『未来が視える』副作用(サイドエフェクト) 作:ひとりがかり
あとトリガーについての独自解釈、オリジナル技がありますのでご了承下さい
――12月22日
ここはボーダー本部内にあるc級用ランク戦室のロビー。
本日行われる迅と太刀川の模擬戦を一目見ようと、年末が近く忙しい時期にもかかわらず、ロビーには沢山の人達が押し寄せている。
2人の模擬戦なんて、それこそ年がら年中やっているのだが今日の模擬戦は違う。
それは限りなく実践に近い形式だからだ。戦う場所は、ここ三門市と全く同じ地形で再戦なしの1発勝負。
これは通常の10回での勝負の模擬戦などでよく見られる捨て試合を無くすためだ。複数回で模擬戦する場合、トータルで勝てばいいのだからと、どうしても最初の1試合目で様子を見たり、今後の布石のためにワザと負けるといった駆け引きがどうしても発生してしまう。
だが実践は基本的に出会い頭の一発勝負。なので月に1回、そんな小細工を抜きにした言い訳なしの1回勝負の模擬戦を設けたのだ。単純にどちらが
だからこの模擬戦は2人とも全力で戦うし、何より普段決して見ることができない2人の
今日はそんな2人の模擬戦を見ようと大勢の隊員達が、それこそ非番の隊員達のほとんどがこのロビーに集まっている。
それだけではなくエンジニアの人達や忍田本部長の姿まで見えることから、この模擬戦に対する皆の関心の高さが伺える。
ロビーにある一角で、1人の男がソファーに座り、腕を組み目を瞑って静かに精神統一をしている。黒色のロングコートを着用し、灰がかった癖のある髪に眠そうな目つき、そしてあごヒゲが特徴の男だ。
男の名前は太刀川慶。
A級1位太刀川隊の隊長にして、日本刀型トリガー〝孤月〟を扱う最強の隊員である。
その実力は師匠の忍田本部長曰く『天才。才能だけを見れば俺や迅を越えている』とのこと。
孤月はその形状故、本来は両手にしっかりと持って扱うトリガーである。
なぜなら孤月は切れ味と頑丈さを売りにしているトリガーのためか少々重い。
なので孤月を片手で、特に利き手ではない方の手で孤月を振っても、その重さ故上手く振ることができない。また相手が孤月を両手で持って攻撃してきた場合、片手だけでは相手の孤月を受けきれずに弾かれてしまう可能性が出てくる。
なのでほとんどの孤月使いが、いざという時に孤月を両手で持てるよう1本装備なのに対し、太刀川は孤月を片手に1本ずつ両手に持って戦う2刀流の孤月使いだ。
太刀川曰く『利き手だろうがなんだろうが、ちゃんと振れば片手でも振れるし、ちゃんと受ければ片手でも受けられる』とのこと。
ちなみにそれができるのは、ボーダー広しといえども太刀川慶ただ1人。ライバルの迅や師匠の忍田でさえできない。
だから太刀川慶は、ボーダー唯一の2刀流にして最強の孤月使いなのだ。
そんな太刀川は現在ソファーに座って精神統一をしている。ただそれだけのことなのに太刀川の周りにはぽっかりとした空間ができてしまっている。
なぜなら太刀川から伝わるそのピリピリした空気に誰も近づけないのだ。
太刀川自身話しかけられたらキチンと答えるだろうし、その程度で怒るような人間ではないと皆理解している。なのに声を掛けられない。
それは太刀川隊の仲間である出水と国近(ちなみに唯我は出禁)や月見姉妹も同様で、太刀川の精神統一の邪魔をしないようソファーから少し離れたところで見守っている。
そんな中、精神統一をしていた太刀川が目を開いた。
そのことに周りにいる人達が、もしかして精神統一の邪魔をしてしまったのかと焦ったが。
「なあ蓮、俺だけ先に来て待っているのって、何か俺だけ楽しみに待っているみたいで恥ずかしくないか?」
「いいから黙って精神統一してなさい」
そうでもなかった。
どうやら単に精神統一に飽きたらしい。
「太刀川さん、今日で良かったんですか?」
「ん? 何がだ?」
「いやだって昨日遠征から帰って来たばかりでしょう?」
精神統一が終わったようなので、出水が太刀川に疑問に思っていたことを聞いた。
出水自身、昨日まで遠征部隊のメンバーの1員として太刀川達と一緒に
見知らぬ世界に行き、それこそ死ぬかもしれないような目に遭ったのだ。もし自分ならもう少し心を整えてから今回の模擬戦に臨む。
出水は何故太刀川が今から模擬戦をするのかわからなかった。
「いや、どうも遠征で不完全燃焼でな」
