よくある転生モノを書きたかった!   作:卯月ゆう

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私の選択、だよ

 学園で事の後始末をある程度まで進めて、私じゃなきゃならない仕事を潰すと日の落ちる海を背に家に車を走らせた。スコールとの約束の時間まであと2時間ほどだが、指定されたホテルまで行くことを考えると遅刻は確定だ。着替えは向こうでするとして、ドレスやらなにやらをトランクに詰めるとシャワーを浴びてから家を出た。

 国際空港を対岸に眺めるホテルの正面に車を止め、ボーイではなさそうな黒服の男にキーを渡すと後ろからトランクを下ろしてエントランスに入るとダークスーツを着込んだオータムが待っていた。

 

 

「遅かったな。まぁ、アレだけの事があったにしちゃ早い方か?」

「全速力で仕事終わらせてきたんだから。千冬にすごい目で見られたよ」

「ブリュンヒルデに睨まれちゃたまらねぇな。さ、部屋に案内するぜ、着替えるんだろ? スコールもだが、なんでそんなにめかしこむんだか……」

 

 オータムに苦笑いして返すと、エレベーターで迷う事なく最上階へ。いかにもなドアにカードキーを挿して鍵を開けたオータムはわざとらしく恭しげにドアを開けて手で室内を指した。

 とりあえずリビングの隅にトランクを下ろしてから冷蔵庫を漁り、水を一本出すと手刀で王冠を飛ばして大きく一口飲んだ。

 

 

「そういうとこ遠慮なくなったよな、アンタ。ま、着替えるなら右の部屋がベッドルームだから、ソコ使ってくれ。スコールと博士はもうおっ始めてるってよ」

「博士?」

「聞いてねえのか? 篠ノ之博士と飯だからって呼んだんだぜ?」

 

 実は知ってるが、聞いてないのですっとぼける。トランクを片手に隣のベッドルームで真っ黒なドレスを着込むと軽くメイクを済ませてリビングに戻ると、オータムがスーツを着崩してコーラを飲んでいた。

 私を見て少し驚いた顔をすると、首を振ってからおずおずと声を出した。

 

 

「なんだ、そんな服も着られるんだな」

「派手な色もいいけど、たまにはね? さ、エスコートよろしくね」

「お、おう」

 

 驚いた顔をしたのは私を女として意識したからだろう。そう思ってわざと腕を絡めてやると見事に顔を赤くした。チョロい。

 エレベーターで地下まで降りて、黒服の男がドアを開けるとやたらと料理の並ぶテーブルが1つあるが、そこの2人以外に客はいなかった。なんだかどこかで見たことあるようなないような雰囲気だが、この際気にしたら負けだろう。

 

 

「遅かったわね」

「あー、ちゃん?」

「もっとマシなカッコできないの、束?」

 

 普段と同じエプロンドレス姿の束はオータムよりも見事なリアクションを見せてくれた。引かれた椅子に座るとグラスにワインが注がれる。

 

 

「ふふっ、その様子だとオータムから聞いたのね。言うなとは言ってないけど、少し残念だわ。篠ノ之博士にはいいサプライズになったようだけど」

「よく束を見つけられたね」

「苦労したのよ? ま、その話よりまずは」

 

 スコールがグラスを掲げたので私もグラスを持ち上げてから一口煽ると、未だに現実に戻ってこない束のほおをふにふにしてからテーブルに並んだ料理を見回した。

 

 

「ドレスでカレーを食べる日がくるとは思わなかったな」

「私もよ。さて、役者も揃ったし、本題に入りましょ。篠ノ之博士」

「束」

「あ、あー、うん、で、なんの話? あーちゃんはあげないよ?」

「おい」

「あらあら。私はもう夜を共にしたのですけど。本題はISです。私たちに新造ISを頂きたいと」

「えー、やだよ、めんどうだなぁ。あーちゃん、これ美味しい!」

 

 新造IS、と言うことはコアも作らせる気か。

 私の心労を気にもせず、麻婆豆腐を小皿に取り分けて私に寄越す束はいつもと変わりない笑顔で、私は表情をさらに強張らせるしかなかった。スコールはそんなのもしらず、いや、わかってはいるけど私をうまく使う算段をした上でまだ時ではないとばかりに交渉、と言うより陳情を続けた。

 

 

「そこをなんとか、お願いします」

「お断りしまーす。あーちゃんなに食べるー? 束さんはハンバーグと冷やし中華、あーそれからー」

「束、どうしてそこまでコアを作りたがらないの? 箒ちゃんや一夏くんには無駄とも言えるコアを投げつけたくせに」

「あーちゃん、そんなこと言うんだ。へー、いいよ、あーちゃんだから答えてあげる。それは箒ちゃんといっくんだからだよ。わかってるでしょ? そいつらにはゴミを生み出す片手間でも作れるものを投げてやる価値すらない。そう言われることをわかった上で言ってるからあーちゃんは危ういんだよ」

