書いてみました。11月8日から前日分の加筆修正終わらせました。
次回から「秒速」の話になるんですけど、見たことない人多いんでしょうかね?
結構細かく書いていいのか、雰囲気だけ伝えればいいのかちょっと悩みます。
自分の居場所
ページの下半分はメモ帳。
そんなライトノベルなら既に一冊分くらいのイベントをこなして迎えた日曜日。
窓の外を見やれば、カラッとした良い天気。
暑そうだなー、と窓の外をぼけっと眺めていると、パジャマ姿の俺を見た母親と小町が
早く着替えろと急かしてくる。
もう、男の子は準備が大変なんだから、と心の中でぶつくさ文句を言いながら着替えると
今度は待ち合わせの時間より大分早く家から叩き出され、仕方なく駅へと向かう。
太陽にじりじり照らされ暑い暑いとぼやきながら、十五分ほど歩くと駅に到着する。
待ち合わせ場所の改札口へ向かうと待ち合わせ時間の二十分前なのに
一色は既に来ており周囲をきょろきょろしているのが見えた。
人ごみに紛れ近づいていくと、そんな俺を見つけた一色はぷくーっと頬を膨らませ
「あっ、もう、おっそーい!」と不満げな声を出しつつ、ぱたぱたと駆け寄ってくる。
そしてほんの少し軽く走っただけであざとく肩でハァハァと息し、俺の袖を掴もうと
してくるので、それをするっと躱す。
「一色、今日は早いじゃないか?」
言外に、以前二人で出掛けたときは遅刻してきたのに、
今日は時間通りちゃんと来たわね? あなた。
そう嫌味を込めていったのだが、一色には上手く通じなかったようだ。
一色はやれやれといわんばかりに大仰なため息をつく。
「何を言ってるんですか、先輩。今日は城廻先輩がいるんですよ?
後輩の私が目上の先輩をお待たせしたら申し訳ないじゃないですか~」
俺をまるで礼儀作法を弁えないアホな奴。そんな口調で窘めてきた。
彼女の言っていることは確かにまあ立派なことだと思う。
だがその理論でいくと、以前寒空の下で待たされた俺は彼女に目上扱いされていない、
ということになってしまう。
ハハハ! こやつめ……。そんな気持ちでドス黒く染まりかけた俺のソウルジェムは
魔女化寸前で、まどか神、違った、めぐり神の降臨で浄化される。
なんかえらく遠くから「遅れてごめんなさ~い」と叫びつつ、とててっ走ってきた先輩は
俺たちの傍まで来ると、前かがみになり肩でハァハァ息をする。
大丈夫かな? と思い傍に近づくと先輩が俺の袖を掴もうとしてくるので
掴みやすいよう袖口をそっと差し出してみる。
それをちまっと掴んだ先輩は身体を起こし俺にありがとうというと、にぱっと微笑む。
その笑顔につられ俺も思わず微笑んでしまう。
うん、いい笑顔。広げよう笑顔の輪! などと考え、次はあなたよとばかりに
一色へと視線を向ける。
すると一色はぶすーっと頬を膨らませ俺を薄目で睨んでいた。なんだよ……その目。
その視線の鋭さにちょっとたじろいていると、先輩は弾んだ声で俺たち二人に
こんにちはの挨拶をしてきた。
それに答えて俺と一色が挨拶を返すと、先輩はむふーっと満足気に胸を張り
「じゃあ、いこー!」の掛け声とともに歩き出す。
あれこの人、俺の家の場所知ってるの? と不思議に思い付いてこうとすると、少し先、
ちょっと進んだところで立ち止まった先輩は、ぱたぱたと駆け戻ってきた。
「えーっと、比企谷くんのお家って、こっち?」
いうと、先輩は身体を前に倒し、俺を下から覗き込んでくる。
