『未来が視える』副作用(サイドエフェクト)   作:ひとりがかり

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説明回です。読んでいて何か説明くさいなあと思ったら、それは筆者の実力不足ではなく、説明回だからです(説明)。


第4話 するべき事と、これから

 空閑遊真、三雲修、雨取千佳の3人が、近界(ネイバーフッド)の世界にいるであろう千佳の兄である雨取麟児と、友達の春川青葉を探すためにボーダーに入隊した翌日、ボーダー玉狛支部のリビングに3人とレプリカはいた。

 3人と1体は同じソファーに並んで座っていて、目の前には、『目指せ! 遠征部隊までの道のり!』と書かれたホワイトボードがある。

 そしてそのホワイトボードの横にはメガネを掛けた美少女とメガネを掛けていない美女が立っている。1人は宇佐美栞、もう1人は三輪巴である。

 ちなみに迅は、三雲達とは別のソファーでぼんち揚を食べながら様子を見ている。

 

「さて、皆さんは、これから千佳ちゃんのお兄さんと友達を探すために、近界(ネイバーフッド)への遠征部隊を目指す訳ですが……」

 

 巴の説明を聞きながら、宇佐美がホワイトボードに色々と書き込んでいく。

 

「ボーダー内ランクのA級にならないと、遠征部隊の選抜試験を受けられません」

 

 巴がホワイトボードをコンッと叩きながら、きっぱりと断言する。

 事実、何かと危険が多い遠征部隊は、ボーダーの精鋭と言われるA級隊員であることが最低条件なのだ。

 そしてホワイトボードには、食物連鎖を表す図のような三角形が書かれてあり、その三角形の上辺にA級、真中にB級、そして底辺にはC級と書いてある。

 

「入隊試験に合格し、戦闘員としてボーダーに入隊した人達はまず、訓練生であるC級隊員からのスタートになります」

 

 C級と書かれた所に、何故かメガネを掛けてる空閑と千佳のマグネット(宇佐美特製)が貼られる。

 

「そして、C級隊員達には、そこから様々な隊員育成プログラムを受けてもらいます」

 

 宇佐美がホワイトボードに、地形踏破訓練や対近界民(ネイバー)戦闘訓練といったプログラム内容を書き込んでいく。どれも近界民(ネイバー)と相対するのに必要不可欠な訓練だ。

 

「そして、それらの訓練等で好成績を残すと、晴れて正隊員であるB級隊員へと昇格するのですが……」

 

 B級の所には、何故か冷や汗をかいている三雲のマグネット(芸が細かい)が貼られてあり、そこの位置に空閑と千佳のマグネットを移動させる。

 

 ただ今回はですね、と巴は前置きをすると。

 

「城戸司令直々のスカウトとなる遊真くんと千佳ちゃんは、入隊試験免除のうえ、訓練生のC級隊員ではなく、三雲くんと同じ正隊員のB級隊員からのスタートになります」

 

 その言葉に、三雲と千佳が驚く。空閑はよくわかっていないようだが、宇佐美も事前に迅と巴から聞いた時にはビックリしたのだ。間違いなくボーダー創設以来、初めての事態である。

 

「城戸司令がスカウトすると、いきなり正隊員からスタートになるんですか?」

 

 三雲が感心したように尋ねた。

 本部司令直々の推薦だとこういった特典がつくのか、と思っていると。

 

「そんな訳ないじゃないですか」

 

 そんな訳なかった。

 

 確かにボーダーの隊員にスカウトされると、入隊試験試験免除などの特典があるが、訓練も何もしていないのに、いきなり実際に近界民(ネイバー)と戦う正隊員からのスタートなんていうのは本来なら有り得ない。

 だが、今回はそうせざるを得ない理由があった。

 

「遊真くんと千佳ちゃんは、一刻も早くB級隊員になってもらう必要があるからです。……千佳ちゃんはわかりますか?」

 

 一刻も早くという言葉に、千佳はハッと気づく。

 

