さて、楯無の思いつき、もとい提案で一波乱起こしてくれた大運動会も先生方と一夏くんの胃に大ダメージを与えて閉幕。
その翌日、沖合に空母が見えたりしたが、学園としては見てみぬふりをした。そうせざるを得なかった。わかるだろう?
だが、個人的には流石にスコールに死なれるのは心苦しいので、沈みゆく空母から彼女を引っ張り出した。そして、片腕を失い、意識も半分飛んでいるスコールを隣に乗せて家路についているわけだ。
「はぁ、千冬になんて言い訳しよう……」
そんな憂鬱な呟きも漏れる。
「ん、んっ……」
「スコール、無事かい?」
「んむっ……」
「ダメっぽいね」
時計の針も真上を向いたこの時間、道行く車も人も少なく、と言うより皆無だ。そんな中をただV12エンジンのサウンドが染めてゆく。
とりあえずオータムとダリルには連絡したし、ダリルは学園から出ることができないだろうが、とりあえず千冬の動向だけは見てもらっている。
オータムともそろそろ合流出来るはずだったが、代わりに信号待ちで並んだのはブルーのコルベットだった。
オータムも車好きの気はあるが、彼女の好みもヨーロッパ車だ。だから、こんなアメリカンマッスルの代表格なんかに乗ってくるはずがない。
隣の車の窓が開く。見たことのある金髪がすこし風に揺れていた。
「Open a window」
シンプルにそう言われた。顔の横にはドラマで見たことのあるCIAのIDを出しているのだからここで逃げるのは下手としか言いようがない。諦めて窓を開けると、前を指差すから、路肩に寄せろってことだろう。
それに、彼女、身分証明書と名前が違うじゃないか、ナターシャ。
「こんばんは。こんな時間にドライブですか?」
「ええ、彼女も寝ちゃって」
「そうですか? 妙に濡れてますけど」
「ナニしてたかなんて聞くかい? 御託ならべずに本題切り出しなよナターシャ」
「……ッ!」
「どうした、凍結中の愛機でも展開するか? それとも、海辺で学生と楽しくやってる相棒を呼ぶかい?」
目に見えて動揺するナターシャ。彼女、こういうの向いてないんじゃない?
「スコールの回収に来たのかもしれないけど、そうはさせない。身柄は私があずかる」
「待ちなさい、それじゃ契約は――」
「そんなもの知らん」
知らないものは知らない。スコールに何をするのか知らないが、明らかにやばいそうなものに首を突っ込めるか。まぁ、この断り方もかなりやばいけれども。
「まだスコールは生きてる、それでも彼女を奪うのなら…… わかるだろう?」
腕だけ部分展開してナターシャの胸をつつく。女性らしい柔らかさ…… じゃなくて、私のハッタリは大成功らしく、唇を噛むと車に戻っていったので、再びエンジンをスタートして寄り道をしてから家に帰った。
「なぁ、人んちにピッキングするのやめろよ」
「んなことよりスコールは」
「腕持ってかれてるけど、生身ならともかく、サイボーグなら私でも直せるよ」
「知ってたんだな」
「初めて会ったときから気づいてた。道具は」
「ああ、持ってきた」
「とりあえず腕からの信号を黙らせて脳への負荷を抑える。今は痛くて痒くてみたいな意味わかんない信号を垂れ流してる状態だからね。それ以上はここじゃ無理」
要は一時的に麻酔をかけるようなものだ。雑に引きちぎられた断面から目当てのケーブルを探し出してオータムに持ってこさせた解析機につなぐ。
不安定な波を描く画面を眺めながら久々に使う我がギフト。脳内でパズルを難なくこなせば波はひとまず一定の波長を描く。
それ以外は断面を綺麗に整えて、短絡しないように処置すると、私は床に仰向けに倒れた。
「おい、大丈夫か!?」
