ダンジョンに運だけで挑むのは間違っていると思う   作:ウリクス

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佐保姫(サホヒメ)・ファミリア
・5年くらい前に結成した中堅ファミリア
・団長はレベル4【怪物斬鬼】仁・五百旗頭(ジン・イオキベ)
・規模は25人程度、しかしレベル2以上はたったの5人
・周りから「団員のレベルに見合わない万年貧乏ファミリア」と呼ばれて密かに馬鹿にされている…らしい
・蔑称の通り、金銭面に問題あり?

~ギルドの記録より~

バグベアー
19階層から発生する巨大な熊のモンスター
『力』『耐久』はミノタウロスに劣るが巨体な体躯に似合わない敏捷力で反撃する隙も与えずに敵を追い詰め八つ裂きにする。

ドロップアイテム
『バグベアーの爪』
『バグベアーの毛皮』


第47話 …サポーター、始めました「暇つぶしにしかならない半生 前編」

「もう、この村には帰って来ないでくれ」

 

ミノタウロスで受けた傷を癒す為、親友の結婚を祝う為に故郷、ユージュアル村へと帰ったアークが「……折角だから、村長にも一声挨拶しよう」と村長の家を訪ねた時、最初に言われた過去の言葉。

 

「ワシとマージの手紙を読まなかったか?」

「……読んだ。悪い冗談かと…思っていた…」

「馬鹿なことを言う、お前に与えた鎧と剣と支度金はお前に対する手切れ金だというのが分からなかったのか?」

マージさん…この村で一番広い畑を持つ年配の女性で、俺含めて村の若い衆から「母さん」と呼ばれている人だ。

年の割には喧しくて人遣いが荒いからあまり好きじゃなかったけど、こんな手紙を書く人じゃなかった。

 

「アークよ、今思えばお前は子供の時から本当にこの村に非協力的な奴だったよ」

「……」

「隣の村から届く『お見合い』の手紙は一切読まない。村の手伝いもせずに山や川に勝手に入り浸って、特別なことは何一つ出来ない。その上冒険者などと犬の糞以下の職に就いたとなれば、もはや救いようがない」

「……っ!!」

戻れないのならいっそのこと、アークは思っていることを全部言ってやろうかと思ったが、その口を固く塞いだ。

 

「今回のことだって、モンスターからエゴン(商人のオッサン)の商品と花婿と花嫁の衣装を守ったから特別にこの村に入れてやっただけだ。次はないぞ」

「……」

 

正直、ここまで言われるとは思わなかった。

「……俺、もう行きます」

村長の言葉に耐えられなくなったアークは背を向け家を出る。

 

「もう一度言う。この村には二度と帰ってくるな。『ワシの息子』と同じようにオラリオの裏路地で腐り果ててしまえ…」

直後、背中から投げかけられる最後の最後まで冷たかった言葉を無視して、村長の家を…村を出て行った。

何故、言葉一つ反論しなかったのか?

それは、アーク自身もよく分からなかった。

 

 

「アーク兄!また帰って来てよーー!!」

「ア~ク~、結婚式に来てくれてありがと~」

「アーク!!絶対に帰ってこいよ!!!」

「お前の好物、マルゲリータ作る。また来い」

「こ、ここここここ今度帰って来たら、もももももっと面白い話をしてくれよ!!」

 

「……」

村を出る時、アークは馬車に乗る前に一度だけ後ろを振り向き、何も言わずいつも通りの愛想笑いを作って村の仲間に手を振った。

 

……やっぱり、最後の最後まで何一つ言えなかった。今思えば別れの言葉くらい言えば良かったって、後悔している。

 

 

 

「……冷たい」

早朝、時刻は午前5時半。

天井から薄らと白く淡い光を背に受けながら、アークは冷たい湖の水で顔を洗い、テントを折り畳んでバックパックの中に詰めていた。

 