「……早ければ来月の初めにも、その、沢山の近界民(ネイバー)が攻めてくる、あの……」

「はい、そうです。第2次近界民侵攻です」

 

 巴がそのことをあえて千佳に質問したのは、本人に強く自覚してもらうためだ。

 迅の予知では、第2次近界民侵攻は、ボーダーと敵勢力による雨取千佳の奪い合いになる可能性が高いと出ている。

 それは彼女が類い稀なるトリオンを保持しているからだろう。

 にもかかわらず、千佳は今まで近界民(ネイバー)と直接戦った経験がない。敵からすれば、雨取千佳はカモがネギを背負っているどころの話ではない。黒トリガーがそのまま道に落ちてるようなものだ。

 

「B級になれば、近界民(ネイバー)との戦闘にも参加できますし、使うトリガーも正式なものになりますから」

 

 C級隊員は訓練生なので、訓練以外のことは隊務規定により禁止されている。

 なので第2次近界民侵攻時に、空閑と千佳がC級隊員だった場合、基本戦闘行為ができないうえ、万が一戦うにしても訓練用のトリガーで戦わなければいけなくなってしまうのだ。

 まあ空閑の場合は、父の形見の黒トリガーがあるが。

 

「だから、城戸司令がスカウトしたというのは、2人がいきなりB級隊員からスタートするのを、周囲に納得させるためです」

 

 第2次近界民侵攻のことは、まだボーダー上層部と一部の隊員、あとは内閣総理大臣を初め、三門市長に警察や自衛隊、あとは病院のトップといった、ことが起きてしまう前に色々と準備が必要な機関にしか伝えていない。

 それは、下手なタイミングで知られることで、三門市に住む人達にパニックを与えないようにするのと同時に、敵にそのことを知らせないためでもある。

 なぜなら迅の予知では、この時期に大量の近界民(ネイバー)が攻めてくることを発表すると、敵の数が4割から6割程増えると出ている。

 ほぼ間違いなく、敵は今の時期に攻めて来ているトリオン兵達から情報を集めて解析しているのであろう。

 なので、第2次近界民侵攻のことは、まだ世間には伏せておかなければならない。だからこそ、周りが納得できるような理由や箔が必要なのだ。

 

「あの……大丈夫なのでしょうか?」

 

 おずおずと、質問をしたのは千佳だ。

 確かにこの方法はズルをしているとも取れるし、もしバレたのなら色んな人に、特に城戸司令に迷惑を掛けるのではないかという思いがよぎる。

 

「う~ん。多分大丈夫じゃないかな」

 

 答えたのは迅だ。

 ボーダーという組織は基本実力社会なのだが、親のコネでA級1位の太刀川隊に入った唯我尊という前例があるせいか、規定が厳しいわりに、以外とそういった一面があったりもする。

 なので、バレたのならバレたで色々とやりようはあったりするのだ。

 

「それに、これはメガネくんにも言ったけど」

 

 迅は千佳を見ると。

 

「パワーアップは、できる時にしといたほうがいい」

 

 でないと、いざって時に後悔するぞ。

 と、いつものヘラヘラした顔をせず、真剣な顔をして言った。

 過去に“何か”があったのだろう。重い言葉だった。

 

「悠一さんの言う通りですよ。『訓練用トリガーだから連れ去られました』ではシャレになりませんから」

『迅と巴の言う通り、万全の状態で臨むべきだ』

 

 迅の言葉に巴、レプリカが同意する。

 敵の狙いが千佳である可能性が高い以上、千佳には万全の状態でいてもらわなければならない。

 

「なあ千佳、やめるのなら今のうちだぞ」

 

 千佳がボーダーに入るのを、正確には入る時期を変えるように言っているのは三雲だ。

 昨日さんざん話し合った結果、三雲は千佳がボーダーに入るのは納得したが、第2次近界民侵攻に参加するのは現在も反対なのだ。

 いくらトリオン保有量が多いとはいえ、千佳は何の訓練も受けていない一般人に過ぎない。それが来月にも起きてしまう侵略戦争に参加すると言うのだ。反対しない方がおかしい。

