やはり俺の数学教師が一色というのは間違っている   作:町歩き

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今回は一色の日記です。

✩の人にアドバイスをいただき、日記っぽく日付と天気入れてみました。
アドバイス感謝です。




あの場所じゃない場所

7月22日(水) 曇り

 

やった、上手くいった。たぶん先輩は断らないと思ってたけど。

でも、こんなに上手くいくとは正直思ってもみなかったし。ちょろいなあの人。

 

と言いたいところだけど、ここからが大変なんだよなあ、あの人は。

妙に警戒心が強いくせに脇が甘い。なのでつけ込み易い。

じゃあ、すぐ靡くか? と思うと、するっと躱される。

 

近くにいけばいくほど、傍に寄れば寄るほど、距離を感じてしまう。

壁がある、というのとは違う気がする。

もっと細いもの。そうだ、一線を引く、といえば良いのかな? あれは。

 

面倒くさい人だなと思う。こんな可愛い子に迫られて落ないとか、正気とは思えない。

まあそういう人に惹かれている私も十分面倒くさいんだけど。

 

惹かれているというか気になるんだと思う。でもなんで気になるんだろう。

ダメなとこ多いし。顔はまあ整ってるけど、目がやばい。あと態度も、口も、性格も。

ついでに姿勢も。殆ど全部ダメだな。ほんと、なにが良いんだろ、あの人。

 

まあ良いところもある。

ぶっきらぼうだけど優しい。欲しいときに、欲しい言葉をくれる。

頼りがいもあるし、頭の回転も速いと思う。

顔だって、あの目をどうにかすれば充分及第点だと思う。

口も性格も悪いから、こっちも悪いとこそのまま出しても気にしないで済んでる。

あのままでも良いかも知れない、気楽だし。姿勢はまあ、直したほうが良いように思うけど。

我ながら酷いな。まあ誰に見せるわけでもないし好きに書いていいよね。

 

そういえば気になったのっていつだろう?

ああ、そうだ。そう、あの時だ。

奉仕部の部室で学習室を作りたいっていったとき、先輩以外の二人は、

それ、いる? みたいな表情を浮かべていた。

先輩だけがいつものぼそっとした声で

 

「最初から、途中から、一人。でも最後まで一人は、きっと寂しいもんな」

 

といって、賛成してくれた。

 

それかクリスマスイベントの時かも知れない。

正確にいえばイベントの前、飾り付けを作っていた時。

 

他の子達がお喋りしてる中、一人で頑張ってる子がいた。

ちょっと大人びた感じの、雪ノ下先輩によく似た子だったと思う。

それで先輩がその子を手伝おうとしたら、「八幡、いい。いらない」って言われてた。

 

「先輩。振られちゃいましたね」

 

なんて口にしながらからかいにいこうとしたら、耳に届いた先輩の一言。

あの子も驚いてたけど、私はもっと驚いた。

言葉だけではっとさせられるなんて、思ってもみなかったから。

 

気になったら、ちょっかいをかける。それで先輩を連れ出して、千葉でデートをしてみた。

その事でわたしたちの関係に変化はなかったけど、それでもそんな関係に

わたしはどこか満足してたように思う。

 

色々変わったのは今年の春、進級してから。

どこかそこだけで完結したような、そんな雰囲気の三人。

その三人が集うあの場所に二年になって初めて訪れた時、

なにか終わった。そんなふうに見えた。

三人の仲が悪くなったとかじゃなく上手く言えないけれど、

仄かに見えてた何かが綺麗に消え失せたように感じた。

 

私の誕生日を三人がお祝いしてくれたあの日。

先輩に尋ねたら、先輩は照れくさそうに「友達になれたんだ」って言った。

 

男女の友情はありえない。

それが私の自論だけど、あの二人が友達という枠に収まってくれたのは

思っていた以上に、私をほっとさせた。

 

ほっとしたら欲がでた。今ならいけるんじゃないかって。

色々考えて二人で居れる場所を作ろうと思った。

あの部室のように。あの場所は三人の場所だから。

私と先輩、二人だけの場所。そういう場所を。

 

 

7月23日(木)晴れ。夕方から少し雨

 

ほんとまいる、まさかの伏兵。城廻先輩がなんで急にでてくるの?

しかも手とかつないでるし。

 

でもすごく笑顔だった。あんな顔するんだ。私には見せないのに。

だから邪魔しない訳にはいかなかった。

 

それは私の

 

違うけど、そう思ったから。

 

でも先輩の家にいける。嬉しい。城廻先輩もなのが、ちょっとあれだけど。

 

まあ今回は仕方ない。切っ掛けを作ってくれたんだし感謝しよう。

でも苦手なんだよなあ、あの人。良い人なんだけど、良い人すぎて苦手。

 

引き継ぎのときもそうだった。

適当にやろうとすると悲しそうな顔をするから、なんか悪いことしてる気持ちになる。

まあ悪いんだけど。それでつい頑張ってしまう。あれはズルいと思う。

 

帰り道は楽しかった。楽しいというより嬉しかった。

お兄ちゃんなんだけど、お兄ちゃんぽかった。変な言い方だけど。

 

雨宿りもできて良かった。ちょっと寒かったけど。なんか逃げるし。

ほうじ茶美味しかったな。温かくて、暖かくなれた。また逃げられたけど。

 

