はその柔らかさを

堪能できるという、みんながハッピーになる状況が創り出される事となる。世界に広めたい。

そんな組んず解れずな状態で先輩の家に帰宅すると、二人でかわりばんこにお風呂に入る事に。

しかし、後でいいと遠慮する俺に先輩は先に入るよう言ってくる。

 

「やっ、めぐり先輩。先に入ってくださいよ」

 

「いいからいいから。比企谷くん、先に入って」

 

「でも……」

 

渋る俺を見て、先輩は嬉しそうに笑う。

 

「比企谷くん、ありがとね。

でもです! 君はお客さんなんだから、ちゃんと家主の言うことは聞くように!」

 

先輩はいうと、早く早くと急かしてくる。それで俺も仕方なくお風呂場へと向かう。

くう~残念。めぐり汁に浸かりたかったのに……。

しょうがないと諦めて服を脱ぐと言われた通り、それを洗濯機に入れる。

そして浴室に入り、ぐるりと見回す。

ほほう……。ここで毎晩、めぐり先輩は身体を洗っているのか……。

そう思うだけで、卑猥な妄想がどんどんと膨らんでしまう。

いかんいかん、クールになれ八幡。と念じつつ、水をざぱーっとかぶる。

そうしてなんとか気を静めると借りたタオルで身体を洗う。

疲れた身体を癒すのに湯船に浸かろうかと思ったが、濡れた先輩の事を考慮し

軽くシャワーを浴びるだけで済ます。

そして風呂を出ると、草むしりで汗をかくからと着替えで持ってきた甚平に袖を通す。

以前、材木座と夏服を見に行ったときお揃いで買おうといわれ、渋々購入したものだ。

「に、似合うぞ、八幡」と口にして、頬を赤らめていた材木座の顔が思い出される。

最近あいつの俺を見る目が怖い。

それで俺もあんな目で戸塚を見てるのかと気づき、慎まなければと思ったりもする。

 

「お先にお風呂、いただきました」

 

リビングに入ると、お勝手で洗い物をしていためぐり先輩に声をかける。

先輩は既に着替えたようで、すけすけめぐりんでは無くなっていた。残念。

 

「はーい。どーお、さっぱりできた?」

 

先輩はいうと冷えた麦茶を出してくれる。それを有り難く受け取りながら返事を返す。

 

「おかげさまで。めぐり先輩も早く入ってください。風邪ひいちゃいますよ」

 

「わかったー。じゃあ、いってくる~」

 

手拭きで手を拭いながら先輩は言うと、じっと俺を見つめてくる。

なんだろう? と訝しんでいると、先輩ははにかむように笑う。

 

「その……。比企谷くん、和服似合うね!」

 

めぐり先輩は頬を朱に染めいうと、リビングから出て行ってしまった。

同じセリフでも材木座に言われるのとはえらい違いで、照れくさくなってしまう。

そうして暫く、クーラの風で身体を冷やしながらテレビのワイドショーを見ていると

薄く扉が開き、そこから先輩がぴょこっと顔を覗かせる。

 

「めぐり先輩、どうしました? 部屋、冷えてますよ」

 

湯上りの上気した顔に不安そうな表情を浮かべる先輩にいうと、先輩は口を小さくすぼめる。

 

「その……。笑わないでね?」

 

「え? ええ……」

 

戸惑いながら返事を返すと、先輩はぴょんと飛ぶようにしてリビングに入ってきた。

なんと、巫女姿で。

白衣の上着に緋袴を履き、その上に確か千早と呼ばれる薄羽織を身に付けた先輩は

普段のお下げ髪を解き後ろで一本、水引きで髪を結いている。

頬をりんごの様に赤く染め恥ずかしげにもじもじするその姿は、大和撫子ここに在り! と

高らかに叫びたくなるくらい素敵なものだった。

 

「ど、どうかな?」

 

「うおおおおおお! どこのお姫様かと思ったら、めぐり先輩じゃないですか!

これでいける! これでいこう! めぐりん――――――!」

 

「めぐりん?」

 

し、しまったあー! 頭の中で叫んだつもりだったのに、全部声に出しちまった。

しかも勢いよく、ソファーから立ち上がって。

なんとか誤魔化そうとあたふたしていると、めぐり先輩はそんな俺を見てにまにまと微笑む。

そしてすすっと傍に来ると俺の顔を見上げるように覗き込み、甘えるような声でいう。

 

「そういう変な呼び方じゃなく、めぐりって呼んで欲しいな」

 

おいおい、めぐりん。その言い方じゃ“このすば”のめぐみんに喧嘩売る事になるぜ?