 トリオン保有量が少ない自分と比べなくても、千佳は才能がある。敵が侵攻してくるのが1年後、いや、せめて半年後ならばここまで反対しなかったのかもしれない。でも実際、早ければ来月の初めには大量の近界民(ネイバー)が、トリオンの多い人間を求めて攻めてくるのだ。

 三雲には、これから攻めてくる近界民(ネイバー)達が、千佳を浚いにやって来るとしか思えなかった。

 

「心配してくれてありがとう、修くん」

 

 千佳は三雲の目をしっかりと見て。

 

「でもわたし、第2次近界民侵攻に参加する」

 

 そして、はっきりと宣言した。

 

「どうして!?」

 

 千佳のその言葉に、思わず三雲は大声を出してしまう。

 だが、誰もそのことに関して咎めることもなく、ジッと2人の様子を見ている。

 迅の予知に頼らなくてもわかる。ここが2人のターニングポイントだと。

 

「修くん、昨日言ってたよね?」

 

 それは、とても優しそうな声で。

 

 

「『自分が〝そうするべき〟と思ったことから一度でも逃げたら、きっと本当に戦わなきゃいけない時にも逃げるようになる』って」

 

 

 このセリフは、昨日空閑に『オサムはなんで死にかけてでも人を助けるんだ?』と聞かれた時に答えたセリフだ。一度、自分に言い訳をして逃げてしまうと、肝心な時でも逃げるようになってしまうと。

 

「わたしもそう思うよ。だから、逃げたくないの」

 

 千佳は、自分が〝そうするべき〟と思うことを言った。〝逃げたくない〟と。

 みんなが自分を守るために戦っている中で、自分だけ逃げたくないと。そして、兄と友達を探すという目的からも逃げたくない、とも。

 

「――わかった」

 

 三雲は納得した。納得せざる負えなかった。

 〝危ないから参加しないでおこう〟と考えている人間が、遠征部隊の一員に選ばれる訳がないし、ましてや近界(ネイバーフッド)の国の中で囚われているであろう兄や友達を見つけられる筈がない。

 千佳にとって第2次近界民侵攻に参加することは、とても意味があることなのだと、三雲は理解させられてしまった。

 

「もちろん、私達ボーダーも千佳ちゃんが捕まらないように全力を尽くしますよ」

「そうだよ。全力でサポートするよ~!」

「大丈夫だよ、千佳ちゃん。未来なんてなんとでもなる」

『そうならないために我々がいる』

「そうだな。せっかく友達になったしな」

 

 リビングにいるみんなの気持ちが千佳に伝わる。とてもあたたかくて、そして強い気持ちだ。

 

 今まで、それこそ第1次近界民侵攻以前から、千佳はそのトリオンの保有量の多さから度々近界民(ネイバー)達に狙われてきた。

 だがボーダーが公になる前だったこともあり、周りの大人達は誰も千佳の言うことを信じようとしなかった。信じてくれたのは兄である麟児と、友達の春川、そして幼馴染で、今も目の前で自分を心配してくれている三雲しかいなかったのだ。

 そして現在、千佳の前には三雲しかいない。

 兄も春川も千佳の代わりに近界民(ネイバー)達に連れ去られてしまった。

 以来千佳は人に頼ることを恐れて、誰にも頼らずにたった1人で近界民(ネイバー)と戦ってきた。トリガーを持っていない千佳は、近界民(ネイバー)達と直接戦わず、ただひたすら見つからないように逃げるしか方法がなかった。それでも、千佳は今までずっと1人で戦ってきたのだ。

 

 そんな千佳を助けたくて三雲はボーダーに入った。ボーダーに入ればきっと千佳を助けられると、そう信じて。

 

 そして現在千佳の周りには三雲を初めとして、沢山の人達が、それこそボーダーと言う組織が千佳を守るために力を貸してくれている。

 千佳は、それは三雲のおかげだと思っている。三雲が〝そうするべき〟ことをしてきたおかげだと。

 だから、自分も〝そうするべき〟ことをすれば、きっと大丈夫。

 だって今の自分には、こんなにも頼りになる人達がいるのだから。

 