はらりと先輩の髪が流れる。奥目がちな瞳は悪戯っぽく輝いており、その笑顔は堪らなく眩しい。
やっぱ知らんまま歩きだしたのか……。呆れながらもその笑顔を近距離で直視してまった俺は
頬が赤らむのを感じる。
「めぐり先輩、方向は合ってますよ。
それとここから歩いて十五分くらいなんですけど、いいですか?」
「うんうん。お天気も良いし、お散歩気分で歩こ~」
「そうですねー、ダイエットにもなりますし!」
二人はいうと、俺の後をてこてことついてくる。ダイエットか、女の子は大変ね。
まあ、一色は華奢すぎるので、もう少しお肉を付けたほうがいいだろう。
じゃないと名前に✩をつけた人に「並はす」とか書かれちゃうぞ? と思いつつ、歩道を歩く。
すると道行く野郎どもが、めぐり先輩と一色の二人にチラチラと視線を向けていることに気付く。
二人とも可愛いしな。そんな事を考えていると、一色が茶化すようにいう。
「こ~んな美人なお姉さんと可愛い女の子を連れて歩いて、先輩も鼻が高いですか?」
さすが一色。めぐり先輩のことを褒めつつ、自分を褒めることも忘れない。
これで一色が可愛くなかったら鼻で笑うところだが、可愛いからタチが悪い。
二人をちらっと見やると、俺の答えを待ってる様子。
なにか言わないとあれかなーと思っていると、一色が俺の顔を下から覗き込んできた。
「先輩。女の子はたまでもきちんと褒めてあげないと、ダメですよ?」
一色は言うと、悪戯っぽい笑顔を見せる。まあ確かにと思い、口を開く。
「二人とも別嬪さんだしな。まあそのなに? 緊張で、鼻が高くなるどころじゃねーけど」
ごにょごにょした声でいうと、二人は顔を見合わせによによと微笑んでいた。
二人の反応にふぃーっとため息をついてしまう。
慣れないことはするもんじゃないですね。夏の暑さと関係ない汗を背中にかいてしまった。
リア充とか普段からこれをこなしていると思うと頭が下がる。
そんな事を考えながらしばらく歩いていると、後ろで先輩と話していた一色が
てってと走って寄ってきた。
「せっかく三人でいるんだから先輩も会話に入ってくださいよー」
「話って……、そんな話題に事欠かない奴なら、ぼっちになってねーよ」
「えっ? 比企谷くんって結構話すほうじゃない? 昨日そう思ったけど」
先輩がきょとんとした顔でいうと、一色は驚いたような表情で俺を見てくる。
その視線に何やら説明を求められてる気がして、仕方なく口を開く。
「いや、昨日一色と別れたすぐ後に、めぐり先輩と会ったんだよ」
「うんうん。たまたま会ってね。それでお話してたら暗くなちゃって家まで送ってもらったの」
二人で答えると、それを聞いた一色は下を向いて俯いてしまう。
そして「そうですか……」と小声で返してきた。
その一色の様子に、俺とめぐり先輩が戸惑った視線を交わしていると
そんな俺たちを見た一色は慌てたように口を開く。
「ま、まあ、それはそれで……。じゃ、じゃあなんでも良いので先輩、なんか喋ってください!」
普通に話すだけでも難易度高いのに、こんな空気で言われてもなあと思いつつ
「そういや、最近小町がな」と小町話を口にする。
そんな俺を一色が、呆れたように窘めてくる。
「先輩。年頃の女の子相手に自分の妹の話をしだすのは、ポイント低いとおもうんですけどー?」
「そ、そうか……」
なんだよ禁止ワードあるなら先に言えよ。あれか重箱の隅をつついていく姑スタイルか?