と思いつつ、怒っためぐみんに爆裂魔法で吹き飛ばされるめぐりんを想像しながら

遠慮がちな声を出す。

 

「その、呼び捨てはあれなんで、めぐりさんでどうですかね?」

 

いうと、めぐり先輩は少し考えるように間を置いてから、にこぱっと笑う。

 

「私も八幡くんって、呼んでいいかな?」

 

その声に「嬉しいです」と応えると、先輩は俺の胸元で喜色に満ちた表情を見せてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

× × ×

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねーねー、八幡くん。これ、おやつで食べてもいーかな?」

 

空になったコップに新しく麦茶を注ぐのに冷蔵庫を開けためぐり先輩が声を出す。

その声でそちらに目を向けると、めぐり先輩は手に一個の西瓜を抱えていた。

俺が手土産として持ってきた茨城産の種無し西瓜のようだ。

 

「いいですね。それスーパーの店員さんに勧められたものなんです。

なんか甘やかで有名なやつらしいですよ」

 

「そうなの? 楽しみだね! それじゃあ、切るねー!」

 

「はい、お願いします」

 

応えると、めぐり先輩はうんっと頷き、西瓜を包丁で四等分にしてくれる。

そしてお皿に載せようとするので、それを見ていてなかなか良いアイデアが浮かんだ俺は

言ってみる事にした。

 

「めぐりさん、良かったらなんですけど。その西瓜、御宮で食べませんか?」

 

いうとめぐり先輩は、それだ! とばかりにパンっと手を叩き喜んでくれる。

 

「高台で涼しいし、いいかも! 景色もね、夜景も綺麗だけど昼間も眺めがいいんだよ!」

 

よし! 作戦成功。

巫女姿のめぐり先輩を神社の敷地でじっくりみたいという本音は上手く隠すことができた。

先輩はコミケなどで、これみよがしにパンツを晒す痴女どもとは違うのだ。

やはりその衣装に合った場所に居てほしいと思う。

もちろん涼むのがメインであってやましい気持ちはない。全然、本当に。

 

「そうなんですか? 是非、見てみたいです」

 

「うんうん」

 

めぐり先輩は楽しげに頷きながら鼻歌混じりで西瓜をふた切れラップで包むと

棚から水筒を取り出しそこへ麦茶を注ぎ込む。

そしてそれらを手提げ袋にしまったので、「持ちますよ」と声かけ袋を受け取ると

俺たちは家を出て御宮へと足を運ぶのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

× × ×

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

下から上へ石段をてこてこ登っていくと、上から下へ降りてくるお爺さんやお婆さんに出会う。

先輩は顔なじみらしくにこやかに挨拶をすると、向こうも愛想よく返事を返してくれる。

そして先輩の後ろにいる俺を興味深げに見つめると、皆が皆、同じような事を口にする。

 

「めぐりちゃん。彼氏できたんかい?」

 

その声に先輩は恥ずかしそうに頬を染め、「はい、その、できました」と言ってくれる。

するとそれを聞いた皆が皆、同じような事を俺に言ってくる。

 

「お兄ちゃん。めぐりちゃんの事、大事にしてな」

 

それに、はいですもちろんですと答えながら、なんだかとても不思議な気持ちになってしまう。

こうやって誰かに紹介されると改めて、自分に彼女が出来たことを実感するからだ。

ずっと一人だった俺は、多分心のどこかで求めていたのだと思う。

俺の話を聞いてくれ、俺に自分のことを話してくれる人を。

それで色んな女の子に告白してきたのだが、その結果は散々なものだった。

生理的に無理。顔の作りが苦手。一緒にいてもつまらない。トークに緩急がない。などと言われ、

そして何より酷かったのは足跡がムカつくと言われた事だろう。なんだよ足跡って……。

そう考えると折本が口にした「友達じゃダメかな?」は社交辞令かも知れないが気遣いがあり

あいつはやっぱり良い奴だったんだなと、今更ながら思ってしまう。

そんな思いに耽っていたからか、先輩の声を聞き逃してしまった。

 

「八幡くん。聞いてる?」

 

おっと、いかんな。感情の迷宮に迷いこんだわ。

 

「すいません。暑くてぼーっとしてました」

 

「そっか~。なんか風が止んじゃって暑いしねえ」

 

雨上がりというのもあるが風が止んでいるため、涼みに来たのに全然涼しくない事態に

俺たちは直面していた。

俺の欲望に先輩を巻き込んでしまってすまぬうと悔やんでいると、先輩があはっと笑う。

 

「八幡くんてさ、暑いときに暑がって寒いときに寒がってる素直なイメージがあるよね」

 

「そ、そうですかね?」

 

「うんうん」

 

楽しげに頷く先輩を見ながら、これはもしや我慢が足りない身勝手な奴と言われてるのではと思い横目でその表情を窺う。

すると、にこやかな笑顔で俺を見ていた先輩と目が合ってしまい、誤魔化すよう適当な事を口にする。

 

「まあ夏は、アイスの蓋まで愛せる季節ですからね! 暑くても仕方ないです」

 

「なにそれ~!」

 

けたけた笑うその姿を見やりながら、以前、俺が見ている色や形は他の人と同じなのか?

ただの約束事で本当は違うのではないか? そんな事を考え、調べたことを思い出す。

そして思ってた以上に違うものだという事を知った。

人間の目はいい加減なもので、興味の度合いや好悪の感情によって見え方が変わってくる。

その人が興味のある部分は強調されて見え、興味のない部分は入ってこないという

アバタもエクボ、恋は盲目、などのように。

だから平面なり立体なりに置き換えて表現した時に大きな差が出る。

こう造ってやろうとしてる訳じゃなく「こう見えてる感じてる」がそのまま出るからだ。

なので絵画の技術というのは「誰が見ても不自然に見えない感じない」に近づける為の

ものだという。

0.001で見える人と10で見る人では全く世界が違うということ。

背格好や容姿、運動能力ほどの違いと言えば分かり易い。

だからだろう。俺が見ていためぐり先輩は、いつだって輝いていた。

 




特典小説読みました。あれ読むと折本を見る目変わりますね。
それでは次回で。


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