「……ありがとう……ございます」

 

 千佳は立ち上がると、そう言って頭を下げた。

 その言葉にどれだけ意味が込められているかは、本人以外はわからない。

 だけど、それを聞いた皆がさらに決意を固めには十分な言葉だった。

 

「それでは、説明を続けますね」

 

 巴は優しく微笑むと、説明を続けた。

 

 

 

 

 

 

「――そして、1月8日の正式入隊日でB級になった3人は、自分達の部隊を作って本部に登録することができますので、3人で部隊を編成してもらいます。そしてその後、ボーダー隊員同士の模擬戦、通称ランク戦をくり返し、ランク戦上位2チームがA級チームとの昇格戦を行い、勝てば晴れてA級に昇格です」

 

 B級の所にある3人のマグネットをA級の所に押し上げる。

 

「あとはA級部隊のみを対象とした選抜試験に合格すれば、遠征部隊に選ばれるという仕組みです」

 

 A級の所にある3人のマグネットを遠征部隊と書かれた所に移動させる。

 

「まあ、つまり三雲くん達3人で部隊を作って、その後ランク戦で勝ちまくればそのうち遠征部隊に選ばれます」

 

 身も蓋もない言い方だった。

 

「ふむ、わかりやすい」

 

 空閑には好評だった。

 

 

 

 

 

 

 そして話はランク戦に移行して。

 

「ランク戦と言うのは、要するにチームでする模擬戦のことです。自分達で作った部隊と他の人達が作った部隊で模擬戦を繰り返し、ボーダー内での強さの順位を決めようというものです」

 

 3人と1体のトリオン兵が巴の説明に頷く。

 

「そしてボーダーの部隊は、実際に近界民(ネイバー)と戦う戦闘員と、そんな彼らを支援するオペレーターによって構成されています」

「トモエさん。オペレーターってなに?」

「レプリカさんみたいなものです」

「なるほど」

 

 これも身も蓋もな言い方だが、間違ってはいない。

 なぜならオペレーターの仕事は、戦闘員のサポートだからだ。

 狙撃ポイントの割り出しに、敵の位置情報解析に移動経路予測、自分達の逃走経路の確保など、レプリカが普段空閑にやっていることとあまり大差がない。

 事実オペレーターの役割を話すと、レプリカも納得したように頷いていた。

 

「皆さん戦闘員志望なので、オペレーターは栞ちゃんが兼任してくれることになりました」

「3人ともよろしくね~!」

 

 宇佐美の挨拶に返事を返す一同。

 

「ランク戦っていつからできるの? 今日から?」

 

 質問をしたのは空閑だ。

 早く戦ってみたいのだろう、ウズウズしている。

 

「3人がランク戦に参加できるのは来年の2月ですね」

「……ながいな」

 

 実際ランク戦はシーズン途中に参加することができないので、3人が参加できるのは、次のシーズンが始まる来年2月からになる。第2次近界民侵攻の後になる可能性が高い。

 

「はい。なので、ここで言いたいのは、このランク戦で組む部隊が、そのまま防衛任務でも一緒に戦うチームでもあるということです」

 

 巴の言葉にハッする3人と、なるほど、と頷く1体。

 

「つまり、皆さんで第2次近界民侵攻に挑むことになるということです」

 

 もちろん迅や巴といったボーダーの隊員達も一緒に戦ってくれるメンバーなのだが、彼らは彼らで自分達の役目があるので、常に一緒に戦ってくれるとは限らない。

 だけど三雲に空閑、そして千佳の3人は同じチームの仲間なので、第2次近界民侵攻中はずっと一緒にいることになるのだ。

 

 そしてこれが、空閑と千佳をB級に上げる最大の理由だ。

 第2次近界民侵攻時には、C級隊員は単独行動をさせず、まとまって行動させる予定なので、2人をC級隊員にしておくと最悪の場合、千佳と一緒に、他のC級隊員達まで連れ去られてしまう可能性が出てくる。