それに、それにだよ? この世界で小町と戸塚の話以外する価値があるか? と思い
ならば戸塚トークをしてやろうと口を開きかけたとき、俺の家に到着した。
× × ×
「ここが俺んちなんですけど……」
誰かを家に招待することなど今まで一度もなかった俺が少し緊張しつついうと、
二人はほーと感心混じりの声を出しながら我が家を眺める。
そんな大した家でも、と謙遜しつつ玄関に近づくと、扉の向こうから
「お父さん早く早くー! お母さんも」と小町の声が聞こえてきた。
嫌な予感を感じながら扉を開けると、右から親父、小町、母親の順にマイ・ファミリーが
にこやかに微笑んで待機していた。
先輩も一色もその光景に驚いたようなぎょっとした表情を浮かべたが、すぐに表情を整えると
礼儀正しく挨拶してくれる。ほんとすいません……
家に上がってもらいリビングに入ると、椅子を引いて二人に勧める。
すると、お礼を言いながら席に着いた二人は、「これ、つまらないものなんですけど」といって
鞄からなにやら取り出してきた。
どうやら二人は手土産をわざわざ持ってきてくれたらしい。
先輩はイギリスの高級紅茶で有名な「FORTNUM & MASON」の缶入り茶葉を、一色はお手製の
ショートケーキを両親に手渡してくれ、渡された両親は恐縮しつつとても嬉しそうだった。
「ご丁寧にすいません」とお礼を伝え「早速頂きましょうかね」というと、お茶の用意を始める。
そして用意を終えると、皆でテーブルを囲んで談笑することとなった。
二人の手土産に舌鼓を打ちつつ、会話が弾む。しばらく、そんな楽しい時間が続く。
頃合を見計らい椅子から立ちあがると、めぐり先輩と一色を部屋へと誘う。
「あのお兄ちゃんが自分の部屋に女の子を誘うなんて~ きゃー!」
と茶化してくる小町にぺちこんとチョップを食らわし、追加のお茶とお菓子を頼むと
三人で俺の部屋へと向かう。
親父は「俺はもっと話がしたいのに!」みたいな苦悶の表情で歯ぎしりしていたが。
そうして部屋の前まで来たのだが、俺はノブを握る自分の手がじんわりと汗ばむのを感じていた。
前の日の夜に綺麗に掃除をしておいたので、部屋はピカピカである。
見られてアレなものもきちんと本棚の後ろや押入れの奥に収納済みなので、
その手の心配がある訳ではない。
それでも今の今までただの一度も、家族以外の“誰か”が入ったことのないこの部屋に
人を入れるのは、俺の胸を締めつけさせるものがある。
皆が当たり前に友人として誰かの家に遊びに行き、誰かが家に遊びに来るをしている間
俺はずっと一人でこの部屋にいたのだ。
そうやって一人でいる俺を見て多少は心配していただろう家族を安心させることが出来た事に
ほっとしながら、二人を部屋へと招き入れる。
部屋に入ると二人は物珍しそうにきょろきょろしだす。
や、ちょっと、一色。本棚の後ろを覗かないで……と思っていると
「なんか図書館みたいに本が一杯だねえ……」
「なんか本屋さんみたいですねえ……」
などと口々に似たような感想を漏らす二人に苦笑してしまう。
立たせておくのも失礼なので座布団を並べ、どうぞと一声かけて二人に勧める。
勧められた座布団をめぐり先輩と一色は見つめ顔を見合わせると
二人の間に一人分の隙間を空けて俺に座るように促してきた。
女の子二人に挟まれて座るのを恥ずかしがる俺の両腕を、二人はそれぞれ掴み
無理やり座らせるので、諦めて大人しく座ることにした。
そして顔を赤くしている俺の方へ、一色はずずっと座布団を滑らせ寄ってくると
茶化すようにいってくる。
「先輩、ダメですよ? お客様をちゃんおもてなししないと!」
「俺が真ん中に座ってもおもてなしにならないでしょう……
それにな、一色。表無しなんだから裏しか無いってことになるんだぞ?」
「相変わらず捻てますね……。
こ~んな可愛い子が二人もお部屋に来てるのに、嬉しくないんですか?」
「いや、嬉しいけどさ。
なに、ほら、自分で自分を可愛いっていう子はあれじゃないかなーと思うんだけど?」
「だって先輩、言ってくれないし」
一色はつーんと顔を背けて、どこか拗ねたように言う。
そんなやり取りを交わす俺たちを、にこにこ微笑んで見ていた先輩が口を開く。
