ダンジョンに運だけで挑むのは間違っていると思う 作:ウリクス
アレは嘘だ。
思った以上に文字が多くなったので、3つに分けました。
「あの人一体どこに行ったのよ!?」
「…わ、私が採掘し始めた時はち、近くにいました!そう遠くには言っていない筈です!!」
「彼が心配です。どうか無事でいますように」
「……すう……」
「駆けっこなら負けないよーーーーーーー!」
36階層、とある6人のパーティが慌ただしく通路を駆けていた。
「…皆さん、急ぎましょう。非常に良ろしく事態です」
先頭を走っている一人の中年の
「おい、ブルーク!見つけたか!?」
「いえ、まだです!!」
途中、遠征隊のメンバーと合流し、事情を話したところ、直ぐに協力してくれた。
「えっと…そいつの名前をもう一度教えてくれ!!」
「アーク、アークボルト・ルティエンスです!!」
ブルークが彼の名前を仲間に言うと「聞こえたかお前等!!?」と後ろを振り向いて叫ぶ。
「アークだ!!アークボルト・ルティエンスだ!!36階層、ルームの隅々まで徹底的に探せ!!!」
遠征隊全員に情報が拡散されていく『アークボルト・ルティエンスと言うレベル1のサポーターを保護しろ』と。
ブルークの頭に嫌な光景が過る。
モンスターに足を掴まれたアークはそのまま水底に引き摺り込まれ、水中で待ち構えていたモンスター達に八つ裂きに―――――駄目だ、駄目駄目だ!!
ブルークは
もう少し彼の方にも目を向けていれば、引き止めていればこんなことにはならなかったと。
時は丁度1刻程前、ブルークは小人族達の少女と話をしていた。
その手には新品の羊皮紙と長年愛用して来たペン。
自分の使命を果たすべく、ブルークは彼女達の話を一言一句漏らさずペンを走らせていた。
そんな時―――
「ブルークさん!!」
黒髪の小人族の少女が背後から話しかけて来る。
そして、「良い成果が出たと思うんです!」とパンパンに膨れ上がったバックパックを見せる。
―――小人族なので、普通の人間が背負うには少々小さなバックパックだが。
「こんな鉱石が沢山出ました」
小人族の少女は銀に似た鉱石と鈍色の重い鉱石を片手づつ持ち、差し出す。
「どれどれ、少し拝見させて頂きます」
ブルークは小人族の手に持っている鉱石を手に取り識別を始める。
こっちの銀に近い鉱石は『ミスリル』、こっちの鈍色の鉱石は―――――
「素晴らしい!『
正直に言えば、現状を聞けば聞く程あまり期待は出来なかった。
嬉しい誤算とはこのことだ。
(コレも『フィアナ』様のご加護があってこそですね)
ブルークは心の中で架空の女神、フィアナに感謝を捧げ、「さあ、もう直ぐ良い時間でしょう、一旦皆様の所へ戻りましょう」
「…それなんですが…あ、あの……ブルークさん…」
バックパックを背負い直した小人族の少女はおずおずと手を挙げる。
「どうしましたか?」
「…いえ、その…」
そう言って辺りをキョロキョロし始め、「…もう1人、サポーターがいた筈なんですが…何処に行ったのでしょう…?」と訊く。
「…へ?」
そう言えば、彼がいない。
ブルークはルーム全体を見回すが、壁を掘った跡が見えるだけ。
「…あ、アークボルトさん?」
――――いやな予感がする。
ブルークはアークが採掘した跡だと思われる場所を一つ一つ、早足で辿って行く。
そして―――――その採掘痕は、薄暗い通路の方へ点々と進んでいた。
『『ギイイイイイイイイッ!!!!!』』
「ッ!!?」
通路の奥から叫び声がする。とても人間とは思えない下劣な声だ。
そしてペタペタと裸足で歩く音がこちら近付き
二体のサハギンが飛び出して来た。
「はあああああああああッ!!」
ブルークは腰から細身の長剣を取り出し、飛び掛かったサハギンよりも速く、額に深々と突き刺す。
そして間髪入れずにもう一体の方へ体を向けた瞬間。
「……『ファイア・ランス』……すう……」
背後から突然の轟音と熱風。
燃え盛る炎の槍がブルークの側面を通り過ぎ、もう一体のサハギンの胸を貫く。
