達吉さんへ。
感想のほうでいろはすと小町の絡みについて触れられてたので、もとは一行だったものを
大幅に加筆してみました。どんなもんでしょう?
せんまんさんへ。
という訳で、お約束していた深夜の散歩デートは次回になります。
握り締めたその拳は達吉さんにぶつけてください。
ひなたさんへ。
リゼロ超おもしろい! 勧めてくれてありがとう!
これ観終わったら、ヒロアカも観てみます!
「そかあ。お兄さん、朝から出掛けてるのか~」
「そうなんですよー。すいません、いろは先輩。わざわざ電話してくれたのに」
「ううん。気にしないで小町ちゃん。それよりごめんね。こんな時間に電話しちゃって。
小町ちゃん、おうちのことやってるんでしょ? 忙しくない?」
「いえいえ~、小町、今日は早起きしましたからね! もう家のことは終わってますよ」
「やあー、えらいね。わたしも見習わないとなぁ~。
そういえば、お兄さんはおうちのことやらないの?」
「普段は結構、やってくれてますよ~。でも兄は今年、受験生ですから。
去年小町がそうだったとき色々と気を使ってくれたんで、今度は小町の番なのです」
ほんと。先輩の妹とは思えないくらい、できた子だなあ。
「ほんとえらいよ、小町ちゃん」
「いえいえ~、そんなそんなあ~
そうだ! そういえばいろは先輩知ってます? 最近、駅前に出来た――」
照れて話題を逸らす小町ちゃん。
それが可愛らしく、わたしは思わず微笑んでしまう。
先日、小町ちゃんに彼女のお兄さんでもある先輩への気持ちを打ち明けてから、
私と小町ちゃんは毎日のように連絡を取り合うようになった。
とはいえ毎回先輩の話をする訳でもなく、今小町ちゃんが話しているような
食べ物屋さんや服屋さんの話題になることのほうが多いのだけど。
「へえー。そんなに美味しいんだ~。
ならさ、小町ちゃんにはお世話になってるし、今度そのお店でご馳走するね!
そうだ、なんだったら今日でもいいけど?」
「やー、自分の分は自分で出しますよ~。でもご一緒できるなら、小町嬉しいです!
それにお世話って、小町なんにもしてないですし」
「そんなことないよ! 先輩のこと、こんな風に話せるの小町ちゃんだけだし」
「そうなんですか?」
「うん……。だって雪ノ下先輩や結衣先輩には言えないし聞けないもん。
それにあの二人には、ちょっと知られたくないしね、私の気持ち」
そうなのだ。
下手にあの二人に自分の気持ちが知られ、それで焼けぼっくりに火が付いたじゃないけど、
前みたいな雰囲気になられても困るし。
「でも、ほんと小町、その……」
んー、まただ。やっぱり小町ちゃん。なんか隠してるよなあ、これ。
気持ちを打ち明けた当日はあれほど協力的だった小町ちゃんが、日が変わったらやんわり
先輩を好きになるのをやめたほうがいいと臭わせることがある。
例えば「いろは先輩ならあんな兄より、いい人がいると思いますけどねえ~」などなど。
以前なら「あんな兄ですけどいいところも少しはあるので、見捨てないであげてください」
と言っていたのに。言い方はどっちも酷いけど、若干ニュアンスが違うように感じる。
それらのことを踏まえて考える。
すると、名探偵コナンくんを全巻読破した人の書いたプログを読んだ経験のある私の勘が、
これは何かがあると告げるのだ。ここはひとつ、確かめねばなるまい……
「ねえ、小町ちゃん」
「はい?」
「もしかしたらなんだけどさ。わたしになにか隠してること、ない?」
「へっ!? な、ないですよ……」
うん。あるな、これ。あるある。絶対なにかある。
しかしここで「言ってみてよ~」などと言うのは、愚策。
それよりも、多分これかな? と思うものそのものズバリを言ってみて、
相手の出方を伺うのがプロというもの。匠の技をみせてくれよう!
「ん~、そうだなぁ。例えばお兄さんに、好きな人ができたとか?」
「うぐっ……」
えっ? もう当たり? てか先輩に好きな人が?
