ダンジョンに運だけで挑むのは間違っていると思う 作:ウリクス
ダンジョンの厄介な特性の一つ
ダンジョン内に生成されている物がモンスターの得物に変化し能力の向上を後押しする。
例えば、オークがその辺に生えている木を引っこ抜くと途端に無骨な棍棒へと変わり、ミノタウロスが砕いた岩を握れば巨大な石の大斧へと変わる。
そう言ったモンスターの得物は
これにより素手で難なく倒せるモンスターも一癖も二癖もあるモンスターへと変貌する。
「……」
時刻は8時と半を過ぎた頃、ダンジョン上層を一群の冒険者達が歩いていた。
一団の中央には良質な
―――後はその他諸々の雑貨の物資が入った荷車が並び、隆々とした屈強なドワーフと獣人達がガラガラと曳いている。
「お、オイ見ろよ…!アレって」
上層に留まって励んでいる駆け出しの冒険者達は荷車に差さっている旗に描かれたエンブレムを見るや否や慌てて道を開ける。
二本の槌と火山が描かれた旗が、
率いている冒険者達はまだまだ駆け出しの冒険者やフリーのサポーターの一団もいれば、駆け出しとは思えない
その上――――
「おっそ~~い!もっと早く進もうよ~~~!!」
両腕をブンブンと振り回しながら抗議する
「なぁ、リヴィラの町にいた連中から聞いたんだが、出たんだって!」
「何がだ?」
「何がって……ヴィーヴルだよヴィーヴル!!アイツから『涙』を手に入れようと皆必死になってさ」
談笑代わりにダンジョンで情報を交換し合っている冒険者もいれば。
「ねえ!この遠征が終わったら皆でパーティに行きましょう!!」
「お、いいねぇ!!パーッと行くか!!!」
まだ始まったばかりなのにもう終わった後の予定を話し合っている呑気な冒険者もいる。
誰がどう見ても、大至急人を掻き集めて作った大規模パーティだな、と見て取れる。
「サポーター含めたレベル1が14人、レベル2が12人、レベル3が8人、レベル4が6人、計40人。急な話とは言え、思った以上に人が集まってくれましたね」
「少々大所帯にし過ぎた気がしますが……」と、1人の中年の男性が丸めた羊皮紙を広げ今回の遠征のメンバーの名前があるリストを一瞥し、もう一度丁寧に元の形に戻す。
「それに、問題はこの先、鉱石が手に入るか手に入らないか…ですよ」
中年の男性、ヘファイストス・ファミリアの構成員、ブルークが片眼鏡の縁を弄りながら溜息を吐く。
「ブルーク、そんな後ろ向きな事言っていると本当に成果がなくなるぞ?」
荷車を曳いているドワーフが後ろから指摘すると、ブルークはハッとして「…も、申し訳ありません」と頭を軽く下げる。
「……」
そんな彼らのやり取りをアークは少し離れ、横目で見ながら歩いていた。
荷車、サポーター、レベル1、レベル2、レベル3、レベル4の冒険者と荷車を囲うような陣形を保ちつつ、ゆっくりと歩き進める。
普段のアークなら、レベル1の冒険者として扱われるが、今は違う。
黒を基調とした装束を纏い、武器を持たず背中にはサポーター特有の大きなバックパックを背負っている。
誰がどう見ても戦闘をする
(……ああ、黒革鎧の時は首から下まで全部真っ黒だったけど、今度は頭の頂点つま先まで全身が真っ黒になったな……)
そう思いながらアークはダンジョンに潜っているにも関わらず一度も戦闘をしないことに違和感を感じながらぼんやりと俯きながら歩き進める。
時をアークがアテナと別れる直前まで巻き戻す。
「……やっぱり、デカいな。あと少し重い気がする」
「我慢しなさい」
ヘファイストス・ファミリアから貰った支給品入りのバックパックをよいしょっ!と背負い上げる。
「……じゃあ、行って来ま」
「ちょっとまった!」
アークが集合場所であるバベルへ向かおうとするとアテナが引き止める。
「……何ですか?お土産よろしくとか言ったら怒りますよ?」
アークはガリガリと頭を掻きながらアテナへ向き直す。
「さっき言ったこと忘れてないよね?」
「……大丈夫ですよ。『魔法と武器発現のスキルを使わない。後は出しゃばらない』……でしたよね?」
アークの回答にアテナはそうそうッ!と首を縦に振る。
その点に関してはアテナ様に言われなくても自分で気を付けていた。気を付けているつもりだ。
サポーターはサポーターらしく余計なことをせずに荷物を守って他人に守られろ。
ソレがアテナ様からの言葉だった。
……ああ、やっぱり嫌だな、サポーターって。
息が詰まりそうだ。
……不安だ。とても、不安だ。
その時、スウ…っと突然視界の隅が霞む――――
「……えッ?あっ!!?」
アークは何事かと俯いていた頭を上げ辺りを見回す。
決して深くはないが、視界の大半を白霧が覆っていた。
朝早く起きて狩猟の為に山に入った時のことを思い出しながらアークは辺りをキョロキョロ見回す。
「アークボルトさん、どうなされましたか?」
狼狽えるアークを心配してか、ブルークがアークに後ろから話しかける。
「……~~~ッ!!?」
軽いパニックになっている所に話しかけられたアークは両肩をビクリと瞬時に上下に動かし後ろを振り向く。
「10階層に到達してから様子が変でしたから」
「……じゅ、10階層ッ!!?」
いや、そんな筈はないッ!!
