やはり俺の数学教師が一色というのは間違っている   作:町歩き

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余分な句読点や一人称なのに多すぎた「俺」を抜いていたら
一章だけで五百文字くらい減りました。
改めて読み直すとなんでこんなところに句読点が……というのが多かったです。
ダメですね。
そして番外編なのに十話くらい使いそうな勢いで、ちょっと困ります。
それと三章は少し重くなるので、めぐり先輩とのこれだよね! という
デートイベント(夏祭りとか)以外の日常を
「やはり俺の英語教師がめぐり先輩というのは間違っている」の方で
書いていこうと思います。





書けない日記

ペンを取りノートを開く。

晩ご飯を食べてお腹も一杯になったし、お風呂にも入りさっぱりとしたしね。

さてさて、今日は色々なことがあって本当に楽しかった。

ただ色々ありすぎてなにから書けばいいのか迷うなあ。

ん~、じゃあここは書く前に、頭の中を少し整理することにしよう。

 

まずは一つ目。秒速の映画がとても良かったこと!

ハッピーエンドを好む私には結末に少し不満はあるけど、そもそも私が比企谷くんに

悲恋のお話を読みたいっていったんだしね。

そして比企谷くんがいってたように、私が見たかった悲恋の物語そのものだった。

予想を上回る良さといっていいくらい。

映像は綺麗だしシーンごとに流される曲も素敵だったな。

曲がほんとうに良かったから、今度自分で弾いてみよっと。

 

そして二つ目。一色さんと色々とお話ができたこと!

彼女と知り合った経緯が経緯だし仕方がないかもだけど

あんまり好かれてないのかな? と感じることがあったと思う。

あとで知ったのだけど、他校との合同クリスマスイベントがなにやら大変だった様子。

それで一応生徒会の先輩としては、相談なりなんなりして欲しかったのが本音。

でも一色さんが前生徒会メンバーじゃなく奉仕部の子達を頼ったことを知ったとき、

正直ショックだった。

自分は頼りにならないんだなと仕方がないと思いつつも、やっぱり少し。

 

そしたら今日たまたまその話題になったとき、一色さんが顔を赤くしながら口にしたその理由で

とても嬉しい気持ちになれた。

彼女は前生徒会メンバーの全員が三年で皆受験生だったから、心配をかけたくないし

受験の邪魔をしたくなかったと言ってくれた。

それで推薦が決まっていることを知ったバレンタインのときは誘ったんですけど……

そう言ってくれたときには、思わず一色さんに抱きついてしまったくらい嬉しかった。

 

まあ比企谷くんは「俺には迷惑かけてもいいのかよ……」と愚痴を言ってたけど。

それに答えた一色さんの「当たり前じゃないですかー!」には笑ってしまった。

それでほんの少しだけど、以前より一色さんと仲良くなれた気がした。

 

そうして三つ目は、比企谷くんのことを色々と知ることができたこと!

まさか比企谷くんも秒速を見に来てる私が、実は自分のことを見に来てるとは夢にも思うまい。

なんだか探偵になった気分で楽しかった。

 

そして彼を見ていて気がついたのは、ぶっきらぼうだけど凄く気遣いやさんだということ。

私は年上だからそれでかな? と思ったりしたけど、自分になにかとちょっかいをかけてくる

一色さんにも優しく声をかけていたと思う。

 

そうやって比企谷くんを見ていると、同じように視界に入ってくる一色さんは

多分、比企谷くんに好意を持ってるんだなっということに気が付く。

そうとはわからないように上手く演じてはいるけど、比企谷くんが口にする言葉に

ちゃんと耳を傾けてるし、自分が口にした言葉を比企谷くんがどう受け取っているか

凄く気にしているのが傍からみていると良くわかる。

 

でも、そんな一色さんを見て微笑ましく思う気持ちと一緒に

もやもやした気持ちになってしまう自分にも気付く。

なんだろう、これ……と思いつつ、仲良くじゃれあう二人を見てた。

 

そうだ。今日比企谷くんが言ったことやしたことでそれまで彼に持っていたイメージが覆るような

そんな驚いたことがいくつかあったことも書かないと。

 

そうだなあ、これもあった順に書くようにしよう。

えーっと、駅で待ち合わせをして皆が集合したとき、比企谷くんは申し訳なさそうに

今日発売の新刊を買いに本屋に寄り道していいか尋ねてきた。

私がいいよ~と答えると、比企谷くんはすいませんと口にして、ぺこりと頭を下げる。

寄り道するなんて全然大したことじゃないのにひどく遠慮がちな比企谷くんをみていると

自分の要望を他人に対して口にすることに慣れていないのかな? と感じた。

まあ、そんな比企谷くんに一色さんは「仕方ないですね。先輩、貸しですよ?」といって

困らせていたけど。たぶん一色さんは比企谷くんを困らせるのが好きなんだなと思う。

そして三人で駅そばのマリンピアへと向かった。

 

店内に入り本屋さんに着くと比企谷くんはお目当てのラノベを購入。

その事でちょっと嬉しそうな彼を見ていると、同じ本好きとしては親近感が湧いてくる。

そして本好きの常として本屋さんに入ってそわそわしている私を見た比企谷くんは

少し見てまわりますかと言ってくれた。

渋る一色さんを比企谷くんが宥めてくれてる間棚を見ていると、すぐ傍でべビーカーに乗せられた赤ちゃんが泣きだしてしまいお母さんがいくらあやしても泣き止まなかった。

その隣にいた中年のおじさんは露骨に顔を顰め舌打ちまでしだす。

 