家に帰ってからほうじ茶を探したけど、見つからなかったので緑茶を飲んでる。

飲みながら、先輩にしてもらうテスト問題を作成中。

 

数学が苦手。聞いてたけど、あの点数にはびっくりした。

怒らないかな、先輩。あの時みたいに怒鳴られたら嫌だな。

最近、あれこれ悩んでばかりだ。でも、誰かのために悩むのは結構楽しい。

 

そうだ、勉強会の練習をしよう。

先輩のため、そんな感じでいえば、あの人断れないし。

 

テスト出来た。もし先輩にやらなくても弟にやらせればいいや。

彼女が出来てなんか浮ついてるし。キスまでしてたな。先越された、惨め。

ここは姉として弟に試練の一つや二つ与えてあげるのが、優しさだと思うしね。

 

7月24(金) 曇りのち晴れ。

 

「掛かった! 計画通り……」

 

前に弟から借りて読んだ漫画の主人公のように、私は超悪人顔をしてたと思う。

 

「勉強会の練習をしましょう!」

 

私のしたそんなあなたの為なのよっぽい提案に、「すまん、一色」と申し訳なさそうに俯く

先輩の横顔は、なんというかすごく私に満足感を与えてくれた。

 

自分の欲……願望を満たしつつ、相手に恩を売る。

絵に書いたような一石二鳥。あちらも立ててこちらも立てる。

そうこれこそ、win-winな関係!

 

まあそんな事を考えていたら、いつのまにかこっちを見ていた先輩に

じとっとした目でその顔を見られたのは失敗だったかも。

おっと危ない……と、表情を急いで「きれいないろはちゃん」に戻したけど

バレたかなー、どうだろ? まあいいや。

 

一応は先輩のための提案ではあるんだし。でも私がそうしたいからそうしているだけだけど。

私のしたい事が先輩のためになる。これはもう報酬が支払われてもおかしくないレベル。

 

まあそれはそれとして、昨日の写メの理由には笑わせてもらった。

お父さんカッコいいんだな。お母さんも美人だし。

先輩も小町さんも顔の造りは整っているし納得なんだけど。会うの楽しみ。

 

 

7月25日(土) 晴れ。

 

勉強会の帰り道、先輩に言われて日記を書き始めることにした。

めんどくさ~って顔をした私に国語の勉強になるからと、一生懸命説得しようとする先輩を見て、まあ書いてもいいかなっと思ったから書いてみる。

 

「あんまり長い文章は読めません。そういう身体なんですっ!」

 

自分の体をきゅっと抱きしめてそんな事を口にした私に、

先輩は呆れたような表情でため息をついていた。

そして、一行でも二行でもいい、長さは問題じゃなく、その時なにを考えていたか

後からわかれば十分だ、と言っていた。

 

そんなもんか~と思いつつ、今日の事でも書いてみようとペンを取る。

せっかくだから始まりから書いてみよう。それで水曜まで戻って書いてみた。

その日にあったこと思っていたことを、思い出し思い出し書いてみる。

そしたら思っていた以上に色々と書いてしまった。

 

なるほどこれはいいかも。意外と私、考えてる。ちょっとびっくり。

それに私のような美少女の日記なら高く売れるかも。「いろはちゃん日記」とか名づけて。

「秘密の」と付けたら四桁、いや五桁は余裕。

先輩に、読む用、保存用、布教用で三冊は買わせよう。贈答用にもう一冊追加で。

 

まあそれはともかく今日は本当に楽しかった。

先輩、怒るどころか頑張ってテストしてくれたし。

でも教えてる時、急に敬語を使いだしたのにはちょっと笑ってしまった。

やっぱりあの人、根は真面目なんだろうな。

こっちは狭い密室で二人きりな状況に結構緊張していたのに、

ずっと問題解くのに集中してるぽかったし。

でも少しは意識して欲しかったように思う。残念。

 

先輩、人目をすごく気にするから期間が夏休みの今回の件に誘えたのは良かったと思う。

受験の邪魔にもならなそうだし、ほっとした。正直ちょっと心配だったんだよね。

これで先輩が受験に失敗したら目も当てられないし。

 

それに休みとかじゃないと絶対に邪魔が入る。

あの二人には悪いけど先輩と過ごしてる時間は二人の方が長いんだから、

ちょっとくらいずるしてもいいよね。

 

でも罪悪感で、先輩に自分の事を二人にもっと話したほうが良いって言ったのは

失敗だったかも知れないなぁ。

城廻先輩も本の話で先輩と盛り上がってたし、私も少しは読もうかな~

 

そういえば、お弁当の約束と送り迎えの約束、どっちも出来て良かった。

考えてみなくても私が得意なのって料理とお菓子造りくらいしかないんだよね。

誰かの為に何かしたいなって思う日が来るなんて考えもしなかったな。

今まで、何をしてもらえるかで好きな人を決めてたようなもんだし。

 

帰り道の先輩の話も楽しかったな。

自分のために一生懸命話してくれるのは、ほんとうに嬉しかった。次も楽しみ。

 

思ってることをつらつら書いてたら、すごく一杯、書いてしまった。

明日は朝からケーキつくるし、もう寝ないと。

上手く寝付けるかわからないけど、お布団に入っておこう。

 

おやすみ。

 

 




それでは次回で。

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