よくある転生モノを書きたかった!   作:卯月ゆう

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専用機お目見えだよ!

 臨海学校は2日目、昨日は千冬やナターシャのばいんばいんがばいんばいんで非常に眼福だったが、それを君たちに分け与えるほど私は聖人ではないので割愛させていただく。

 今日は1日中IS漬けになるのは原作でも今でも変わらないらしい。学園から持ってきた撃鉄とエクスペリメント5機を班に別れて使っている。候補生には各国から自国の機体が持ち込まれているのでそっちで特別メニューだ。だから学園からの持ち込みは5機で足りる。

 私は私で束とともに砂場でパラソルを立てて潮風にあたっていた。

 

 

「ねぇ、まだ?」

「うーん、もうそろそろ着くはずなんだけどね。それポチポチっとな」

 

 束が携帯端末を叩くと一瞬空が光った気がした。ISを部分起動してハイパーセンサーでそれを見ると大きな銀色(それも鏡面仕上げ)のコンテナが降ってくる。

 

 

「アレ?」

「アレ」

「こっち向かって降ってきてない?」

「降ってきてるね」

「アレって動力無いよね」

「無いね」

「ブレーキかからないよね」

「かからないね」

「逃げないとまずくない?」

「マズイね」

 

 私は束を抱えて即撤退。直後に私達が居た数メートル奥にコンテナが突っ込んで1/3ほど埋まった。

 突然の出来事に辺りのISを纏った人たちがこっちに武器を向けてるし、生徒たちは唖然としている。千冬と織田先生は「またおまえか」といった顔で眉間をおさえていたが……

 

 

「ゲホッゲホッ。束、大丈夫?」

「酷いね、誰だよこんなの作ったの(お前だ)

「さぁ? とりあえず中身出しちゃっていいよね」

「うん。そこら辺にぽいぽいしてもらえれば束さんが準備しちゃうから」

 

 斜めに埋まった滑りやすくて熱いコンテナになんとかよじ登って扉を開けると、中には懐かしいIS制作グッズたち。それも中は涼しい! ひとまず誰にも見られていないから黒騎士を展開して中身を片っ端から外に放り投げる。外では束がそれらをせっせと組み立てて簡易ピットを作っているはずだ。

 とりあえず中身を全部外に出すとISを待機形態に戻してから再び外に出る。白に黒抜きで兎が描かれたテント(決して某成人向け雑誌の代表格ではない)の下には様々な機械が並び、その中心で束は簡易ベッドを広げてくつろいでいた。

 

 

「さ、さっさと本題にはいろう」

「だね。周りの目もいい加減うざったいし」

 

 束は棚から"如何にも"な箱を取り出して私の目の前で開けた。実際は何も入っていないが、私はさも指輪が入っているかのように振る舞い、それを指にはめる仕草をする。そして、IS用ベンチに立って一言「コール、ナイトメア!」と叫べばまるで私の専用機は『ナイトメア』という名前の黒騎士そっくりな機体に見える寸法だ。実際は口にだすこととは別に黒騎士を呼び出しているわけだが……

 何はともあれ、無事に私の専用機を展開する正当な理由ができたわけだが、世界初の専用機だ。周りが黙っているはずがない。

 

 

「アレって黒騎士?」

「どうして上坂さんが篠ノ之博士からISを貰ってるの?」

「どこかの代表候補生ってわけでもないのにおかしくない!?」

 

 まぁ、予想はしてましたよ。書類上はまともでも実態はこんなに狂ってるんだから……

 どうせ束は原作と同じように「有史以来なんんたらかんたら」と言うんだろうが、見事に私の予想を裏切ってくれた。

 

 

「文句があるならあーちゃんを叩きのめしてみなよ。それなりの実力があるなら全然構わないよ? さぁ、文句があるんだろう。やれよ」

 

 うん、まさかだよね。束なりの私への信頼だというのは付き合いからわかるけど、声色が怖いっす。管理局の白い悪魔ですよ、マジで。

 周囲の娘たちは互いに顔を合わせてから目線を下げた。まぁ、そうですよね。私に勝てるの今のところ千冬と束だけですし。

 

 

「なら文句なんて言わないことだよ。あーちゃんは自分の実力で私に認められた。なら君たちも自分を磨けばいい」

 

 言ってることはまともですが声が怖いです。なんどでもいいます、それではただの脅しです。一応、私は無関心貫いて目線さえ彼女たちには向けなかったが、まぁ、見えちゃうよね。

 マジでビビってる顔してるもん、あとが怖いなぁ…… そうだ、コレを機に「生徒会長に勝てたら生徒会長」の制度を作るか。うん、それがいい!

