ダンジョンに運だけで挑むのは間違っていると思う   作:ウリクス

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魔導書(グリモア)
・読んだ者の資質に合わせて魔法が発現する書
・発展アビリティ『神秘』と『魔導』を極めた人にしか発動できない
・価格はヘファイストス・ファミリアの1級品装備と同等かそれ以上。物によっては豪邸を買って一生遊んで暮らしていける程の高価な逸品
・効果は一度きり、使用した後はただ重いだけの奇天烈本(ガラクタ)となる

「……膨大過ぎて何も…言えねぇ……」
~アーク~


Chapter2 終了 「俺には過ぎた力です」 

「……取りあえず、冷静になろう」

アークはステイタスの写しを机の上に置いてから服を着る。

 

「あら、随分と冷静じゃない」

「……いや、そうでもない。一生魔法とは縁のない人生を送るんかなって思っていたから、どんな形であれ、魔法を使えるのに驚いているよ」

アークはチラッと視線を写しの方へ移す。

 

《魔法》

【不定の魔術】

・存在する(していた)魔法を一つランダムで選択し、あらゆる条件を無視して発動

・攻撃と補助(その他)を使い分けられる

・使用する魔法と精神力が足りない場合、発動直後に強制的に精神枯渇(マインドゼロ)発生

詠唱式

【発動した魔法に応じる】

 

「何て言うかその……凄く使い勝手が悪い魔法ね。結局は運任せじゃない」

「……やっぱり?」

アテナがう~ん…と両腕を抱え、頼んでもいないのに冷静な分析が始まる。

 

「先ず、第一に魔法のリスクが他の魔法と比べて高すぎる」

例えば、格上のモンスターと戦っている時にここぞ、と言う時に魔法を使うとする。

魔法とは本来切り札であり、強力な詠唱(溜め)の果てに放たれる起死回生の一撃だ。

デカい一撃が出てくれればそれで良し、もしハズレ、その状況で言ったら詠唱が短く軽い一撃の魔法が出て仕留めきれなかったら―――結果は言わずとも分かる筈だ。

 

だからと言って、格下に使うのも悪手だ、格下は数と素早さで攻めてくると相場が決まっている。

詠唱の短い魔法が出れば一つの攻撃手段として成り立つが、デカい魔法を引き当ててしまったら目も当てられない。

何故か?ダラダラと詠唱中している間にモンスターに群がられて―――と言う展開になるのは目に見えている。

だったら、高速で動き、戦いながら詠唱をする並行詠唱を使うか?

こんな駆け出しがそんな離れ技を出来るとは思えない。

 

「ま、他にも精神枯渇(マインドゼロ)についても色々言いたいことはあったけど、要は単独(ソロ)で活動する間はこの魔法はリスクが高く、見返りが少ないってこと。死にたくなければ控えなさい」

「……流石知神。ご丁寧な解説どうも」

アークは頭をガリガリと掻きながら頬杖をつく。

 

「……まあ、そうだな。単独(ソロ)でいる時は魔法は控えるよ。手に入れられるとは思っていなかったから、儲けモノとして思ってる」

アークは興味なさそうにそう言って立ち上がり、部屋を出ようとする。

 

「……アテナ様、ちょっとお土産持ってデメテル・ファミリア(あの子達)に持って行くよ。どうせ祭りは台無しなんだろ?」

台無し、か。

何処の誰がやったかは知らないけど勘弁してくれよ、これでも本気(マジ)で楽しみにしてたんだぞ……。

 

「あ~はいはいお土産ね。行ってらっしゃい」

知神はステイタスの写しを片手に、土産の酒瓶をもう片方の手に持ち、アークを見送る。

部屋出て扉を閉めようとした瞬間、アテナが「あ、そうだ!!」と思い出したかの様に「アーク、出来るだけ早く帰って来なさい(・・・・・・・・・・・・・・)」と背後から話しかけて来る。

 

