周りへの迷惑なんてお構いなしですっ飛ぶ事数分。見えてきた空港の周りを軽くスキャンすると、空港から少し離れた倉庫でマドカと一夏くんが空中で戦い、中にも多数のISと、生身の人間が2人。それも、人外じみた動きをしているのが見えた。
「見つけた」
倉庫の裏でISを量子化。なにやら重力操作がかかっていたため、PICとAICは動かしておく。
「やーめたっ☆」
中に立っているのは千冬と束のみ。他の専用機持ちは地に伏せている。
「こんな舞台じゃもったいないよ。私とちーちゃんの対決に。それに、もう一人も来たみたいだけど、またの機会がいいかな? ね、あーちゃん」
「かもしれないね」
「やはり逃げ出してきたか、杏音」
「ごめんね。楯無にムカついたからつい。多分怪我はしてないだろうけど」
あーちゃんは甘々だねー、と束に茶化されながらも千冬はやれやれ、と肩をすくめる。実際には刀を握ってるからそう見えただけだが。
「それで、あーちゃんは意味もなくここに来たわけじゃないでしょ?」
「もちろん」
「ふふっ、ついにその気になってくれたんだね! いやいや、待ってたよ!」
「束、杏音、貴様ら何を考えている」
「ふっふーん。ちーちゃんにはまだ秘密かな? 頭を使うのは束さんとあーちゃんの担当だからね!」
いつの間にか束の調子はいつものウザいノリに戻り、千冬の眉間にシワが増える。横目で這いつくばるラウラとシャルロット、簪を見ると信じられない物を見る目をしていた。まぁ、仕方ないよね?
「なら、この後は計画通りに!」
「束、逃がすか!」
「無理だよ。ちーちゃんは生徒を置いていけない」
束が指鉄砲を専用機持ち達に向けて「ぱーん」と言うと、そのまま吹き飛び、壁にぶつかった。
「それじゃ、次合うときはお互い万全でいようね! ばいばーい」
パチリ、と指を鳴らせば煙とともに束の姿は消え、千冬の刀は私に向くことになった。
いやいや、千冬サン、私の生身戦闘力が一般的自衛官並なのはご存知でしょう?
「理由は後で詳しく聞こう」
「後はもうない」
千冬の太刀筋に私がISの展開まで間に合わせられたのは単に長い稼働時間のおかけだろう。
千冬の刀が私の構えるIS用ブレードと火花を散らす。パワーアシストもあるのにどうして生身の人間と鍔迫り合いしているのか些か疑問ではあるが、それから織斑千冬だった。
「一夏くんはマドカと仲良くやってるみたいだけど、ほっといていいの?」
「構わん。それよりも、杏音、剣の腕が鈍ってるんじゃないのか? 後手後手だぞ」
「そりゃ、千冬の手見て動いてるんだから当然!」
簪がボソリと「あの速度を見てから対処……」とつぶやいていたのが聞こえたが、あっちから手が出てこないのはまだ安心だ。
おそらくは飛び道具は千冬を巻き込むし、接近戦でも手を出せない、と言うのが理由だろうが。
「おや、応援かな? IS反応があるね」
「ならここで終いか」
「束の言うとおり、またの機会に、ね」
直後、一夏くんが屋根を破壊して落ちてきた。咄嗟に千冬を抱き寄せて庇うと、どうも機動がおかしい。
まるで、他人の意思で
「一夏!」
誰の叫びか、それに応えることもせず、追撃に来たマドカのエネルギー刃が
咄嗟に飛びかかろうとした専用機持ちをAICで止め、千冬を外に連れ出した。
「どうして、こんなこと! 先生!」
「言われてるぞ、杏音」
「もう、戻れないよ」
倉庫の外に千冬を連れ出すと、遠くの空から迫る機影が見えた。そろそろ時間だろうか。
すると再び倉庫の中から大きな音が聞こえ、マドカの叫び声も遅れて聞こえてきた。
「絶対に中に入ってきちゃだめだからね」
「わかってる。死にたくはない」
「止めないでね」
「ああ、わかったよ」
倉庫に戻った私の目に飛び込んできたのは、白式がマドカの首を掴み、マドカはひたすらに白式の胴体を蹴り続けている。
そして、白式の装甲が砕け、手を放すとランサービットを槍代わりにしたマドカが、槍先を白式に向けたその時、一閃早かった白式が、雪片を振り下ろした。
「あっ……!」
マドカの胸元からペンダントの様な何かが飛び、光りを反射して耀くと、マドカは白式への反撃をも忘れ、そのペンダントに手を伸ばした。
「潮時だ、マドカ」
明らかに放置したらマドカがノックアウトされることは間違いない無かったので、瞬時加速でマドカを回収すると、そのまま飛び上がった。もちろん、AICは解除してやる。
「離せ、離すんだ! 私は、私はッ!!」
「今は我慢して。スコールにお仕置きされるのは嫌でしょ?」
