空物語   作:向ヶ丘こよみ

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お久しぶりです!!!!!!!!!!!!
およそ4年ぶりの投稿になります。
はじめましての方の方が多いかも知れませんね。
あれから僕は高校生から大学生に。ついには卒業してなんかフリーターで夢を追いかけながら日々生活をしていました。
でも頭の片隅にはいつも空物語があり、いつまでもメモ帳アプリにはネタが溜まっている状態でした。
なぜ今回急に出したかと言うと、本当になんとなくです。
誠意も反省もありません。これは僕の趣味です。でも、魂を込めて書いたつもりです。第一話、かけるキャンサーまでを本日14時、19時に予約投稿済みなので、ぜひ見ていただければ幸いです。
新しい空物語を、ぜひ。





プロローグ

 体が溶ける。臓物が流れ出る。紛れもなく体温が消えていく様を自分の中で文章として残していくような気持ちが俯瞰的に記されていく。

 目の前には自分が恋した女がいた。

 卒業式の前日──彼女と初めて出会った場所に呼び出され、屈託無い笑顔で何か言われたところまでは覚えている。百年の恋も冷めるような酷いことを言われたはずなのに、空っぽだった僕を満たしてくれた、ただそれだけのことで僕は彼女が憎めなかった。

 彼女を知り、世界を知り、彼女の夢を知り、彼女が他の人の夢を叶えていく様を見て僕は彼女を支えたいと思った。彼女のやっていることを勉強し、勉強し、し尽くした先にここにいたはずだというのに。

 ああ、世界が溶ける。溶けていく。ああ、溶ける、溶ける。今まさに──もはや体温も感じない。闇に溶けていく。

 ──ああ。願わくば、彼女が幸せでありますように。

 口に出せたかは定かではないが、その声はきっと神様に届いただろうと思う。

 

 

 

 なんてカッコいいことを言ったその直後、目が覚めたとき僕は一歳だった。

 一体何が起こったのか、いや、そもそも僕は死んだはずではないのか──疑問の声は、赤ん坊の泣き声に変換される。さらに言えば、泣き声は一つではなく二つであった。

 ちらと見ると隣にはもう一人赤ん坊の姿があった。その声に遠くからはいはい、という女性の声が響いた。

 眼前に広がるのは女性の顔だ。そして同時に理解する。この人は僕の母親だと、そして自分は、何の因果かこの人の息子として生まれ落ちたのだと──そんな事をただぼんやりと感じていた。目を瞑り、再び開く。どうやらいつの間にやら寝てしまっていたようだ。再び意に反して泣き声をあげる──されど、待てども待てども母は来る気配がない。

 あんなにもすぐ向かってきてくれたというのに──いや、買い物か何かに行ったのか。きっとそうに違いない。

慣れない身体をどうにか動かしつつ仰向けからうつ伏せになる。そして四つん這いへと移行した。

 これだけでも結構労力を使うな。赤ん坊にとってのこう行った行動は全て高カロリー運動なのだろう。

 そうしていると横からの視線に気づく。もう一人の赤ちゃんだ。

 こちらをじっと見つめていた。

 ええいなんだこっちを見るなと思っていたら、なんと赤ん坊僕と同じことをするではないか。これには驚いた。驚きのあまりに泣きそうになったが抑える。

 まあそんなことはどうでもいいのだ。今の僕は前世を持ったチーターである。ならば、生後いくつかはわからんが、ともかく立ち上がることができればエリート街道まっしぐらに違いあるまい。

 柵の棒をうまく使い立ち上がる。赤ちゃんの握力は存外弱く何度も転び僕ともう一人の赤ちゃんによる大喝采が幾度かあったが、窓の外の日が傾き、夕日が差し込んだあたりで僕はついに二足歩行をマスターした。

 ──人類の先に一歩近づいたとその瞬間だけは思っていたのだ。

 だが悲しいかな現実は非情である。

 柵を掴みプルプルと立つ姿を母が見ていた。否、或いは見ていないのか。

生物学的にいえば見ていないし、文学的にいえば彼女は僕たちをはっきりと見ていた。

 端的に言って仕舞えば──僕の目の前には僕に乳を与えた母の亡骸があった。首をつり、悶え苦しみ既に物言わぬ死体になっていた。

 ──直ぐに現場は処理された。帰った父らしき人物による通報である。

 家も引越し、母のいない身になった僕たちを案じた父は再婚をするが、それは目に見えていた地雷というべきだろう。

 結果的にいえば、父は家族四人の生活を賄おうと働いてしまったために過労死した。本当にあっけなく、コロリと僕たちの前で死んだ。

 事が起こったのは4年後の話で、僕が実に5歳の時である。

 父の葬式は淡々としたものだった。元々親族の関係が希薄であり、尚且つ当時の義母も僕たちには関心は既になかった。世間体という物を気にしたのだろう。容姿だけは良かったその女は直ぐに金だけはある男を捕まえ──その家は終わった。

 愛のない結婚だった。世間体世間体世間体でそんな生活は続くはずもない。

 直に隣で泣いていた赤子は成長し、しかし涙をも流さない立派な僕の姉へと成長していた。思えば彼女はこの時に運命が決まったのだろうと思う。

 そんな巫山戯た環境で泣くことすら許されなかった唯一の肉親を見て誓った。目の前の少女が──羽川翼が一端の大人になるまで、僕が支えよう。生前『彼女』がそうしてくれたように、今度は僕が目の前の物を守る番だ。

 それがたとえ共依存という歪な関係だろうが構わない。彼女が光に当たるように影になってやろうじゃないか。彼女が何も知らない白なら、僕はすべての色が混ざり合った黒になろう。

 彼女がどうしようもなく正しいのなら、僕は何処かで何かを間違え続けてやろうではないか。

 この物語はそんな真っ白な彼女の人生の逆を歩んだ真っ黒なお話である。

 

 青春で

 本当になるために

 そらかける

 

 

 

 

 

 


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