「……あれでっすか」
「ああ。それでどうしても本気で戦いたくてな」
う~ん、と背伸びをしながら答える太刀川を、出水は信じられないものを見るような目で見た。
太刀川達遠征部隊が行った国は現在戦争中だったため、太刀川達戦闘員は国の傭兵として戦争に参加しながら情報やトリガーを集めていたのだ。
トリオン漏出しても〝ベイルアウト[緊急脱出]〟できないという状況の中、太刀川は様々な功績を上げ、結果としてその国の情報やトリガーといったものだけでなく、なんかよくわからない勲章(太刀川談)まで手に入れてたりするのだが、それらの出来事は太刀川にとって全て不完全燃焼なものだったらしい。
やっぱこの人化け物だわと出水は思っていると、太刀川が立ち上がってロビーの入口の方を見た。それに釣られて全員の視線が入口の方へと向かう。
「……来たな」
「ええ」
「そうですね」
「だね~」
「えっ? どういう……?」
師匠である太刀川の言葉に驚く花緒。
姉の蓮や太刀川隊の仲間達も同意しているが、目的の人物である迅の姿はまだ見えない。
花緒が疑問に思っていると。
「花緒、あなたも
「えっお姉ちゃん、何を?」
「空気が変わったでしょう?」
蓮がそう言った直後、1人の男が4人の隊員を連れてロビーに入ってきた。
その男は青色のジャージのような隊員服を着ていて、首にはブリッジ部のないサングラス。髪は赤みの強い茶髪でサイドを残したオールバック。そして何より全てを見透かすような青い瞳。
間違いない、迅悠一だ。
迅悠一。
未来予知の
その圧倒的な実力は個人ランク戦で3年連続で総合1位の座を守り続ける程で、1対1で戦えばまず負けない。
しかも予知があるせいか、迅には狙撃どころか中距離からの攻撃さえほとんど当たらなかったりする。
なので迅悠一率いる迅隊は、現在迅とオペレーターの三輪巴の2人部隊にもかかわらず、A級ランク2位の順位に就いているのだ。
そして同時に〝物体に斬撃を伝播させる〟黒トリガー〝風刃〟を扱うS級隊員でもある。
見える範囲でならどこからでも攻撃できる風刃は、迅のその未来が視える
迅はその未来が視える
特に有名なのは4年半前に起き、現在でも〝悪夢〟とまで呼ばれている第1次近界民侵攻での活躍だろう。
迅はその第1次近界民侵攻で師の形見である風刃を使い、37体ものトリオン兵の破壊し、3名の〝人型
故にその実力と功績から、世間では迅を〝ボーダーの英雄〟と呼んで持て囃し、ボーダーもこのままではいけないと思いながらも、迅のその
ロビーに入った迅は太刀川を見つけると、すぐに太刀川の方へと向かって行った。
そして迅の後ろには、その第1次近界民侵攻の時に命を助けられた1人である三輪巴に、最近玉狛支部に入った三雲修、空閑遊真、雨取千佳の姿が見える。
どうやら4人も今回の模擬戦の見学に来たようだ。
「ありゃ、待たせちゃったかな?」
「いや、時間どおりに来たんだ。文句はないさ」
「遠征はどうだった? 大成功だったって聞いたけど?」
「いくつかトリガーを譲ってもらったが黒トリガーは無理だったな」
「そりゃそうでしょ」
会って早々世間話をする2人。
何せ久しぶりに会ったのだ。遠征でのことや、イレギュラー
だが、今はそれよりも模擬戦だ。
太刀川は「さて」と世間話を早々に切り上げ。
「悪いが今回は本気で勝たせてもらう」
迅に勝利宣言をした。
勝つのは俺だと。
「それ先月も言ってたよね?」
「今回は本気の本気だ。何せレポートが懸かっているからな」
迅の軽口にそう返す太刀川。
実は太刀川慶と言う男。レポートの懸かった勝負では異常な程強い。
絶対にレポートをしたくないという想いが驚異的な集中力を生み、背水の陣感がハンパなく出る。『何で大学に進学したのか』と皆が疑問に思うレベルだ。
弟子の花緒には『手っ取り早く強くなる方法なんてない』と言いながら、自分にはちゃっかりとあったりする。
ちなみ太刀川の後ろにいる花緒が、どこか納得できない顔をしながら師匠である太刀川をジト目で見てたりする。
「はははっ、それは確かに手強そうだけど太刀川さん、アンタの勝ちはないよ。おれと巴の
最初は笑っていた迅だったが、真剣な顔をすると太刀川にいつもの決めゼリフを言った。
そしてこの決めゼリフを言ったあとの迅も何故か異常に強かったりする。
……強い人間は皆そういったものを持っているのだろうか?