『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!』
炎上する身体と断末魔、炎に焼かれるサハギンは左右に転がり、暴れまくる。しかし無情にもその火は衰えることが無い。
次第にその動きは遅くなり、その声は小さくなり、遂には動かなくなり魔石と焦げた匂いを残して消えていった。
恐らく、アークはこの奥の通路を通ったと思われる。
そして、サハギンが出て来た。
地上におけるサハギン個体の戦闘力は上層のモンスターとは変わらないとはいえ、レベル1がまともに闘って勝てる相手じゃない。
「―――――行きましょう!」
ブルークは全員連れて通路に入って行った。
「あ、当てはあるの?」
1人の小人族が訊く。
「…いえ、残念ながらありません。しかし、彼がモンスターから逃げたとならば、もしかしたら、他の班と遭遇して保護されているかもしれません!!」
もしそうじゃなかったとしたら、未だに一人でこの階層を彷徨っているか、もしくは―――――
「と、兎に角今は時間がありません。他の班と合流したら、直ぐに救援を要請しましょう。彼の保護が最優先ですッ!!」
彼が無惨な死体になり地面に転がっている姿が再度、刹那に過る。
それだけはあってはならない。
ヘファイストス様に、彼の主神であるアテナ様に、そして何より『フィアナ様』に顔向けが出来なくなる。
ブルークは焦燥に駆られるままに、薄暗い通路を走り抜けて行った。
「……此処にも、誰もいないか」
コレで何部屋歩いただろうか?
アークは用心深い足取りで新しいルームへと入って行く。
視界は常に広く、そして水辺には絶対近づかない。
命綱はこの両手に持っている魔剣と胸に下げているアミュレット。
幸い、モンスターとの遭遇はさっき通路で壁から這い出てこようとした2体のサハギンだけで、それ以降は一度もモンスターと遭遇していない。
今度こそ、次のルームに行けば遠征隊のメンバーと合流出来て、助かると言う希望を抱いてから、どれくらい歩き続けただろうか?
アークは懐中時計を手に時刻を確認する。
掘り始めたのが午後1時30分だった。
―――今は3時過ぎ、採掘を始めて此処まで1時間半経過していたのか。
アークは時計を収め、再び歩き進める。
(……焦るな。慎重になれ)
アークは焦る気持ちを抑え、周りを見渡し、視界を確保しながら歩く。
だが、その時―――アークが丁度今いるルームのど真ん中を歩いている時――――首に吊る下げているアミュレットが、敵の接近を警告した――――
「……ッ!!?」
く…来るのか!?遂にッ!!?
アークは急いで後ろを振り向くと向こうの池の中から手が出てくる。
距離にしておよそ10
ペタペタと地面に水を滴らせながら這い出て来るのは5体のサハギン。
(……おおおおお落ち着けッ!!大きさはコボルトとそんなに変わらないんだ。コボルトならいつも闘っていたじゃないか!!)
コイツはコボルト…コボルトだ!コボル
ザッッッ!!!パアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!!!
サハギンが這い出て来た池の奥から、突然の豪雨の如き水飛沫がアークを、サハギンを、このルーム全体を襲う。
「……~~~ッ!!!?」
アークは咄嗟に両腕で顔を庇う様に防ぐ。
――――――水飛沫が止んだ。アークは恐る恐る両腕を退けて目の前を見る。
見上げる程の巨大な青い鱗を持つ蛇、確か…『シーサーペント』。
多分、あの橋の中心辺りを揺ら揺らと徘徊していた巨大モンスターが横穴を通り、偶々…それとも、
ただ一つ確かなことは、あの蛇の蒼い双眸がアークと捉え続けていると言うことだ。
残酷な眼だ。
ミノタウロスの様に猛る殺意とは程遠く、吠えもせず、暴れもせず、獲物を確実に仕留める事だけを考えた氷の様に冷たい眼だ。
シーサーペントは下でギャーギャー騒いでいるサハギンとは違い、身動ぎせずジッとこちらを見ていた。
(……絶対に殺される!!)
