『未来が視える』副作用(サイドエフェクト)   作:ひとりがかり

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書き終わった時点では約4500文字だったのに、見直しながら手直しをしていたら、いつの間にか10000文字オーバーしていました。
とりあえずは読める状態になったと思いますので投下します。


第2話 笑顔の意味(中編)

 昨日の対策会議が終わったあと、私と悠一さんは、件の近界民(ネイバー)である最後のピースさんにボーダーに入隊してもらい、そして来たる第2次近界民侵攻にて、私達と一緒に第2次三門市防衛戦に参加してもらうには一体どうすればいいのか、夜遅くまで話し合いました。

 

 そして次の日の朝、正体がバレないようにサングラスをした私と悠一さんは、現在電柱の影で、三雲くんが家から出て来るのを今か今かと待っています。

       

 …………違うんです。これにはちゃんとした理由があるんです。

 

 元々はこんなことをせずに、直接三雲くんに会って最後のピースさんを紹介してもらうようにお願いする予定でした。

 だけど昨日の会議のあとに悠一さんが、『下手な接触をしてしまうと最後のピースが警戒して近界(ネイバーフッド)に帰ってしまう未来もあるよ』と言ったので、急遽私と悠一さんの2人よる延長戦が深夜まで行われることになったんです。

 そしてその結果、奥の手であるプランBが日の目を見ることになりました。

 プランBとは、こっそりと三雲くんの後をつけ、三雲くんと最後のピースさんがいい感じの状態になっている時を見計らって「やあやあ、お2人さん」と言いながら接触しようという、昨日の深夜に急遽立てた作戦のことです。

 ちなみに現在私と悠一さんがしているこのサングラスは開発室のお手製で、なんとステルス機能を持つ優れ物です。動いているとステルス機能が解けてしまう欠点がありますが、ジッとしている分にはレーダーなどを使わないと発見できないという、すごい物なのです。

 

 とはいえ、朝早くから電柱の影で1軒の家をじっと見ているサングラスを掛けた男女2人組。

 

 ……うん、今の私達は完全に不審者ですね。

 

 初っ端からつまずいた気がしますが、今回の任務に失敗は許されません。

 なぜなら最後のピースさんが近界(ネイバーフッド)に帰ってしまうと、この先かなり不味い事態になってしまう可能性が極めて高いからです。

 

 まず第一に考えられるのは、今回のイレギュラー(ゲート)問題の解決が遅れてしまうことでしょうか。

 現在はボーダー本部基地内のトリオンと城戸さんの黒トリガーを使って、(ゲート)の発生自体を無理やり抑え込んでますが、それもあと4日程経つと、全てのトリオンを使いきってしまい、その抑え込みもできなくなってしまいます。

 そうなると解決までの間、ボーダーの隊員達は本部周辺だけでなく、三門市全域を24時間体制で防衛していかないといけなくなってしまいます。

 当然そんなことができる余裕などあるはずもないですし、仮にあったとしても、そのイレギュラー(ゲート)問題が解決するまでの間は、常に後手に回って対応していくことになります。

 

 そしてそのイレギュラー(ゲート)問題が解決できたとしても、そのあと休む間もなく第2次近界民侵攻が起きてしまいます。

 

 イレギュラー(ゲート)問題で後手に回り、多くの被害を出してしまった結果、三門市民達の信用がガタ落ちし、そして24時間体制での三門市全域の防衛によって隊員達も疲労困憊の中で起きてしまう、大量の近界民(ネイバー)達の侵攻による第2次三門市防衛戦。そうなってしまうと――――

 

「――はひゃい!?」

 

 そんなことを考えていると、誰かが私のお尻を触りました。

 誰かっていうか、犯人は1人しかいませんけど。

 

「もう、悠一さん! 仕事中はダメだって言ってるじゃないですか!」

「ごめんごめん」

 

 私はお尻を抑えながら悠一さんのほうに向いて抗議しますが、悠一さんは平謝りするだけで全然反省しているように見えません。

 ごめんごめん、じゃないですよ。朝から何やってるんですか、もう。

 