 もちろんボーダーとしても、そんなことをさせるつもりなどないが、可能性がある以上排除させるべきだし、何より近くにC級という足手まといがいると、B級以上の隊員達も千佳を守りにくくなってしまう。

 なので実は今回の、空閑と千佳の2人をB級からスタートさせるという案も、ボーダー上層部内では、前例がないにもかかわらず、満場一致で可決されてたりするのだ。

 

 

 

 

 

 

「それでは次に戦闘用トリガーの説明をしますね。栞ちゃん?」

「はいはーい。これがボーダーのトリガーだよ」

 

 宇佐美は、3人の目の前にあるテーブルに、ボーダーのトリガーが内蔵されているトリガーホルダーを置いた。

 自分達がこれから使って行く武器だ。

 ほうほう、と3人と1体は興味深そうに覗き込むように見ている。

 

 ああ、そう言えば、と迅は言うと。

 

「遊真の黒トリガーは、防衛任務はともかく、ランク戦では使えないぞ」

「ふむ……なんで?」

「黒トリガーは強すぎるからな。自動的にS級扱いになってランク戦から外されるんだ」

「なんと!」

「おれもランク戦に参加する時は風刃を本部に預けてるからな」

「ふむ……そうなのか。じゃあ使わんとこ」

 

 あとは本部承認のトリガーでないことも理由に挙げられる。

 宇佐美がオペレーターを務める玉狛第一部隊がランク戦に不参加なのもこれが理由だったりする。

 

「あの、すいません。質問いいですか?」

 

 質問を希望しているのは三雲だ。何やら聞きたいことがあるようだ。

 

「はい、もちろんいいですよ」

「あの、迅さんと三輪さんは、同じ部隊にいるんですよね?」

「そうですね。私は悠一さんが隊長を務める迅隊のメンバーですよ」

 

 昨日の鍋パーティーで、三雲は玉狛支部にある2つの部隊、玉狛第一部隊と迅隊が両方A級ランクにいる部隊だと聞いていたので、その時にふと疑問に思ったことを聞いてみた。

 

「玉狛第一の人達には昨日の鍋の時に会ったんですけど、迅隊の人達は迅さんと三輪さん以外まだ会ったことがなくて。一体どんな人達かなと思って」

 

 玉狛第一のメンバーである小南桐絵に烏丸京介、そして隊長の木崎レイジとは、昨日の鍋パーティーの時に出会ったが、迅隊のメンバーは、まだ迅と巴以外会ったことがないので、三雲は一体どんな人達だろうと実は秘かに気になっていたのだ。

 

「いませんよ?」

「…………はい? えっどうして?」

「いやだって現在迅隊は、隊長の悠一さんとオペレーターの私の2人組の部隊ですから」

 

 この子何言っているの? みたいな顔で巴は言っているが、これは巴のほうがおかしい。

 ボーダーのランク戦は皆、本部承認の共通のトリオン体に、共通のトリガーで戦うのだ。単純に数の差は脅威だし、1人では連携もできないので圧倒的に不利になる。

 実際のランク戦でも、序盤に1人になってしまったチームが勝利することなどまずありえない。三雲が思わず聞き返したのも当然だ。

 でもこれが、A級ランク2位部隊の迅隊のメンバー構成なのだ。

 結局この質問でわかったのは、迅のデタラメさだけだった。

 

 

 

 

 

 

「で、これがトリガーホルダーの中身ね」

 

 宇佐美は強引に話を戻した。

 

 3人と1体は分解されたトリガーホルダーの中を覗き込むと、そこには、小さなチップが上4つ下4つの計8つが中に入っていた。

 宇佐美の説明によると、いわゆるトリガーとは、このホルダーの中にある小さなチップのことで、この小さなチップが使用者のトリオンをどういう形の武器として表に出すのか決めているという。このホルダーの場合、チップが8つあるので、合計8つの武器を表に出して戦うことができるとのことだ。

 

 宇佐美がホルダーの中にある上4つのトリガーを指さし。

 