「危ういって…… 私は私の役割(ロール)をーー」

「じゃ、聞くけど束さんにとってのあーちゃんの今の役はなんだと思う? そいつらの駒? そんなワケないよね?」

 

 いつの間にか私の顔を覗き込む束は機嫌の悪い時のソレで、早口でまくしたてるように言葉の雨を降らす。バツが悪くなって目をそらすと束は諦めたように席に戻ってサラダを取って食べ始めた。

 

 

「んぐっ。あーちゃん、私はいつだってあーちゃんやちーちゃんの味方でいるつもり。でも、今だけはあーちゃんの敵になってでもこいつらにコアはやらない。そうするだけの理由がない」

「篠ノ之博士、そうするだけの理由があれば、良いのですね?」

「いいよ、どうするつもり? あーちゃんに銃でも押し付けるかい?」

「いえ、もっと素敵にやりますわ」

 

 スコールが指をパチリと鳴らすとクロエの首にナイフを当てがったオータムが出てきた。まずい展開だ。

 

 

「なんなら、この子鹿ちゃんのステーキを用意しますけど?」

「……せ」

「はい?」

「逃げろ、オータム!」

「離せ」

 

 私が叫んだのと同時に束が悪い笑みを浮かべ、机上のカトラリーを全てスコールに向けて吹き飛ばすと、それを咄嗟に防いだスコールを踏みつけて飛び上がった。

 このままオータムを殺させるわけには行かないと、私もすぐさまISを展開し、AICとビットを使ってオータムを吹き飛ばした。

 

 

「くーちゃん、大丈夫かにゃー?」

「は、はい…… 束様」

 

 束がクロエを抱きとめて拘束具を引きちぎるのと同じように、私はオータムのそばに駆け寄った。テーブルをいくつかなぎ倒してカウンターにぶつかって止まったオータムだが、咄嗟のことでなにも考えずに吹き飛ばしたのでもしかしたら、と思ったが、ジャケットが破けて少し擦り傷がある程度で済んだ。

 

 

「オータム、無事?」

「なんとかな。なんだよ、あのバケモノ」

「あのねぇ、私ってば天才天才って言われちゃうけど、それって頭とか思考とかだけじゃないんだよー」

 

 突然の束の声に誰も反応することはない。スコールですら呆然と立ち尽くすのみ。入り口から銃を向けた黒服は申し訳ないが私がビットを突きつけて手をあげさせている。

 

 

「肉体も、細胞単位でオーバースペックなんだよ」

 

 めんどくさくなって、黒服達をビットで殴りつけて気絶させると量子化して戻し、それからスコールを見た。真っ赤なドレスには汚れひとつ見られないが、顔だけは見事なまでに失策を語っていた。

 束を侮りすぎだ、と内心毒吐きつつ、隣でカウンターに寄りかかるオータムを撫でた。

 

 

「それこそ、ちーちゃんくらいかな、私に生身で勝てるのは。あーちゃんは体弱いもんね」

「それは言わない約束」

「ふふっ、でも、あーちゃんの頭のおかげでISはあるんだからもっと誇っていいんじゃないかな?」

「杏音、お前……!」

 

 隣のオータムに微笑みを向けようとしたその瞬間だ。暴風を伴って濃紺の機体が飛び込んできた。咄嗟に12機のビットで取り囲んだ私は悪くない。

 スコールをまた見ると今度は頰が笑っている。口には出てないが、筋肉は若干動いてるからよくわかる。勝ち確、そう思ってるはずだ。

 

 

「スコール、束を安く見過ぎだよ」

 

 私が小さく呟くのをオータムは聞き逃さなかったようで、驚いたような、残念なような、色んな感情が入り混じった複雑な顔をしてから"ライフルの先端に立つ"束を見て明確な驚きに顔を染めた。

 

 

「キミ、オモシロい機体に乗ってるねぇ」

「ッ!」

 

 振り払おうとライフルを振るう力を込めた時には、どんな魔法かライフルは見事に光の塵となり、空中に消える。それはライフルだけでなく、私のビットと向かい合うように漂うビットもまた光となり、アーマーを真ん中から脱がすようにバラしていくと、顔を見た束の手が一瞬止まる。アレだけ騒がしく動いていた手が止まった。

 

 

「ん、んん?」

「…………」

「あはっ」

 

 束の事だ、彼女のことは知っているだろう。だからあんな反応をした。

 

 

「あははははっ! キミ、名前は?」

「…………」

 

 戸惑うマドカと周囲を置き去りにして束は言葉を続ける。

 

 

「あは、あははっ。あ、当てて見せようか? ふふっ」

「やめーー」

 

 私の声が届く前に、腹を抱えて笑う束は名前を呼んだ。

 

 

「織斑マドカ、合ってるよね」

「「!?」」

「やっちまった……」

 