アークは呆然とその巨体を見上げながら、本能で察した。
「……ハアアアアアアアアアアアアッ!!!」
しかし、次の瞬間、アークはモンスターが動く前に、手に握っていた魔剣を力いっぱい全力で振り上げ、垂直に振り降ろしたッ!!
魔剣を使うことに躊躇いは欠片ほども無かった。
むしろあの状況で動けたことに、魔剣を振り抜いたことに自分自身に賞賛したいくらいだった。
振り上げた時、パチパチと小さく爆ぜる音と、魔剣の刀身に黄金の雷が刀剣を纏い、振り下ろした瞬間、雷はサハギンとシーサーペントに向かって目にも止まらぬ速さで駆け抜けて行く!
大気を紙のように引き裂く爆音と直視できない程眩い黄金の閃光を放ちながら、水が滴った地面を駆け、呑みこみながらサハギンとシーサーペントへと襲い掛かる。
「……ガッ!!……目が、耳が……!!」
轟音と閃光、雷の波にアークは反射的に目を伏せ、身を縮める。
今直ぐこの魔剣を捨てて両手で耳を塞ぎ、その場で蹲りたかったが、手を離さず必死に耐えた。
この剣は魔剣、言わばアークの命綱。深層のモンスターに対抗できるかもしれない力だ。
うっかり手を離して消してしまっては今度は迷子どころじゃない―――――確実に死ぬ。
今、目の前状況がどうなっているかなんて分からない。
目を開けることが出来ないのだ、耳を傾けることすら出来ないのだ。
アークは目の前で暴れ回る黄金の傍若無人の嵐が通り過ぎるのを、只々耐えることしか出来なかった。
やがて、この広間に静寂が訪れる。雷が去ったのだろうか?
やけに焦げ臭いのは気のせいだろうか?
「……?」
一部始終を欠片ほども感じ取れなかったアークはゆっくりと、且つ恐る恐る目を開ける。
眼前に広がっていたのは無造作に転がっている複数の魔石とドロップアイテム。
「……ハッ!!」
(……アイツはッ!!?アイツはどうなったんだッ!!?)
アークは急いで上を見上げる。
今まで見た中で最も巨大で、最も恐ろしいあのモンスターはどうしたッ!!
――――――青蛇は、その場にいた。
上半身だけを晒し、アークの前に現れた時と全く変わらない姿勢のまま、真っ黒に焼け焦げていた。
さっきから漂う焦げ臭い匂いの元はアイツだったのか。
(……死んでる?)
ピクリとも動かず、先程までの冷たい視線と殺意が全く伝わって来ない。
……い、今の内に早く離れよう!死んでるか死んでないかはどうでも良い!!
安全な場所まで早く!!
魔石の回収もドロップアイテムの回収もしない、バックパックの中にはもう入らないから。
アークは一刻も早くその場から立ち去る為に視線を2つの通路に向けた。
一つは池の反対側、つまり真後ろ。
もう一つは左側、ルームに入って来た向こう、つまり反対側。
どうしようか?取りあえず池の反対側の通路にしよう、こっちの方が近いんだ。
アークは青蛇に背を向け通路へと向かう。その時、
――――――――――グラッ……――――――――――
影が、揺れた。
……何だ?と、アークが振り返った時、青蛇の巨体がこちらに倒れて来たのだッ!!!
幾星霜の年月を重ねた老大木を木こり達が斬り倒す様に、確かにアークの方向に向かって倒れて来たのだッ!!!
「『……らえ……らえ……』」
道連れと言う名の
「……ッ!!」
このまま走れば……駄目だ!間に合わない!!