「こっちが利き手用の(メイン)トリガーで、こっちが反対の手用の(サブ)トリガーね。両手で2種類同時に使うことができるの」

 

 利き手用に収められている主トリガーの中からどれか1つと、反対の手用に収められている副トリガーの中にあるどれか1つを左右同時に出して戦うことができる。

 つまりその時の戦況に応じて、(メイン)トリガーの中にある4つの武器と、(サブ)トリガーの中にある4つの武器を選んで変えることができるのが最大の特徴だ。

 

「そして戦闘員には、戦う距離に応じて主に3つのポジションがあるんだけど……」

 

 巴はホワイトボードに近距離攻撃手(アタッカー)、中距離攻撃手(シューター、ガンナー)、遠距離攻撃手(スナイパー)と書き込んでいく。どうやら使用するトリガーによって戦うポジションが変わるようだ。

 

「まあ、百聞は一見にしかずと言うし、実際に使ってみよっか?」

 

 このあと本部に用があるためリビングに残った迅に見送られながら、皆で支部の地下にあるトレーニングルームへと移動した。

 

 

 

 

 

 

 ――玉狛支部トレーニングルーム001号室。

 

「どうなってるんですか? これ……。基地の地下にこんな広い部屋があるなんて……」

 

 トレーニングルームに入った三雲は、地下とは思えないその広さに驚いていた。建築的な面からみても明らかにおかしい。

 

『トリガーで空間を創っているからね。だから実際はそこまで広い部屋じゃないよ』

 

 別室から何やら操作している宇佐美の声が聞こえる。

 トリガーで空間を創る?

 三雲と千佳が疑問に思っていると。

 

「三雲くんや千佳ちゃんは、トリガーを近界民(ネイバー)と戦う武器だという認識だったりします?」

「あっはい。そうです」

「違うんですか?」

 

 巴からの質問に、三雲と千佳が揃って答える。

 三門市に住む人達は、ボーダーの隊員達がトリオン兵らと戦う際に、よく『トリガー()()』と叫びながら戦っているので、どうしてもトリガー=武器という認識が強かったりする。

 

「トリガーというのは、近界民(ネイバー)文明の根幹を支えている技術(テクノロジー)の総称のことです。それは武器に限らず、近界(ネイバーフッド)の国々では、生活のあらゆる所でトリガーが使われているんですよ。それに、レプリカさんも言ってみればトリガーですから」

 

 そう言われて、三雲と千佳は思わずレプリカを見る。この様々な特殊能力を持ち、人間以上の知能を誇る自立型トリオン兵もまた、トリガーなのだ。そう考えると空間を創ることも造作もないような気がする。まさに“とりがーのちからってすげー”である。

 

「まあ、その便利なトリガーも、トリオンという燃料がなければ作動しない訳ですが」

 

 そしてトリオンは〝人間〟からしか生成されない。

 だからトリオン保有量が多い千佳は常に狙われてしまうし、近界(ネイバーフッド)の国々でも戦争が絶えない理由の1つとされている。

 

『だけどこのトレーニングルームは現在、仮想戦闘モードにしてあるから、どれだけトリガーを使ってもOKだよ』

 

 宇佐美のその言葉に反応したのは、三門市出身の三雲と千佳ではなくて。

 

「えっ? それどういうこと?」

『詳しく説明して欲しい』

 

 近界(ネイバーフッド)出身の空閑とレプリカだった。

 

『開発したのは、ボスと鬼怒田さんだから詳しくは知らないけど……』

 

 それでもいいなら、と宇佐美は前置きすると。

 

『仮想戦闘モードってのは、コンピューターとトリガーをリンクさせてトリオンの働きを疑似的に再現するモードなの。なので実際にトリオンを消費してる訳じゃないから、継続的な戦闘訓練ができるって訳なんだ』

「ふむふむ、つまりトリオンが減らない訓練モードか。便利だな~」

『なるほど。トリオンを疑似的に再現しているだけだから、実際にトリオンを消費しない代わりに相手にダメージも与えられないという訳か。確かに訓練に相応しいモードだ』

 