アークは腰に吊るした懐中時計を手に取り時刻を確認する。
時刻は9時半過ぎ、ダンジョンに潜ってから一時間が過ぎた。
俺なら今頃2階層真ん中辺りでモンスターと戦闘、と言った所だ。
「……す、スミマセン」
声を荒げたことで周りから視線が注いでいることに気が付いたアークは直ぐに姿勢を正し足並みを揃える。
油断、しているつもりは毛頭ないが、ついつい考え事をしてしまった。
駄目だ駄目だ!集中しないと。
俺にとって此処はもう、いつ死んでもおかしくない死地なんだから。
その後、アークが従属している遠征隊は何事も、問題なくダンジョンを歩き進めた。
深い霧の中から奇襲を仕掛けてくる巨大な猿のモンスター、『シルバーバッグ』に群れを成して襲ってくる『インプ』と『オーク』。
蝙蝠のモンスター『バットパット』に上層において最高の防御力を誇るアルマジローのモンスター『ハード・アーマード』、どれに対しても彼らは顔色一つ変えず淡々と処理していった。
やがて、進む度に深くなる霧の階層を抜ける。
13階層、冒険者の間では
灰色の岩石が至る所に転がり、周囲を囲う壁、床、天井が全てゴツゴツとした岩盤で覆われていた。
おまけにこの少し湿った空気―――まるで広い洞窟を歩いている気分だ。
(……ん?)
アークは周りの空気に違和感を感じる。そして、その違和感に気が付いたのは周りを見渡して直後だった。
違和感の正体はこの階層に来てから、一部のパーティの空気がズン…と重くなった―――気がした。
いや、違う。気のせいじゃない。
アミュレットが警告している。
2回、強く、赤く。ミノタウロス程じゃないがそれでも今まで感じたことのない程赤く光り、強く震えている。
(……何処だッ!?何処に……ッ!!?)