「でもさ、一色さん。友達の家に来てこんなに歓迎されたの、私、初めてかも」
「あー、それ、私も思いました。なんか全力で歓迎されてる感じでよね」
「うんうん」
まあ俺の客が来るなんて初めてだしな。両親も小町も嬉しかったんだろう。
とそこへ扉がノックされ、小町がお茶とお菓子をお盆に乗せて運んで来てくれた。
小町にお礼をいいつつ「一緒に見るか?」と聞いてみる。
気の利く小町が居てくれれば、色々助かると思ったからだ。
すると小町はにぱっと微笑み、俺の耳元に口を寄せると小さく呟く。
「お兄ちゃんのお客さんなんだから、お兄ちゃんがきちんともてなさないとダメだよ?」
そして、めぐり先輩と一色に会釈し部屋から出ていってしまった。
小町ちゃん。お兄ちゃんもう一杯一杯なんだけど……と心の中でよよよと泣き崩れていると、
めぐり先輩と一色が感心した声で小町のことを褒めてくれていた。
「本当に良くできた妹さんですよね~」
「うんうん。すごくしっかりしてるよね。
すごく仲良さそうで、いい家族だなって見てて思うもん」
「うちの弟も、小町さんくらいしっかりしてくれればなぁ~」
「一色さん、弟さんいるの?」
「いますよ~。今、小学六年生なんですけど、この前なんか――」
二人の会話に耳を傾けながら、めぐり先輩がいってくれたように
俺は家族に恵まれているな、と思っていた。
× × ×
あれはそう、小学五年の家庭訪問の時。
当時からぼっちだった俺を担任は心配してくれたのだが、少しクセが強い先生だった。
「八幡くんはですね、人付き合いに問題がありまして、誰とも仲良く出来ないんですよ。
なので人の輪に入る努力をするよう、ご家族でもよく考えてもらって」
と、フザけた上から目線で、母親に告げたのだ。
その言葉に、俺は自分が学校で仲間はずれだという事実を親に知られたことに
情けない気持ちで一杯になっていた。
すると隣で聞いていた母親はボロボロと涙をこぼし泣き出してしまい、慌てた担任は
「今日はその、ここまでにしましょう」というと、早々と帰ってしまった。
居た堪れない気持ちで、担任が手を付けなかったお菓子を眺めていると、
母親の切れ切れとした声が聞こえた。
「八幡ごめんね。お母さん……なにも……言えなくて……」
いって、泣いてくれる母親の背中を、俺は出来るだけ優しくさすることしか出来ずにいた。
その夜の事。
普段より大分早く帰ってきた親父が、一緒に風呂に入るぞと珍しく俺を誘ってきた。
そして嫌がる俺を風呂場に連れていくと、たまには背中を流してやるといって
ゴシゴシと力加減を考えずに洗ってくる。
「いてーよ、親父」と痛がっていると、親父は普段とは違い至極真面目な声を出す。
「八幡。父さんはな、今のままのお前でも受け入れてくれる人が必ずいると思う。
だから今は辛いかもしれないが、いつかどこかでそういう人と出会えたら
変に恥ずかしがったりせずちゃんと向き合うんだぞ」
いうと、俺の頭にお湯をかけ、そのまま風呂から出ていってしまった。
普段なにかと絡んでくる親父からそんな言葉が掛けられると思っていなかった俺は
えらく戸惑ったのを今でも良く覚えている。
まあその言葉が俺をプロぼっちにしてしまった気がしないでもないが。
それでも、ここには俺の居場所があると思わせてくれた両親には感謝している。
そして小町も。そう小町は、俺に気を使っていたのだろう。
友達の多い小町が俺の記憶にある限り一度も家に友達を連れてこなかった事を思い出す。
小町は楽しげに友人たちとはしゃぐことで、そうする事が出来ない俺が
壁一枚挟んだ向こう側で傷つかないか心配してくれたのだと思う。
口に出して言われた訳ではない。だが十六年も一緒にいるのだ。それくらい俺でもわかる。
× × ×
そんな思いに、俺は随分深く浸っていたのだろう。
二人が俺を心配そうに見つめてることに気づき、慌てて表情を取り繕う。
そして「そろそろ観ましょうか」と二人に告げ、俺は再生ボタンを押した。
家庭訪問のお話。
何巻だか忘れましたが、「みんなー比企谷くんの事嫌いなのはわかるけど~」と
小学校の先生に言われた話が書いてあったので、その先生をモデルにしています。
それでは次回で。