 宇佐美の説明に、空閑とレプリカも納得したようだ。

 

『そういう訳で、今ここではどれだけトリガーを使っても大丈夫だから、巴さん、トリガーの説明お願いしますね』

「はいは~い、了解しました。栞ちゃん」

 

 そう返事をして、巴は三雲に空閑、千佳の3人のほうに向くと。

 

「それでは今からボーダーにある全てのトリガーの説明をしますので、3人にはこれからその全てのトリガーを試してもらいます」

 

 その言葉に、空閑とレプリカは納得しているようだが、三雲と千佳は驚いている。

 

「あの、どうして全てのトリガーを試すんですか?」

 

 トリガーの数は多く、攻撃用トリガーだけでもアタッカー用にガンナー用、シューター用にスナイパー用があり、それに加えて防御用トリガーやオプショントリガーといったものまである。1つ1つのトリガーを試していたら、間違いなく日が暮れてしまう。

 だからせめて攻撃用トリガーだけでも、自分のポジション用のトリガーに絞ったほうがいいのではと思い、三雲は質問したのだが、

 

「いや、だって今度このトリガーを使う人達と一緒に戦うからでしょ?」

 

 何でもないように言った空閑の一言に、三雲と千佳は揃って「なるほど」と納得した。

 そうだ、これは単に自分達が使うトリガーじゃなくて、第2次近界民侵攻や防衛戦でボーダーの仲間達が使用するトリガーでもあるのだ。一緒に戦う仲間達が使用するトリガーを知らない場合、連携どころか、足を引っ張ってしまう可能性だって出てしまう。

 

『それに、ランク戦で戦う相手のトリガーを知るためでもあるのだろう』

 

 空閑の説明にレプリカが補足する。

 3人の本来の目的は、第2次近界民侵攻に生き残ることではなく、遠征部隊の1員として、近界(ネイバーフッド)にいる千佳の兄と友達を見つけることだ。

 なので今後ボーダーで行われるランク戦や遠征部隊の選抜試験で模擬戦をする場合に、相手のトリガーの性能を知っていると、その対策も立てやすくなることにも繋がる。

 

「そういうことです」

 

 何か先程からこのパターン多いなと思いながら、巴も同意する。

 空閑のこの中学生とは思えない合理的な考え方は、今までの人生経験もあるだろうが、間違いなく父親である有吾の影響なのだろう。

 

「まず、アタッカー用トリガー〝スコーピオン〟の説明からしますね?」

 

 これは戦闘員としては、自分が教えられるようなことはないのかもしれない。

 巴はそう思いながら、スコーピオンを起動させた。

 

 

 

 

 

 

 そして3人は、巴の説明を聞きながら、1つずつトリガーを起動させていった。

 

 黒トリガーレベルのトリオン量を誇る千佳が、シューター用トリガー〝アステロイド[通常弾]〟を使用した時の、その分割されたトリオンキューブのあまりの大きさに千佳を含めた全員がビビったり。

 逆にオペレーターレベルのトリオン量を誇る三雲が、千佳と同じようにアステロイドを使用した時の、その分割されたトリオンキューブのあまりの小ささに、空閑が思わず「なんか角砂糖みたいだな」と呟いて三雲を落ち込ませてしまったり。

 そして類い稀なる戦闘センスを持つ空閑が、オプション用トリガー〝グラスホッパー〟を僅か数回でものにして、そのあまりのセンスの高さに全員が脱帽したりと。

 

 3人は、ボーダーの戦闘員が使用する全てのトリガーを実際に試し、そして試した感想を言い合いながら、自分に合う合わないを、1つ1つ時間を掛けてしっかりと確認していった。

 

 

 

 

 

 

 ――そして4時間後。

 

「どうです? 使うトリガーとポジションは決まりました?」

 

 巴の言葉に自信を持って頷く3人と1体。

 4時間もかけてポジションとトリガーを選んだのだ。もうこれしかないという気持ちがある。

 

「1つ言っておきますが、これで完成じゃありませんからね?」

 

