ダンジョンに運だけで挑むのは間違っていると思う 作:ウリクス
・精神力を回復させる薬
・長細いガラスの容器中にオレンジ色の液体が入っている。
・お値段は8700ヴァリス
~第四階層~
「ハァァッ!」
振り降ろしてくるコボルトの右腕を切り払う様に切断する。
そして怯んだと同時に懐へ飛び込み腹部を剣で深々と突き刺す。
「……はぁ……お、またドロップアイテムだ」
さっき試しでコボルトの両手首を切り落としてみたら2つ落としたんだ。
最大で右手首で1つ、左手首で1つ、討伐した際に普通のドロップとして1つ……合計3つだ。
ゴブリンは牙だから口の部分を積極的に狙ってはいるけど良く分からん。
「リーダーリーダー!今日はドロップアイテムが凄く手に入るよ!!」
「……そうだな。エミリア、悪いが辺りの魔石とドロップアイテムを拾いに行ってくれないか?セリアとクラリスは少し休憩だ」
「はーい!まっかせてよリーダー!!」
「……エミリア、手伝うよ……」
「アタシも」
「大丈夫、ボク1人で十分だよ!!」
魔石とドロップアイテムを勝手に持っていた罰として魔石を拾い集めさせてはいるけど、何故か嫌がるどころか、俺が言わなくても自分から喜々として拾い集めている。
しかし本当に速いなこの子、もしかしたら敏捷の評価Hとうに過ぎてるんじゃないか?
「……拾い集めたらお前も休憩しろ。俺は採掘をする」
「はーい!」
今日も俺は小さなツルハシを握り採掘をする。
例え鼻で笑われるようなクソみたいな鉱石が出ようとも、俺はヘファイストス・ファミリアに売りつけ続けるよ。
でも正直な話、100ヴァリスあれば飯一食は食えるよな?
ジャガ丸くん3つは買えるよな?
「……ッ!」
……いかんいかん、つい雑念が入って来てしまった。
完全に第四階層を舐めきってるな、俺のステイタスじゃまだ危険だって言うのに。
パーティーになった途端に安心しきって油断してるよ俺。
「……良し、辺り一帯の鉱脈はもう無いな。そう言えばお前達、ステイタスの上昇はどうだ?捗っているか?」
「…いきなりそんなこと聞いてどうしたの?」
「お前達の現状が知りたいと思ってな。詳しく教えろとは言わん、大体で良いから教えてくれないか?勿論言いたくないなら言わなくても良い」
雑念を振り払うように今後のパーティー全体の考察をすることにした。
「えっと、ボクは器用と敏捷が良く上がってるってデメテル様が言ってたよ!……相変わらず魔力は0だし力と耐久はからっきしだけどね!!」
「……私は魔力が凄く伸びてるって。でも他が……あ!器用が少しだけ伸びてたよ……」
「魔力は0だけど、他は……特に変わった伸び方はしてなかったわ。……何よ、文句あんの?」
「……まぁ、そんな所か」
出来ればセリアには耐久と力が伸びて欲しかったところだがまぁ仕方ない。
「……もう少しで第5階層に続く階段に到着する。それまでモンスターと積極的に戦闘しよう」
「修行ッてヤツだねリーダー!」
「……まぁ、言い換えればそうだな。焦らなくても良いって言っても時間は有限なんだ。今出来る事をお互い精一杯頑張ろう」
俺達は一匹でも多くモンスターに遭遇するためグルグルと第四階層を彷徨くことにした。
1回戦
「……!前方ルームにコボルト2体、ゴブリン3体。クラリスはコボルトを、セリアはゴブリンを狙え。エミリアはいつも通り俺と前線に出ろ」