 

 

「じゃ、適当に飛んでてよ。束さんはその間にエネルギーライフルでも作ってるから」

「あいよ。ひっさしぶりに動かせるぅぅぅ」

 

 ベンチから降りるとゆっくりと砂浜を歩く。その間も周りからの視線が痛い。クラスメートに嫌われるのは痛いので国家代表候補生が集まる方に視線を向けると慌ててみんな目をそらしていた。面白い。

 第1世代の大型ハイパーセンサーのバイザーで顔の半分ほどが隠れているから口元だけ笑うと非常に怖い。特に黒騎士は悪役にしか見えなくなる。

 

 

 《束、泣いていい?》

 《ん? あぁ……》

 

 波打ち際まで行くとPICだけで少し浮き上がってから瞬時加速(イグニッションブースト)で一気に洋上に出た。そして一通りブースターと関節を動かすと30分ほどで戻った。

 再び嫌な視線を浴びながら砂浜をPICだけで浮いて進むと束のいるテントに倒れこむように滑りこんだ。

 

 

「おかえり。黒騎士はどう?」

「うん、問題ない。ただ、そろそろIS自体のステージシフトが必要かと思うんだけど」

「ふうん? 確かに束さんもそう思ってたよ。ただ、あまりに急速な進化は周りを置いてけぼりにしちゃうと思うんだよね」

「束がそんなに考えるなんて珍しい……」

「ってあーちゃんなら言うかなって」

「はぁ……」

 

 まともな思考は私経由ですか、そうですか。黒騎士をメンテナンススタンドに掛けてエネルギーチャージさせると私はそのまま束の隣に腰掛けた。

 クラフトテーブルの上にはなめらかな形をした銃のようなものが転がっているのでアレがエネルギーライフルだろう。

 

 

「アレがライフル?」

「そーだよ。後で試し撃ちしてきてね~」

 

 IS用ライフルとはいえ、それほど大きいものではないので普通に生身で持てる。原作で千冬が生身でIS用ブレード持ってヒロインズが驚いてたけど、正直そんな驚異的なことでもないよね。ガ○ダムみたいなサイズなわけじゃないんだから。

 ひとまずライフルを黒騎士のそばまで持って行って私が黒騎士を起動させるとライフルを量子化し、何度か展開と量子化を繰り返してイメージを作る。

 ふと人の気配がしたので反射的にそちらに銃口を向けると両手を上げた千冬と知らない女性が立っていた。

 

 

「千冬か。それで、隣の方は?」

「こんにちは。私は防衛省特殊強化外装特課の空井と言います。簡単に言ってしまえば日本の代表候補生たちの上司です」

「なるほど、それで、防衛省の方が千冬を連れてきたということは」

「はい。候補生達と模擬戦をしていただけないかと」

 

 束をちらりと見るとプライベートチャンネルで「別にいいよ、どうせコピーなんてできないんだから」とありがたいお言葉を頂いた。

 千冬に目を向けると「私はしぶしぶやっているんだ」という顔をしていたのでコレは防衛省が篠ノ之束お手製機体のデータを取りたいから面識のある千冬を使ったというところだろう。

 

 

「わかりました。お受けしましょう。ただし、織斑とは戦いません。少なくともこの場では」

 

 あえて含みを持たせる。この言葉を使えば「千冬には本気を出さざるをえない」という意味と「それ以外は手加減してやる」という2通りを含んだつもりだが、相手もちゃんとそれを受け取ってくれたようだ。

 すこし笑みが引きつったのを見落とすほど甘くない。私はバイザーで目が隠れるから表情を隠すという意味では有利だ。

 

 

「私もあなた方の目的を察しているつもりです。なのでやすやすと渡すつもりはない、ということですよ。お分かりいただけるでしょう?」

「ええ。流石に甘く無いですね。たかが高校生と思っていたのですが。私が思っていたよりも大人だったようですね」

「褒め言葉として受け取っておきます。20分後くらいにそちらに伺いますね」

「分かりました。お待ちしています」

 

 2人の後ろ姿を見送ると束が残念そうにつぶやいた。

 

 

「ちーちゃんを代表候補にするのは正しかったのかな……」

「少なくとも、今は。仕方ないんだよ、千冬も私も世間から見れば篠ノ之束と世間をつなぐ数少ないパイプに過ぎないんだから」

「私は、こんな世界を作るためにISを作ったわけじゃないのに……」

 

 


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