アークはその正体を探るべく周りを見渡す。
10階層、11階層、12階層ほど視界は悪くはないが、洞窟を連想させる場所だけあって薄暗い。
「うわああああああああッ!!?ヘルハウンドだあああぁぁぁッ!!」
――――遅かったッ!アークは急いで声のする方へ目を向ける……が、
『ガッ!!?』
『ギャッ!!』
凶暴な顔をした黒い体毛を持つ狼と言った方が良いか。
少しばかり大柄な真っ赤な瞳を持つ犬―――いや、もう犬でも狼でもどっちでも良い。
此方に殺意を飛ばしていたヘルハウンドが今にも口から火を放とうとしたその眉間に矢が一本深々と突き刺さっていた。
ヘルハウンド、『
並みの防具をいとも簡単に溶かし、まともに喰らえば放火の後には僅かな灰しか残らないとか。
ドロップアイテム『ヘルハウンドの牙』はかつてアークがスキルを手に入れる前、まだ自由に武器が使えた時の愛用していた投げ斧『ケルベロス』に使われていたのを思い出し少し複雑な気持ちが一瞬過る。
2匹のヘルハウンドを仕留めた後方に控えていたエルフの青年は表情1つ変えず弓を背に戻し、何事も無かったかのように歩き始める。
「おい、あの弓を持ったエルフ……レベル4の【
「ああ、狙った獲物は絶対に外さないとか」
後ろからヒソヒソ声が聞こえる。
アークはエルフの青年から襲われそうになった冒険者一行に視線を移す。
彼らが震えながらも立ち上がるのを遠目で確認してからアミュレットを手に握り締めたまま、再び足を進めた。
――――上級冒険者がいるからと油断していた訳じゃない。
あの一瞬、俺は何も出来なかった。
いや、出来た所で高が知れているよ。
17階層、洞窟から古い坑道を連想させる道を歩き進めていた。
心許ない光源に照らされながら、一団は18階層を目指して歩いて行く。
「あの…大丈夫ですか?」
「……え?ああ……はい。大丈夫です」
隣を歩いている短髪黒髪の少女が震えて身を縮んでいるアークを心配そうな顔で覗く。
あどけない顔立ちと、その小柄な体躯には似合わない、大きなバックパックを背負っている。
……ああ、なんて情けないんだろうか。でも……――――そう思いながらアークは一群の安全圏の中を歩いていた。
つい先程―――具体的には15階層のとあるモンスターを見るまでは周りの一員と同じ様に歩幅を合わせて堂々と歩いていたのだが、その、とあるモンスターとは――――――
「お、ラッキー!また『
一団の戦闘を歩いている腕利きの冒険者が地面に落ちたドロップ・アイテムを嬉々として拾い上げる。
「何か今日、随分とドロップ・アイテムが落ちるよな?」
「幸先が良くて結構な事じゃないか」
「ああ、全くだ。」
戦闘が盛り上がっている中、アークは一人、目を伏せて安全圏の中を歩き進める。
――――――――ミノタウロスだ。
5階層で遭遇し、逃げられない理不尽な敗北を味わった。
それ以降、アークにとって恐怖の象徴でしかない存在となり、そんな奴がさも当たり前に発生する階層に来てしまったのだと。
アークは懐中時計を取り出し時刻を確認する。
いつものなら4階層をウロウロしている所だ。
初めて歩く階層、初めて見るモンスターにアークと周りの駆け出しの冒険者とサポーター達は慄きながら、己が死なない様に周りを警戒する。
上層にいた時のお気楽な話声は聞こえてこない――――少なくともレベル1の冒険者なら、だ。
「意外と速く到達できたな」
「ああ、ゴライアスもロキ・ファミリアの遠征ついでに討伐されているし一休みできるぜ!」
余裕のある上級冒険者達の談笑が聞こえる。
この
その場所こそが、冒険者達が
そして、その先こそが18階層、
偶然とはいえ、まさかこんなにも早く辿り着くとは思わなかった―――アークは緊張と期待が入り混じった様子で歩を進める。
そんな時、
「おーい、『ミノタウロス』と『ライガーファング』が出て来た。…むぅ、少しばかり多いな…。後ろの奴も手伝ってくれ!!」と、隊の最前列から声が聞こえる。
後ろに待機していた上級冒険者達は多少面倒そうな素振りを見せながらも前へと向かう。
そう、その時だ。
後方が手薄になったその時だ……。
アミュレットが、モンスターの接近を警告した。
「……う、ウソだろッ!!!?」
狼狽えながら、アークは必死に震えた声で叫びながら後ろを振り返る。
―――ズシリ、ズシリと重く耳に響く足音と、
『――――――ヴ…ヴォ……』
聞き覚えのある唸り声と、見覚えのあるあの2
誰よりも中央に、誰よりも安全な場所に―――アークは無意識の内に死の危険から離れようと後退りしていた。
まるで、5階層で起きたあの死の体験の続きが起きそうな気がしたからだ。
「―――――――!!」
だから、誰よりも怯え―――
だから、誰よりも無様に地面の凹凸に躓き尻餅をついた。
(視界に入れたくない……!視界に入れたくない……!!)
だけど、見てしまった。
一団のいる大部屋に堂々と入って来る
「お、おい……!後ろからも来たぞッ!!」
「しかも何だアリャ……斧か?」
アークの後ろを歩いていた駆け出しの冒険者達も狼狽え始める。
ゆっくりと、だが、確かな殺意を纏っている奴等は、他のミノタウロスに比べて決定的に違っていた。
「……ら、
「このミノタウロス共!全員
後ろから襲って来る奴等の両手には得物が――――石の大戦斧が握られていた。
奴等の持っている得物の所為で、先程までの奴等に比べて1回り、2回り――――いや、それ以上にデカいと思ったのは、俺も目がおかしいからだろか?
