よくある転生モノを書きたかった!   作:卯月ゆう

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まだまだ続く日常回


お出かけにいくぞっ

 おはよう、と言うには少し遅い時間かもしれないが、今日は久しぶりの休日だ。

 キャノンボール·ファストでは亡国機業の襲撃を受けた上、その後も一夏個人を狙ってきた。

 そんなこともあり、事情聴取や報告書の処理に追われ続けていたが、やっと全て終わらせて学生に戻ったところだ。周りの候補生達も同じようで、少し遅めの朝食を取りに食堂へ向かうと知った顔がちらほら見かけられた。

 

 

「おはようございます。ラウラさんも遅めの朝食でして?」

「ああ。セシリアも、おつかれみたいだな」

「尋問報告書尋問報告書、と放課後は毎日が地獄の様でしたわ……」

 

 事情聴取を尋問、と呼ぶセシリアに苦笑しつつ、食券を買って二人並ぶ。

 私は流石にガッツリと食べる気分でも無かったのでサンドイッチセットにしたが、セシリアはさらに食欲が無いのか、小さなサラダだけだった。

 

 

「いくら疲れているとはいえ、しっかり食べないと疲れも抜けないぞ?」

「ええ、わかってはいるのですが……」

「おはよ〜 みんなお疲れみたいだね」

「遅いぞ、シャルロット。今日は午後から出かけるのだろう」

「もうへろへろなんだよぉ、今日は部屋で寝てちゃダメかな?」

 

 そう言ったシャルロットは私の目の前からハムサンドを一つ持っていくとモソモソと食べ始めた。

 

 

「ふむぅ…… みんなの今日の予定はわかるか?」

「一夏さんでしたら昨日の夜から家に帰られましたわ。織斑先生もお休みですし、家族水入らず、ですわね」

「鈴は土日で本国に行くって朝からに出ていったらしいよ。箒はクラスの子とお出かけだってさ。更識さんは…… どうだろう?」

「簪は今日映画の先行上映だと言っていた。死んだ目をしていたが……」

「ラウラ、諦めてお休みしようよ。たまにはこういう休日があっても良いんじゃないかな?」

 

 いや、私は諦めないぞ。クラスの友人を誘ってもいいし、奥の手として上坂先生だっている。

 そう思いたち、最後のひとくちを詰め込むと自室に戻って身支度だ。シャルロットから「女の子なんだから身だしなみに気をつけないとだめだよ」と口酸っぱく言われているのでちゃんと髪に櫛を通す。長い髪はこんなに手間がかかるのか、と痛感するこの頃だ。切ってしまおうかと思い、シャルロットに相談したら断固拒否されたので最近は面倒に思いつつもちゃんと手入れをしている。

 それから、大分増えた私服の中からシャルロットに怒られない程度に適当に選び取って、着替えると財布だけ持って飛び出した。

 

 

「と、ノープランで出てきたが、どこに行くか……」

 

 

 学園から本土(と言うと大げさだが)に繋がるモノレールの車内でそんなことを考えていた。駅までの間にクラスの何人かに誘いをかけたが断られ、上坂先生も休暇だそうだ。

 普段、出かけるときは大抵誰かが一緒で、人にまかせて買い物や食い倒れを楽しんでいたが、こうして自分でルートを考えるのは初めてだった。

 ひとまずターミナル駅で降りて携帯で地図を開く。そろそろ秋冬物の服を買い足しても良いが、そういう買い物はシャルロットと来たいからナシ。一人で口コミサイト人気のカフェに行ってもつまらないだろう。

 ならば、純粋にお出かけを楽しむのはどうだろう? 我ながらいいアイディアだ。流石に今から遠くに行くのは難しいが、海沿いならそう時間もかからず良さげなスポットも多い。

 一度行ってみたかった横須賀に行ってみよう。日本の軍事の歴史に触れ、そしてカレーを食べて帰ればちょうどいいはずだ。

 私鉄に乗り換え海沿いを南下すること1時間弱。お昼過ぎに横須賀の駅についたが、少し歩くと大きな公園に出たのでキオスクで買ったスポーツドリンクで一息つく。

 海を望む公園だけあって、護衛艦(日本では軍艦をこう呼ぶらしい)やアメリカ海軍の船も少し遠くに見えた。

 そして、そこからなんとなく海沿いを暫く歩くことにし、途中で流石にサンドイッチ2つではエネルギーが切れたのでネットで見つけたカレー屋で海軍カレーを食べてから再び海沿いを歩くことにした。

 

 

 僕が部屋に戻るとラウラの姿は既になく、きっちり畳まれたパジャマが布団の上に置いてあるだけだった。

 一人で出かけるとは思わないし、遠くには行ってない…… って僕は何を考えてるんだろう。これじゃまるでお母さんみたいじゃないか。

 なんにせよ、ラウラはそこらへんの男の人より強いから拐われたり襲われたりはないだろうし、心配はないかな? ラウラには悪いけど、流石に疲れたからもう一眠り…… 今度、秋冬物の服や小物を買いに誘おう。

 そう思っていたのは何時間前だったのか、起きると既に日が暮れかけ、窓の外は赤みがかっていた。だが、ラウラが帰って来ている様子はない。

 流石に心配なので電話を掛けても出ない。もしかしたら、もしかするかも、と様々な伝手を辿った挙句、半分パニックになりかけた頭で考え出した答えは担任を頼ることだった。

 

 

「迷った。携帯の電池は無いし、雲も出てきて星も見えない。とりあえず海に沿って北に進んでは居るが……」

 