「はっ、おもしろい。お前らのその予知、覆してやるよ」
太刀川はそう言うと、転送をするためブースへと向かって行った。
実は太刀川、
なので太刀川は迅にそのセリフを言われると、必ずこう返すようにしているのだ。
「……太刀川さんなら、そう言うと思ったよ」
そう言ってクスッと微笑むと、太刀川に続いて迅もブースに向かって行った。
◇
転送が終わると、太刀川は軽く辺りを見渡した。
「警戒区域か」
この模擬戦は地形でのハンデをなくすため、ボーダーの隊員達が最も戦い慣れしている三門市と全く同じ地形で戦うのだが、太刀川と迅が転送されたのは警戒区域だった。
警戒区域とは、
だからだろうか。ここは戦闘シュミレーションルームで、自分と迅の2人しか存在しないにもかかわらず、まるで三門市で実際に戦うような錯覚を起こしてしまうのは。
そしてその錯覚こそが、この地形で模擬戦をする1番の理由なのだろう。
太刀川がそう結論づけると、前方に迅が転送されているのが見えた。
「……大体30mくらいか」
太刀川はそう呟くと、鞘から孤月を抜き、そしてそのまま無拍子で横一線に振るった。
――旋空弧月。
オプショントリガー〝旋空〟によって一時的にブレード部分が伸びた孤月による斬撃。
旋空とは孤月のブレード部分を瞬間的に伸ばす弧月専用トリガーのことで、その伸ばすブレードの長さは、設定した起動時間と反比例の関係にある。
つまり旋空というトリガーは、弧月が伸びている時間を短くすれば短くする程、孤月をより長く伸ばすことができるトリガーなのだ。
そしてその伸びた孤月での攻撃のことを旋空孤月と呼ぶのだが、実は旋空孤月という技は難易度が異常に高い。
考えてもみて欲しい、50m近くまで伸びた刀を振るのだ。
普通に考えて振れるわけないし、ましてや狙ったところに斬れるなんてどれだけ難しいのか見当もつかない。
しかも戦いの場では自分も相手も常に動き回っているので、旋空孤月を扱う隊員は、旋空の起動時間を最も旋空孤月が成功しやすい1秒で固定し、バムスターやバンダ―といった的が大きい大型のトリオン兵にしか使用しないのが一般的だ。
にもかかわらず太刀川は、自分と迅の距離を30mだと把握すると、鞘から弧月を抜く瞬間に、射程が30mになるよう旋空の起動時間を設定し、そして刃を止めることなくそのまま旋空孤月を放った。
距離にして30m近く離れているにもかかわらず、その伸びた孤月は、まるであたかも迅の首元に吸い込まれてるように伸びていく。
旋空弧月を予備動作もなしに、しかも上半身のしなりのみで放つというスゴ技に、観客の誰もが、巴や忍田までもが当たると思った一撃は、迅に当たることなく、迅の背後にあった民家を真っ二つに斬った。
まるで斬鉄剣で斬られたみたいに民家の上部分がズズズッと滑るように崩壊していく中、当の迅はすでに太刀川の背後に移動しており、太刀川に攻撃を仕掛けようとスコーピオンを握っている。
「いつの間に」「そんな素振りは見えなかった」と騒いでいる観客達の中で、個人総合4位で迅に次ぐスコーピオン使いでもある風間が、その光景を見て静かに。
「相変わらずテレポートのタイミングが上手いな」
と、呟いた。
オプショントリガー〝テレポート〟。
視線の方向に使い手のトリオン体を瞬間移動させることができるトリガー。
一見すると便利そうなトリガーに映るが、まだ試作段階ということもあり移動直後に連続して使用することができない。
それは移動する距離が長ければ長い程、次に使用できるまでの時間が長くなってしまい、大体2メートルくらいの移動だと0.5秒程度だが、30メートル近く移動すると数秒間は使用できなくなってしまう。
さらに上位陣は視線の方向から移動後の位置を予測し当たり前のように狙い撃ちしてくるので、テレポートというトリガーはまさに絵に描いたようなハイリスクハイリターンなトリガーなのだ。
テレポートで太刀川の後方に回った迅はそのままスコーピオンを太刀川の背中に、正確に言えば太刀川のトリオン器官に向かって振るった。