「……?何か用事でもあるんですか?」

アークは立ち止まり閉まった扉越しで声をかける。

「いや、そうじゃないの!ただ…何となくよ!何となく!!」

「……??」

益々訳が分からない、でも―――そんなに長居するつもりは無いから別に良いか。

そう判断したアークは重たい荷物を担ぎながらデメテル・ファミリアへと駆けて行く。

 

「―――さてと、私も喋り過ぎて喉渇いたわ。このお酒を……冷蔵庫に冷やしておきましょう。他にお酒はないし……仕方ないわ、水で我慢しましょう。後は……」

知神はステイタスの写しに視線を落とし、つい最近耳に届いた噂を思い出し、目を細め、「面倒なことにならないと良いんだけど」と呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

「……着いた」

今思うとデメテル・ファミリアのホームはオラリオの郊外にあるからオラリオを出入りしないといけない。

いや、此処まで来るのに時間が掛かるって言いたかっただけだよ。

 

「あ、お兄さん……」

ホームの前に辿り着くとまたもやチビ三人がホームの前で遊んでいた。

彼女達の姿は何処か元気が無かった。

 

「お祭り、ダメになっちゃったですぅ」

ルゥが尻尾と耳をしゅんとしながら言う

「……ああ、俺も楽しみにしていたのに……」

いい年した大人が何を言っているんだと。

 

「……フローラ達はいるか?」

アークが訊くとリアが「さっき帰って来たよ」と扉を開け中へと促される。

 

落ち着いたアースカラーの絨毯が敷かれ、白と緑を基調とした壁紙の廊下を進むと会議室と書かれた部屋へと通される。

 

「……よう。元気、じゃないな」

「…あっ、リーダー様……来てくれたんですね」

会議室に入るとゲッソリとした彼女達の姿が。

机に両腕で伏せたり、頭を抱えていたり、自棄になっている様子で「あ゛~~~床が気持ちい゛~~~」と、地面にうつ伏せに倒れている子もいる。

全体的にダラン…とした様子だ。

 

「……その、お前達は大体この部屋にいるな」

「私達は、落ち込んだり話し合いをする時や集まる時はいつもこの部屋を使っています」

今日まで一生懸命畑と向き合って、アークと共に数日間ダンジョンに潜って手に入れた均等に均等されたなけなしのお金を使っておめかししたにも関わらず、怪物祭当日の早朝、アークを誘おうとしたらアテナ様から不在を言い渡され、挙句の果てにはモンスターの脱走でオラリオ中がパニックに。

 

彼女達も安全の為に泣く泣く全員集めてホームに帰って来た―――というのが彼女達の現状だ。

 

「リーダーはいないし、お祭りは台無し……ヤになるよ。…『リーダーはいない』しっ!!」

「……ゴメン、多分その時俺はオラリオに向かっていた途中だと思う」

エミリアが強調して二回言う。

 

「……まぁ、その……なんだ。その代り、にもならないと思うけど」とアークは手に持っていた紙袋の中から中ぶりな包装紙が1つ、長方形の包装紙が3個、最後に大人拳2つ分程の大きさの瓶が1つドンッと机の上に置かれる。

 

「村から持って来たんだ、こっちの袋には紅茶の茶葉が入っていて、こっちの長細い奴は俺の友人が作ってくれたパウンドケーキ、最後にこっちの瓶がジャム、材料から製作まで全部村で作った奴だ」

 

「その、これでも食べて元気出して欲しい……」とアークは彼女達をチラッと見る。

 

その後「ケーキが食べられる」と小さな呟きが聞こえ、地に伏していた他の子達はムクりと起き上がる。

 

「…リーダー、ケーキのついでに一つお願いがあるんだ。今日一日、ボク達と一緒にいてよ……今日はお休みだからさ……」

床に伏せていたエミリアがゆらりと立ち上がり、フラフラした足取りて近づいて来る。

その眼には光が無く何処か虚ろで、暗い目だ。

 

「……あ、ああ!勿論。今日はこんなゴタゴタが起きたんだ。こんな日はダンジョンに行くモンじゃないよ。本格的にダンジョンに行くのは明日からにするよ」

縁起が悪いと言う理由でダンジョンを休むと言うのは甘ったれているだろうか?

