よくある転生モノを書きたかった!   作:卯月ゆう

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臨海学校に行くよ! タイトルが「よ」で終わるのは諦めたよ……

 時間は大きく飛んで7月の頭。IS学園きってのイベント、臨海学校がやってきた。先週末に一夏くんや箒ちゃんも連れて千冬や束と水着を買いに行ったがその話は割愛させていただく。

 この数ヶ月でISは大きく進歩し、PICを応用した様々な技術が開発された。特に私が待ちに待った反動制御(何故か学園で私が撃鉄に乗ると周りが「え、お前もかよ……」みたいな目で見てくるのでエクスペリメントに乗るしか無くて、それに刀を使うと「え、おm(ry」みたいな(ryで銃を使わざるを得ないのだ……)も登場し、私は容赦なく千冬に鉛球の雨を叩き込むことができるようになった。そして待ちに待ったことがもう一つある。それは各国代表制度の確立だ。4年後のモンドグロッソを目指し、各国が開発するISのテストパイロットを兼ね、国家代表を目指す制度。もちろん始まったのはまだ一部の技術先進国のみだが、それでも日本、アメリカ初め数十カ国で一斉に募集を開始することが決まったのだからビッグニュースにほかならない。

 そして予想通り千冬と私は先生(織田先生ではない。周囲だ)に推されるがままに日本の代表候補生試験を受けたのだ。それがひと月前の話。5人という枠の中で私と千冬は(私達を使って篠ノ之束との)内定をもらったが私は蹴った。(パイプを作ろうなんて甘ぇんだ、タコ)ゲフンゲフン、あの時の学年主任のアホ面は最高だったがまぁ、ソレは私と織田先生の秘密だ。

 もちろん、各企業もそれに続けとばかりに企業の広告塔を兼ねたテストパイロットの募集を始めた。私にとってはそっちのほうが都合がいいのだ。事前に束と打ち合わせをし、書類だけの企業をでっち上げて私は見事そこのテストパイロットに就任した。というのがココ1ヶ月の顛末だ。

 千冬は代表候補就任と同時に白騎士を束に返した。もし見つかって解析されたら非常に面倒なことになる。さらに言えば千冬は代表候補になるかどうかすら迷っていたのだ。織斑家の大黒柱である千冬が今は稼げないために学費免除であるのに奨学金を借りて生きているのだ。国家公務員として月に人並み以上の給料がもらえる方が一夏くんにはいい。私と束はそう千冬を説得した。私達よりも自分と家族を優先するべきだと。私の両親にも相談し、一夏くん本人の意見まで聞いて一騒動あったのだが、最終的に千冬は代表候補になる決意をした。

 そんな苦労もあってか、千冬は私に体を預けて可愛らしい寝息を立てている。学園を出たバスは高速道路をひた走ると山に入り、長いトンネルに入っている。おそらくこのトンネルを抜けたらアニメであった「海見えた」的展開になるはずだ。

 

 

「あっ、海が見えるよ!」

 

 ほれみろ。誰が言い出したか、バスの中で歓声が上がると遠くに大きな和風の建物が見えた。おそらくアレが花月荘だろう。

 もちろんココで原作のどこぞの誰かさんみたいに織田先生が一声でだまらせるのだ。最近思ったのが、千冬の教師としての形は織田先生によって作られたんじゃないかな? でも、織田先生にある優しさ的な部分が欠落している気がしなくもないけど……

 

 

「まもなく到着だ、寝てる奴は起こしてやれ。宿に着いたらまず荷物を持って玄関前で整列。部屋ごとに点呼をとったら荷物を部屋に入れて自由時間だ。後でもう一度言うがこの流れは覚えておけ」

 

 はーい、と一同が返事をすると隣の千冬を揺すって起こす。反対の窓際でよだれを垂らして寝てる束には輪ゴムを指で引っ張って……っと。

 

 

「痛っ! なんだなんだ!? 束さんに何が起きたっ!?」

「篠ノ之、静かにしろ」

「はい……」

 

 それと、束は織田先生にはなぜか私達と同じように"普通"に接している。それ以外の有象無象のような言い方もしないし、こうして何か言われれば従うのだ。不思議でならない……

 千冬をもう一度揺すって、ほっぺた引っ張ってふにふにするとやっと目を開けた。こうしてみると織斑マドカってホントに千冬そっくり……、アレって原作では明言されてないけどクローンなのかな? 少なくともそれを防ぐために正当な手段で千冬のDNAサンプルを取られない手段を考えないと…… 視線操作のモバイルPCで束に短くメッセージを送って目線を向けると束は頷いた。

 

 