不意打ちの一撃を避けてのまさかのカウンターに対し、太刀川は旋空孤月を放った勢いそのままに、身体をぐるんと半回転させることで、自身の孤月で迅のスコーピオンを見事受け止めた。
ガキンと刃同士のぶつかるカン高い音が、警戒区域に響き渡る。
「おいおい、危ないだろ?」
「開始と同時に旋空孤月を放つ人のセリフじゃないね」
「んなもん挨拶だ、挨拶」
どんな挨拶だよ。と鍔迫り合いをしながら会話する2人。
傍からだと、結構余裕そうに見えているが。
(このまま距離を取られると拙いな)
そう思った太刀川は左手の孤月も抜くと、左右2刀の孤月で迅に攻撃を仕掛けた。
唐竹からの逆風に袈裟斬からの左斬上、胴に逆袈裟、右斬上からの逆胴など、両手の孤月を使い、まるで流れるような剣閃を放つ。
それらの剣閃を、迅は両手に持ったスコーピオンを使って捌き、往なし、かわしていく。
普段弟子である花緒に孤月の指導をする時、太刀川は両手ではなく左手の孤月のみで指導している。それは花緒が左利きというのもあるが、太刀川は左手だけでもマスタークラスの実力があるからだ。
利き手じゃない左手だけでも達人級の実力を持っているのだ。それに利き手である右手が加わった両手で攻める怒涛の連撃は、達人が2人がかりで絶え間なく攻めているに等しい。
そんな1人連携攻撃とまで言われる太刀川の猛攻を、迅は文字通りたった1人で防いでいるのだ。
「……マジかよ。あの太刀川さんの攻めをスコーピオンで凌いでやがる」
「……ああ、凄いな」
B級2位影浦隊の隊長であり、自身もボーダー屈指のスコーピオン使いでもある影浦雅人の呟きに、隣にいる彼の親友兼ライバルである村上鋼も思わず同意する。
実際2人はこの光景は何度も、それこそ模擬戦の度に見ているが、はっきり言って迅があの太刀川の猛攻を1人で、しかもスコーピオンで凌いでいるというのが未だに信じられなかった。
体のどこからでも自由に出し入れができ、またその形状も自由に調節できるスコーピオンだが、その特徴故か少々脆かったりする。
つまり何が言いたいかと言うと、スコーピオンというのはアタッカーの
なのでスコーピオンで戦う場合は、相手とヘタに打ち合わずに奇襲による短期決戦で決めるのが常識であり、定石なのだが……。
そんなスコーピオンを両手に持ち、迅は太刀川のその圧倒的な剣閃をひたすら受け流していく。
スコーピオンの耐久力では、普通に受けると間違いなく太刀川の孤月に耐え切れず砕けてしまう。例えるならば鉄パイプの攻撃をガラス細工で防ぐようなものなのだ。
にもかかわらず迅は太刀川の攻撃の1つ1つを見切り、そして攻撃の流れをずらすように受け流すことで、この奇跡とも言える攻防を実現させているのだ。
「まるで映画のワンシーンみたい」
花緒が呟いたその言葉に、周りの隊員達も思わず納得してしまう。
絶え間なく続く流れるような攻撃の数々と、それを紙一重で見切り、そして受け流していく光景は、見ていてどこか現実感がなく、まるで時代劇の殺陣のような美しさがあった。
「予知の
その攻防のあまりもの美しさに、A級4位風間隊の菊地原が愚痴を溢す。
太刀川のあの猛攻を受け流せるのは、ましてやスコーピオンで受け流すことできるのは、ボーダー広しといえども迅しかいないだろう。はっきり言ってレベルが違いすぎる。
隊の全員がスコーピオンを扱い、ボーダー1の特殊部隊と言われている風間隊の一員である菊地原から見ても
菊地原自身、スクリーンに映る離れた位置からの2人を見ても、太刀川の孤月の先端は全く見えないのだ。ましてや正面から対峙している迅に太刀川の剣閃が見えているとは思えない。
だとしたら迅は自身が持つ予知の
菊地原も
「いや、それは違うぞ菊地原」
隊長であり、自身が最も尊敬する人間でもある風間が、菊地原の言い分を否定した。
「どういうことですか? 風間さん」
菊地原の問いにモニターを見ていた風間は「何、簡単なことだ」と前置きをして。
