ダンジョンに運だけで挑むのは間違っていると思う   作:ウリクス

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サポーター
冒険者と共に迷宮に潜る荷物持等の雑用を生業とする職業である。
サポーターになる場合は主に2つあり、1つは駆け出しの冒険者が勉強のために同ファミリアの高レベル冒険者に付いて行く場合。
2つ目はフリーとして様々な冒険者に雇われる場合である。フリーの場合、様々な理由でサポーターになることが多く、この場合雇われた冒険者から見下され不当に扱われることが多い。


「……サポータか、俺もいつか雇わないといけないんかな。その時は俺なりに頑張ってそのサポーターと上手くやっていきたいな……」
アーク


第32話 冒険者始めました「つまり、サポーターになれと?」

「ハイよ、24300ヴァリスだ」

「……どうも」

 

――――ああ、荷物が軽くなった!なんて背中が軽いんだ!!

しかし今日は頑張った、武器を何度も破棄してバックパックに詰め込んで、また武器を破棄してを何度も繰り返していくうちにもう夕方だよ!

今日の午後はゆっくりしようって決めてたのだが、ステイタスを伸ばしたい一心で戦っていたら何時の間にやら……何やってんだろうな、俺。

 

「……腹へったなぁ。凄く、腹減ったなぁ……」

 

魔石とドロップアイテムの換金を終え、ギルドを出ていざホームに帰ろうかと思った矢先、後ろから「おーい!あー君」と聞き覚えのある声が聞こえる。

後ろを振り向くと俺の担当アドバイザーのミィシャとエミリア、クラリス、セリアの担当アドバイザーのエイナがこちらに歩いて来る。

 

「……あー、ミィシャちゃんとエイナさんじゃないか。何か随分と久しぶりの気がするなぁ」

アレ?換金する際はほぼ必ず姿を見ると言うのに話すとなると久々のように感じるのは俺の気のせいだろうか。

 

「あー君、最近どお?儲かりまっか?」

「……?」

「こ、こらミィシャ!」

 

ミィシャが人差し指と親指で小さな輪っかを作る仕草を見せる。

それを見たエイナは慌てて彼女を咎めるが、俺にはさっぱり意味が分からなくて、少しの間固まってしまった。

それから少し頭の中を動かして、彼女は『儲かっているか?』と言っているのを理解して「……ああ」と独り納得して頭を少し揺らす程度に頷く。

 

「えへへ~、今のロキ様のマネ~」

「……そ、そうか」

彼女にいきなり金の話を持ちかけられて少し驚いたけど、隠す必要はない。

俺は「今日の稼ぎだ」と言って金貨の入った革袋を彼女達に見せる。

 

ミィシャは「いや、冗談のつもりだったんだけど……」と申し訳なさそうな顔をするが、少し間を置いて「重そうだけど、いくら入っているの?」と小さな声で聞く。

 

「……24300ヴァリスだ。さっきそう言ってた」

「「に、にまんよんせんヴァリスッ!?」」

 

「一日でッ!!?」と付け加えてエイナとミィシャは驚愕の声を上げる。

「……しかし、どうしたんだ。そんな話をいきなり持ちかけて来て」

俺が聞くとミィシャは「いや~ちょっとね、ははは~……」と何ともバツの悪そうな顔でこちらを見て来る。

 

「疑っている訳じゃないんだけど、その稼ぎって……一応あー君一人でやっているんだよね?」

「……ああ、そうだ。今は俺一人(ソロ)だ」

彼女達(ギルド)のことだ、デメテル・ファミリアのことはもう知っているだろ?

エミリア辺りがエイナさん辺りに言ってそうな気がする、と言うか絶対報告しているだろ。

 

「う、うん。そうよね、そうだよね。えっとね……此処だけの話だけど。あー君の持ってくる魔石って『他の駆け出し冒険者に比べて妙に質が良いし、ドロップアイテムの数だって単独(ソロ)の冒険者、それも駆け出しにしてはこの収入は多すぎる』ってギルド内の一部じゃ結構有名なんだよ」と、コソコソと教えてくれる。

 

5人パーティの冒険者が一日に稼げる収入は25000ヴァリス、そこから人数分割って一人頭の収入は5000ヴァリス、と聞いている。

――――確かに多い気はするけど、俺は不正なんてしてないぞ。

 

「……まさか、疑っているのか?」

「ち、違うよあー君!そんなつもりじゃ……」

 

やってしまったっ!―――と言わんばかりに慌てて両手と首を横に振り、否定の意思を示す。

 

「その…ね、疑っている訳じゃないんだけど、その……コツとかあったら教えて欲しいな~って、思っちゃったりして――――駄目、かな?」

 

何処か既視感のある台詞を呟きながら上目遣いで俺を見て来る。

「……コツ、かぁ」そう言って俺は両手を組んで考え始める。

いや、駆け出しの冒険者にコツとか言われても困る。どうしようもなく困る。

「……でも、強いて言えば無いことは無い」と呟く。

 

「でも、全ぜ「本当ッ!!?教えて教えてッ!!!」」

 

でも、全然期待しない方が良いよ―――と言おうとしたその瞬間、彼女は俺の両手を掴み顔をズイッと近づける。顔が近い……凄く近い!!