で、でもまあ、先輩が好きでもその相手が先輩を好きになるとは限らないわけで。
今のわたしがそうだし。と、自分で考えて、自分でへこむ。く、くう~、ブーメラン過ぎた。
そして、なんとか気を取り直し次の問いを考えるわたしの耳に、
小町ちゃんの困ったような声が届く。
「あのう、いろは先輩」
「うん?」
「城廻さんのこと、どう思ってますか?
この前うちに来たときに、生徒会でお付き合いがあったって聞いたんですけど」
「城廻先輩はね、わたしの前の生徒会長さんだよ。
そういえばちょうど、小町ちゃんとは入れ違いだね」
「そうだったんですか。なんかすごく優しそうな人だなーって」
「うんうん。生徒会のメンバーにもとっても心酔されて慕われてたよ」
「そのう……。いろは先輩はどうなんですか?」
「へっ? わたし?
わたしは、う~ん。まだまだ心酔とか慕われるとかはないと思うなあ」
そう。呆れられるとか諦められるとかはあるけど。
「あっ、ちがくてですね。城廻先輩のことを……」
ああ、そっちか。
「ん~、心酔とかそういうのは無いかなー。もちろんいい人だなって思うけどね」
「そうなんですか?」
「うん。わたしが生徒会の仕事を教えてもらったときの話なんだけど。
帰りがさ、遅くなる時があるじゃない? あれこれやってて。
そういう時にね城廻先輩、学校のすぐ傍に住んでるのに、わざわざわたしのこと
駅まで送ってくれたりしてね。
『女の子をこんな時間に一人で帰すわけにはいかない!』っていってさ。
あなたも女の子じゃん、って思うじゃない?」
いうと、小町ちゃんはおかしそうに笑う。
「そんな風にしてもらえたからかな。お兄さんと仲良くしてても、嫌いになれないというか。
むしろお兄さんのほうに、デレデレしやがってって思ったり」
「す、すいません」
「あっ、いやいや。でもうん。まあ仕方ないかなって。城廻先輩すごく……」
そうすごくいい人なのだ。
それで城廻先輩が比企谷先輩とキスしていたとひいろから聞いた時も、
驚くよりも先に、妙に納得してしまった。
自分がもし男の子なら、あーいう女の子に惹かれるのも理解できてしまうから。
そんな事を考えて黙ってしまった私を気遣うように、
小町ちゃんが優しい声を聞かせてくれた。
「でもですね、小町おもうんです。
いろは先輩も充分、立派な生徒会長さんだなって」
その言葉に、頬が緩む。
「ありがとね、小町ちゃん」
そしてほんとうに素直に、感謝の言葉が口からこぼれる。
そうしてその後、小町ちゃんは隠していたことをすごく謝りながら、
わたしの知らなかった比企谷先輩と城廻先輩のことを教えてくれた。
× × ×
「あんな兄ですけど、小町は大好きなんですよ」
「うん」
「それで小町は、兄を好きになってくれてお付き合いしてくれた城廻さんも大好きなんです。
上手くいって欲しいなって。お兄ちゃんずっとひとりぼっちだったから」
「うん」
「だから小町、いろは先輩のこと応援できなくなちゃったんですけど……
それでも小町は、いろは先輩のことも大好きなんですよ」
答えなきゃ、と思いつつも、声が詰まって出てこない。
こんな純粋に誰かに好きだといってもらえたの、いつ以来だろう。
ほんとうに電話で良かった。今のわたしの顔、とても見せられないから。
そしてわたしも純粋に、自分の気持ちを声にしてみることにした。
「ねえ小町ちゃん。良かったらなんだけど、今日うちに泊まりに来ない?
なんかね、小町ちゃんともっと一杯話したいなって」
「いいんですか? 小町いっても」
「うんうん」
「あっ、でも今日うち、両親いないんですよ。二人とも出張で。
お兄ちゃんも何時に帰ってくるかわからないし、ふたり揃って留守にするのも……
う~ん、そうだ! なら、いろは先輩。うち来ませんか?」
えっ、マジ? 先輩とひとつ屋根の下!?
て、ごめん小町ちゃん。純粋な気持ちがあっというまに邪に。
もちろん私は小町ちゃんの提案に飛びついて、それから急いで出かける準備を始めるのだった。
焼けぼっくりに火が付いた。
正確には焼けぼっくいに火が付いたですが、国語苦手ないろはすさんらしく
間違って覚えています。
それでは次回で。