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2017/05/26
エクスカリバーの降下速度を修正
3000m/hは早すぎる
クソめ。
朝から全力で悪態を吐きたくなる。悪夢のような修学旅行の下見から早くも一月ちょい。マドカの黒騎士も先日ローンチして本人から「悪くない」との評価をもらっている。
それでも現行ISトップクラスのスペックは保証するし、ベースが第3世代とあって、束と私の手にかかれば3.5世代くらいまでステップアップさせるのは容易だった。
しかし、その一方で裏の世界の薄汚さや、想像以上の代物の登場に私は手を焼いているのだ。
「それで、この"エクスカリバー"はレインとフォルテを吸い込んだと?」
「ええ。ついに手に負えなくなったからこうして貴女に相談してるの」
「イギリスとアメリカの軍事衛星ねぇ。なんだか神の杖みたいだね」
「冗談では無いのだけど」
「わかってるよ。それで、どうしたい? 2人もろとも吹き飛ばすかい?」
慣れ、と言うのも恐ろしいもので血塗れで帰ってくるマドカやオータムを迎えていたら人の血に抵抗が無くなった。流石に自分の手で殺すのはたぶん無理だが、間接的にやるならいくらでも手を貸せる。現に私の特許で世界では何万もの人が死んでるだろうしね。
束も束でココ最近、その狂いっぷりに拍車がかかってきて私の得知らぬところでまた何かやらかしているようだし。
そして、何よりも大事なことがある。此処から先は前世の記憶が当てにならない。正確に言えば、原作が無いのだ。
私の知っているISは修学旅行で終わってるからこの展開は予想外というか、なんというか。まぁ、なるようになると思うけど。
「それができないからここにいるのよ。心情的にも、ね」
「なるほど。では、まずはそのエクスカリバーについて教えてもらおうかな?」
「大雑把に言えば、イギリスとアメリカの衛星軌道上に浮かぶレーザー兵器よ。けれど、神の杖なんて目じゃないほどのエネルギーを内包してる。それが私達の制御下を離れて軌道を外れ始めたの。それがわかったのが一昨日。現在は軌道から日に3キロずつ高度を下げてる」
「なるほど。そのレーザーってのがイギリス製で、衛星本体はアメリカ製。けど、ただの衛星が様子見に行った2人を飲み込むなんてねぇ。きな臭いなんてもんじゃないけど、ホントにただの衛星なの?」
私の疑問はそこだ。ISに乗った2人の信号を消すなんてただ事じゃない。殺しもせずに生身の人間を維持できるだけの設備が整っていることを意味するのだから。
だから、衛星と言う名の宇宙プラットフォームや、ISSでできないような後ろめたい何かをする実験場なのでは無いかとすら思ってしまう。
まぁ、これは後で調べれば詳しくわかるだろう。
「じゃ、束と相談して連絡するよ。壊さずに救い出すとなるとISで向かわないといけないけど、流石に2人が吸われて、正体がわからないものにまた同じように突っ込むのは愚策だしね」
「ええ、お願いするわ。それと、マドカだけど……」
「機体に不満でも?」
「いえ、そうじゃないの。また、始まったのよ。自傷癖が」
「はぁ、あの腐れメンヘラ。わかった、カウンセリングのときに気をつけるよ」
現在進行形でマドカのカウンセリングも始まっている。流石にスコールもマドカの執着心と衝動性には辟易しているようで、私に相談を持ちかけてきたのが始まりだ。
最初は半ば強制的に部屋に連れてきて、面談と言うなの尋問を繰り返していたが、最近は自発的に私の部屋に来るし、カウンセリングらしい形になってきた。
そして、一旦(半ば強制的に)やめさせた自傷癖がまた出てきた、という話がでてきたわけだ。机に出しっぱなしの手帳にマドカのことをメモると、スコールは香水のほのかな香りを振りまいて出ていった。
それから束に電話をかければ案の定ワンコールで出た。
「束さんだよー! あーちゃんもついに束さんに――」
「イギリスの衛星に何をしたか説明して」
「直球だねぇ。なぁに、ちょっと面白いおもちゃを見つけたから、遊んでみただけだよ」
「……は?」
「まぁ、それでうまいことちーちゃんを舞台に上げられればなーって」
「それだけ?」
完全に理解が追いつかない。衛星ジャックとどう繋がるというのか。
なんなら私が堂々とIS学園の門をくぐれば嫌でも千冬は出て来るわけだし……
「世界中から束さんにラブコールも来てるから、IS学園の生徒を引き連れて来れば頑張れるんじゃない? って答えたらヤル気になっちゃってさー! ホント、馬鹿だよねー」
「その頭悪いギャルみたいな話し方をやめてほしいものだけど。まぁ、百歩譲って千冬を釣るためにジャックしたのはわかった。それで、アレはなんなの? 私にはどう考えても衛星には見えないけど」
「んー、あーちゃんならもう少し考えればわかるんじゃないかな? ISに敵うのはISだけ、ってね」
「でも、ISは操縦者なしじゃ動かないし、数年単位で宇宙空間にほったらかしなんて操縦者が持たない」
「んっふっふ~、そこをなんとかしちゃうためにどんな手でも使うのが人間だよ~?」
それだけ言って通話は切られた。その後、メールで世界中が躍起になって作っている大型兵器の一覧が送られてきた。コレをどう使えと?