そしてこの彼女の歓喜の表情を見て欲しい。

もしミィシャが犬人だったら今頃自前の尻尾をこの上なく左右に振っているだろう。

 

「……偶々、運が良い日が続いているだけだよ。―――え?本当にそれだけかって。それ以外に何があるんだ?」

 

再度見て欲しい、俺の答えに心の底からガッカリした彼女の表情を。

 

「本当に、本当にそれだけ?」

そう呟き何度も何度も確認をしてくるが、俺は「……ああ、他に何が思いつくんだ?」と言い返した後、彼女は完全に沈黙する。

 

「……エイナさん、何で彼女は俺にこんなこと聞いて来たんですか?冒険者じゃないんですから聞いてもどの道意味は無いと思うんですけど」

――――まさかッ!?駆け出しの冒険者に対して新しい情報の提供の為に俺はいつの間にかギルドから尋問を受けていたとか……!

 

「あー、えっと……昨日少し災難なことがあってね、少しお金に対して過敏になっているの……」

と、少し呆れた表情で地面に崩れている彼女を見下ろす。

彼女はポツリポツリと「……ザンギョウ、テツヤ、ツカレタ……お財布落としたあああああ……」と言い残しパタンと倒れる。

倒れた彼女を見届けた後、エイナさんに別れを告げホームへと帰宅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……えっと、えっと……」

 

無事に自室に帰還し、ベッドに備え付けられてある鍵付きの引出しを開ける。

その中にはこれまで俺が稼いできた収入が入っている。

あとダンジョンに1、2回潜れば10万ヴァリス超える―――それが俺の現時点での全財産だ。

5万程溜まったら新しい武器でも見に行こうと考えていたのだが、このクソスキルの所為で買う意味が無くなった。

取りあえず身の安全の為にポーションでも買おうかと思ったがこれ以上買ってもバックパックの場所を取るだけで、新しい防具の新調でも!―――と思ったがこの鎧着てまだ3週間しか経っていないのを思い出して断念した。

 

「……まだ、全然使えるよなぁ」

 

ユージュアル村で作って貰ったこのマント付きの黒革鎧、所々引っ掻いた痕や擦れた痕が見られるが鎧としての機能は全く衰えていない。

そりゃあまだ3週間だもんな、当たり前と言えば当たり前か。

 

色々俺なりに考えた結果、大人しく貯金することにした。

豪邸―――じゃなくていいからアテナ・ファミリアのホーム(拠点)を買えるだけの金が欲しい。

何年かかるか分からないし、23歳と言う年で何年戦えるか分からないけど、まぁ地道にやることにするよ。

 

「……?はーい」

コンコンッと扉がノックする音が聞こえる。

こんな時間に誰だろうか?これからアテナ様の所へ行ってステイタス更新をする予定だと言うのに。

 

「あ、アークさん!おかえりなさい……ですっ!!」

「……ニケ様、ただいま」

来訪者はニケ様だった。

 

「……どうしたんですか?こんな時間に」

「えっと、アテナ様にアークを呼びに行けって言われたです」

 

――――自分で行けよコレくらい。

と言うのも、俺の部屋からアテナ様の部屋に行くための所要時間はゆっくり歩いて15~20秒くらいの距離にあるんだ。近くて大変便利だけど、近いだけあって度々ノックもせずに俺の部屋に押しかけて来て困る。いや、物凄く困る。

 

「……分かりました、やることやったら直ぐに行きましょう。丁度俺もアテナ様の部屋に行ってステイタス更新する予定でしたから」

「はい!よろしくお願いします……です!」

鎧とバックパックの汚れを落とし、部屋着に着替え部屋を出る。

 

「あ、アークさんはこのホームに慣れたですか?」

「……え!?」

部屋を出て数歩歩いたところでニケ様が突然俺に話しかけて来る。

 

「……ま、まぁ慣れましたよ、一応……」

突然の質問に俺は少し間を開け、ドギマギしながらも答える。

その答えにニケ様は「私も慣れたですよ~みんな優しい人ですよ」と小さな子供の様な笑顔を向けてくる。

 