「昨日会議の終わりに巴と目が合った時に今日さわれそうだな「とわー!」おっと」

 

 その言葉を聞いた瞬間、私は悠一さんが持っているぼんち揚の袋を奪おうとしましたが、見事避けられてしまいました。さすがはボーダーの英雄ですね。素晴らしい瞬発力です。

 

 ですが問題はそこではありません。

 先程悠一さんは『会議の終わりに巴と目が合った時』と言いました。ということは、昨日私が胸の高鳴りを憶えたあの微笑み。あれが実は私のお尻がさわれるから出た笑みだったということです!

 

「悪かったって、巴」

「ダメです! そのぼんち揚は没収です!」

 

 私の猛攻をヒョイヒョイと避けながら悠一さんは謝りますが、いーえ許しません。

 私のときめきを返して下さい! このっ! このっ!

 

「……すいません。ここで何を?」

 

 声がした方を見ると、そこには私達を見て、明らかに身も心も引いている三雲くんがいました。

 

 ……どうやらいつの間にか家から出ていたようです。

 

 本音を言うと逃げ出したいほど恥ずかしいけれど、さすがにそういう訳にもいきません。なのでここは、臨機応変にプランB(尾行する)からプランS(説明する)に作戦を変更していきます。

 チラッと悠一さんの方を見ると、悠一さんはこちらを見て頷いたので、ここはきっと私に説明しろという意味なんでしょう。多分。――よしっ。

 

「三雲くんは悠一さんの副作用(サイドエフェクト)って知ってましゅか?」

 

 噛みました。

 

「えっ? あっ、はい。えっ? 迅さんって副作用(サイドエフェクト)持ちなんですか?」

 

 ……三雲くんはどうやら悠一さんの予知のことを知らないようです。なので私はできるだけ平常心でサングラスを外しながら、三雲くんに悠一さんの副作用(サイドエフェクト)のことから説明することにしました。

 そして私達が変装をして電柱で騒いでいたことや、先程噛んでしまったことも、半分は隣で爆笑している悠一さんのせいであり、決して私1人がおかしい訳ではないことも説明します。

 

 

 

 

 

 

「――――という訳で、悠一さんが昨日の会議で三雲くんを見た時に、三雲くんと白い髪の子がイレギュラー(ゲート)の原因を見つける未来が見えたので、ここで三雲くんを待っていた訳ですよ」

「……すごい副作用(サイドエフェクト)ですね」

「すごすぎて手に負えないけどな」

「まったくです」

 

 そんなことを話しながら、私達3人はその予知で見えた、イレギュラー(ゲート)の原因があるであろう場所へと向かうことになりました。

 ちなみに電柱の件と噛んだことについては、(三雲くんの大人の対応により)お互い何も見てなかったし聞いていなかった、ということになりました。三雲くんは良い子です。

 

 

 

 そしてしばらく3人で住宅街を歩いていると、どうやら目的の場所が見えてきました。

 その目的の場所は、おそらく昨日のイレギュラー(ゲート)で現れたトリオン兵による攻撃跡地のようですね。あちこちにクレーターがありますし。

 そしてそれらのクレーターの中でも一際大きなクレーターの中心に、屈んで何かをしている白い髪の男の子がいました。

 ……おそらくと言うか、間違いなくあの子が最後のピースさんですね。悠一さんが言っていた特徴と一致しますし。

 思っていたよりも若いですね。年は多分12、3歳くらいかな?

 少なくとも見た目だけでは、あの子が近界民(ネイバー)なのかどうかなんてわからないですね。

 

「空閑!?」

「オサム……と、どちらさま?」

「おれは迅悠一、よろしく! ぼんち揚食う?」

「三輪巴です。よろしくお願いします」

 

 どうやら三雲くんと最後のピースさんはすでに知り合いのようですね。

 そして最後のピースさんの名前は空閑くんと言うのですか……空閑?