2回戦
「T字通路にコボルト2体とゴブリン一体、セリアはゴブリンを狙え、エミリアは右のコボルト、俺は左のコボルトを殺る。クラリスは精神力温存と後方警戒」
3回戦
「この先の行き止まりにコボルト3体確認。……セリア、今回はお前も前線に出てもらう。クラリスは精神力温存と後方警戒」
「え、何でアタシも?!」
「お前の矢とクラリスの精神力の節約だよ。それに、あのコボルト共はまだ俺達に気付いていない。殺るなら今……一気に決める」
セリアが鞘から小剣をゆっくりと引き抜いたのを確認して
「俺が真ん中、セリアは右、クラリスは左……行くぞッ!!!」
合図と共にコボルトに向かって全力で走り寄る。
コボルト共も流石に気付いてコチラを振り返ってくるがもう遅い。
「オラァッ!」
俺はコボルトの右手首を斜めに切り上げて切断、怯んだところにもう一太刀、剣を垂直に振り下ろし左手首も切断する。
「貰ったぁッ!!!」
両手首を切断したと同時に腹部を深々と突き刺す。
そしてトドメと言わんばかりに刺した剣を捻る。
「やあぁぁぁッ!!!」
エミリアはコボルトの攻撃を避けたと同時に体を登り、首筋を何度も両手に持っているナイフで何度も掻き切る。
「おりゃああああッ!!!」
セリアは振り降ろされるコボルトの腕を最小限の動きで回避する。
その瞬間チッ!っと危なっかしい音が聞こえたがそんな事を気にもせず懐に潜り込み剣でコボルトの胸部を深々と突き刺す。
その直後に
「死ねばいいのにッ!!!」
っとコボルトが刺さったままの剣を地面に叩きつける様に突き立てる。
((キィィィン…))「ん…?クラリス?!後方から来る敵を迎撃しろッ!」
「……はい!【穿て、雷の閃光】ライトニング!!」
クラリスの詠唱と同時に杖の先から青白い束がゴブリンの頭部を捉える。
そして次の瞬間にはゴブリンの首から上が無くなっていた。
「……はぁ……はぁ……良し、魔石とドロップアイテムを回収次第少し休憩して、今日はもう引き上げよう。階段はもう良い」
「「「……はい……」」」
いくら慣れてきたとは言え連戦、それも複数相手にしてきたら疲れるってモンだ。
「……あっ……」
「ッ?!大丈夫かクラリス……」
「……ちょっと、頭がクラクラします……」
「『クラ』リスだけに?『クラ』リスだけに?!」
「……セリア、エミリアを一発殴っとけ」
「言われなくてもッ!」
「いったーーーーいッ!!!」
倒れたクラリスを抱き起こして近くの壁まで運び休ませる。
……そう、俺達のパーティーがダンジョンに長居出来ない理由、その最大の理由がクラリスの精神力である。
前にも言った気がするけど、コレばかりはどうしようもない。
それを考慮してクラリスには精神力が回復する指輪をはめさせているが回復している実感は今の所無い。
「……はぁ、せめてマジック・ポーションが買える金があればなぁ……」
マジックポーションを買う金があればこの問題は直ぐに解決できるのだが1本8700ヴァリス……今の俺に買える訳がない。
ダンジョンで悠長に休んでたらいつ壁からモンスターが生まれてくるかも分からない。
だからと言って魔法を使わなかったらクラリスが育たないし。
「もうダンジョンを出よう。クラリスは俺が運ぶ、お前達は道中のモンスターを頼む」
「「はいッ!(……はい、すごく痛い)」」