……嫌な夢を見た。

村を出る時、ハッキリと「帰ってくるな」と宣告された過去の事実の夢。

その所為か、あまり眠れなかった。

もう一度寝ようかと考えたが遅刻してそのまま遠征隊に置き去りにされそうだから目を覚ますついでに軽い運動を兼ねて顔を洗った後に、その辺を散歩しよう。

 

「……んん~あいたたった…!」

両腕を伸ばすと鈍い痛みが走る。多分…いや、絶対筋肉痛だ。

…出かける前にポーション一本飲んでおこう。

 

 

 

 

18階層東部にある森林地帯。

「……何か目ぼしい物はないかな~?あったらお土産にでもしようかと思っていたのに…」

そんなことを呟きながら、森の中比較的視界の開けた場所を歩く。

耳を澄ませば川のせせらぎが聞こえ、空を見上げれば中央樹が見える場所を意識して、間違っても遭難しない様に気を付ける。

 

「……ん?」

 

不意に、覚えのある甘い香りがアークの鼻を掠める。

 

(……何処だ?こっちの川の方か?)

曖昧な嗅覚を頼りに草木をかき分け、森を抜けると5M(メドル)程の高さから流れ落ちる細く小さな滝と川があった。恐らく、あの川の行きつく先は湖だろう。帰りはこの川の流れに沿って帰ろう。

 

改めて滝の方に目を向けると、その周囲には水を求めるように雲菓子(ハニークラウド)の実がなった木の群生を発見したッ!

「……こりゃすげえ!沢山だ!!」

 

これだけ実がなっていれば、バックパックに詰める程入れても全然持ち切れない!…いや、待って。テントとか残った食料とか回復薬とかダンジョンに持って行く最低限の雑貨とかが半分以上占拠しているからそんなに持ち帰れない。

 

地面に雲菓子の実の幾つかが地面に落ちて割れた実の中から琥珀色の果蜜が漏れて地面を滴らせていた。甘い匂いの原因はコレか。

(……しかし、改めて見ると雲菓子の木ってブルーベリーの木と全く同じ見た目をしているんだな。実がなっていない状態で横に並べられると見分けがつかない)

 

「……よしよし、いいお土産が出来そうだッ!」

アークは直ぐに雲菓子の果実に近づき、手を伸ばして雲菓子の採取に取り掛かる。

 

 

 

―――が、アークが雲菓子に触れようとした瞬間ッ!アミュレットがモンスターの接近を警告する。

「……!?」

(……モンスターッ!?何処だ!?)

 

モンスターが18階層から降りて来た?それとも19階層から上って来た?どちらにしろ危険だ。

「……来い」

アークは武器を発現し、厳戒態勢に入る。

その手に握られたのは先から先まで白く、半透明で、炎のように揺らめく短剣の形をした魔剣だった。

 

アークは一旦森の中にある大きな岩の背に身を潜め、顔を半分だけ出して様子を伺う。

 

『グウゥゥ…』

身を潜めてから暫くすると、唸り声と共に反対側の森の中から二体の巨大な熊が―――19階層のモンスター、『バグベアー』だ。

 

バグベアーは雲菓子の木を見つけると瞬く間に近づき!縋り付き!!果実を貪るッ!!!

 

「……~~ッ!?」

(……う、嘘だろッ!?)

片っ端から一つ残らず食い尽さんとする奴らの姿を見て思わず、

(……ああ、俺のお土産があぁぁ…デメテル・ファミリア(彼女達)のお土産があああ…ッ!)

と叫びそうになった。

悲痛な叫びを心の中でも漏らし、奴らが雲菓子を蹂躙する姿を、只々見ることしか出来なかった。

 

「……ッ!!」

(……殺すかッ!?いや…駄目だ…相手は二体。魔剣って言っても2体とも倒せる保証がない…!それに、避けられる戦闘だッ!!)

