よくある転生モノを書きたかった!   作:卯月ゆう

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面倒な黒いのだよ!

「ISを展開! 簪ちゃんは広域索敵、楯無は高度上げて目視で状況把握!」

「「了解!」」

 

 アリーナの外で襲撃に出くわした私たちは即座にそれぞれの役割を果たすべく別れていく。情報処理の得意な簪ちゃんにハイパーセンサーを用いた索敵を、楯無には目視での状況把握に努めてもらってこれからの動きを考える。

 

 

「敵は5、各アリーナに布陣。現在居合わせた専用機持ちが対処中。フリーになってるのは2機」

「2番目に近いのは?」

「第2アリーナ」

「楯無を連れて向かって。1番近いのは?」

 

 手振りで楯無を呼ぶと同時に簪ちゃんは震える手で真横を指差した。

 

 

「ソコ」

 

 直後、強烈な爆発音とともに壁が崩れ、中から黒い流線型なシルエットのISが現れた。片腕はブレード、片腕はレーザーキャノンといったところか、メートル単位の厚さがある外壁を壊せるんだから余程の威力と見る。

 

 

「先生、簪ちゃん、無事!?」

「なんともないよ。さ、命令通り第2アリーナに。私はアレの相手をするよ」

「無茶よ、3人でアレをさっさと排除して次に向かうほうが―――」

「いいから、行け。第2アリーナには整備棟がある。絶対に足を踏み入れさせないで」

「わ、わかったわ。先生、ご無事で」

「これでも伊達に千冬の予備やってねぇよ。早く!」

「簪ちゃん!」

「うん」

 

 さて、2人を行かせたところで改めて今回の襲撃者、いや、人が入ってないから襲撃機だね。をまじまじと眺める。ボディカラーは春先に来たアイツと同じ黒。大きく違うのは、女性的で滑らかなボディラインと両腕の武装だろうか?

 右腕はブレード、左腕は4門のレーザーキャノン。おそらくマニピュレータ兼用だろう。あれで掴まれて密接射撃されたらおそらく絶対防御とか無視して蒸発して消えてしまうだろう。

 

 

「さてさて、束、知恵比べと行こうか!」

 

 束だって大馬鹿だが、阿呆ではない、IS向けの対策だって練ってきてるだろう。例えば……

 

 

「やっぱり。シールドバリアーを展開できない…… コアネットワークもジャミングかけられてるし、抜かりないなぁ」

 

 ファウストを展開して、ISの主要機能が使えないことをボヤきつつ、片手にリボルバーを呼び出す。打ち出す弾丸は先端が白いフレシェット。髪の毛ほどの細さのワイヤーとも言える矢を放つ特製の弾丸だ。こいつでこっちもシールドをジャミングしてやりつつ、通常兵器で突破。それが私の算段であり、唯一の手札だった。それ以外はごく普通をちょっと拡大解釈した程度の武器しか持ち合わせてない。

 

 

「さあ、行くよ。私に負けないでよ、束」

 

 私が片手でガンアクションをして向けると、ライン状のハイパーセンサーもこちらを睨み返してきた気がした。問題は相手の機動力についていけるか。とりあえず、エネルギーの流れを"見て"行動を先読み、その方向に銃を向けて引き金を引いた。

 気持ちの悪い反動を腕に返しつつ、着弾音を響かせる。掛かった。

 ―――そう思った瞬間が私にもあった。

 

 

「えっ?」

 

 目の前には砲口。幸いだったのは、チャージされておらず、発射の兆候が見えなかったことか。慌ててしゃがんだところで鋼鉄の足で蹴飛ばされ、何メートル飛んだだろうか? 地面に叩きつけられて滲む視界の奥に黒い影を見ると、量子化されたファウストが白い塵となって舞うのが見えた。

 

 

「結局敵わないのかなぁ……」

 

 生身の腕に銃だけ呼び出して立て続けに撃ち込む。腕が悲鳴をあげようと、残り5発を撃ってから黙って黒い影を睨みつけた。

 腕は痺れて力加減がわからないし、たぶん銃も手から抜け落ちてるだろう。だが、縦に向いた地面に、横向きに立っている黒いのの位置は先程と変わりなかった。

 ああ、砲口がこちらを向いて光りだした。流石に束に殺されるのは悲しいが、こんな最期もまぁ、ね。

 

 

「先生!」

 

 目の前に立ち塞がったのは真っ赤な機体。物理装甲でレーザーを弾いているのは長いポニーテールの女の子。それでなおかつ私を先生と呼ぶのは……

 

 

「箒、ちゃん?」

「千冬さんが行け、と」

「助かった、のかな?」

「わかりません。シールドバリアーが使えないので……」

 

 大きな一撃を逸して防いだ箒ちゃんは私を抱きかかえるとそのまま大きく飛翔した。黒いのも追って来るが、箒ちゃんに焦りはない。

 アリーナの屋根を支える骨組みに立つと、私が声をかけて足をつける。そしてもう一度願えばファウストが私の身を包んだ。

 

 

「みっともないとこ見せちゃったなぁ」

「それだけの相手と言う事ですね。アレを倒す策はありますか?」

「物量で押し倒す。私たちじゃそれしかできない」

「なるほど。それだけの武器が?」

「あるっちゃある。距離を取って戦ってね」

「わかりました。紅椿、参る!」

 

 箒ちゃんは私の言いつけ通り、飛び道具を使って適切な距離をおいて黒いのと対峙している。私もまた、両腕に大型のガトリングガンを取り出して弾幕を張る。面倒なエネルギーシールドを展開したりしやがるが、ビットを使って後ろからも削りにかかる。3方向からの同時攻撃も一撃が大きい箒ちゃんの攻撃を優先的に防いでいるようで、私の弾幕はダメージを与えてはいるものの、致命的な一撃、とは行かないようだ。