だったら、横に走って避けてや―――――――――
「……あっ」
「『……くれ…送れ…その……』」
――――――――――滑って、しまいました。
顔面から、倒れてしまいました。
この階層域は足場が悪く、湿って滑りやすい。
当然、アークだって分かっていた、分かっていたが…背後の脅威から逃れようと足元をお留守にした結果がコレだ。
「『里を超え、山を越え、海を越え、天高く、高く吹き飛ばせ』」
地面に伏したアークには背後なんて見えない。
動け動けと心の中で何度も叫び、必死の起き上がろうとするが、恐怖と焦燥と背中に背負っているバックパックの重みで体が動かない。
緊張と恐怖はドンドンと膨れ上がり、体が震え、思考が白く染まりながら鈍り、ソレがアークの限界に達した瞬間――――――
(―――――……あっ死んだ―――――)
アークは心の底から死を悟った。
刹那、アークの頭の中は真っ白になり、体は完全に動きが止まった。頭の中で無意識に諦めたのだ。
最中、アークの体中からシュワシュワと何かが噴き出ていた。
それが何かはアーク自身分からない。理解する時間と心の余裕なんてなかった。
だけど、同時にアークの頭の中で一つの映像が流れ込んで来る。
それは、アークが物心ついた時から今までの光景だった。
適当に友達と遊んで、ある程度年を取ったら適当に皆と働いて、何を血迷ったのか、冒険者になると言いだして村を出て、仕方の無い神だけどなんだか憎めない
こんなマヌケな死に様なのが無念―――いや、馬鹿な俺には丁度いい最―――
「『
「……ッ!!!?」
シーサーペントに押し潰される直前、アークの頭上から衝撃が襲い掛かる!!
その正体は、後頭部を鈍器で力一杯殴られたかの様な強烈な突風だった。
突風はシーサーペントの巨体を押し退け、反らし、誰もいない場所へと叩き付けられた。
シーサーペイントと突風が衝突した余波はアークの体に降り注ぐように襲い掛かり、耐え切れなくなったアークはミノタウロスと同じ様に、意識を手放してしまった――――
ズンッ!!!と重々しい音を立てながら地面を転がり、やがてだらりと、力なく横倒しになったシーサーペントの死体。
最後のあがきが潰えたその巨体は、魔石とドロップアイテムを残して消えて行った――――
「アンタッ!大丈夫かいッ!!」
「……―――――」
シーサーペントが消えて直ぐに一組のパーティがうつ伏せに倒れているアークの元に駆け寄る。
男性3人、女性3人の6人パーティ。
彼等は 『着物』と呼ばれる極東の民族衣装を模した
「もしかして、彼がはぐれたサポーター…?」
パーティの一人、重厚な甲冑を着た男がおずおずと仲間に訊く。
「さっきから動いていないみたいだけど…大丈夫かな?ももももしかしてさっき魔法の所為で…」
朱色を基調とした鎧の奥から聞こえる弱々しい声からは男らしさを感じ取れない。
ごつい見た目の割に女々しい男、そんな印象を持つ冒険者だ。
「コラッ
「ヒッ!!すみませんッ!!!」
そう言って一番に駆け付けた獣人の女性冒険者が重しとなっているバックパックを取り除き、床に置きながらトウマと呼ばれた男性を怒鳴る。
怒鳴られた男性は身を縮こませて「すみません!すみません!!すみません!!!」とただ謝っていた。
「おいアンタッ!嘘だろう!!嘘だと言ってくれよ!!??」
獣人の女性はアークの体を揺さぶりながら呼びかける。
意識はないのか、アークから返答はない。
「頼むよぉ…コレじゃアタイが魔法で殺したことになるじゃんか…」
「―――――待て、
もう1人、重厚で独特の形をした甲冑を纏っているもう一人の男性がアークの前に立つ。
真っ黒に塗りつぶされた甲冑の奥から聞こえる低く、練れた声、そしてトウマを一回りも二回りも超える体躯。
そこに佇むだけで威圧されそうな存在感を纏い、余程の馬鹿か、手練れじゃない限り彼に喧嘩を売る人間はいないだろう。そんな男だ。
「
「退いてろ」