「く、来るぞッ!!迎撃しろッ!!!」
冒険者が叫びを合図に各々が得物を引き抜き、迎撃の準備に入る。
サポーターは更に中央へ、荷物番は「…ッチ、クソが……
前で戦い、後ろで戦い、
群れと言ってもこちらの方が人数が上、その上レベル3と4がいる中、負傷者が出る可能性はあれど、全滅する何て事は誰もがそう思っていた。
――――しかし、ダンジョンには常に死が漂っている。
絶対などない、命の絶対の保証など、ダンジョンには存在しない。
「……」
アークは尻餅を着いた情けない体制を立て直し、戦闘の光景を見る。
「ヌンッ!!!!!」
屈強なドワーフがミノタウロスの前に立ち前肢を覆い隠す程の大盾を構え、斧の一撃を受け止める。
『…ヴォモッ!!!?』
盾を力任せに殴りつけた石斧はガラガラと崩れ落ち、破片となって床に散らばる。
「ヘッ!!そんな脆い武器じゃ俺様の作った盾に傷一つ吐かねェよ!!!」
柄だけになった石斧を投げ捨て拳を握りしめるがその瞬間――――
「―――――アイスジャベリン」
大盾を構えているドワーフの頭上を氷の大槍が通り、ミノタウロスの脳天を捉える。
そして、見事に脳天を貫かれたミノタウロスはガクリと力なく両膝を落とし、魔石を残して消えた。
「さっさと終わらせるか」
刀を握り締めている身軽な冒険者がミノタウロスが振り下ろした斧を難なく躱し、懐に潜り右脚に刃を食い込ませ、斬り飛ばした。
「任せたッ!!」
「応よッ!!!」
右足を失いバランスを崩したミノタウロスに間髪入れずに2人目の冒険者が左側面から駆け寄り跳躍、そして両手に持った大剣を背まで持って行き――――
「オリャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
発条の様に伸ばし、首元目掛けて振り下ろし、両断するッ!!!
大剣がミノタウロスの首を一撃で切断――――首は血しぶきを撒き散らし、宙を舞いながら地面へと落ちて消えて行った。
見ての通り、順調だ。そう、誰が見てもその筈だった。
「ムッ!!?」
後方、ミノタウロスの群れの股下を複数の影が通り過ぎる。
その小さな影達は前衛の冒険者達を通り過ぎ、後衛を通り過ぎる。
「しまったッ!『アルミラージ』の群れだ!!」
冒険者達を通り過ぎた小さな影達の正体―――それは13階層に現れる兎のモンスター、『アルミラージ』だった。
その上、各々の口には石の
奴等もミノタウロスと同じ様に、
アルミラージ、7階層に出現する『ニードルラビット』と同じ額に1本の角が生えた兎のモンスターだ。
大人しそうな見た目とは裏腹に非常に好戦的なモンスターだが、個々の戦闘力は低く、レベル1の上位冒険者でも辛うじて勝てるモンスターだ。
レベル1の上位冒険者が辛うじて―――だ。
「不味いッ!あの兎共……サポーターの方へ向かってるじゃねーか!!?」
冒険者達をすり抜けてアルミラージ達の攻撃対象は、一団の中央に位置する―――
「―――――ック……!」
先程ヘルハウンドを仕留めたエルフの青年が弓を引き搾り、矢を放つ。
サポーターへと殺到するアルミラージの群れの一匹の胴体を、更にもう一匹も頭部を確実に撃ち抜き、仕留めるが、最後の一匹が
間近に迫った一匹のアルミラージは口に咥えていた石の
「――――ヒッ!」
名も知らない少女のか細い声が横から聞こえる。
アークは体を彼女の方に向ける。
しかし、眼前に入って来るのは瞳孔が小さくなった恐怖の
この生と死のやり取りの光景が一歩の距離で行われていることに、アークはただ茫然と眺―――――――
「……来いッ!!!!!」
める訳にはいかなかった!!