 頷く空閑とレプリカに、驚く三雲と千佳。

 どうでもいいが、空閑とレプリカは優秀すぎるし三雲と千佳は驚きすぎである。

 

「戦う相手やその時の状況によって、トリガーは変えるべきだからな」

『それにトリガー技術(テクノロジー)は日々進化している。今後自身に合うトリガーが制作される可能性もある』

「確かにそれもありますが……」

 

 空閑とレプリカの言っていることは間違いではない。その場に応じてトリガーを変えられるほうが戦いの幅が広がるし、A級ランクになれば自分好みにトリガーをカスタマイズできるから、その時にトリガー構成も変わるのだろう。

 でもそれ以上に、巴は3人に伝えたいことがあった。

 

 ――それは。

 

「あなた達自身が、まだ成長途中ですから」

 

 三雲と千佳はもちろんだが、空閑もまだ15歳の中学3年生なのだ。

 巴は空閑をしっかりと見ると。

 

「これからあなた達3人は様々なことを経験していきます」

 

 例えばそれは、学校や玉狛支部で過ごす日常であったり。

 例えばそれは、ボーダーでのランク戦や防衛任務、そして近界(ネイバーフッド)への遠征であったり。

 例えばそれは、自分の至らなさ故に足を引っ張ってしまった時の、皆への申し訳なさや自身への不甲斐なさだったり。

 例えばそれは、千佳の兄や友達を救出した時にした握手やハイタッチの感触だったり。

 これからの人生、3人は沢山のことを学び、そして成長していくのだろう。

 

 ――だから。

 

「だからこのトリガー構成は、あくまで現時点での最適な組み合わせに過ぎないのですよ」

 

 巴の言ったことは、別に特別なことではない。むしろ当たり前のことだ。

 でもそんな当たり前のことを、巴は人生の先輩として3人に、特に自身の境遇からか、どこか達観している空閑にどうしても伝えたかったのだ。

 人生は、まだまだこれからだと。

 

「わかりました」と言う三雲と千佳に対し、空閑は少し驚くと。

 

「これからもご指導とごべんたつのほどを」

 

 よろしくお願いします。と頭を下げた。

 

 

 

「さて、皆さん。1つ言い忘れていましたが、先程話した空閑くんと千佳ちゃんのB級スタートの件ですが、実は上層部から1つだけ条件をもらっています」

 

 その言葉に驚く3人。

 でも確かに今回のことは、ボーダー創設以来初めての事態らしいので、一体どんな条件なんだろうかと思っていると。

 

「それは『三雲修、空閑遊真、雨取千佳、以上の3名が、1月8日の正式入隊日の時点で正隊員レベルの実力を所持していること』です」

 

 巴は上層部から出された条件を読み上げる。

 それは、正隊員からスタートするのだから、正隊員としてふさわしい実力を持てという、至極真っ当な条件だった。空閑と千佳の件なのに、さりげなく三雲も条件に含まれているところがポイントだ。

 その条件を聞いて「なるほど」と納得している空閑と千佳だが、今から3週間ほどで1人前になれと言っているのだ。唯一その条件の大変さを理解している三雲は、冷や汗をかきながら「ハハハ」と苦笑いしている。

 

「なので3人には、明日から玉狛支部で特訓を受けてもらいます。そう、通称――迅ズブートキャンプを」

 

 なぜか巴は目から星のようなものをキランと出しながらドヤ顔で宣言した。

 

 修行編が始まる。

 

 

 




このssでのA級ランクは、
1位――太刀川隊
2位――迅隊
3位――冬島隊
4位――風間隊
5位――草壁隊
6位――三輪隊
7位――嵐山隊
8位――加古隊
9位――片桐隊
ランク外――玉狛第一隊
となっています。
迅悠一率いる迅隊がランク戦に参加したことで太刀川隊以下が1つずつ順位を落としている状態です。
そして巴の弟の秀次が、迅を倒すために努力しまくった結果、三輪隊の順位が原作より上がっています。
ちなみに原作よりもボーダーに所属している人が多いという設定があるので、B級は28位まであります。



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