俺達はクラリスの安全を最優先にしてダンジョンから脱出する事にした。
道中のモンスターは個体であれば討伐して魔石を回収するが2体以上の場合は迷わず逃げた。
~バベル周辺の広場~
「……大丈夫か?」
「……はい、また迷惑をかけてゴメンなさい……」
「いや、コレばっかりは仕方が無いよ」
でもやっぱりどうにかならないモノか。
魔力が上がれば魔法の威力増加と消費する精神力を抑えられるとかさ。
「……無いよな、そんな都合の良い事」
「何が?」
「何でもないよ、ただの独り言さ」
いや待て、確か発展アビリティに『精癒』っていうのがあったな。
それをクラリスが発現すればあるいは……イヤでも発展アビリティの発現タイミングはランクアップする時だってエイナさんから聞いたな。
じゃあまだまだ先じゃねえか。
「……はぁ……」
「どうしたの?今度はため息ついて」
「……何でもない」
当面の目標はマジック・ポーションを普通に購入できるほど稼げる様になる事か、気が長いなぁ。
「……立てるか?」
「……はい……」
「良し、魔石とドロップアイテムを換金しにギルドに行こう」
ギルドに着き一直線に換金所に向かうエミリア。
そして換金の棚に稼いだ魔石とドロップアイテムの入った革袋を全部ひっくり返す。
アイツ曰くコレがやりたい為に魔石拾いをしているらしい。
「あいよ、14800ヴァリスだ」
「……どうも。えっと……14800の4等分は……4等分は……えっと……」
「……3700だよリーダー……」
「……そ、そうだな!3700だな!!ありがとうクラリス。ほら、お前達の取り分だ。無駄遣いすん」
「何でたったの11000ヴァリスなんだッ!!!」
「「「「ッ?!」」」」
後ろを振り返ると換金所の窓を叩いて怒鳴り散らしている男がいる。
「…………」
換金所の男は何の反応もせずにただじっとしているだけ。
「アンタの目は節穴かよ……」
「「「「……」」」」
男の異様な行動に目を奪われていると辺りから
「あの杯と三日月のエンブレム……ソーマ・ファミリアね……」
「またソーマ・ファミリアの連中か……」
「見れば見るほど異常ね」
等、ヒソヒソと話し声が聞こえてきた。
「全く、こんな公の前で大の大人が恥ずかしいと思わないのかね」
複数の男が換金所で喚く男を嘲笑うかの様にニヤニヤした顔で話しかける。
「……カヌゥ……テメェ……」
「ま、精々頑張んなよ」
「よ~し、俺達はいつも通りアーデのガキから『お仲間料』を頂くとするかぁ」
喚き散らしていた男とカヌゥと呼ばれた男とその取り巻きだと思われる連中がギルドから立ち去るのを遠目から見る。
「……」
ソーマ・ファミリア、黒い噂があるファミリアだな。
何なんだあの異常な行動は……。
「……お前達、もう行ったぞ」
「……うん」
「……怖い……」
「……」
アイツ等に見えないようにマントの内側に隠れさせてはいたけど……見てみろ!ウチのパーティーメンバーが怯えてるじゃねぇかあのクソ野郎どもが!!
「……そんな事してたら絶対ばちが当たるってのに」
俺は等分したヴァリスの入った革袋をこの子達に渡し、ステイタスを更新してもらう為にヘファイストス・ファミリアのホームへと向かう事にした。
「120ヴァ」
「はいどうも」
見てみろこのドワーフから発せられる『またお前か……』って視線を。
だが止めないからなッ!