いやいや、命を賭けているからこそ、縁起は大切だと思う。

それに、今日は祭りを楽しむつもりだったし。

 

アークがエミリアは要求を承諾すると同時に「わーいっ!じゃあさ、じゃあさ!!アークが村に行った時のこと教えてよ!!」とアークの隣に座る。

その眼は爛々と光り輝き、興味に満ち溢れていた。

 

 

「―――――え?」

エミリアの一変した態度に他の仲間はただポカンとエミリアの方を見ていた。

 

 

「ちょ、ちょっと!さっきまであんなに落ち込んでいたじゃない!!」

「そうだよ!ひきょーだよひきょーっ!!」

モニクとヘンリッタが指を差して抗議する。

その言葉にエミリアは「だって仕方ないじゃん。過ぎたことを言ってもしょうがないしね」とヘラヘラ笑って見せる。

 

「また来年一緒にお祭りに行けばいいじゃん!ねっリーダー」

「……ああ、そうだな。来年こそは一緒に行こう」

言質を取ったエミリアは「えへへ~リーダー」とアークの腕に抱き着く。

 

「……私、ケーキを切り分けてくる」

「じゃあ、(わたくし)は紅茶を淹れてきますわ、こう見えて結構得意ですの」

そう言ってやや不機嫌気味にミレイがケーキ持って行き、ララが紅茶の茶葉が入った袋を持って退室する。

「ミレイ、手伝うよ!」

「アタシも!」

その後を追う様にモニクとヘンリッタが後を追って退出する。

 

「……じゃあ、あの子達が戻って来たら始めよう。その前に……その、お前達の方は上手く進んでいるか?」

アークはデメテル・ファミリアの現状を訊く。

 

「はい、畑の方は概ね順調に進んでいます。しかし、今回の騒動の最大の原因である洪水対策の方の進み具合がイマイチ……ですね」

フローラがチャッと眼鏡の位置を直しながら答える。

 

「畑の横を流れている川の水の量が増加して、普段だったら堤防が防いでくれるのですが、時間の流れで老朽化して完全に崩壊してしまい、そのまま畑の方へ流れて行った、と結論が出ました。なので現状は畑を作りながら堤防を修復して徹底強化を並行して行うつもりだったんですが、堤防の方は思った以上に予算が……と言う状況です」

フローラは「何をするのにも、お金は必要です」と付け加えてボヤく。

 

「そうそう、今後の進行次第では今度こそ資金集めと畑を防衛する為に、ファミリアの中から選んで冒険者にするとか何とか。そんな噂話が流れているけど何処までが本当か分からないよ」

エミリアもやれやれと言った感じで首を左右に振る。

 

「……ねぇ、リーダー。話が変わるんだけど……」

クラリスがおずおずと口を開く。

 

「……どうした?」

「……いえ、その…ルゥちゃんから話を聞いたんだけど。リーダーがミノタウロスと戦ったんだって……」

「……ああ、何だその話か。本当だよ」と左腕を摩りながら言う。

だが、その瞬間周りの空気の温度が下がる。

まるで真冬に暖房付けたぬくぬくとした部屋に突然窓を全開にしたかの様なあの冷たさに近い感覚だ。

 

「…ミノタウロス。発生階層は15階層、レベル2にカテゴリーされているモンスター」

フローラがポツポツと言う。

「アンタ、レベル2と1対1で戦うなんて随分と勇ましくなったじゃない」

セリアの声色から怒りが伝わって来る。

 