 記念艦三笠や、海自、米海軍の基地を外から眺めて満足した私はそのままなんとなしに足を進めてきたが本格的に迷っていた。方位は掴めているが、現在位置がわからなければなんの意味もない。

 最悪ISを使うか…… そう思って埠頭と思しき場所の縁石に腰掛け、今日2本目のスポーツドリンクを空けると久しぶりに聞こえる車の音。それも結構うるさい。面倒な輩に絡まれると困ると思いつつも逃げ場は無いし、ひと悶着あるか、と覚悟してから音源に顔を向けると白と赤のスポーツカーが見えた。そして何事もなかったかのように私の前を通り過ぎ、少し先で止まった。

 はぁ、ツイてない。そう思ってとりあえず立ち去ろうとしたところで予想外の声聞こえた。

 

 

「大丈夫ですか?」

 

 

 思ってもなかった女性の声に、反射的に振り返ると白い車から降りてきた長身の女性がこちらに歩いてくる。

 短い黒髪は見えるが、街頭が逆光で顔は見えない。クセで腰に手が伸びるが、そこにナイフなどなかった。シャルロットに怒られて持ち歩かなくなったのが仇になったか、と思ったが、その女性は私の前に来ると「あれ、ボーデヴィッヒさん?」と私の名を呼んだのだ。

 

 

「何やってるんですか、こんなところで。門限も近いのにここからじゃ間に合いませんよ? 杏音!」

「失礼ですが、どなたでしょうか?」

「あちゃ、まぁ、1年生なら知らなくても仕方ないですか。IS学園のエレオノーラ·フェラーリです。言語と高学年の実技を担当してます」

「失礼しました、先生」

「ラウラ? どうしてこんなところに?」

「上坂先生!」

 

 話を聞くと、上坂先生とフェラーリ先生はドライブに来ていたらしい。その途中、フェラーリ先生が私に気づき、家出少女かなにかと思って車を止めたらしい。

 上坂先生の車に乗せられると、ほぼ同時に先生の携帯が鳴った。ハンズフリーらしく、ハンドルのボタンを押すと通話に入った。

 

 

「はい、上坂で――」

「先生、ラウラが帰って来ないんです、ISを用いたレーダー探索の許可をお願いします!」

「シャルロット!」

 

 慌てた様子のシャルロットに一声叫んだ。なんというか、銀の福音や亡国機業の襲撃時より慌ててないか?

 

 

「えっ? ラウラ? なんで、先生の電話で、ああ、僕も疲れすぎて幻聴まで……」

「シャルロット、戻ってこーい、おーい」

「いいんです、始末書覚悟の上でヘッドユニット展開しますね。アハハ」

「シャルロット、ラウラは私が拾ったから、そんなことするなよ? なんなら写メ送ろうか?」

 

 そう言って先生は私に携帯を渡してきた。カメラが起動してるのでそういう事だろう。

 ハンドルを握る先生が映るように私が自撮りをすると音声コマンドでシャルロットにメールを送ったようだ。

 

 

「えっ、ホントだ。心配したんだからね! 電話も出ないしメールも返事がない、もう、ほんとに、ほんとにぃ!」

 

 最後は鼻声で何を言ってるかわからないし、泣いているようで、私も反応に困ってしまう。それは先生も同じようで、シャルロットのえずく声を聞きながら困った顔をして車を走らせている。

 

 

「シャルロット、済まなかった、なんというか、その……」

「もう黙って出かけちゃダメだからね! 僕にどこに行くかちゃんと言ってから出かけるんだよ!」

「お母さんかよ……」

 

 先生がそう漏らすと、シャルロットも少し現実に帰ってきたようで、「と、とにかく、早く帰ってきて!」と言って電話を切ってしまった。

 

 

「なんというか、ねぇ?」

「帰ったらまずは謝ることから、ですかね?」

「正直、ラウラに非は無い気がするけどねぇ。お母さんモードのシャルロットに通じるかな?」

「多分無理でしょうね。諦めてお説教を受けようと思います」

 

 もちろん、学園に戻ると門限破りには変わりないので、寮長の織斑先生にだす反省文(上坂先生は釈明文と言っていた)の用紙を受け取ってから自室に戻ると、ドアを開けたすぐ先にシャルロットが仁王立ちして待っていた。

 

 

「正座」

「はい……」

 

 玄関先で正座のまま、ドアも開けっ放しでシャルロットよお説教を聞く。だが「心配したんだから」を連発されると反論できないのが心苦しかったが、1時間ほどするとやっと開放され…… なかった。

 

 

「で、今日は潮風浴びたんでしょ? 髪傷んじゃうからしっかりケアしないとダメだよ」

「ああ、わかってる。オレンジ色のトリートメントを使えばいいんだろう?」

「それだけじゃなくて、黒いチューブの…… 一緒に入るよ」

「いや、それくらい自分でっ、ちょっ!」

 

 湯気でのぼせるんじゃ無いかと思うほど長い時間をかけて髪を洗われた次の日、食堂のテーブルには本国に戻っている鈴と、家に帰っている一夏を除いたいつもの面々が揃っていた。

 

 

「シャルロットは過保護過ぎると思うのだ」

「ラウラが危なっかしいから、僕だって心配して……」

「確かに、ラウラさんの言うことも一理ありますわ。シャルロットさん、ラウラさんに対して手をかけ過ぎではありませんの? 昨日も夜にラウラさんが戻ってこない、と血走った目で部屋に来られた時には驚きましたわ」

「だろう? 私だって子供ではない、一人で買い物もできるし、風呂にも入れる」

「風呂まで一緒なのか……」

 

 それみろ、箒に呆れられてしまったではないか。セシリアなんて手で顔を覆っている。


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