~ステイタス更新~
「お前達はここで待ってろ、もう直ぐヘファイストス様が来る筈だから……良し、アテナ様ッ!」
「あら、お帰りなさいアーク」
「ステイタス更新頼むよ」
「ふふんっ!良いわよ……気合いを入れてやるわっ!!」
アークボルト=ルティエンス
アテナ・ファミリア
[力]:I40 →I56
[耐久]:I26 →I34
[器用]:I53 →I61
[敏捷]:I40 →I46
[魔力]:I18 →
[運]:H109 →H142
追加スキル
無し
「今日も運以外はクソみたいな伸びだな……」
「……アーク、下品だわ」
「田舎者に品なんてものは無い……それにしてもアテナ様、今日は随分と上機嫌だな。何かあったのか?」
「うふふっ……秘密」
「……うわっ……性格変わりすぎて気持ち悪ッ……」
「ぶ…無礼者!貴方に言われたくないわよッ!!」
一人勝手に怒っている
「どうも、ヘファイストス様」
「あら、アーク君こんにちは」
この子達を連れて店の中を回っている所を発見した。
「あの……ヘファイストス様。今日でホームの部屋が空くって聞いてたんですけど……」
「……ええ、貴方を置くために一部屋、空けてはいたんだけど……」
「……だけど?」
「悪いけど、その部屋はニケが使うことになったの。貴方はまだデメテルの所で我慢しなさい!」
後ろから
「……どういう事だよ?」
「……ちゃんと説明するわ」
ヘファイストス様とバカ女神の説明を簡単に要約すると
アテナ様ことバカ女神が気まぐれに天界と交信する。
偶々知り合いの女神に繋がり話が弾む。
アテナ様がその女神にオラリオに降りて来いと強要する。
説得の末明日オラリオに降りて来るらしい。
そしてその女神をヘファイストス・ファミリアのホームに住まわせるらしく一部屋確保したいとヘファイストス様に駄々を捏ねる。
その部屋はアーク君が使うと言っているのだがアークにはデメテルの所があるじゃないの一点張り。
ヘファイストス様折れる。
「……大体分かったよヘファイストス様……」
「……本当に……本当にゴメンなさい……」
「……イヤ、別に良いですよ。その女神を優先させて下さい。……それで、他の部屋はいつ空きますかね?」
「……そうね、他の子供達の現状を考えると……大体一週間くらいかしらね」
「じゃあ来週辺りにまた部屋について声をかけます」
「分かったわ」
ヘファイストス様に頭を下げて別れを告げる。
「ちょっと!私は?!」
「良し、帰るぞお前達」
後ろでアテナ様が何か言ってるけど無視してデメテル・ファミリアのホームへと向かう事にした。
そして帰り道にエミリアが
「ってコトは最低でも後一週間はボク達の所で住むんだよね?!ね?!!」
「……まぁ、そうだな」
「イやったーーー」
「……リーダーとまだ一週間もいれる……」
「……ふ、フンッ!別にアンタがいてもいなくても別にアタシはなんとも思ってないから」
「……そうか、セリアはずっとそう思っていたのか。ダンジョンにいる時でも今この場にいると」
「……じょ、冗談に決まってるじゃないッ!わ、悪かったわねッ!!」
でもまぁ正直な話、あの女だらけの場所で暮らすのは落ち着かねぇんだよな。
~デメテル・ファミリアホーム 応接室~
「ただいま、デメテル様」
「デメテル様だだいま!」
「……デメテル様、戻りました………」
「ただいま戻りました、デメテル様」
「あらあら、お帰りなさい貴方達」
相変わらずデカい。
今まで見た中でも断トツだな。
「……その、デメテル様。折り入って頼みがあるんです」
「あら、何かしら?」
前置きとしてデメテル様に
「あらあらまあまあ!ニケちゃんも降りてくるのねっ!今度の
「その……ニケちゃんってどんな子なんですか?」
ニケって子について神様達の説明からまとめてみると
『勝利の女神』と呼ばれている
アテナ様の従者
草冠を作るのが得意
凄く健気で小さくて可愛いらしい
でも臆病で泣き虫
背中の羽がすごく綺麗
ってかあのポンコツ駄女神に従者がいた事に驚きが隠せない。
「それでその……後一週間くらいここに厄介になっても良いでしょうか?」
「あら、別にいつも通りでいいならいくらでも良いわよ」
「……お世話になります。お前達はこれからステイタス更新だろ?俺は部屋に戻って少し休んでおくよ」
応接室から退室し個室へと戻る。
そして少しだけ体を休ませる事にした。
パソコン帰って来たぁぁぁぁッ!!!
コレでまた早く更新出来ると良いのですが……