 まあとにかく、私と悠一さんは空閑くんとは初対面なので、自己紹介も兼ねて挨拶します。

 

「おれは空閑遊真といいます。これはこれは、ごていねいにって……あれ?」

 

 空閑くんがぼんち揚を食べながら挨拶を返してる途中で、何か気づいたようです。何かな? 

 

「どうした、空閑?」

「ジンとトモエ……どこかで聞いたような……?」

『エスタンシアだ、ユーマ』

「ああ、そうだ。エスタンシアだ」

 

 空閑くんの疑問に対し、空閑くんの手から答えが出て来ました。

 どうやら答えたのは空閑くんの手ではなく、その指に嵌めている黒い指輪のようですね。そしてさらにその黒い指輪から、大体炊飯器ぐらいの黒い小型トリオン兵が、にゅっと私達の前に現れました。

 

『はじめまして2人とも。私はレプリカ。ユーマのお目付け役であり、多目的型トリオン兵だ』

「「こちらこそどうも、はじめまして」」

「おおっ、動きが同じだ」

 

 目の前にいきなり小型とはいえトリオン兵が現れたので少し構えてしまいましたが、レプリカさんは私達にお辞儀をしながら挨拶してくれました。

 突然の挨拶に反射的に私と悠一さんも揃って挨拶を返してしまい、そしてまたその返す言葉もお辞儀をするタイミングも全て同じだったので、その場の空気が和みました。

 

 そのまま世間話になり、色々と2人の話を聞きました。

 レプリカさんが出て来たのは、(何かと)近界(ネイバーフッド)で有名な私達なら、近界民(ネイバー)である自分達に対して、問答無用でいきなり襲いかかってはこないだろうと判断したからだそうです。

 そして空閑くんとレプリカさんは現在、様々な近界(ネイバーフッド)の国々を旅しているそうです。行く先々で好奇心旺盛に色んなことに首を突っ込む空閑くんに、色々とフォローするのが自分の役目だとレプリカさんは言ってました。

 その言葉はとても温かく、どうやらレプリカさんは自身を空閑くんのお目付け役と言ってますが、彼(?)は空閑くんの家族なのでしょう。保護者役が板に付いてます。

 

「そう言えば空閑、エスタンシアって何のことだ?」

「エスタンシアっていうのは近界(ネイバーフッド)にある国の1つだよ」

近界(ネイバーフッド)の……?」

『ジンとトモエはそのエスタンシアの救世主だ』

「「「救世主!?」」」

 

 エスタンシアについて尋ねた三雲くんに、空閑くんとレプリカさんが説明してくれました。

 というか何ですか救世主って。三雲くんだけじゃなく私や悠一さんまでびっくりしましたよ。

 ……でも悠一さんのエスタンシアでの活躍を考えると、救世主と呼ばれていても仕方がないのかもしれません。

 なにせ悠一さんはあそこで起きたクーデターを阻止した立役者なんですから。そして悠一さんが姫さまに惚れられ――――ってそれは別にいいですね。何かムカムカしてきましたし。

 

「それよりも迅さんとトモエさんはどうしてオサムと一緒にいたんだ?」

「ああ、それなんですけど――」

 

 空閑くんの疑問も尤もなので、私達は空閑くんとレプリカさんにも悠一さんの副作用(サイドエフェクト)の説明をしました。

 

 

 

 

 

 

「ふーん。すごい副作用(サイドエフェクト)だね」

 

 あれ? 空閑くんは悠一さんの副作用(サイドエフェクト)を聞いても疑っていないですね。

 本来副作用(サイドエフェクト)というのは、火を吹いたり空を飛んだりといった超常的なものではなく、あくまで脳や感覚器官による人間の能力の延長線上のものです。

 なので私のもそうですが、特に悠一さんの未来視の副作用(サイドエフェクト)は、初めて聞いた人には信じてもらえないのが当たり前なんですけれど。

 先程悠一さんの予知を聞いた三雲くんも、疑ってはいませんでしたが、どこか信じきれていないようでしたし。

 