 

「どうしてこうなるんだろうねぇ……」

 

 

 リボルバーの薬室内で直接量子化と具現化を行い、次々とフレシェットを撃ち込むも黒いのは相変わらず動き続けている。有効打を与えられずにズルズルと時間が経てばジリ貧になるのは目に見えていた。

 AICはさっき地面に叩きつけられた時にエネルギーワイヤーの展開装置を壊したらしく、使えないし、フレシェットが相手のエネルギーバリアーを邪魔する様子も見られない。

 ならば、一か八かの大博打に出るしかない。

 

 

「箒ちゃん、そいつの気を引いて!」

「わかりました!」

 

 箒ちゃんが帯状のエネルギー弾で退路をコントロールしつつ通常のエネルギー弾を撃ち込むと黒いのは見事に私の手の届く範囲に近づいてきた。チャンスとばかりにリボルバーイグニッションブーストで黒いのに抱きつき、ワイヤーブレードまで絡めて腕を固定すると自分の周囲にありったけの爆発物を用意した。

 

 

「先生、まさか、それだけは!」

「上手くいけば死なないからへーき! 離れな!」

 

 私の灰色の脳細胞()が上手く働いていれば後3秒後に正しい方向に弾丸を撃ち込めば連鎖的に爆発、黒いのはズタボロ、私は黒いのと衝撃波の相殺で無傷で済む算段だ。

 失敗すれば絶対防御の効きすら怪しい今なら死ぬかもしれない。成功したところで黒いのがぶっ壊れない可能性も捨てきれない。だが、掛けるしか手がないのだ。零落白夜も、ミストルティンの槍も、私には無いのだから。

 腕を伸ばしてトリガーを引く。弾丸を撃ち出す小さな爆発音の後に、轟音が私の鼓膜を劈いた。

 

 

「ーーーーーー」

「ーーーーーー」

 

 黒いのと心中しかけてから5時間後、まず最初に見えたのは真っ白い天井。そして何か叫ぶ千冬。私もちゃんと言葉を返したつもりだったが、自分でも何を言ったかよくわからない。おそらく、爆発の衝撃で鼓膜を破いたのだろう。私の言葉がそんなに残念だったのか、千冬は悲しい顔をしてから私を抱きしめた。

 とりあえず自分では「大丈夫だから」と言っているつもりで頭を撫でると、私を離した千冬から思いっきり平手打ちを受けた。よくわからない。口は「ふざけるな、どれだけ心配したと思ってる!」と言っているように見える。

 千冬に何か書くものを寄越せ、と言うとどこからともなくタブレットを取り出して、メモ帳を起動させて渡してきた。

 

 

『今回は悪かったと思う。ごめん』

『もっといい方法かあっただろう。ログを見たら自爆前にも攻撃を受けてるじゃないか。内臓に大きなダメージはないが、しばらくは点滴で栄養補給だ。鼓膜が破れてるのは自分でもわかるだろう?』

『まさか操縦者保護が全滅してるとは思わなくてさ。楯無や1年生は?』

『更識姉妹が2機撃墜、一夏やラウラが1、イージスの2人が1。1年が何人か医務室の世話になったが、お前よりずっとマシだ。しばらくは頭に包帯だな』

 

 千冬に指を指されて、自分の頭を触ると耳にガーゼ、頭は包帯と非常に残念な見た目になっているのは明白だった。音がまともに聞き取れず、喋ることすらままならないとなると1週間から半月はまともに仕事が出来ないだろう。教員の本分は喋ることにあるのだから。

 

 

『この後は?』

『戦闘を行なった専用機持ち全員に事情聴取、それから報告書だ』

『なるほど。私はどうする? まともに喋れないから打ち込みでいいなら仕事するけど』

『その方が迷惑だ。今のうちに書ける書類を書いておけ。授業は代わりの先生に頼むしかないな』

『脳波で打ち込み、音声読み上げソフトで喋るとか?』

『休める時に休んでおけ。怪我人なんだから無理するな』

 

 ワーカホリックとしては仕事がないと落ち着かないので、そんな半日で終わる報告書だけなんて勘弁してほしいところだ。タブレットをテーブルに置き、千冬の手を引く。

 ここからは電子データには残せない会話の始まりだ。数年ぶりに使う会話手段だが、みっちり仕込まれたから忘れてはいない。

 私が手話を始めると、千冬は少し真面目な顔になって、返事をしてくれた。

 

 

『コアは?』

『2つ確保。政府には全部破壊した、と通達した』

『懸命だね。束に連絡は?』

『取れない』

 

 やっぱりね。わかってはいたけど。ただ、わからないのは束の真意だ。目的のない行動はしない束の事だ。ゴーレム襲撃は一夏くんか箒ちゃんの為、それ以外のちょっかいも必ず何かの理由がある。だが、その裏で動く大きな理由、それこそ、全ての根本的なものがわからない。それを考える暇もなく次は亡国企業の襲撃があるし、束はクロエを送り込んでくる。物語の鍵を握るのは暮桜? だが、私ですら自衛隊を辞めてから暮桜の行方は分かっていない。これは一度調べるべきか……

 難しい顔をしていたからか、千冬に肩を小突かれて意識を目の前に向ける。タブレットに『私は戻るが、何かあればナースコールでもなんでも使え』とありがたいお言葉を頂いて千冬は部屋を出た。

 

 

「ーーーーーー」

 

 やっぱり、上手く喋れない。

 

 

「貴方の言葉、確と聞き届けました」

 

 は?

 


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