「こんばんは、ニケ様!!」

「今日も白くて小っちゃくてかわいい~」

 

アテナ様の部屋まであと数歩という所で如何にも真面目で堅そうな猪人(ボアズ)の青年と、軽そうな感じのドワーフの少女が話しかけようとニケ様に一声かけてから近づく。

この廊下結構人が通るんだよな、ヘファイストス様に頼んで多少アテナ様の部屋から離れて良いからもう少し端の、誰も通らない部屋にして貰おうかな。

 

「こんばんは!鍛冶仕事がんばってください……です!」

そう言って頭をペコリと下げる。

 

俺は二人がニケ様に目が行っている間に申し訳程度の愛想笑いを浮かべながらコソコソ~とアテナ様の部屋に入る。

周りからいつも「お前は足音が五月蠅い」と言われてきたけど、この瞬間だけは無音で行動できたと思う。

そう、我ながら完璧だと思う程の隠密行動だ。

 

 

 

「……来ましたよ、アテナ様」

部屋に入るとアテナ様が偉そうな奴が座りそうな豪華な椅子に偉そうな体制で座っていた。

 

「ふふん、来たわねアーク!貴方に「……ステイタス更新に来ました」」

何か言おうとしていたけど、どうせいつもの面倒事だと思ってスルーして背中を露わにし、ベッドに寝転がる。

 

「ちょ!まだ私が話をしている途中でしょうが」

どうせ「私のファミリアの絵が描かれた貨幣を作りたい!私の美しい顔でも可!!」とか「南西のメインストリート、アモールの広場にある噴水を全部撤去してオリーブの木を万遍なく植えたい」とか果てしなくどうでも良いことを頼むんでしょ? 

 

「ま、まぁ良いわ。ステイタス更新をしながら話をしましょう」

アテナ様が俺の背に乗り、神血(イコル)を垂らしステイタス更新をしながら話を続ける。

 

「アーク、さっきの話の続きだけど、貴方を指名で『仕事』の依頼が来たわ」

「……し、仕事?」

急にアテナ様の声色が変わる。遊びじゃない、正真正銘のファミリアに関する真面目な話なのは直ぐに分かった。

え、て言うか本当に仕事の話?いつもの下らない我儘じゃなくって?

 

「依頼主はヘファイストス。詳しい話は執務室でするって言っていたわ」

「……アテナ様は詳しい内容は知っているのですか?」

「勿論!流石大派閥だけあって悪い内容じゃなかったわ」

 

そんな手間のかかることしなくても、此処でアテナ様から詳細を聞くという選択は無しですか、そうですか。

うつ伏せになっている顔を横に向けチラッとアテナ様を見る。

ステイタスを更新しているあの顔、仕事の内容を伝えている時のあのドヤ顔。

頭の中で「今私は猛烈に仕事をしている出来る女神」として間違いなく余韻に浸っていることだろう。

そんな彼女に下手なことを言うと一瞬で拗ねてしまうと思うから、何も言わずにアテナ様の指示に従おう。

 

アークボルト・ルティエンス

Lv1

アテナ・ファミリア

 

[力] :I62→I67

[耐久]:I40→I46

[器用]:I67→I73

[敏捷]:I52→I60

[魔力]:I18→I18

[運] :H192→G211

 

発現スキル:なし

 

「……はぁ、遂に運がG評価にまで……」

「ふふん、このまま突っ走るのも面白いわね。目指せ!運S999!!」

黙れ。

 

「……ステイタス更新も済んだことですし、ヘファイストス様の所に行って来ますよ」

彼女の言葉を無視しつつベッドから立ち上がり、俺はヘファイストス様の仕事の話を聞きに部屋の外に出た。

 

「ニケちゃん、それでね、それでね!!」

外に出るとニケ様の周りに先ほどの二人組に変わって、3~4人の人だかりが出来ていた。

話す内容はありふれた世間話と鍛冶関係ばかりだ。

―――クソ、俺の進路先で固まってんじゃねーよ。そんな愚痴を心の中で漏らしながら彼女達とは反対の方向へコソコソと進む。

他の構成員に会わない様に、慎重に進まないと――――

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、今のってアテナ様のトコの、だよね……」

アークが立ち去った直後のこと、一人のヘファイストス・ファミリアの構成員達がヒソヒソと話し始める。

 

「え、アークさんのことですか?」

「さっきの人、アークって名前なんだ」

「…あの、アークさんがどうかしたのですか?」

 