以前読んだ本で知ったのだけど、育児する生物において赤子の声は泣き止ます努力を喚起させるものらしい。早く乳を与えたり餌を口に運んだりして黙らせたい、つまり聴いていると何とかせねばならないと思わされるものということ。この何とかせねばという気持ちはイライラと同質で、故に母性父性の強い人程子供の声でイライラするらしい。

 

なのでおじさんの気持ちもわからなくもないけど、周囲にぺこぺこと謝っているお母さんに

そんな顔をしないでも……と思っていた。

 

なにか手助けできれば良いのだけど、その手の知識に疎い私にはどうすることもできない。

それで、謝ってくるお母さんに気にしないでくださいと答えることしかできずにいると

比企谷くんが周囲の人たちの間をするする抜けて歩いていき、お母さんに声を掛ける。

 

「あの、上から話かけるより向かい合って話しかけたほうが、赤ちゃん安心しますよ。

ベビーカーは俺が押さえておきますんで、よかったらやってみてください」

 

普段の比企谷くんからは想像もつかないくらい柔らかい微笑みを浮かべ優しい声で

そう口にしたその姿に驚いていると、お母さんは言われた通り、でも半信半疑な様子で

赤ちゃんと向かい合い話しかけ始める。

すると、比企谷くんの言う通り、赤ちゃんはすぐ泣き止んだのでさらに驚いてしまった。

お母さんに感謝され周囲の人たちに褒められ照れくさそうに戻ってきた比企谷くんは

なんだかとても頼りがいのある男の子、男の人かな? そう思って感心してしまう。

 

一色さんはそんな比企谷くんを、ぽかーんとした顔で見たあと凄く嬉しそうに微笑む。

その笑顔を見て、また胸の奥がもやもやとしてしまう。

本当になんだろう、これ……と思っていると、一色さんが比企谷くんに声をかけていた。

 

「せんぱいっ。今のはかなりのポイントアップですよ!」

 

「なんのポイントだよ……」

 

「私の好感度、いろはすポイントです!」

 

「いらないんだけど、そういうの」

 

「ちょっ、いらないとはなんですか!」

 

「ちなみにそれ貯まると、どんな特典があるんだ?」

 

「そうですね、私とデートができます! 嬉しいですか? 楽しみですか?」

 

「嬉しくも楽しくもないんだけど……。めんどくさいし」

 

「メンドくさいとはなんですか! ほんと先輩は女の子の扱いが下手くそすぎですね。

ダメです。まったくもって、ダメダメです!」

 

「へいへい」

 

ぷんすか怒っている一色さんに、比企谷くんはめんどくさそうな顔をして言うと

一色さんはさらにぷんぷんと怒り出す。

 

そんな二人を見ながら、私もポイント制度を導入しようかしら、などと考えていると

一色さんがすすっと寄ってきて「城廻先輩。今のどう思いますか? 最低ですよね!」と

愚痴というか恨み言をこぼしてきた。

それに苦笑で答えつつ私も比企谷くんに思ったことを伝えてみる。

 

「でも、比企谷くんすごいね。あんな風に泣いてる赤ちゃんあやせるなんて。

私そういうのに疎いから、尊敬しちゃうよ!」

 

言うと、比企谷くんは「そ、それほどのことじゃ……」と言って照れたように微笑んでくれた。

そんな彼を見て、なんだか胸の奥がぽかぽかするような暖かい気持ちになっていると

一色さんが私の耳元に口を寄せ、こしょこしょと呟いてくる。

 

「城廻先輩。先輩って年下好きなんですよ。クリスマスイベントのときもですね

手伝ってくれた小学生の中で一番可愛かった子になにかにつけて近づこうとしたりして。

まあフラれてましたけどね」

 

「おいこら、一色。めぐり先輩に変なこと吹き込んでんじゃねーぞ」

 

もっと色々聞きたかったのだけど、比企谷くんが話の途中で割って入ってきたので

それ以上は聞けなかった。

比企谷くん年下が好きなのか~ と思うと、さっきまでぽかぽかしていた胸も

なにやらやるせない気持ちで一杯になってしまう。

 

ま、まあ年上とはいえ、彼とはひとつしか違わないし……。

そう自分に言い聞かせている自分に気付き、なんでそんな事をするのか自分で自分に

頭を捻っていると、二人の仲良さげなじゃれあう声が耳に届く。

 

「でも先輩。ほんとうのことじゃないですかー!」

 

「ま、まあ、確かに本当ではあるんだがな、なんつーか言い方が……」

 

「本当のこと。つまり先輩は年下の幼い子が好きで好きで堪らないということですね?」

 

「あのなあ、一色。公共の場でそういうことを大声で言うのは、やめてもらえませんかね……」

 

困ったように顔を顰めている比企谷くん。そのすぐ隣で楽しげに笑う一色さん。

そんな二人を見ていると、昨日、一色さんの場所にいたのは私なのに……と思って

胸が締め付けられるように苦しくなってくる。

 

そして、その思いが顔にでないよう、私は一生懸命笑顔を作っていた。

 

× × ×

 

ペンを置きノートを閉じる。

今日はとても日記を書く気になれない。

ため息を吐き麦茶を飲もうと机の隅に置いておいたコップに手を伸ばす。

すると、コップの中身はいつの間にか空っぽになっていた。

 

 




それでは次回で

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