けれど、紅茶を飲んで少し頭をクールダウンさせるとなんとなく話の筋がつながってきた。
束の目的は千冬だ。そのためには一夏くんを餌にするのがベスト。しかし、一夏くんを呼び出すなんて見え透いた罠にもほどがあるわけで、そのカモフラージュにまたやらかしたわけだ。
そんでもってIS学園の生徒をまとめて呼び出して千冬の手の届かない宇宙まで送り込む。そこで"事故"でも起これば千冬はどうしようもできないし、生徒たちも如何しようもないはずだ。
そして、衛星の正体も束の最後の言葉でなんとなく見えてきた。ISなのは間違いないが、生体同期型の可能性が高い。そう結論付けて束にSMSを送るとはなまるのスタンプが返ってきたから正解らしい。
「最悪のパターンじゃん」
人の活動を最低限に収め、人間を維持する最低限のエネルギーを補充しながら飛ばす分には補給船1回で当分持たせるだけの量を積み込める。ISともなればバススロットを生命維持関連に当てればその量は計り知れない。
まぁ、表向き軍用衛星なわけだから、非武装なわけもなく。それでも打ち上げが数年前だったとしても今まで操縦者を活かし続けるには十二分なバススロットがあるのがISだ。
それをこれら大型兵器を使ってエクスカリバーを始末。その際に何らかの形で学園の生徒達を宇宙に上げないといけないわけだ。
何か使えるネタはないかと手始めにIS学園のデータサーバ、スタンドアロンの地下特別区画に仕込んでおいたバックドアからお邪魔すると、早速イギリス始め、EUからお仕事の依頼が舞い込んでいることがわかった。
だが、その準備として倉持を始めとした各国のIS製造メーカーに問い合わせをしているとも。
その中にデュノアの名前もあり、何かと見ればまさかの第3世代。頑張ってんなーとは思ってたけど、ようやくね。
とはいえ、その中身はリヴァイヴの上位互換。リヴァイヴに勝てるリヴァイヴを作ったらこうなった、と言わんばかりのスペックだ。けれど、エネルギーと実弾を混ぜるってのはいいアイデアだね。その特許は私のもんだけど、うまいことすり抜けたんだろう。
なんとなく状況が見えればスコールとオータムを呼び出すまで。けど、良い時間だし明日でもいいよね。
「ホント、仕事がはえーな」
「迅速丁寧がモットーだからね。んで、エクスカリバーは生体同期型ISで、やばい武装を積んでる可能性もあって、IS学園が始末に当たることになった。そのための下準備段階にあるってのが今の状況かな」
「ちょっと待って、私はただの軍事衛星としか聞いてないわよ?」
「スコールにすら黙っていたか、そもそもただの軍事衛星を奪ったつもりがISでした、のどっちかだね。さ、そこで私の提案。おおっぴらに絡みに行かない? 亡国機業として」
「はぁ!? おまえ、トチ狂ったか?」
オータムの反応がまともだろう。裏の組織が表の事態に堂々と手を出すなんて、組織の存在に関わる事態にもなるのではないだろうか? よく知らないけど。
既に欧州統合政府は正式にIS学園に支援を要請したし、ドイツやイギリスのと言ったIS先進国では軍部が慌ただしく動いてるのもわかった。
さらに言えばお隣のロシアも流石に知らぬ存ぜぬを突き通すわけにも行かず、学園に所属するロシア代表の更識楯無にEUへの援助を惜しまないよう通達した、と声明をだすほどだ。
世界を巻き込む事態になっているがためになおさら動きにくくもなっているだろう。
束はおおっぴらに首を突っ込みに行くつもりだから、何にせよ亡国機業とのつながりが示唆されてしまう。ならば、とスコールがそこまで考えていないわけもない。
「そうね、それがベストかしら。杏音、織斑千冬とコンタクトを取って、オータム、ベルギーに飛ぶわよ」
「決断が早いね。御上様に話を通さなくてもいいの?」
私の質問に、スコールは微笑むだけだった。
2人を見送るとスコールの指示通り、とはいかず、まずは束に電話。今度はスリーコールの後、クロエが出た。珍しい。
「杏音さま、どうされましたか?」
「束は? 寝てる?」
「いえ、杏音さまの着信だとわかると私に出るようにと。要件をお伺いします」
「そういうこと」
クロエに亡国機業が首を突っ込みに行くから覚悟しとけ、と言付けを頼むと受話ボタンを押す直前に束の声が耳をつんざいた。