もしや彼が何かやったのでは!―――そう思ったニケが彼女達に訪ねる。

しかしニケの予想に反し彼女達は「いいや、特に気になるって訳じゃないんだけど」と続けて口を開く。

 

「彼、私達みたいな新入りの間ではちょっとした有名人でね。見かける度にコソコソ行動してて怪しいな~って何度か話題になったんだよ」

「同僚の男達が何度か接触を試みようとしたんだけど、申し訳程度の愛想笑いと素っ気ない返事、そして近寄ってくんなオーラを全開にして逃げて行くから名前すら分からないって、この前ぼやいていたよ。そんな事しなくても、ヘファイストス様に聞いたら名前くらいは教えてくれただろうに。あたいだったら真っ先にそうしてる」

 

1人の少女がクックック…と笑う。

 

「そうそう、前に一度だけ食堂に顔を見せたキリで、会う機会と言ったら精々廊下でバッタリしかないんだって。一体何処で食事をしているのやら」

話好きの彼女達の次なる話題は鍛冶から()に変わる。

彼の話題に変わるとニケは「あの、アラベラさん…」と一つ浮かんだ疑問を構成員の一人に問いかける。

 

「何で貴女の同僚の人達はアークさんに近づこうとしているのですか?」

「パーティだよパーティ。冒険者みたいに徒党を組んで【経験値】積んで、ランクアップしようとする寸法さ」

 

ランクアップをすると発展アビリティを手に入れる機会がある。

その中に『鍛冶』のアビリティと言うのが存在し、鍛冶師として上を目指す人達は時にそのアビリティを手に入れる為にレベル2になろうと躍起になっているという。

 

「ギルドに行って空きのあるパーティに入れて貰おうと1度足を運んで頼んだらしいけど、良い返事は貰えず。かと言って下手に余所のファミリアのパーティに入ろうものなら、何らかのトラブルは不可避。確かにそれだけはあたいも勘弁だわ」

 

――――つまり、アークさんのパーティメンバーになって【経験値】を積んでランクアップして『鍛冶』アビリティを手に入れよう、と言うことですね!と1人で納得するニケ。

 

「彼は冒険者としてのキャリアはほぼあたい達と同じ駆け出し(新人)で、一時期はパーティを組んでいたらしいけど、今では単独(ソロ)で活動しているって噂を聞いてどうにかパーティのメンバーにして貰えないかと奮闘中ってワケ。一応、アテナ・ファミリアはヘファイストス・ファミリアの関係を結んでいる筈だから互いに無関係じゃないし、下手なことは出来ないと思うしね」

 

アラベラと呼ばれた気の強そうな少女は「ふぅ…喋った喋った」とバラを連想させる真っ赤な巻き毛の長髪を右手で搔き上げながら言う。

 

「喋り過ぎて喉が渇いたよ。ちょっち食堂で水でも飲んでから道具を持って工房に向かうよ。ベルダ、ガーティ、あんた達はどうする?」

 

彼女の問いに他の少女達は

「私も工房かな。まだまだ鍛冶の流れが分かんないし、数を打たないとね」

「あたしは鉄を取って来るよ、今日は短剣(ナイフ)刺突剣(レイピア)に挑戦しようと思う。……苦手なんだよねー短剣と刺突剣。こう、ちょっとでも力を入れるとポキッと折れてしまいそうなところが……戦斧とか槌とか大剣とかもっとバーッ!!ってした物が打ちたい……」

 

少女達はそれぞれに別れ再度鍛冶の練習に取り掛かるつもりだ。

ニケは「頑張って下さい……です!」と心ばかりの応援の言葉を投げかけ、アテナ様の元へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

誰かと話をしている様子無し、多分ヘファイストス様以外誰もいないだろう。

――――良し、行こう。

ヘファイストス様の執務室、俺は扉の前に立ちコンコンッと2回軽くノックし「……ヘファイストス様、入りますよ」と一声かける。

 

「アーク君ね入って良いわよ」

 

ドアの奥からヘファイストス様の声が聞こえる。

こんな時間だ、なるべく音をたてないようにと部屋に入る。

 

「……すみません、こんな時間に来てしまって」

 

思っていた通り、ヘファイストス様以外の人は誰もいない。

偶然とはいえ、良かったよ。

 

「いえ、私の方こそごめんなさい。まだやることがあったでしょうに」

 

いえ、この話が終わったら今日はもう寝る以外の行動はありません―――そう心の中で呟きながら本題に入ることにした。

 

「……それで、アテナ様から聞きましたが仕事の内容とは何でしょうか?」

「ええ、『とある現場まで行って色々手伝って欲しいの』」

 

とある現場、バベルに建てられている支店のことだろうか?