「迅の予知はただ未来を視ているんじゃなくて、これから起きるあらゆる可能性を何本も同時に視ている訳だが……」
風間は菊地原の方を振り向いて。
「あの嵐のような攻撃の中で未来を選択する時間なんてあると思うか?」
そう述べた。
そして、これが迅悠一を倒す有効な方法の1つだと。
予知の
ちなみに前者が忍田が得意としていて、後者は太刀川が得意としている。
だから現在、迅は自身の予知に頼らずに正真正銘自らの技量のみで太刀川の猛攻を捌いているだと風間は言った。
迅や小南といったベイルアウトが存在しない時代から
負けても逃げられない状態で敵と戦いながら何年も必死に街を守りながら遠征をし、そしてあの第1次近界民侵攻後まで死なずに生き伸びたのだ。
そんな彼らと、その後ベイルアウトが開発されて安全に街の防衛に当たれている時期に入隊したそれ以外の隊員達とでは、文字通り潜った修羅場の数が違うのだ。
――だがそんなこと。本物の〝天才〟の前では誤差に過ぎない。
太刀川の迅に斬りつける剣閃の中の1つが、攻撃途中にもかかわらず突然カクッと曲がった。
迅に攻撃を読まれていると感じた太刀川が、攻撃途中の孤月を無理やり曲げることで、迅に当てる攻撃箇所をズラしたのだ。
スコーピオンでは受けきれないと感じた迅は咄嗟にメイントリガーをスコーピオンからシールドに切り替えると、前方にシールドを張り巡らすことで太刀川の孤月を何とか受け止める。
しかし、シールドの防御力では太刀川の孤月は防ぐことができない。
太刀川の孤月が迅のシールド破壊すると、勢いそのままに孤月が迅へと肉薄する。
だが迅はシールドを孤月を受け止めるためではなく、孤月をかわす体制を整えるまでの時間稼ぎとして展開したのだ。
壊されることなど予定調和。迅はバックステップをして太刀川の攻撃の回避に見事成功する。
本来ならここで反撃のチャンスなのかもしれない。だがその程度では太刀川の優位は揺るがない。
迅がバックステップでかわした分を太刀川が前に1歩踏み込むことで、まるで何事も無かったかのように、太刀川が攻めて迅が守るという先程までと同じ光景に戻ってしまう。
「……だとしても、このままいけば太刀川さんの勝ちですね」
「そうだな。それは間違いない」
多少上手く防いだくらいでは、流れは変わらない。
このままいけば、いずれ太刀川が勝つだろう。
だが菊地原も風間もこのまま戦いが終わるとは欠片も思っていない。
このまま終わるような人間だったなら、迅は個人総合ランクで1位になれていないし、〝英雄〟などと持て囃されることも無かっただろう。
そして何より、まだ2人の全力を見ていないのだ。
――そして戦いは、2人の底が垣間見えるボーダーの頂きへと向かって行く。
ちなみに今戦っている2人よりも、忍田さんのほうが(まだ)強いです。
今回出てきた技の補足
・旋空孤月
このssでの旋空は起動時間を事前の設定するタイプで、敵が旋空孤月圏内にいる→旋空の起動時間を設定する→孤月を振るう瞬間に旋空を発動する→旋空発動時間内に孤月を振り切ることができれば旋空孤月成功。となっている。
孤月を扱うほとんどの隊員が、旋空の起動時間を1秒に固定して15mの旋空孤月を放っている中、忍田、太刀川、生駒の3名は、旋空の起動時間を調節することで、敵との距離に合わせた旋空孤月が放つことが可能。
特に生駒はボーダー1の剣速を誇り、旋空の起動時間を0.2秒に設定した40mの旋空孤月を、ボーダー内で唯一放つことができる。
・テレポート
原作では嵐山隊しか使っているのを見たことがないトリガー。
文字通りテレポートができるのだが、〝使用した直後に連続使用できない〟〝視線の先にしか移動できないので読まれやすい〟という欠点がある。
だが迅は戦闘時サングラスをしているので視線が読まれにくいうえに、予知の
長くなったので、後編に続きます。
後編は9月中に何とか……。
追記:現在後編執筆中です。戦闘描写難しすぎる……。