入学式から1週間。ある程度学園生活にも慣れ、互いに友達と呼べる仲になってきた頃についに嫌な予感しかしないこの時間がやってきた。
初めての生徒会活動の時間が。そして、部活動が。
どうしてこの2つを被せたのか理解に苦しむが、私は吹奏楽部に、千冬は剣道部に入部した。だから一応初めての顔合わせには出ておきたいのが本音だ。
正直、生徒会は千冬とナターシャが居ることは理解しているからどうでもいいといえばどうでもいい。
とりあえず私は最初に音楽室に向かい、生徒会活動で遅れます。とみんなにひと声かけてから生徒会室に向かった。
私と千冬、そしてナターシャは良くも悪くも有名になってしまったから大体の人が私の名前を知っている。さっきも「いいよ、希望のパートはある? あたしから言っておくから」と親切にしてくれた2組の彼女(名前は知らない、ごめんね)に上坂さん、と呼ばれたのが何よりの証拠だ。
そして職員室や生徒指導室のあるフロアの一番端、よくある教室に『生徒会室』と書かれた札がサッシに下がっているのを確認してから学生証をカードリーダーにかざして部屋に入った。
「おー、これはこれは学園二強が片割れ、上坂さんじゃないですか」
部屋にはいると先客から開口一番、私があまり快く思っていない呼び名で呼ばれた。
私と千冬の有名税ではないが、うわさ話のたねになっているのが『私と千冬、どちらが強いか』という話だ。初日の模擬戦以降、授業のたびに5分間手合わせをしている私と千冬。戦績は拮抗していて、私は銃から刀までそこそこ使えるマルチプレイヤー。千冬は刀を極めた侍といった印象で他の生徒からは見られている。私はこの灰色の脳、では無く、いろいろ頑張って千冬のクセや思考パターンを読み取って様々な姑息な手を使って勝利をもぎ取っているため、技術の進歩に追いついた瞬間に私の負けが確定する。
なんてのはまぁ余談であって、問題はこの白衣である。
「生徒会の人?」
とりあえず無難に返してみる。
「だよー。私は2組の篝火ヒカルノ。好きなように呼んでくれていいから。上坂会長」
「私が生徒会長なの?」
「そこのテーブルの上に役員表が。先生が勝手に決めたみたいだね。会長が上坂さん、副会長が織斑さん。書記がファイルスさんで会計が私。特別顧問が……篠ノ之束」
「特別顧問?」
「私もよくわからん。ちなみに普通の顧問は1組の織田先生。やったね」
束が絡むとろくなことがないというのは原作からのお約束なので何らかの騒ぎが起こることは確定なのだろう。
ひとまず会長、とホログラフが浮かぶ少し立派なテーブルを少しなでてからこれまた立派な椅子に座った。普通教室の"板"とは比べ物にならない気持ちよさ……
少し意識が遠のき始めたところで千冬とナターシャが入ってきた。人の気配が増して目が覚める。
「済まない、少し遅れたか」
「大丈夫ですよ、織斑さん」
「君がもう一人の役員か。改めて織斑千冬だ、よろしく」
「篝火ヒカルノです。よろしくお願いしますね、織斑さん」
「私も忘れないで欲しいかな……」
「ファイルスさんもよろしくお願いします」
3人が少しばかりのよそよそしさを含んだ挨拶を済ませるとひとまず全員がそれぞれの役職の書かれた机に着いた。
全員からの視線を感じた私は何か挨拶でもしようと思い立った。ってか、そうするのが自然だ。
「では、IS学園初代生徒会、ここに発足! さっき織田先生にメールで聞いたら仕事はまだ無いって。そのうち生徒会っぽいことでも考えておいてって言われちゃったから今日は解散で」
「はやっ」
「杏音。もっとこう、なにか無いのか?」
「杏音さんらしいといえばらしいですね」
まだ出会って1週間のナターシャにサラリと毒を吐かれつつも机と椅子と空っぽの棚以外何もない生徒会室を見回す。せめて校則の本くらい置いてあっていいと思うんだけどなぁ。電子書籍化されてるから関係ないですか、そうですか……
何か、と聞かれても非常に困るのでもう一つの定番、自己紹介にしよう。そうしよう。
「んじゃ、それぞれもっと細かく自己紹介にしよう。生徒会長を努めさせてもらう1組の上坂杏音です。趣味は音楽と読書と考え事。好きな科目は理系全般。よろしく」
ふふん、どうだこの無難な自己紹介は。と言った目で千冬を見やる。順番的に次は副会長だろ。
「副会長を務める1組の織斑千冬だ。趣味は……あれ、私って趣味ない?」
千冬が少し肩を落としたような気がしたのでさり気なく「剣道でもやってるって言え」と耳打ち。千冬にとっての剣道は趣味なんて安いものではないらしい。
「おお!」と言わんばかりに目を見開いた後に「いや、だが私にとっての剣道とは……」みたいな感じで少し顔をしかめた後、やっと続けた。
「小学生の頃から剣道をしていて、今も剣道部に入ることにしました。得意科目はありません……杏音、私ってもしかしなくてもただの脳筋じゃないか? ISしか取り柄が無いんじゃないか?」
アカン、千冬のトラウマスイッチを押してしまったかもしれん。あの千冬が泣きそうな目でこっちを見ている。
とりあえず顔と目で「そんなこと無いよ。千冬は立派なお姉さんだもんね」と伝えるとなんとかいい感情は伝わったようで小さく頷いてから「よろしく」とか細い声で言った。
「ナターシャ・ファイルスよ。アメリカ出身で日本語はアニメで覚えたわ。えっと……読み書きは苦手なのだけど、私が書記でよかったのかしら?」
確かに、日本語学習歴の浅いナターシャが書記というのもなかなかおかしい人選だ。日本語が公用語である学園で外国人を書記に置く理由はいまいちわからない。まぁ、どうせテストの成績順に上から振っただけだろう。
私は一応それなりに英語の読み書きはできる(参考にした論文は殆ど英語だったのだよ……)ので文章だけなら構わないが、2人はどうだろう。
「私は英語で全然構わないけど、2人は?」
「辞書片手でいいなら私もおっけーだけどねー」
「私は英語ができん……」
「ナターシャ、困ったときは私に聞いてくれればいいから、日本語頑張ろ」
そうね。と言って笑ってくれたナターシャマジ天使。そりゃアメリカのテストパイロットにまでなりますわ。めっちゃええ子やもん。
とか言ってる間にめんどくさそうな白衣が口を開いた。
「最後は私、篝火ヒカルノ。部活は帰宅部で得意科目は数学と理科。んー、あとは……特にないや。よろしくー」
さっきと大違いのだいぶ砕けた口調だが素はこっちなのだろう。千冬とのアレは上っ面だけと。なかなかやりにくい子かもしれない。
ひとまず束を除いた役員が揃い、IS学園初代生徒会は発足した。――とくに仕事のないままに