 

「……とある現場、ですか」

「少し遠いけど、大人数を用意するつもりよ。そうね、大体20人から30人くらいね」

「……そ、そんなに連れて行くんですか!?」

 

そんなに大規模なことをするのかッ!?支店全体の改装とかかな?

 

「……それで、俺は何をすればいいんですか?俺、(改装の)知識も経験も殆どありませんよ」

「ええ、目的の場所まで荷物を運んだり(鉱脈を)掘って頂戴」

「……ほ、掘るのかッ!?」

 

掘るって何処をッ!?まさかダンジョンみたいに地下を掘って地下支店、とかオラリオの一番近い洞窟まで言って広げて洞窟支店、とか建てる気なのかヘファイストス様は……。

 

「……流石世界で有数の大派閥ファミリア、考えていることが田舎者の俺とは違い過ぎる」

「…ねぇ、何か凄い勘違いしてない」

「……えっ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……つまり、鍛冶に使う材料であるドロップアイテムやら鉱石やらが底に尽きて来たから、人手として来て欲しい……と言う訳ですね」

「そうよ、決して支店を増やす為じゃないわ」

「……すみません」

 

俺は苦笑いしている彼女に頭を下げる。しかし、その直後に彼女は真剣な目で俺を見つめる。

 

「またややこしくなる前に、単刀直入に言うわ。私達の編成する部隊の『サポーター』になってくれないかしら?」

「……サポーター、ですか」

 

サポーター。

荷物持ちを主な仕事とする、所謂雑用専門の職業だ。

サポーターと言ってしまえば響きは良いけど、やっていることは雑用だから当然風当たりは悪く、同じファミリアの同行以外だとぞんざいな扱いを受ける――――と言うのが俺の中での認識だ。

要は良い印象を持ってないと言うことだ。

 

「勿論、報酬は弾むし全力で貴方を護るわ」

「……ヘファイストス様、その大人数で何階層まで降りるつもりですか」

 

俺の問いに彼女は少し間を開けて答える。

 

「色々不足している物はあるけど、特にミスリル(精製金属)を中心に欲しいわ。だからなるべく深層に……そうね、37階層にいる迷宮の孤王(モンスター・レックス)の前……36階層まで行きたいわね」

「……ッ!!?」

 

その問いに俺は額から汗を一滴流し、顔を歪める。

36層――――俺にとっては完全なデッド・ポイント(死地)だ。

もし何か手違い(・・・)があっても、そのまま……と言うのもあり得なくはない。

 

「……すみません、少し時間を下さい。いきなり36階層まで潜って鉱脈突きに行こうって言われても、頷けません」

――――駄目だ、怖いッ……!

 

「…分かったわ、出発はメンバーと道具の最終確認と調整を入れて明後日の朝、返事は明日でいいわ」

 

猶予期間は明日1日、か。

「……はい、ありがとうございます。……失礼します……」

 

そう言って俺は部屋から退出し、自室に戻り今日は寝ることにした。

 

 

 

 

 

 

「…保留になったな、主神様」

アークが立ち去ってから数分、クローゼットの中から一人の女性が出てくる。

 

「…椿、盗み聞きなんてはしたないマネは止めなさい」

彼女の主神、ヘファイストスがため息を吐き書類に手を付ける。

 

「まぁまぁ良いではないか。…して、主神様よ。何故あの者を連れて行こうとしたのだ?それもわざわざ主神様直々に交渉とはな」

ヘファイストス・ファミリアの団長、椿・コルブランドが目を細めて訊く。

彼女の問いに「えっ!?…ええっと、その…」と慌てて彼女の目から視線を逸らす。

 

「ふむ、あの者は何か特別な物(・・・・)を持っていると見た。そう、手前達には持っていない何かを……だな」

右手を顎に持って来て考える仕草をあえて主神に見せる椿。

 

「……」

その言葉に鍛冶神は黙ってはいるものの、書類を片付ける手が止まり、明らかに動揺している様子だ。

 

「まぁ良い、あの者を少し突っついてみるのも一興かもしれんな」

「椿!変な事を考えてないでしょうね!?」

主神が団長に対して咎めるが、「まぁまぁ待て待て、主神様」とにやけながら右手をヒラヒラと振る。

 

「主神様に誓って決して悪い様にはせぬ、あの男にも手前達にも…な。なに、少し色んな人に近づいて貰うだけだ」

そう言って彼女はハッハッハと愉快に笑い「もうこんな夜更けだ、さっさと終わらせてしまおう」と椿も書類を1枚手に取った――――


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