慌てて耳から離してもなおうるさい。
「むふふ、聞いたよ~。すこーりゅんも大胆な決断をしたねぇ。束さんが勝手に行ってもマイナスイメージだし、ってとこかな。それで、これからの作戦は?」
「まず、私が千冬に亡国機業も今回の件に噛ませてもらうことを宣言しに行く。そのときに、束ともちゃんと――」
「ねぇ、あーちゃん、私とちーちゃんがお話でなんとかなるとかって思ってる?」
「それは……」
「コレはね、理性とかじゃなくて本能に近いんだ。ちーちゃんは絶対に私のものだから。あーちゃん、くれぐれも下手なこと言わないでね。わかってるとは思うけど」
背筋がゾクリとする。冷や汗が流れ、心臓が早鐘を打つ。下手したら殺されそうなほどの重い気配を内包した言葉。
束は、本気だ。
「わ、わかったよ。でも、束と仲良く、とは言っておく」
「束さんだってちーちゃんと喧嘩したいわけじゃないんだよ? なんていうのかなぁ…… そう、愛だよ! 束さんはちーちゃんが大切で大切で仕方ない。あ、もちろんあーちゃんも大事だよ? だからリードで繋いでるんだし」
「愛が重すぎるよ、束。それなのにどうして体は許してくれないんだか」
「あ、あーちゃんの愛は束さんには過激かなぁ、って思うな!」
段々と声のトーンも口調もいつもどおりに戻り、私の緊張もほぐれる。だが、束の言う千冬への愛は本物なのだろう。それこそ、世界を敵に回してもいいほどには。
束の歪な愛情が白騎士であり、暮桜だ。正確にはそのコアだけど。
私にはISのコア、そして
「これだから生娘は…… 愛だよ! とか言うんだったら少しは学ぼうという意思を持ってほしいものだね」
「生娘、って、あーちゃんも処女じゃん! 男とヤッたことはないでしょ!?」
「あ、この前事故って破いた。男とは寝たことはあるね。夜中に冷たくなってたけど」
「……あーちゃんのバカぁぁぁぁぁああ!!!」
その男はもちろん私が殺ったわけではなく、スコールのお仕事上、どうしてもその男のコネが必要だったらしいから、偶然その男の好みだった私が仕方なく、慣れないことをしたわけだ。それで、
事故については触れないでおきたい。結構キツかった。スコールがめっちゃまずった顔してたのは覚えてる。
さて、また束が逃げたわけだけど、今度こそ千冬へ電話だ。時間は…… 大丈夫だね。
「はい、もしもし」
「千冬? 私だけど、いまいい?」
「……なんだ」
「怖い声出さないでよ。イギリスの衛星、今困ってるんでしょ?」
「お前の手なら借りんぞ。どうせ束の仕業だろう?」
「それについてはノーコメントで。でも、借りざるをえないことになるとしたら、どう? 束と千冬と私、これ以上ない布陣だと思うけど?」
千冬はクッ、と喉から声を絞り出すと「何が狙いだ」とコレまた怖い声で聞いてきた。
「千冬はこの件、どこまで知ってる?」
「どこまで、とは? まぁ、イギリスとアメリカのレーザー兵器を積んだ衛星が暴走していると。そのために宇宙空間で活動可能なISが呼び出された、とな」
「なるほどね。それで何か使えるもんないか、って倉持とかあちこちに電話しまくってるわけだ」
「それで、その真意は」
「もともと亡国機業に奪われてた衛星が暴走してる。だから
「私達、か」
小さなつぶやきが聞こえてハッとする。馴染みすぎている、と。
まだ落ちぶれたつもりはなかったが、そうか、私、裏家業に身をおいてるんだ……
思わず息を呑んだのが千冬にも聞こえたのか、仕切り直すように少し大きな声で「直接会えるんだろう?」と聞いてきたから二つ返事で明日行くよと答えると、正式な手段で入ってくるように頼まれた。コレばかりはどうなるかなぁ。
ネットで飛行機のチケットを予約し、簡単に身支度を済ませると黒いコートを羽織ってアジトを出た。
アニメイト限定版のクリアファイルセットを買ったんですけど、カワイイっすね、これ。
さらに、表紙絵のクリアファイルも一緒に買えばダリフォルのICカードステッカーももらえて幸せです。
ブラックラビッ党とシャルロッ党を掛け持ちする私が離党届を書くか迷うレベルで好きですね、ダリルとフォルテ。
と言うのはほどほどに、ひとまず5500字でわけさせてください。11巻の中身に入ってすらいませんけど。