「ああ、だから空閑が向こうの世界から来た目的もわかるぞ」

 

 突然の悠一さんの爆弾発言に、空閑くんの警戒心が目に見えて上がりました。

 パッと見では分かりにくいですが、何時でも攻撃、離脱できるような構えになりましたし、レプリカさんも空閑くんをフォローできる位置にさりげなく移動して様子を伺っています。

 っていうか、あんな人を喰ったような言い方をすれば警戒されて当然です。

 悠一さんの悪い癖が出てしまいました。

 

「いやいや、私も悠一さんも空閑くんを捕まえるつもりはありませんよ」

 

 私は明らかにこちらを警戒している空閑くん達に、あわててフォローします。

 これから色々と協力をお願いしないといけない相手なのに、何やっているんですか悠一さん。

 先程の悠一さんの言葉では、空閑くんとレプリカさんは、どうやら目的があってこちらに来ているようなので、その目的を達成する手助けすることを条件に引きとめようかなと思っていると。

 

「それに空閑の副作用(サイドエフェクト)なら、巴が言った捕まえる気がないっていうのもわかるだろ?」

「そこまでわかるんだ」

 

 悠一さんのその言葉に、空閑くんがどこか納得しながら警戒を解きました。

 ……なるほど。どうして空閑くんが悠一さんの副作用(サイドエフェクト)を疑っていなかったのか。そしてレプリカさんを含めても2人しかいない状態で、数々の近界(ネイバーフッド)の国々を旅してこれたのかわかりました。

 

「空閑くんも副作用(サイドエフェクト)持っているんですね?」

「空閑はおれ達の言ってることが本当かどうかわかるんだよ」

 

 空閑くんに聞いたのに、何故か隣にいる悠一さんがドヤ顔で答えました。

 何でドヤ顔なんですか。目から星のようなものを出さないで下さい。

 そのほうが良い未来が見えたから黙っていたと思うんですけど、できれば事前に一言欲しかったです。

 空閑くんが近界(ネイバーフッド)に帰っちゃうと思ったじゃないですか。

 

「そうじゃなくて、わかるのは本当かどうかじゃなくてウソかどうかだよ」

 

 空閑くんが訂正しました。って違うじゃないですか、悠一さん。

 悠一さんの方を見ると悠一さんは明後日の方を向いて口笛を吹いていました。

 無駄に上手いのが腹が立ちます。ビブラートを利かせるんじゃありません、まったく。

 実は悠一さんの予知は、見た対象のあり得る未来が並列で視えるんですが、それはあくまで切り取った状況の一部に過ぎません。なのでそこに至るまでの経緯や解釈が多少違うことがあったりします。

 

 

 

 

 

 

「そう言えばイレギュラー(ゲート)の原因ってわかりました?」

「犯人はこいつだった」

『詳しくは私が説明しよう』

 

 そして今回の目的であるイレギュラー(ゲート)の原因を聞くと、レプリカさんが答えてくれました。

 レプリカさんによれば、今回の一連の事件の原因は空閑くんが持ってる、ラッドという名前の隠密偵察用の小型トリオン兵だそうで、そしてなんとこのラッド、いわゆる改造型だそうです。

 この改造ラッドは攻撃力をほとんど持ってない代わりに(ゲート)発生装置を内蔵しているらしく、三門市内にいる人達の体内にあるトリオンを、外から気づかれないように潜伏しながら少しずつ摂取し、そしてその摂取したトリオンを使って(ゲート)発生させているとのことです。

 なるほど、(ゲート)近界(ネイバーフッド)側ではなく、三門市(こちら)側から発生させるから、誘導装置が働かなかった訳ですか。

 

「じゃあそのラッドを全部倒せば……」

「いや~、きついと思うぞ」

 

 三雲くんの案に、空閑くんが反対しました。

 聞いてみると、どうやら数千体もの改造ラッドが、ここ三門市全域に潜伏しているそうです。

 確かに個人で全て討伐しようとしたら、いつになったら終わるか想像したくありません。

 

 ――だけど。

 

