やはり俺の数学教師が一色というのは間違っている   作:町歩き

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やっとこ三章突入です。今回は初の小町視点です。
前日投稿分は「変わらないその姿のままに」となります。
差込投稿だったのでわかりづらかったですかね。
これから差込でも一番下にくるようにします。
後日並べ替える感じでもいいですし。


第三章 言葉は行き違い、気持ちはすれ違う
比企谷小町の憂鬱と決意


七月末。終業式を終え帰りのショートホームルームも済ませた私こと比企谷小町は

自転車をギコギコ漕いで家へと帰る途中、携帯にメールが届いたので足を止める。

日陰に入り画面を見ると、差出人はいろは先輩。

 

う、う~ん。困ったなあ、あんま見たくないや……。

一昨日の日曜日の夜。いろは先輩のお兄ちゃんへの気持ちを聞いて、

その想いが叶うようお手伝いをしたいと言ったのは確かに小町の方。

 

でもまさかあのごみいちゃんが、次の日には彼女を作って朝帰りしてくるなんて

そのときは予想もしなかったし。

あれはなしでとか、いまさら言いづらいんだよなぁ……

それにしてもなんだろう、このメールの題名。

 

『私、絶対想いを伝えるマシーンになる!!!』

 

こ、こまるなぁ……。何事においてもやる気があるのは大変結構な話しなんだけど

これ想いが叶わなかったら、やる気が殺る気に変わる感じだよねえ。

ほんと、どうしよう……と思いつつ、恐る恐るメールを見ることにする。

携帯をいじってフォルダの一番上、最新のメールを開く。

 

差出人: いろは先輩

 

題名『私、絶対想いを伝えるマシーンになる!!!』

 

本文『小町ちゃん、こんにちはー! 今日も暑いね~ 

   それはそうと私ね、決めたんだ! 今まではお兄さんにフラレたら嫌だなとか

   自分のプライドを守ることばかり考えていたけど、それじゃあダメだってね!

   やっぱりさ、好きな人にはガンガン当たっていかないと、てね!

   

   それでね、今お兄さんと稲毛海岸駅前のロイヤルホストでご飯食べてるんだけど

   小町ちゃんも良かったら来ない?

 

   実はね、お兄さんとの距離をもっと縮めたいから泊りがけで勉強会を開くことに

   したんだけど、お兄さんさっきからずーっと渋ってるの、参加することに。

 

   理由がね、小町ちゃんと半径五キロ以上離れると死ぬ身体だからとか言っててさ。

   なら、小町ちゃんも合宿に参加すれば、問題ないじゃない? 

   それで一緒にお兄さんを説得して欲しいんだよね。

   アイス奢るからさ、待ってるね? 日曜日の約束、まさか忘れてないよね♥』

 

メール画面を閉じる。

 

う、うう~ん、これは……。

! の多さに決意というかやる気を感じる。

それに、良かったら来ない? って書いてあるけど、これ絶対に来いってことだよね。

あとあれだね。問題ないってあるけど、問題しかないんだよねえ……

縮むのも二人の距離じゃなく、お兄ちゃんの寿命なような気もするし。

それと小町が説得しなくちゃいけないのはどっちかというと、いろは先輩の方なんだけど。

最後の♥印も恐怖を増幅させるのに一役かってるし、これほんとどうしよう……

 

見なかったことにして、深夜に『ごめんなさい。電池切れてました~』とか

返そうかな……と思っていたら、LINEもきた。

 

既読が付くから見たら不味いのは承知の上なんだけど、どんな文章が書かれているか

気になちゃうんだよね。怖いものみたさというか。

好奇心という名の欲望に負けLINEを開く。

 

『小町ちゃ~ん。はやく来てえー(>∞<) 

お兄さん帰り支度始めてて、このままじゃ逃げられちゃうよ~』

 

LINEを閉じる。

 

むしろ逃げて欲しいところだけど、これ今回逃げてもこの先もずっと続きそうだよねえ。

下手したら家にまで押し掛けてくるかも知れないし……。

 

夏の暑さと答えの出ない思案に疲れ、虚ろな視線で周囲を見やる。

暑さのせいで、アスファルトから陽炎が立ち上がっていた。

昼下がりの街はセミの声と行き交う車ばかり音を立てて、人通りは少ない。

ぼーっと陽炎を眺めながら、一生懸命だな、いろは先輩。と思う。

 

「小町にもそういう人、いつかできるのかなぁ……」

 

思わず漏れた自分の呟きに、自分で微笑んでしまう。

そういう人に早く会いたいな、と思いつつも、今はお兄ちゃんのことをどうにかしないと。

まあ花の女子高生が自分の恋愛より兄の恋愛事情に頭を悩ませるのもどうかと思うけど

小町だけが知っていたお兄ちゃんの良いところを他の誰かも気付いてくれたって事だしね。

それが悪い方向にいかないようにしないと。

ほんと手間が掛かる兄だけど、ここは小町が間に入り上手くフォローして

いい感じに持っていけばいいか。

考えが決まれば後は早い。手早くメールとLINEを返し、自転車に跨る。

そうして夏空の下、お兄ちゃんといろは先輩が待つ場所へと向かうため

わたしはペダルを踏む足に力を入れた。

 

 




それでは次回で

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