やはり俺の数学教師が一色というのは間違っている   作:町歩き

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あと二話でなんか本編並に長い番外編終わると思います。いつものように多分、きっと。

だいぶ女性視点での書き方が慣れてきたので、三章は八幡、いろはす、めぐり先輩の
三人の視点で物語を進めてみようかなっと思います。
八幡、いろはすは書きやすいんですが、めぐり先輩がちょっと難しいので
上手く書けるかはあれなんですけど。



初めての友達

『合宿というか、小学生の林間学校サポートスタッフとして千葉村に行ったんだ』

 

『千葉村……。確か、群馬でしたっけ』

 

『ああ。小学生の相手をしたり、空いてる時間に川遊びしたりな』

 

『お~、楽しそうですね』

 

『うん。結構楽しかったよ。

みんなでカレー作ったり、キャンプファイヤーしたり、他には……』

 

葉山先輩は懐かしむよう楽しげに話していたが、そこまでいうと途端に口篭る。

会話の途中、相手に言いにくいことがあった場合、なんですか? などと下手にせっつくより

言わざるえないよう話を持っていくのがよい。例えばこんな感じで。

 

『葉山先輩。夜はこれからです。

時間は充分にありますから、焦らずゆっくりそのときのことを話してくださいね』

 

『う、うん』

 

ふう、これでよし。

良い仕事した~! そんな気持ちでテーブルの上の紅茶に手を伸ばし一口飲む。

そして観念した葉山先輩が語る、一人の女の子とその女の子のために

先輩たちがしたことに耳を傾ける。

聴き終えて、そんな事があったんだ、と思いつつ、口を開く。

 

『私も結構、無視とかされますけど、一体何が楽しくてそんな事するんでしょうね』

 

『まったくだな。合う合わないは仕方がないにしても

そんな事しなくてもいいだろうって思うんだが……

というか、いろは。その、平気なのか?』

 

『なにがですか?』

 

『いや。その、無視されるとか』

 

『うーん。小さい頃は結構きつかったですけど、今はもう平気ですね。

むしろ仲良くなれない自分に合わない人間を見分けるのに都合がいいです』

 

『そういうもんなのか? なんていうか、歩み寄って仲良くしようとは思わないか?』

 

『逆になんですけど。

そういう人と今仲良くなっても、いつそういう事をしだすかわからないじゃないですか?

される私にも問題がないわけじゃないですけど、私はそういう事をしませんしする気もないです。

だからいっそ、関わらないようにしたほうがいいかなって思いますね』

 

『うん。そうか、そうかもな』

 

『それでその女の子の話なんですけど、比企谷先輩のやり方で正解、とはいえませんけど

間違ってはいないと思いますよ。

合わないもの同士無理にくっつけても、いつかは破綻しますしね。

ならいっそ、っていうのは、アリだと思います。

まあ当事者のその子がどう思っているかわかりませんけど』

 

私の言葉に、葉山先輩は考えるように間をとってから、口を開く。

 

『みんな仲良く、はダメなのかな?』

 

『それは、みんなの中に入ってる人の言葉ですね。

そもそも入ってない人からしたら、何言ってんだ、こいつ、って感じだと思います』

 

ちょっと言いすぎたかな。葉山先輩黙ちゃった。

でも実際そうだしなあ。まあこういうのは、外れたことのない人にはわからないか。

と思っていると、葉山先輩は少し寂しげな声で返事を返してきた。

 

『いろはは、比企谷と同じような考え方なんだな』

 

失礼だな、この人。私はあんなにひねくれてませんけど~?

 

『んー、どうなんでしょうねえ。

ただ私は自分を理解してくれる人が一人だけでもいれば充分。そう思ってますけど』

 

言って、気付く。ああ、そかぁ。私は多分、比企谷先輩に……

思いに耽って黙り込んでしまった私を気遣うように、葉山先輩が優しい声を出す。

 

『いろは。どうした?』

 

『やっ、なんていうんですかね。今気づいたんですけど。

私はきっと比企谷先輩に、私のそういう人になって欲しいなって思ってるのかも知れません』

 

『そうなのか?』

 

『多分、ですけど……』

 

流れる沈黙。うん、ちょっと曝け出しすぎたかな。なんか凄く恥ずかしい。

電話で良かった。今顔真っ赤だしね。

思いつつ、片手で顔をパタパタと扇ぎながら口を開く。

 

『葉山先輩。ちょっと質問なんですけど、いいですか?』

 

『なんだい?』

 

葉山先輩を巻き込む前に、巻き込んでもいい人になってもらわないとね。

 

『葉山先輩って、女の子の友達いますか?』

 

受話器越しに伝わってくる、ちょっと困ったような空気。

少し間があってから、葉山先輩が口を開く。

 

『優美子とは、そうだと思っているけどな』

 

あちゃー。三浦先輩、友達枠かあ~。

まあ好きな人がいるんじゃ仕方がないけどね。でも、結構それ、残酷ですよ?

 

『葉山先輩はそうかも知れませんけど、三浦先輩はそうじゃないと思いますよ。

わざわざ言うべきじゃないかもですけど、三浦先輩の気持ち、気付いてますよね?』

 

『……まあ、うん。でも、じゃあどうすればいいんだ? 他にやり方、あるのか?

好意をもってもらえて嬉しいから、できるだけそれに答えたいと思うのは間違ってるか?』

 

『すいません、生意気いって。

ただ、相手の気持ちに答えられないなら、それなりの対応はしたほうがいいように思います。

例えば、私にさっき言ってくれたように、想い人が居ることをそれなりに伝えてみるとか』

 

『やっぱり、そうした方がいいのかな……』

 

耳に届く葉山先輩の沈痛な声。

いい人ってこういう時大変ですよね。冷たくする優しさを使えないから。

 

『なんかほんとすいません。責めるみたいなことを言ってしまって』

 

『いや、自分でもどうにかしなくちゃなって思っていたから、助かったよ』

 

疲れたような吐息を吐きつつ葉山先輩は言うと、薄く笑う。

本当にこの人、いい人なんだろうな。

そんないい人を自分の都合に巻き込んで大変な目に合わせることに、

胸が痛んでウキウキワクワクしてきましたよ!

 

『それで、この流れでこういうことを言うのもあれなんですが』

 

『なんだい?』

 

『葉山先輩。これから葉山先輩に一杯ご迷惑を掛けたいと思うので、

良かったら私と友達になってもらえませんか?』

 

『えっと、いろは。迷惑かけること前提なのかい?』

 

戸惑ったような葉山先輩の声。

まあ普通の人はこう言われて、うんとは言わないだろうけど。

それでもこれは、私なりの誠実さ。

 

『もう勘弁してくれよっていうくらい、掛けると思います。

もちろん私にも、一杯迷惑、掛けてもらっても良いですし。どうですかね?』

 

私の言葉に、葉山先輩は深く息を吐く。そして不意に、くつくつと楽しそうに笑う。

 

『いいよ。なろう、友達に』

 

おっと、まさか上手くいくとは。

良かったと思いつつ、私らしく小生意気なことを言ってみる。

 

『葉山先輩、そこはあれですよ。

いろは、君と友達になれて嬉しいよ、とかじゃないですかね?』

 

『ははっ、そんなことは言わないよ。だって俺たち、友達なんだろう?』

 

嬉しそうな声でそんな風に言われると、なにやら照れてしまいますね。

まあいいでしょう。もう充分、照れて顔が真っ赤かですし、今更ね。

 

そんな風にして、この夜、私は生まれて初めての友達ができた。

 

 




それでは次回で。

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