アルミラージの石斧が少女の頭に振り降ろそうとした瞬間、アークは少女とアルミラージの間に発現した武器を握り締め、割り込む様に垂直に切り上げる。
アークは自分の持っている武器の姿形も良く見えなかった、いや―――確認する時間すら惜しかった。
(……頼む!この一瞬を、ただこの一撃を凌げる武器が出でくれれば、何でも良い!!)
アークはただそれだけを信じて、
アークの発言した得物―――剣の軌道は少女とアルミラージの間を通り、アルミラージの石斧へと向かう。
そして、アークの得物とアルミラージの得物が打ち付け合うその刹那―――――――――
アークの得物が、
折れるとか、砕けるとかじゃない。
グニャりと刀身が歪み、曲がった。
(……う、ウソだアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!)
「……~~~~~~~~ッ!!!」
アークの得物が石斧と接触した時、まるで得物そのものが意志を以て戦いから逃げる様に、刀身が曲がった。
得物が曲がり、アルミラージの得物が少女の頭に振り降ろされる一連の光景が、アークの瞳にはスローモーションに、ゆっくりと見えた。
―――――それ故にアークは驚愕し、焦り、恐怖した。
声にならない慟哭が喉から溢れ、ゴチャゴチャに混ざった感情はやがてアークの頭を真っ白に染め、思考する力を完全に奪ってしまった。
アルミラージの石斧がゆっくりと少女に振り降ろされていく。
アークの曲がった得物は石斧を通り過ぎ、無様に空を斬る。
少女を助けようとした一世一代、刹那の賭けに負けたアークの罰ゲームは、名も知らない少女が目の前で無惨に「ヌアアアアアアアアアアアッ!!!!」
「……ッ!!?」
横から突然の衝撃が走り、アークは咄嗟に目を瞑る。
そして、次に目を開けた時、視界に移っていたのは尻餅をついて震えている少女と―――――腰巻と派手な被り物をした巨漢がアルミラージの耳を片手で掴んで立っていた。
「ヌウンッ!!!!」
気合の入った掛け声と共にアルミラージを地面に叩き付ける。
俺はアルミラージが叩き付けられた瞬間の姿を見てしまった。
耳の付け根と首があり得ない方向に捻じ曲がり、頭部が完全に潰れた姿を一瞬だけ晒し、魔石を残して消えて行った。
「…じぇ、【
前方と後方の戦いはいつの間にか終わっていたらしく、先程までミノタウロスと戦っていた冒険者が呟く。
ジェロニモと呼ばれた半裸の男は「タテルカ?」と片言口調で少女に話しかける。
傍からすれば、非常に危ない光景だが、周りは誰一人そのことを突っ込まなかった。
「……は、はい。助けてくれて、ありがとうございます……」
少女は震えながら立ち上がり、バックパックを背負う。
その姿を見た蛮長は何も言わず少し離れ、縦穴目掛けて跳躍する。
そして狭い縦穴の壁を足を食い込ませ、もう一度蹴り、跳躍してまたその壁を蹴り姿が消えて行く。
「た、縦穴を昇って行きやがった……」
「いや、もう人間業じゃねーよアレ……」
恐らくは地上に戻るつもりだろう。
周りの冒険者が唖然とした様子呟く。
(……人間って、あんなに高く飛べるんだな)
そう思いながら、冷静さが戻っていないアークは空高く跳躍した彼をジッと見ていると、
「千歳――――ッ!!」
後ろから叫び声が聞こえる。
ハッとアークは我に返り、大声がした振り向くと2人の人間の青年と少女、1人の獣人の女性がサポーターの少女、千歳と呼ばれる女の子を取り囲んでいた。
「心臓が、心臓が止まるがどおぼっだあああああああ」
「そうだよ!千歳ちゃんに何かあったら、
少女を抱きしめ、泣きわめく姿に「お兄ちゃん、大袈裟だよ。恥ずかしい……」と少女は苦い表情を浮かべる。
――――……い、今の内に。
アークは誰にも見られていないことを願い、刀身が|から「 の形に捻じれ曲がった派手な剣をそっと、鞄の中に入れた。
そして消えるのを確認してから、彼らのやり取りを遠目で見ることにした。
「アークボルトさん、大丈夫ですか!?」
そのやり取りを暫く眺めていると、前方から青い着流しと紅い着流しを着た男性、ブルークさんが駆け寄り、その後ろから興味なさそうに、気だるげに臙脂さんが歩いて来る。
「……いえ。俺は、大丈夫です」
ブルークさんは「そうですか、それなら良かったです」と言いながら安堵の表情を浮かべる。
「怪我をしたら遠慮なく言って下さいね」
「……は、はい」
そう言ってブルークさんはまた、一団の先頭へ。
臙脂さんも同じように、アークを一瞥してから気だるげに両肩を左右に揺らしながら先頭へと戻って行った。
ブルーク・コバルト、臙脂・ヴァ―ミリオン。
アークの付添人を名乗る彼らの背中を見る。
彼らとの接触はホームから少し歩いた先の道中からバベルの前までだ。
ダンジョンに入ってから言葉を交わしたことは1度も無い。
正直な話、あまり近づきたくない気持ちが強い。
と言うか怪しい!