「いや、めちゃくちゃ助かった。こっからはボーダーの仕事だな」

「はい、ご協力ありがとうございました」

 

 原因さえ分かればこっちのものです。

 改造ラッドをもらい、空閑くん達にお礼を言うと、私と悠一さんは報告のため本部に戻ることになりました。

 そして道中に、悠一さんに空閑くんを見てわかったことをそれとなく聞いたところ、ニヤニヤしながら教えてくれました。

 別に報告する時に必要だから聞いただけですし、先程教えてくれなかったことに関しても、別に拗ねてなんかいません。何ニヤニヤしているんですか、もう。

 

 

 

 

 

 

 本部に戻ると、まず会議室にいた上層部(いつも)の皆さんにイレギュラー(ゲート)の原因を説明し、そして鬼怒田さんに改造ラッドを渡して解析してレーダーに映るようお願いしました。

 普通は解析するに2時間以上かかるのですが、鬼怒田さんは改造ラッドを手にすると、『1時間で終わらせる』と言い残し研究室に向かって行きました。

 そして鬼怒田さんの解析が終わるまでの間、(電柱の件を省いた)今回の報告をしました。

 

 

 

「……空閑…か」

 

 報告が終わったあと呟いた城戸さんのこの一言が、すごく印象的でした。

 

 イレギュラー(ゲート)の方はもうすでに原因が判明していて、あとは鬼怒田さんの解析が終わり次第改造ラッドを討伐するだけなので、皆さんの注目は自然と最後のピースである空閑遊真くんへとなりました。

 特に悠一さんが、『空閑遊真は有吾さんの息子ですよ』だと言ってからは、城戸さん、林道さん、忍田さんの3人が特に反応していました。

 私も先程帰り道で悠一さんから聞きましたが、空閑有吾さんとは 現在のボーダーの基となった旧ボーダー組織を設立した時にいたメンバーの1人で、林道さんと忍田さんにとっては先輩で、城戸さんには同輩にあたる人物だそうです。

 そしてもう10年以上前に近界(ネイバーフッド)の調査に行ってしまい、以来現在までずっと音信不通になっていたそうです。

 まあずっと行方不明だった仲間に子供がいたんですから、あの3人が反応するのも当然と言えば当然なんですが。

 

 私自身、どこかで聞いたことがあるような日本人ぽい名前だなと思っていたんですが、旧ボーダーの設立メンバーの息子さんの名前でしたか。

 

「迅、やつの目的はわかるか?」

「空閑の目的は“最上さんに会うこと”ですよ」

 

 悠一さんのその言葉に、有吾さんのことを知る全員が納得しました。

 最上さんとは、有吾さんと同じ旧ボーダーを設立した仲間で、有吾さんにとって、親友であり、ライバルでもあったそうです。

 しかし最上さんは今から5年前に、黒トリガー〝風刃(ふうじん)〟を遺して他界しています。なので私達は、空閑くんの望みの〝最上さんに会うこと〟を叶えさせてあげることができません。

 

 空閑くんは部外者にもかかわらずイレギュラー(ゲート)の原因を解明してくれたというのに。

 

 そして話は、どうして空閑くんは最上さんに会いに来たのかというのに移りました。

 父親の有吾さんに何かあったのではないか。

 それの応援を求めるためにここ三門市に来たのではないか。

 ならば次の遠征はどうするか。

 などと話し合っていると、改造ラッドの解析が終わった鬼怒田さんが会議室に戻って来ました。

 なので話を一旦打ち切り、全員で会議室に設置してあるレーダーを見てみると、三門市全域に潜伏している改造ラッドが一気に映し出されました。

 ……レプリカさんから話を聞いていましたが、実際にレーダーを見てみると、いかにこの事態が危険な状態だったのかがよくわかります。

 三門市全域が数千を超える改造ラッドの反応で真っ赤じゃないですか。

 レーダーを見ていた全員が満場一致ですぐに討伐ということになりました。

 

――ただ。

 