 マドカとスコールが驚愕に顎を外す前にオータムを立たせてからスコールの隣に立って腰に手を回すと困惑の隠せないスコールは私をじっと見つめた。

 

 

「私は何も言ってない。多分、千冬から頼まれて探したんだ。もともと、今日は束の手の上だったんじゃないかな?」

「そんな、まさか!」

「束の事を甘く見過ぎじゃないかな? 食事に薬を混ぜたり、人質をとった所で束は地球すら捨ててみせるよ。それが篠ノ之束だからね」

「聞こえてるよー! さすがの束さんも地球は捨てないかなー? 半分吹き飛んだくらいじゃ困りはしないけど」

 

 私が軽く肩を竦ませるとスコールは目元を手で覆って天を仰いだ。

 

 

「ねぇ、この子の専用機なら作ってもいいよ」

「え?」

 

 その声は私の隣では無く、束の向こうから聞こえた。スコールはもうどうにでもなれ、と言わんばかりに死んだ魚の目をしている。

 

 

「ねぇねぇ、この子もらっていい?」

「そ、それは流石に勘弁してほしいぜ……」

 

 すっかり腑抜けたスコールに変わってオータムが答えると、束はぶーぶー言いつつ、マドカにどんな機体が欲しいか問い詰めていた。あれは平和的な質問じゃない、言葉通りの質問攻めだ。

 数十秒ではいくつ質問したのか数えるのをやめたあたりで今度は何を思ったか、マドカをテーブルに招くとこれでもかと料理を取り分けて出した。

 

 

「す、スコール?」

「ねぇ、杏音。あなた、ウチに来る気はない?」

「そんな、上の空で言われても答えられないよ」

「あーちゃんはダメだよ、これから束さんと一緒にまどっちの専用機作るんだから」

「は!?」

 

 ここで束から爆弾発言が飛び出したあたりで一度スコールをオータムに連れて帰らせ、ぐちゃぐちゃになったレストランには私と束。クロエにマドカ、そして気を失った黒服の男達のみが残された。

 

 

「ねぇ、あーちゃん、今の世界って楽しい?」

「どうだろ。世界はつまらないかもしれないけど、生活には満足してるかな」

「ま、あーちゃん多趣味だもんね。ISいじって、論文書いてゲームして、ドライブ行って美味しいもの食べて、それでお給料も多い」

「まって、その言い方だと私の生活がクズっぽく聞こえる」

「束様、先日、杏音様に殺害予告をされました」

「ちょっ!」

 

 いつの間にか束の隣の席に着いていたクロエがハンバーグを頬張りながら告げ口。私の命はこの瞬間に絶体絶命のピンチを迎えた。

 

 

「ほれはうーひゃんふぁ、ごくりっ。やりすぎたからだよ? 言ったよね、ちーちゃんとあーちゃんは怒らせちゃダメって」

「その後、ワールドパージをIS無しで見破られました。お二人に」

「ふふん、それに懲りたらもうダメだからね?」

「三途の川、と言うものを見てきたのでしばらくは観光に行きたくないです」

「あ、あのー」

 

 なんだか同窓会に子供連れてきたギャルっぽかった子がすごくまともなお母さんしてるような(例えが悪すぎる)、そんな雰囲気に当てられて私の疑問を切り出せずにいたが、おずおずと口を開く。逃げようとしたマドカはAICで止める。

 

 

「ん、どしたの?」

「その子、どうしたの? 創ったの?」

「作ったって字が違う気がするし、そもそも私はそこまで堕ちてないよ! 拾ってきたんだよ、ドイツで」

「あの研究所?」

「あの研究所」

「私の仕事は?」

「ゴミ掃j…… 後片付け」

「オイ」

 

 言い直せてないし、クロエも目をそらすな、張本人だろ。

 いい加減変なポーズで止めておくのも可哀想になってきたマドカをAICから解放すると、諦めたように席に着いた。ちなみに束に盛られた品は完食してるのが地味に偉い。

 

 

「で、あーちゃん、まどっちのIS、どうする?」

「なんで、そうなる。まず、そんなことしたら私が千冬に殺される」

「えー、いいじゃん、またISつくろーよー!」

 

 なんだかんだ、見事に言いくるめられた私は次の朝に千冬に"答え"を聞かせて大目玉を食らったりするが、その話は割愛させて頂く。もちろん、その夜は傷心のスコールをオータムと2人で慰めた(意味深)し、同じ部屋にいた束はやっぱり初心で、クロエを抱えてさっさと部屋に引きこもってしまった。こっちの道に引きずりこむつもりはないが、いい加減慣れろよ、とは思う。

 しかし、予想外の方向とはいえ、私の道もある程度は固まったし、安心して(?)またしばらく生きられるわけだ。次のイベントは…… 修学旅行の下見? いや、運動会があったなぁ。面倒臭い。




レポートに追われまくってて死にそうですが、気合いで週一更新は続けたいです(火曜0時なうですが)

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