カグラはジンと呼ばれた男性の言葉に従い掴んでいた手を離しゆっくりと離れる。
代わりに今度はジンがアークに傍に近寄り、右手の篭手を取り外し、胸に手を置く
「心臓は、動いている。息も、している。軽い気絶をしているだけだ」
ジンの言葉にカグラは「なんだあ、驚かせやがって」と安堵の表情を見せるが「いや、まだだ。気絶と睡眠は違う。彼の状態が危険な事には変わりはない。特にダンジョンならな」と否定する。
「
ジンは背中に背負った大太刀を手にパーティのメンバーに命令する。
「ガッテンだッ!!アタイに任せな!!虫一匹近寄らせねーよ!!来やがったらこの『風神』で吹き飛ばしてやらあ!!」
「は、はい!」
「じ、仁兄も気を付けて!!」
カグラとトウマ、チトセと呼ばれた小さな少女達が呼応する。
「はいっ!仁兄様!!」
「迅速、救助、了承」
サヨと呼ばれた黒髪の少女が凛とした声で応え、アンジと呼ばれた背の低い小柄な少年は短く、淡々とした口調で応える。
「―――――良し、行動開始だッ!!!」
一方のパーティは武器を構え、一方のパーティはダンジョンを駆けて行った――――
ダンジョン24階層、ヘファイストス・ファミリアが率いる遠征隊が18階層に戻っている最中、隊のメンバーはしきりに『彼』を見る。
体格の良い獣人がせっせと曳いている荷車の上で堂々と伸びている『
この光景、見覚えが無いだろうか?
文字通りお荷物パート2だ。
極東のパーティがアークを助けてからもう数時間になる。
アークを見つけた討伐隊は直ぐに帰還を宣言し36階層から速やかに撤退。
そして行き同様、討伐隊はモンスターの遭遇は幾度かあったものの、無事に此処まで帰ることが出来たのだ。
アークの無事を確保できたことは良いことだった。
だが、再度発見した時から今まで、少々不可解な点が見つかった。
「…なぁ、ブルーク。あの手に持っている刀って、『魔剣』…だよな?」
構成員の一人がブルークに訊く。
「…恐らく、私の推測だと思われますが、魔剣だと思います」
曖昧に答えを出すブルーク。
発見した時に右手に握られていた魔剣に目が行った。
その手は硬く握ったままで、放す様子はないみたいだ。
「アイツのレベルは1か?」
「…た、多分…」
ブルークはアークのレベルについて訊かれるがまたもや曖昧な言葉でその場を濁す。
実をいうと、ブルークにはアークが一ヶ月ちょっとの駆け出しの新人と言う前情報は鍛冶神から聞いていたのだ。
だからこそ、断言してはいけないと判断して曖昧な表現にした。
出来るだけ、彼の素性を他のファミリアには漏らさない様に。
「魔剣はここぞと言う時に使うとっておきです。彼なりに隠していたのでしょう」
―――見苦しくて無理のある嘘だ。ブルークは心の中で苦い
アークが握っている魔剣、剣の先から柄の先まで、結構長いのだ。
いくら大きめのバックパックを背負っているからと言って、隠すのは無理があると目測で分かる。
そもそも、レベル1の駆け出しが魔剣を持つと言うのも変な話だ。
それをこの場で一番理解しているのは他の誰でもない、ブルークだった。
―――――カチャン。
ふと、床に金属質の音が響く。
見てみると、荷車を曳いていた獣人がアークの手から魔剣を取り上げていた。
「キジャールさんッ!!?な、何を!?」
ブルークが慌てて獣人の方へ目を向けるが「違う!盗ろうとしたワケじゃねェ!!」と慌てて否定する。
「抜き身の剣が危ないから、放そうと思ったんだ」
そう言って床に落ちた魔剣を拾った獣人は、アークから少し離れた場所に置こうとした時、獣人の手から魔剣が消えていた。
「「「「「「ッ!?」」」」」」
「…お、オレじゃーねェよ!!オレはただ…傍に置こうとしただけだ!!」
分かっていた。そんなことは分かっていた。
魔剣は使い過ぎると、刀身が粉々に砕ける。
そうじゃない、アークの持っていた魔剣は砂の様に柄も残さず消えたのだ。
――――彼に…何て…説明しようか?