「ボーダーの全勢力を使っての討伐はやめておいた方がいいかと」

「どういうことだね三輪くん? 三門市に住む人々のためにも1秒でも早く駆除すべきだろう?」

 

 私の提案に対して根付さんが反論しました。

 確かにレーダーに映っている大量の改造ラッドを見ると、一刻も早く解決したい衝動に駆られますが、今回の場合はそうしてしまうと、少し不味くなってしまう可能性があります。

 

「今回のイレギュラー(ゲート)で攻めてきたほとんどのトリオン兵が戦闘用なんですよ」

「なるほど。第2次近界民侵攻か」

 

 私の答えに、忍田さんが納得したように答えました。

 そうです。戦力増強が目的ならこの混乱に乗じて捕獲用トリオン兵を中心として送り込むのが普通なのですが、相手はこの状況に、爆撃型や戦闘型のトリオン兵を中心に送り込んできました。

 なので相手の目的はこちらの人間を攫うことではないのでしょう。

 では何なのか、と考えて頭に浮かんでくるのは、早ければ来月にも起きてしまう第2次近界民侵攻です。

 数ヶ月以内に侵攻すると仮定した場合、捕獲用トリオン兵で人を攫って自国の兵士として育てるよりも、戦闘用トリオン兵を使ってこちらの戦力を削り、そして把握する方が効果的でしょうし。

 この改造ラッドを送り込んだ相手国と第2次近界民侵攻の国が同じかどうかはわかりませんが、どちらにしてもこちらの戦力がわかってしまうようなやり方は避けるべきです。

 考え過ぎかもしれませんが、幸いタイムリミットまであと4日程あるんですから、やれるならやるべきです。

 

「はい、なので、出動する隊員の数を絞った方がいいかと」

「わかった。この件に関しては一任する」

 

 その後、ボーダーの戦力を悟られないように出撃する部隊の数を調整しながら、今日を含めて3日間で、三門市にいる全ての改造ラッドを討伐することが決まりました。

 

 そして私と沢村さんが、急ぎでそのシフトを作成することも決まりました。

 沢村さんすいません。今度忍田さんとの食事会をセッティングしますので。

 

 

 

 

 

 

 ――そして2日後の夕方

 

『反応はすべて消えた』

「よ~し、みんなよくやってくれた。作戦完了だ」

「皆さまおつかれさまでした」

 

 レプリカさんの撲滅宣言のより、晴れて今回のイレギュラー(ゲート)問題の解決となりました。

 

 隊員のみんなも早く解決したかったのでしょう。本来なら深夜ぐらいまでかかる予定でしたが、みんなの頑張りで予定よりも早く完了することができました。

 三雲くんもホッとしていますし、悠一さんも背筋を伸ばして喜んでいます。

 苦労して改造ラッドを討伐する人数も調整したので、これで多分ラッドを送った相手もボーダーの戦力は測りきれてないと思います。

 

「空閑くん、ありがとうございました」

「お礼がしたいんだけど、何かいるか?」

 

 今回のことは間違いなく空閑くんとレプリカさんのおかげです。空閑くんはボーダーの数の力のおかげで解決できたと思っているようですけど、その数の力も空閑くん達がイレギュラー(ゲート)の原因を解明してくれなければ、活かすことさえもできませんでしたから。

 そしてこのお礼は任務を遂行できたボーダーの隊員としてだけではなく、私達の住む、この三門市を守ってくれた住民としてのお礼でもあります。

 本当はお礼として最上さんを紹介したいんですが、それはできないので、それ以外でなら、なんて思いながら返事を待っていると。

 

「じゃあ、オサムのクビ取り消してよ」

 

 その言葉に、私や三雲くんだけじゃなく、未来が見えるはずの悠一さんまで驚きました。

 

「それはいいんですけど、それだけでいいんですか?」

「うん、それだけでいいよ」

「おい、空閑!」

 