アークは、彼らに仄かな警戒心を向けながら、歩き進める。
――――何故この場所を『嘆きの壁』と呼ばれるようになったか?
最初にこの場所に辿り着き、そして生き残った冒険者達が、そう呼んだ。
冒険者達の最初の
しかし、その壁は余りにも強大で、圧倒で、成す術が無かったのだと。
―――だが、それも今となっては過去の話。
やがて彼らは力をつけ、群れ、時間をかけてその壁を乗り越え、楽園へとたどり着き、住処を築いたのだから。
冒険者達は
~とある冒険者の言葉~
「……」
……此処が、嘆きの大壁。
アークはキョロキョロと直方体の広大な空間を見渡す。
入口から端まで、200
そして、アークは左側を見る。
物語に出てくる大理石の王宮の床をそのまま貼り付けたかのような凹凸一つ無い磨き抜かれた壁が、そこに有った。
―――コレが、あの人が言っていた嘆きの大壁。
美しさの中に、何処か異様でおぞましい壁を、アークはただジッと見つめていた。
アークだけじゃない、まだダンジョンに入って間もない駆け出しの冒険者達やサポーター達もその圧倒的な姿に目を奪われている様だ。
「そろそろ行くぞ!」
彼らの気持ちを汲んで暫く止まっていた先頭組が呼びかけ、アークは我に返り歩を進める。
拠点である18階層、迷宮の楽園まであと少しだ。
大壁を横断し、その先の階段を降りる。
「そうだそうだ、コレだったよな!?」
階段を降りる前、1人の冒険者が突然思い出したかのように、ドッと笑いながら人一人が入れる程の穴を指差す。
「お前がゴライアスと戦っている最中に落ちたって穴。それでそのままゴロゴロ転がって18階層に行っちまったっけ?」
「おう、やめーや!!もう何年も前の話をしてんだゴラッ!!!」
顔を赤くしながら怒鳴る2人の冒険者の話を他の上級者冒険者達は隠れてクスクスと笑う。
そんな会話を傍から聞いているアークの頬に、風が掠める。
次に、階段を下っている内に今度は奥の視界が明るくなる。
アークは咄嗟に目を細め、右腕で目を覆う。
先程まで薄暗い暗闇に慣れた目に突然の光は少し辛い……。
「ふう~~着いた着いた。時間も大方予定通りって所か」
階段を降り切り、足に伝わる感触は無機質から土へと変わる。
そして――――
「……!」
アークは手を退け、もう一度空を見る。
……ああ、『空』だ。
真っ青な、
ようこそ、
ゴージャス・エクセレント・スーパーソード
価格 5,000,000ヴァリス
・とある国のお貴族様が職人に達作らせた純金の
・その刀身と鍔には大粒の宝石と一流の
・武器ではあるが、限りなく装飾品に近い武器。
・脆い、それなりに重い、威力は最低クラスと、武器としての機能を全く果たしていない
・目が痛くなる程の派手な見た目と、無駄に高い値段から、作らせた人の頭の悪さと見栄っ張りさが良く窺える。
・剣の名前もお貴族様が喜びそうな単語を繋ぎ合わせているだけだ
「……800万ヴァリスで良い家がいくつも買えると聞いた。……何でこんなモノに500万ヴァリスも使えるのだろうか?」
~アーク~
いつの間にかお気に入り数1000超えていました。
地道に更新していこうと思いますので、これからも暇を潰す感覚でお付き合いください。