そして、もう一つ。
―――――ガタンッ!!
18階層まで目と鼻の先という所で、ちょっとした段差を乗り上げた荷車は上下に大きく揺れる。
その拍子にアークのバックパックの中身が幾つか隙間から転がり出てくる。
ちょっとした振動でコロコロと転がるその正体は子供の拳ほども無い小さな潔白の鉱石だった。
偶々目についた一人の構成員が荷物から出て来た鉱石をヒョイと掴み、ジッと見つめる。
その男、鉱石を見る目は確かで、そして――――
「こ、この鉱石……
声が大きいことで有名だった。
「「「「「はああああああああああッ!!!?」」」」」
今度は叫んだ。声が出てしまった。
それでもアークは目が覚めない。
聖皇鉱石が出た、その報告は他の団員だけに留まらず、上級冒険者をもざわつかせた。
確かに36階層も深層ではあるが、ミスリルや
小ぶりとは言え、その二つを上回る性能と希少性を持つ聖皇鉱石を掘り当てること自体が
「……」
ふと、周りの皆はアークの傍らに置いてあるバックパックと言う名の、『宝箱』に目を向けた。
あの中には更に度肝を抜く逸品があるのだろうか?
「ちょっと待って下さい」
シン…と静まり返った中、ブルークが発言する。
「気になるとは思いますが、今は18階層を目指した方が良いのでは?考えるのはそれからでも遅くないと思いますが」
ブルークの提案に他の構成員は「…あ、ああ。そうだな!怪我人を抱えているんだ。その方が良いな!!」と賛同し、18階層へと帰還する。
「…」
皆と歩を進めるブルークは数日前のことを思い返す。
「ブルーク、突然の頼みで悪いけどある冒険者の付添人になってくれないかしら?」
「私と臙脂さんで付添人…ですか?」
突然の主神から呼び出しと頼みにブルークは少し戸惑った。
内容は『まだ1ヶ月程しか経っていない駆け出しの冒険者に勉強をさせたいから、身の安全の為に付添人になって欲しい』とのことだった。
「それは、構いませんが…」
今は顧客からの注文も無い。
それに、主神直々の頼みとあらば断わる訳にもいかない。
「ありがとう、助かるわ」
そして、付添の対象になったのが彼だった。
彼のことはホームで何度も見かけたことがあった。
人見知りの激しい人だな…と思った。
頻繁に目を逸らす、話しかけられても愛想笑いを浮かべながらその場から立ち去る、その割には
しかし、今まで何百、何千の人と接してきたブルークの中では、これぐらいは何てことの無い普通の少年、いや、青年だった。
――――――今日までは。
「…アークさん。貴方は一体…」
荷車に運ばれているアークを見て、小さく呟いた。
風神
・全てを吹き飛ばす風の大砲を放つ攻撃魔法
・詠唱式【祓え祓え其の厄災、送れ送れ其の病魔、里を超え、山を越え、海を越え、天高く、高く吹き飛ばせ】
・一片の穢れの無い潔白の鉱石
・ミスリルの様に軽く、アダマンタイトの様に硬く、希少性が極めて高い鉱石
・魔法との相性も抜群でミスリルと複合されることが多い
マグナ・アルヴス
340,000,000(ロキが値切りに値切って)ヴァリス
・
・レベル6の冒険者、リヴェリア・リヨス・アールヴの得物。
・柄は聖皇鉱石とミスリルを混ぜた金属で、強固な長柄武器としても使える
・杖の先には魔法の威力を限界まで増幅できる魔法石が取り付けられている(魔法石は別販売)。