「ひとまずー。あぁ、アメリカの秘密部隊? わかんないけど、あんな人にハッタリ咬ますとか心臓止まるかと思ったわ」
「アンネイムドか、誰だ?」
「ナターシャ。いやぁ、ホント、同期だし、いろんな意味で心が痛むわー」
「お前も相当コッチに堕ちてんな。なんてハッタリ咬ましてきたんだ?」
オータムから好奇の目を向けられると、ありのままを話した。
「流石、上坂大先生だな。口もよく回る。だけどヤバイんじゃねぇのかよ。仕事なくすぞ」
「その時は束に雇ってもらおうかな。ま、声はとにかく、姿はコレだし、解析か、ナターシャがふとした瞬間に思い出したりしなければ、なんとか……」
「その割には冷や汗すごいけどな。シャワー浴びてこいよ。スコールは見てるからさ」
「ん、そうする」
今更ながら結構シャレにならないことしたなぁと、焦る心を熱めのシャワーで無理矢理流して部屋に戻るとオータムがスコールにキスをしていた。
「おやおや、目覚めのキスかな?」
「そ、そんなんじゃねえよ!」
「そう? 私にはよく効いたみたいだけれど」
「スコール!」
「マジかよ」
愛は奇跡を呼ぶ、なんてよく言ったものだ。まぁ、目が覚めるのは必然だから奇跡でもなんでもないけど。ここでそれを言うのは流石に空気読めなさすぎだ。
「杏音、その……」
「腕のことならいろんな意味で気にしないでいい。気づいてたし、生身だったら諦めてるさ」
「本当に、ありがとう。ただ、面倒に巻き込んだわね。アンネイムドに追われたでしょう?」
「そこは杏音の口八丁で乗り切ったらしい。シャワーでも浴びるか、風邪引くぞ」
「ふふっ、この体じゃ風邪も引けないのだけど。いいわ」
「はいはーい、着替えは用意しておきまーす」
わざとらしく言って彼女らの着替えを用意して、軽くワインとグラス、つまみも用意しておくと、たっぷり30分近く経ってから出てきた。
オータムはジャージ、スコールはスウェットなんて色気の欠片もない服だが、2人とも私より出るとこ出てるからエロい。何が浮いてるとか、そういうんじゃない。
「ひとまず、飲も?」
「ええ、頂くわ」
「そこそこいいやつじゃねぇの、コレ?」
「あら、オータムもわかるようになったのね」
「杏音に教わったんだよ……」
「あらあら、なら、次は飲み方を教えるべきね」
そう言うと、グラスに注いだワインを口に含んでオータムにキス。おうおう、口移しかよ。見せつけやがるなぁ。こんど束にやってみよ。千冬にやったら殺される。
「あ、杏音、お前も」
「ほいほい、ちょーだい」
オータムは慣れてそうで不器用なところもあるから可愛い。今みたいに口移しをしようとしたのにちょっとミスって私の口から血みたいにワイン垂れたり。
ティッシュで拭ってからお返ししてやると顔を真っ赤にしていたり。本当にかわいい。
「少し遠いけど、パーツを取りに行かないといけないわね。オータムの武器も手に入れないと」
「今回みたいなのはやめてほしいところだね」
「それはできない相談ね。私達もそれなりに苦労してるのよ」
「私も出来る限りは手を貸したいけどさ」
「ええ、嬉しいけれど、あなたがそれで地位を失ったりしたら申し訳が立たないわ。杏音、あなたも無茶はしないで」
スコールの唇を無理矢理奪ってから私は自室に戻り、ベッドに籠もることにした。
翌朝、オータムお手製の朝食を食べてから2人と別れ学園へ出勤すると、千冬に睨まれ、ダリルは目の下に隈をつくっていた。甲斐甲斐しく世話を焼くフォルテもちっこくてかわいい。スコールとオータムの関係にそっくりだよなぁ、とか内心思いつつも教壇に立つと2組のHRを始めた。
短くて無理矢理詰め込んだ感すごい