「……し、仕方が無かったんだ。戦った…と言うよりも『戦わないといけなかった』の方が正しいかな」

アークは心の中で(……不味い、変なことを言ったか……)と思い必死に自分の発現をフォローする。

 

「……足に一撃入れようとしたけど上手くいかなくて、それで、ヘマをしてミノタウロスから一撃貰ったんだ。殴られた直後、諦めはしなかったけど、正直コレ死んだなって悟ったさ」

 

ダンジョンに潜っている以上、死は何処にでも潜んでいる。

死ぬ時はどんな強い人だって、アッサリと、思った以上に簡単に、そして直ぐに死ぬ。

それがダンジョンだと―――あの人に教えて貰った。

そうやって何度も死を見て来た、と酒場で酒交じりに何度も何度も。

だから、死にたいワケじゃないけど、コレも冒険者としては仕方が無いかなって、今思えばそう納得できる。

 

 

「……でもな、その時「お待たせしましたわ」」

アークの話を遮るかのようにガチャリとドアが開き、ララを筆頭に紅茶が入ったバラの絵が描かれたティーポットカップと緑の装飾が施された皿に切り分けられたケーキが机の上に置かれる。

 

「ちょっとララ!今いい所だったのに~」

「あ、あら…ごめんなさい」

アンナとメアリーが空気読め!と諌める。

「……まぁまぁ」とアークが宥める。

 

「……えっとだな。簡単に言うと5階層に降りてミノタウロスと遭遇して秒殺されたって話だ。それで、気が付いたら治療院って所にいて、話を聞いたらロキ・ファミリアが助けてくれたんだ」

 

紅茶とケーキを傍に、アークは彼女達に自分の僅かな過去を語った。

ミノタウロスに襲われる前に、ヘファイストス・ファミリアの遠征に誘われたこと―――

怪我でダンジョンを控え、町で色々していたらオラリオに連れて行ってくれた人に出会い、友人の結婚式に出る為に村へと帰ったこと――――

途中、馬車が壊れて一晩中ゴブリンと戦い続けたこと――――

友人の結婚を祝い、友人達と再会を祝い、村の人達に何度も何度も自分の冒険を語ったこと――――

 

「……ああ、そうだ。その紅茶は少し特殊でな。砂糖を入れずにジャムを紅茶の中に入れて混ぜるか舐めながら飲むんだよ」

 

明日からまたダンジョンに潜る日が始まる。

ステイタスが少し変になっているけど、頑張ろう。

今の俺には、それしか出来ないから。

 

 

 

 

 

 

 

場面は変わりとある酒場に移る。

オラリオ西部の大通りから少し外れた先にある場末な酒場。

中々の広さだが古びた木造、ひび割れた壁、カウンターの奥には所狭しと並んだ安っぽい酒瓶、席とテーブルには粗悪な装備(みなり)の冒険者が占領し、彼らの手には安っぽい―――いや、安酒が握られていた。

その上、お世辞にも上品とは言えない乱暴な笑い声が飛び交い外にまで聞こえる始末、少なくても冒険者ではない一般人には多分、一生縁のない建物だ。

 

「――――クソッ!!!」

ダンッ!!!とジョッキを力強くテーブルに叩き悪態を吐く一人の冒険者。

「……荒れてるな。何かあったか?」

「ああ、あったさ!だからイラついているんだよッ!!」

大柄で目つきが悪く、無精ヒゲが生えた男が手の甲で口周りに着いた泡を拭いながら叫ぶその拍子にテーブルに立てかけた男の得物、至る所が刃毀れしている両刃の戦斧がガシャンと床に落ちる。

その向かいの席には質の悪そうな短剣を一本携えたやる気のなさそうな眼をした細い体躯の獣人が呆れた顔をして頬杖をついていた。

 

「…もしかして、あの冒険者を追っているのか?」

「当たり前だろ!?上層で魔剣を意のままに振り回している冒険者って話だ、そりゃ皆注目するだろうに!!」

 