ごめんよ、千冬。
ごめんね、かわいい教え子たち。また会おう、今度は敵だ。強くなれ。
「ありがとう、杏音。エム、いい子にしてたかしら?」
「…………」
「今はそっとしておいてあげてよ」
「そうしましょうか。なら、用も済んだし帰りましょう。杏音もいらっしゃい。歓迎するわ」
そのまま東に進路を取ったスコールに続くと、関東まで戻り、工業地帯の一角に降りて機体を量子化すると、未だにうなだれるマドカの黒騎士も、束にもらったアイテムで無理矢理量子化して再びマドカをお姫様抱っこで抱き上げると、止めてある車に乗り込んだ。
「災難だったようね」
「まぁ、ね。仕事なくなっちゃった。口座も凍結されるしどーしよ」
「その割には何も考えてなさそうな声してるわよ」
お金の心配はしていない。この先は束と過ごすことになるし、仕事も当面は束とスコールのお手伝いになりそうだ。ただ、やっぱり心残りは生徒の事だ。専用機持ちだけじゃなく、私が見ていた生徒全員。
教師という仕事を投げだしたのだから、彼女らの人生を狂わせてしまうかもしれない。そう考えるとやはり申し訳無さや、無力さを感じざるを得ない。
「杏音、やっぱり貴女は優しすぎるのよ。こんな悪党共よりも、学園の事を選ぶべきだった。レインの事もあって悩んだのかもしれない。だけど、貴女の人生は貴女の物なの。自分のために選ぶべきだったと思うわ」
「もう、過ぎたことだし」
「ええ、時間は戻らない。だから、もう同じ後悔をしないようにしなさい。死んでからじゃ遅いのよ」
一度死んだ人の言葉は重いなぁ、なんて思いながら車に揺られていると、いつの間にか寝ていたらしい。以前に束とのディナーで使ったホテルに着いていた。
部屋は以前と同じスイート。ちゃっかり用意されていた私のサイズのドレスに着替えると、眠気覚ましに水を一杯飲んでからレストランに向かう。
「遅いよ、すこーりゅん、あーちゃん」
「ごめんよ。また変な物頼んで……」
「申し訳ありません」
「ま、いいや。まーちゃんは?」
「彼女は……」
言い淀むスコール。多分、束はスコールの苦手なタイプなんだろうな、と前々から思っていたが、どうやらあたりなようだ。
「マドカなら部屋でしょげてる。束、白式に何したの?」
「何も? むしろああなったのはあーちゃんの所為だよ」
「自己進化とコアの意識がああしたと?」
「多分ね。束さんも詳しく見てみないとわからないけど」
なら、白式の何があそこまで凶暴に、強烈にマドカを殺そうとしていたのだろうか?
白式のコアはもともと暮桜のコアだ。ただ、そのコアはリセットした上で白式に使われたはず。
まさか……
「あーちゃん、何かひらめいたみたいだね」
「コアのリセットなんて存在しない」
「なんですって?」
「コアは結局ネットワークでそれぞれの学習した事を、意識を、感情を共有してる。だから――」
「コアをリセットしたところでネットワークから元の記憶を引っ張り出してくればいいわけだ。不老不死の一つの形だね、ここまでくると」
「そんな、ISのコアに感情だなんて」
そのコードを実装したのは確かに私だ。自己進化の末にこんな形に至るとは思いもしなかったが。
白式は千冬の深層心理に眠る暴力性と、一夏くんを守れなかった後悔から一夏くんに危害を加えようとした対象に防御反応を示した。そう考えれば合点が行く。
「白式にはとことん驚かされるね。あんな"失敗作"捨てちゃえば良かったのに」
「その失敗作が色々とやらかしてくれるせいで新しい課題を見つけちゃったわけだ」
「楽しくなりそうだね」
「とても」
ならば、その先へ私達が行くまで。そのためにも、私は束に付いていく。また束と千冬を選ばなければならないときが来たのなら、この身を挺してでも、2人を繋ぎ止めよう。それが私の望む形なのだから。
ひとまず完結。
足掛け一年ちょい、毎週更新できました。
締まらない終わり方ですが、原作が無くなったし、オリ展にしても、エタった前科もあるので一区切りつけさせてもらいます。
また原作が続いたら辻褄合わせつつ、続きを書くかもしれません。
そして、転生モノの次は二人目の男性操縦者モノ、と言うわけで、鋭意執筆中です。年明けには1話を投稿できると思います(既に1話だけは書き終えてあるので……)
原作読者の斜め上の発想をいろんな形で回収しつつ、"平和な"学園生活にする予定です。
亡国機業の皆様の出番はありません。
性欲を持て余したときには杏音とスコール、オータムのエロ書くかもです。予定は未定ですが。