 空閑くんの要求を三雲くんが止めようとします。本来は空閑くんが受け取る筈の功績を代わりにもらうのは嫌なんでしょう。

 いや、もしかしたら三雲くんは空閑くんがこちらに来た目的を知っているのかも。空閑くんに自身の目的を優先してほしいから、空閑くんを止めようとしているのかもしれません。

 

 ――だけど。

 

「だってオサムは何も悪いことをしてないだろ」

 

 何でもないように言った空閑くんのその言葉に、制止しようとした三雲くんの手が止まりました。

 そう、三雲くんは何も間違っていません。口には出せませんが、個人的には例外を作らない隊務規定の方が間違っていると思っています。

 話を聞いただけの私でさえ三雲くんは悪くないと思っているんですから、実際に現場にいたであろう空閑くんは余計にそう思っているんでしょう。友達なら尚更です。

 

「わかった、上に伝えとくよ」

 

 私と悠一さんは空閑くんと約束しました。

 

 

 

 そして私と悠一さんは、三雲くんの件とは別に今回の件のお礼をするために、空閑くんとレプリカさんを私達の所属しているボーダー玉狛支部へ招待しました。

 そしたら空閑くんが、三雲くんと、三雲くんの幼馴染であり、最近友達になった雨取千佳ちゃんも一緒に連れて行ってもいいかと聞かれたので、三雲くんにお願いして千佳ちゃんを呼んでもらいました。

 

 ……雨取千佳ちゃん。彼女は第2次近界民侵攻において最も重要なキーマンであり、そして同時に最も命の危険が高い人物でもあります。

 どうしてかはわかりませんが、悠一さんの予知では、第2次近界民侵攻は千佳ちゃんを中心に展開していくことになると出ていますから。

 そして千佳ちゃんはボーダーの隊員ではなくて、三門市に住むただの一般市民です。

 なので千佳ちゃんをボーダーで保護するのか。

 三門市から引っ越してもらうのか。

 それともボーダーに入隊して一緒に防衛戦に参加してもらうのか。

 ボーダーとしては未だ決めかねている状態です。どの選択肢もメリットとデメリットがあり、そして正解がない難しい問題です。

 なので近いうちに千佳ちゃんに会って事情を話し、そして千佳ちゃん自身に選択してもらうつもりだったんですが、イレギュラー(ゲート)問題が発生してしまい、後回しになってしまっていました。

 そして私達がイレギュラー(ゲート)問題に対処している間に、千佳ちゃんはどうやら〝最後のピース〟である空閑くんと知り会っていたようです。

 

 ……あまり、こういう言い方は好きではありませんが、何か、例え未来が見えていたとしても、どうすることもできないような、運命的な何かを感じてしまいます。

 

 

 

 しばらく待っていると、雨取千佳ちゃんがやって来ました。千佳ちゃんは空閑くんと同じくらい背丈の、何だか守ってあげたくなるようなかわいらしい女の子ですね。

 千佳ちゃんは初めて会う私や悠一さんに少し驚いていましたが、千佳ちゃんに経緯を説明すると、千佳ちゃんは2人が活躍したことをまるで我が事のように喜んでくれ、そして玉狛支部に行くことにもOKもらいました。

 そして千佳ちゃんも加わり、みんなで玉狛支部に向かう道中、どうやら空閑くんはこちらの世界の食べ物に興味があるという話になりました。

 今回の功績で三雲くんがB級に昇格するだろうから、お祝いも兼ねてお鍋でも食べようか。そうなんです、三雲くん昇格しますよ。

 なんて和気あいあいと楽しく向かいました。

 

 

 

 そして玉狛支部に到着すると、案内のため先に玄関を開けた悠一さんが固まりました。

 後ろで不思議に思っている私達に、悠一さんが呟いた「この未来は読めなかった」という言葉がやけに耳に残りました。

 気になって玄関の向こうを見ると、そこにはアットホーム感が売りの玉狛支部とは最も程遠い人物がいました。

 

「君が空閑の息子か。話は聞いている」

 

 ……なんでここにいるんですか城戸さん。

 

 




城戸司令|/// |・ω・)ノ やぽ~| ///|

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