曰く、

・その冒険者は魔剣を意のままに操り、群がるコボルトやゴブリンを蹴散らしていると

・魔剣だけでなく、【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン、【勇者】フィン・ディムナの持つ武器を手に取り上層のモンスターを屠っていると。

 

その冒険者は魔剣だろうが第1級装備だろうが『意のままに操れる』と言う噂が上層どころか今や中堅にまで名声が響き渡っていた。

 

「しかし、そんな眉唾物の噂、普通は信じないけど、何でこんなに広まったんだ?」

「ああ、最初は皆『こんなのウソに決まっている、低級冒険者の戯言だ!』って信じなかったんだが、とあるファミリアの構成員(・・・・・・・・・・・・)の証言で噂の信憑性がグッと上がったんだ」

「そのファミリアって?」

 

 

「そんなの決まっているだろ!?ロキ・ファミリアの連中だ。遠征から帰って来たファミリアの下っ端が酒に酔ってうっかり口を滑らしたんだよ。黒いマント付きの革鎧、茶色のバンダナの冒険者が団長の槍を持っていたって!!」

そう言うと、「だがな、最近その冒険者が現れないんだよ!!」と言ってジョッキに残った酒を一気の煽る。

 

「ああ、クソ!魔剣さえあればあんな屑どもに馬鹿にされねぇのに!!魔剣さえあれば遊んで生きていけるのに!!魔剣さえあればこんな苦労しなくて済む!!!魔剣さえ―――――」

男は散々喚いた後、机の上に顔を伏したまま盛大なイビキをかきながら眠ってしまった。

 

 

 

 

 

 

ヘファイストス・ファミリアホームのとある一室で、アテナは時計をチラッと見る。

「…遅い」

時刻は丁度10時を過ぎていた。

アテナ自身、アークに用事はない上に、アークが何時に帰ってこようとも別にどうでも良かった。

そうじゃない、この時間帯は―――良く見える(・・・・・)

 

 

 

「……はぁ、食べた食べた」

しまった、いつも以上に遅くなってしまった。

アークは膨れた腹を手で摩りながら東メインストリートを歩く。

満腹で満ち足りた表情をしながら歩いていると、

 

「オラッ!!」

「キャア!」

鋭い悲鳴と何かが転げ回る音が大通りの外れから聞こえる。

 

「……」

 

アーク、他のファミリアのゴタゴタに首を突っ込んじゃ駄目よ!面倒事が増えるだけだから―――と、アテナ様に言われたことを思い出す。

 

本当はこのまま立ち去るのが最善の行為かもしれない、でも、

「……」

そ~っと、音を立てずに物陰から様子を見る。

 

 

 

「けっ!!コレっぽっちしか持ってねェか」

「…ごめんなさい…」

少女の方はクリーム色のローブに包まれて顔は見えないが、声で少女だとアークは判断する。

地に伏せた少女を1人の獣人が恐らく金が入っている革袋を片手に足蹴にしていた。

わざわざ魔石灯の照らされる所でやっている為か、遠目からでも誰が何をやっているかがハッキリと分かる。

アークは魔石灯の光が届かない暗い物陰から見える範囲で顔を出していた。

獣人の後ろには2人、多分、取り巻きだと思う連中がその少女を見下しニヤニヤと気落ち悪い笑みを浮かべている。

 

「アーデ、お前は冒険者としても役立たずな上にサポーターでも役立たずな小人族(パルゥム)だなぁッ!!!」

「あっッぐ……!!」

獣人はもう一度蹴り上げる。

少女は悲痛な声を挙げながら転がりうつ伏せになる。

 

 

―――来い。

アークは沸々とした怒りで武器を発現する。

暗くて手元の武器が分からないが、少なくても軽い武器だと言うことは分かった。

 