アークは手に持っている魔剣を握り締めながら『撤退』を選択する。

逃げるのは容易だった。奴らは雲菓子に夢中で多少音を立ててもこちらを見向きもしないから。

 

 

―――だけど、

アークは以前、雲菓子を一口入れると手を頬に当てながら、恍惚な表情を浮かべる女性冒険者達を思い出す。

彼女達は口々に、

「いくらでも食べられるわ!」

「私は…この雲菓子を食べる為にこの階層にいるって言っても過言じゃない!」

「…もう…全部食べちゃった…グスン…」

そう言いながら果実を噛み締めていた。

 

そんなに美味しいなら、畑仕事に精を出している彼女達に持って帰りたいじゃないかッ!…持って帰りたかった。

「……畜生ッ!!」

アークは来た道を辿りながら拠点へと走る。

 

……悔しいからその辺に生えている蒼水晶を持って帰ろう。

手ぶらじゃ地上に帰れんッ!!

 

 

 

 

―――帰路の途中。

「……畜生ッ!」

時刻はもう直ぐ8時、アークは不機嫌そうにその辺に生えている片手で持てるほどの小さな蒼水晶をバックパックに放り込む。魔剣は安全を確認してから森の中に捨てた。

バグベアーから離れている時、森の中を迷いそうになったのは秘密。

 

「畜生ッ!」と悪態付きながら湖の周りをぐるりと歩いている途中、森の方から、

 

――コン―コン―――コン――と何かを打ち付けている音が聞こえる。

(……何だッ!?)

気味が悪いし無視してさっさと帰ろうと思った矢先、打ち付ける音が止んだ。

そして、ガサガサと草木を踏み進む音がアークの方へ近づいてきたッ!!

 

(……モンスター?いや、でも拠点はすぐそこ、ここまで接近しているのなら誰かが倒してくれても。…あわわわわッ!?どうしようッ!?武器を出そうか…いや、でも…ッ!!)

アークは武器を出そうか、出さないかを迷っている間に影が―――

 

「おや、誰かと思えば…」

「……ん?その声…」

……人?

草木の中から現れたのは人だった。

オールバックの銀髪、青い着流し、金の片眼鏡をかけた40代半ばの知的な印象を持つ、アークの見知った男性。

 

「……ブルークさん」

「やっぱり、アークボルトさんでしたか。おはようございます」

アークの前に現れたのはブルークだった。

ブルークの姿を見たアークはほっと一息ついて警戒を解く。

 

「……こんなところで何をやっているんですか?」

「ええ、最近出来た趣味と言いますか…」

ブルークは「…まだまだ未熟の腕ですが」と言いながら両手に持っている物をアークに見せる。

片手には白い石で出来た小さな女性の石像。

もう片手にはやすり、腰には木槌と彫刻刀。

「皆さまの迷惑にならない場所で彫刻に没頭していました」

「……そうですか」

 

「ところで、アークボルトさんは何故ここに?」

「……散歩の帰りですよ。次この階層に来れるのは何年費やすか分かりませんから色々見て回りたかったんです」

「…そう、ですか」

 

「……じゃあ、俺はもう行きますね」

そう言ってアークはブルークに背を向け拠点へと歩こうとした時

「待って下さい!」

ブルークに呼び止められ足を止める。

「……何ですか?」

「あっいえ…その…」

ばつが悪そうな返事をしながら手に持っていた石像と道具を床に置き――――

 

 

 

 

「申し訳、ありませんでした」

と頭を下げる。

 

 

 

「……えっは…はい!?」

アークは頭を?を浮かべながらブルークを見る。何でブルークさんが謝らないといけないんだ?