「千冬、そろそろ着くって」

「あぁ、うん。わかった」

「大丈夫?」

「平気だ。最近候補生の書類が多くてな」

「私や束も使っていいんだからね? 倒れられたら元も子もないんだから」

「なに、簡単に倒れはしないさ。それに、他の奴らも同じだろう?」

 

 少し首を伸ばしてあたりを見回せば代表候補に選ばれた子たちは総じてやたらと眠そうにしていた。特に海外組は祖国と日本を行ったり来たりしているのだろう、なおのことつらそうに見えた。

 全校生徒(1学年しか居ないからあえてこう言わせてもらう)60人の中から国家代表候補生に選ばれたのは30人。2人に1人は代表候補というカオス極まりない空間だ。まぁ、初めての募集な上に対象になる人数がたったの60人なのだからこれだけの数になってしまうことも頷ける。

 まだ第1世代「兵器としてのISの完成」にこぎつけていないのか、まだ"専用機"という概念は存在しない様で臨海学校2日目に私の"専用機"がお披露目になったら世界はどのような反応をするだろうか。と、いろいろ考えていたら隣で千冬がタブレットを口に放り込んでバスは私達がお世話になる花月荘の前で止まった。

 

 

「全員揃ったか? 今日から3日間お世話になる花月荘だ。女将さんからご挨拶を頂く」

 

 織田先生の号令できっちりと並んだ2クラス60名。その前に立った女将さんはどこかで見たことある気が…… 原作のままだ……!

 

 

「IS学園の皆様、ようこそ花月荘へいらっしゃいました――」

 

 まぁ、省略。私と千冬、ナターシャ、そして束は4人でキャリーケースを引いて(千冬はボストンバッグで束は手ぶらだったけど)織田先生の下へ。先生は私達を見るとため息を付いてから204号室の鍵をくれた。

 

 

「くれぐれも問題を起こしてくれるなよ、篠ノ之。お前のせいでどれだけの書類を書いたと思ってる……」

「はは…… ごめんなさい」

「頼んだぞ」

 

 部屋は8帖ほどの和室で4人には十二分な広さがある。部屋の片隅に荷物をまとめると早速畳に寝転がる。おばあちゃん家を髣髴とさせるい草の匂いが眠気を誘う。

 ナターシャは早速海に行くようで水着などが入っているであろうビニール袋を取り出して私に軽く手を振ると「海に行ってくるから」と言って早速出て行ってしまった。

 

 

「杏音、お前はいいのか?」

「そういう千冬は? 束、どうするん?」

「束さんはおひさまが……」

「はぁ、行くぞ。束、杏音。たまには陽の光を直接浴びろ」

 

 まるで私達がヒキニートみたいな言い草だが、私はちゃんと毎朝寮から校舎まで陽の光を浴びているし、部屋に戻る時だってちゃんと夕方の日を浴びている。太陽は大事だ。セロトニンバンザイ!

 束は普段どこに居るか未だにわからないし、ふらっと授業に現れたかと思うと次の時間には消えていたりする。あいつのほうが大分ヒキニートだろう。

 

 

「あーちゃんなんか失礼なこと考えてない? そんなに不健康な生活してないよ」

「ふしゅーふしゅー」

「誤魔化しきれてないよ、あーちゃん」

「束、お前の水着はどこだ?」

拡張領域(バススロット)のなかー」

 

 千冬が呆れてため息を付いてから私のキャリーケースから水着などをまとめたバッグを取り出すと自分のも一緒に肩に掛け、右手で私の襟首を、左手で束の襟首を掴んで更衣室に向かって歩き出した。途中の階段が苦行だったのは言うまでもない。

 一夏くんに選んでもらった水着だからと浮かれているであろう千冬に引きずられるまま更衣室に放り込まれると自分はさっさと着替えてパーカーを羽織った。私は正直どうでもいいのでのろのろと着替えてからうさぎのシルエットが白抜きになったTシャツを着るといつの間にか白いビキニにウサ耳を装備した束と一緒に砂浜に出た。

 

 

「うぅ、暑ぅ……」

「溶けるぅぅ、ぢーぢゃぁぁぁん」

「おやおや、会長と篠ノ之博士じゃないですか」

「ん? 誰だい、君? あ、ちょっと待って……えっと……」

「2組の篝火ヒカルノです……」

「あー、そんなの居たね。生徒会だよね!」

 

 濃青のビキニに白衣という謎の組み合わせで現れたのは篝火ヒカルノ。彼女も私達と同類(ヒキニート)らしい。砂浜の数少ない日陰を求めてズルズルと移動している。

 千冬は千冬で、一夏くんに選んでもらった白いワンピースを着てクラスの子とビーチバレーをやっているし…… 私たちは何をしようか……?

 

 

「会長、博士、飲み物、要ります?」

 

 今はヒカルノの言葉にただ頷くことにした。

 


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