「俺達冒険者様の為にお前らサポーター(雑魚)は存在しているんだろうが!!」

「1ヴァリスでも多く稼いでからくたばれよ!!」

後ろの取り巻きも少女に2、3度蹴り上げ、下卑た笑い声をあげながらその場を離れて行った。

少女はそのままヨロヨロと立ち上がり別の路地裏へと消えて行った。

 

一部始終を見たアークは手に持っていた得物を誰もいない路地裏にカラン…と投げ捨ててから大通りに戻って行った。

 

 

 

「……」

嫌な物を、見てしまった。

そう思いながらアークはトボトボと帰路を歩く。

そんな中、大通りの外れにある民家から話し声が聞こえる。

 

「お父さん!お帰り」

「おとうさん!おかえりなさい!!」

小さな少年と少女の声が聞こえる。

 

「コナー、アビー、ダメじゃないかこんな夜遅くまで起きて」

父親だと思われる人物は息子と娘を咎めるが、その声には何処か嬉しそうに聞こえる。

 

「はい、お父さんお誕生日おめでとう!」

「おとうさん、いつもありがとう!!」

「コナーもアビーも、お父さんが帰って来るのを楽しみしていたのよ」

民家の窓から魔石灯の光が漏れ、父と母、そして幼い少女と少年のシルエットが影絵の様に映し出される。

 

良くある家族団欒の姿―――だが、その視線を少し右に逸らすとその家の脇に、家から漏れる魔石灯の光に照らされている何かがいた。

5,6歳くらいの二人の幼い少女で褐色の肌と、尖った耳から恐らくは、黒妖精(ダークエルフ)だろう。

2人の少女の体を纏っている服―――いや、アレは服じゃない。

ボロボロの布きれを被り、体中がボロボロで、特に酷いのは手首と足首の何度も切ってかの様な傷跡だ。

 

(……どうやったらあんな酷い傷が出来るんだ!!)―――アークは心の中で戦慄する。

その時、1人がアークと目が合う。

目があった少女はブルブルと震わせながら小さい体を更に縮める。

もう一人の方も異常を感じ取ったのか、もう1人と同じ様に体を縮める。

その姿はまるで、アーク()と言う脅威が立ち去るまでただひたすらに耐え続けているようにも見える。

私達は路傍の石です―――と。

 

「ハッピバースデートゥーユー!」

「はっぴばーすでーとぅーゆー!」

「「ハッピバースデーディアおとうさーん!!」」

「「ハッピバースデーとぅーゆー!!」」

 

―――――ピシッ――――――

胸の奥で何かに亀裂が入る音が聞こえたような気がする。

「……」

――――何だ?コレ(・・)は。

アークは何度も視線を左右にゆっくりと振る。

左を向けば楽しそうなごく普通の幸せな家族が見え、右を向けば体を寄せ合い、ただ脅威に耐え忍んでいる2人の少女が。

冗談にしては到底笑えるモノには見えなかった。

ああ、見てしまった。

アークは、オラリオの日常茶飯事の裏の顔をただ茫然と眺めることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

「……ただいま」

「おかえりなさい…です!」

ヘファイストス・ファミリアホームの廊下でアークはニケ様に出会う。

 

「……」

「あの…何かあったんですか?」

ニケは俯いているアークを覗き込むように見るがその前にニケの頭の上に彼の右手が置かれる。

 

 

 

「……いえ、何もありませんでした(・・・・・・・・・・・)

アークはニケの頭を優しく撫でた後、フラフラとした足取りで自室へと消えて行った。




蛆肉崩し
鞘と柄に紫黒の装飾が施された脇差。
・下層に存在するポイズン・ウェルミスのドロップアイテム『毒妖蛆の毒腺』を使用して作られた。
・強力な毒属性効果

このシナリオ(作品)投稿し始めてもう1年経つんだな。
早くて3ヶ月、遅くて半年くらいで完結させる短編にしようと思っていたのに……。
アレやコレやとグダグダ考えていたらもう……。
グダグダ考えるくらいなら、いっその事勢いで書いてしまうか。

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