 

「……な、何で?」

「以前、アークボルトさんを放って私の『使命』の方を優先してしまった所為で命の危険に晒してしまったことを前々から謝りたかったのです」

「……命の危険って、まさか俺がダンジョンで死にかけて、サホヒメ・ファミリアのパーティに助けられたことですよね?」

「…はい」

 

「……あ~」

いや、でもアレは単純にブルークさんの所為じゃなくて俺がマヌケだっただけな気がする。

 

「本当は、もっと早く謝るつもりでしたが…中々言い出す機会がありませんでした…っ!」

「……頭を上げて下さい、アレは俺が馬鹿やっただけですよ。……すみませんでした」

アークも頭を下げて謝り。

 

「……ブルークさん。俺は先に戻ります。ブルークさんも早く戻って来て下さい」

「はい、分かりました」

今度こそ、拠点へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は9時、出発の時間だ。

拠点で朝食を終えたアークはバックパックの口を開けて回復薬(ポーション)の残りを確認していた。

 

「そこのサポーター、マジックポーションくれ」

そんなことを他の冒険者によく言われるから、いつでも渡せるようにしないと。

 

「アークボルトさん(・・)!そろそろ出発するって!!」

バックパックの口を閉じたと同時に背後から3人の少女と3人の少年青年がアークを呼ぶ。

「……今更『さん』を付けなくていいよ…」

アークは申し訳なさそうにバックパックを背負いながら立ち上がり、サホヒメ・ファミリアの方へと向かう。

 

 

 

 

―――そう、また会ったんだ。

朝食の時、毎度の如く隅っこで食事をしていると。

「仁兄様っ!アークボルトさん見つけましたよ!」

背後から聞き覚えのある声が聞こえる。

 

「……おはよう」

「「「「「「おはようございます!(挨拶(おはようございます))」」」」」」

振り向くとサホヒメ・ファミリアのメンバー全員が食事を持ってアークに歩み寄っていた。

「……元気だなあ」アークは不機嫌そうに呟き、程よく暖かいスープを飲む。

 

「……そう言えば、昨日は何処に行っていたんだ?食事の時探したんだけどいなかった」

……訊かない方がよかったか?

 

「ああ、昨日はアタイ達のテントにいたよ。鉱石を倉庫に収めている途中、「今日は宴会だッ!!夜が明けても酒を飲むぞおおおおおッ!!!」って、聞こえてテントに引っこんで、食事はあらかじめ持って来た食材を使って作ったんだ」

 

「……へえ」

俺なりに結構心配してたけど、普通に退避していたんだ…。

 

 

その後は、食事をしながら適当に下らない雑談を交えていた。

故郷のことだったり、ファミリアのことだったり、年齢のことだったり。

アークは帰れなくなった故郷のことを楽しく話し、年齢のことも快く話したが、ファミリアのことはギルドで調べれば分かる程度にしか教えなかった。

 

その中で年齢の話になった時に、

「あ、アークっ…アークさん(・・)って23なのっ!!?アタイてっきりまだ17、18くらいかと…」

等と驚かれた。

 

……驚くのはこっちだ。

ジンは21歳、カグラは19歳、アンジは20歳、トウマは18歳、サヨは14歳、チトセは12歳。

全員俺より年下じゃないかッ!…ジンは絶対俺より年上だと思っていたのに。

 

 

「ほらっ!行くよアークボルトさん(・・)!!」

これ以降、『さん』付けされるようになった。いや、別に呼び捨てでも気にしなかったのに。だってもう年下相手に『あー君』とか呼ばれている時点で……何でもない。

 

アークはカグラとサヨに手を引かれ、集合場所へと足を運んだ。




レディアント・ソード
価格19,000,000
・かつて、とある鍛冶師が王国に数千数万と献上した中に存在していた一振りの魔剣
・とある戦争の際に跡形もなく砕け散り、最期までその力を発揮出来ずに消えていった
・振れば光り輝く剣が所持者を守るように出現し、対象に襲い掛かる
・限度はあるが、コントロールが可能


なんてこった!
一話で終わらせればいい話なのに、また前編後編に分けてしまったよ!!
無駄にいらない描写ばっかり書くからだよ!!

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