よくある転生モノを書きたかった!   作:卯月ゆう

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再び勧誘されたよ

「スコール……」

「温泉以来かしら? 変わりないようでなによりだわ」

「今回もスコールの指示? 学園祭に比べると大分荒っぽい気がするけど?」

 

 ちらりとエムを見ると、自分の手から流れる血を舌で掬い、口を三日月状に歪めていた。笑っているのではない。歪めている。

 

 

「昼は私の指示。だけど、これはエムの独断ね。言ったはずよ、殺しはさせないって」

「フン、私は私の目的の為に動くだけだ」

「しっかし、拗れた関係だねぇ? わけがわからないよ」

「ああ、そうだな。説明していただきたい」

「あらあら」

 

 

 スコールが両手を上げると、影から黒髪とスーツの千冬が現れた。私は私ですかさずエムを羽交い締めにして拘束。やたらと暴れるが、隠し持っていた鎮静剤を打ち込むとだんだん抵抗が弱くなってきた。年頃の少女には強すぎただろうか?

 

 

「まさか、貴女が実働部隊を率いているとはね、ミス·ミューゼル?」

「法治国家の日本で物騒なもの(拳銃)を持っているのね。織斑千冬。でも、こちらにはISがあるのをおわかり?」

「だが、肝心な乗り手が寝ていてはISも使えまい」

 

 スコールは私の方を見て、ニコリとしてから仰々しく空を仰いだ。

 

 

「杏音、貴女って本当に仕事に忠実ね。本当にこちらに来るつもりは無いの?」

「前にも言ったはずだよ。理由ができたら行くってね」

「ふふっ、ならもうそろそろ迎えに行けそうだわ」

 

 そう言うと、一瞬にしてゴールデン·ドーンを展開。千冬を吹き飛ばし、私の腕からエムを攫って飛び去って行った。

 残されたのは地面に尻もちをつく女二人。

 私は黙ってスコールの飛び去った夜空に目を送ると、千冬の顔が視界に入り込んだ。

 

 

「仕事に忠実、ね。去年の夏はアレを作ってたのか」

「基本設計とフレームだけだよ。多分、機体が完成したのは今年の頭くらいじゃないかな?」

「そういうことを聞いてるんじゃない。なぜ黙っていた」

「クライアントの情報なんて漏らせるわけないじゃん」

「あれは、あいつ等は、各国のISを奪い、学園を襲った敵だぞ!」

「それに、一夏くんも攫った、ね」

「……!」

 

 

 千冬に胸ぐらを捕まれてむりやり立たされると、目の前に千冬の顔が近づく。街頭の光で影になり、真っ黒くみえるが、間違いなくいつに無く真剣な顔をしているのはわかった。

 

 

「杏音、仕事と私事(わたくしごと)、どちらを取る。8年前、お前は両方を選び取ったが今度は、両方選べないぞ」

「…………」

「両方を手に取るのなら、全世界がお前の敵だ。私や束でも庇うことはできないだろう。今だってグレーなところに居るのは気付いてるだろ? 白か黒か、はっきりさせないといけないんだ。お前だってわかってるはずだ」

「わかってるよ、そんなの……」

 

 小さく返すのが精一杯なくらい、千冬の言うことは正論だった。

 私は手を広げすぎた。なのに底は浅いから、簡単に手から零れ落ちてしまう。それを掬おうとするあまり、踏み入れるべきではないところまで来てしまったのかもしれない。

 IS研究の第一人者という立場でありながら黒い噂が絶えないことだって知ってる。それでも私に絶えず仕事が舞い込むのはそれを持って有り余る技術があるからだ。ただ、これだって束譲りと言っていいし、私自身が持つものなど何もないのだ。

 

 

「帰るぞ、ケーキはまだ余ってるそうだ」

「うん」

 

 鍵の開けっ放しだったアルファロメオの運転席に千冬が座ったので、黙って助手席に身体をしずめ、シートベルトを締めた。

 

 

「マドカにあそこまで近づいてくれたのは感謝してる。ただ、無理はするなよ」

 

 それだけ言うと、エンジンをかけて車を出し…… ハンドルの重さに戸惑って塀に擦りかけながらも織斑家に辿り着いた。

 

 

「千冬姉、杏姉、待ってたぜ。ケーキも取ってあるしな」

 

 

 やたらと靴の多い玄関をつま先立ちで抜けるとリビングには溢れんばかりの人がいた。

 1年専用機持ち(まさか簪ちゃんまで来るとは……)、生徒会役員共、それに五反田くんと妹ちゃん、御手洗くん。いや、ごく普通の一般家庭のリビングじゃキャパオーバーだろ、これ。

 

 

「あら、織斑先生、上坂先生」

「お前ら……」

「よくこれだけ入ったねぇ……」

 

 足の踏み場もない、人混み的な意味で。リビングに入るドアのところで立ち往生していると、気を利かせて(怖気づいて、とも言う)鈴と男子諸君が一夏くんの部屋に移って行った。蘭ちゃんが付いていくのはわかるけど、虚ちゃんまで付いていくのはどうしてかな?

 まぁ、空いたスペースに収まると一夏くんがワイングラスを2つ持って来て、シャルロットがケーキを取り分けてくれた。千冬は勿論、秘蔵のワインを取りに自室に行った。

 着替えを済ませて戻ってきた千冬も一緒にダイニングテーブルを囲むと、千冬がワインを注ぐ。

 

 

「一夏、誕生日おめでとう」

「一夏くん、おめでと」

「ありがと、千冬姉、杏姉」

 

 3人でグラスを合わせると、一口煽る。千冬の秘蔵酒だけあって、スコールの出す薬の入ってないワインと同じくらい美味しい。

 専用機持ち達は気を利かせてこちらには目もくれず…… と言う訳にも行かないのが乙女心か、ガン見ですか、そうですよね。妙に静かだと思ってました。私と目があったからって、目をそらすなセシリア。本当なら医務室で寝てるべきだぞオマエは。

 

 

「そうだ、杏姉。プレゼントありがとう。すげぇ嬉しいよ」

「プレゼント? 杏音、何か贈ってたのか?」

「ふふん、男の子受けがよくて、女の園じゃ持っていられないモノをね」

 

 含みを持たせて言うとコソコソと話し始めて頬を染めるラヴァーズ。ふへへ、そんないかがわしいものあげるか、アホめ。

 

 

「ちょっ、変な言い方するなよ! VRヘッドセットだよ。欲しかったけど、買いに行く時間もなかったし、結構な値段したしなぁ……」

「悪いな、杏音。そんな高いものを」

「いいのいいの、私の弟みたいなもんだし。箒ちゃんにも誕生日プレゼントあげてたんだけど、聞いてない?」

「そうなのか、箒?」

 

 自分に矛先が向いたと察して部屋の隅に逃げていた箒ちゃんに全員の視線が向く。流石に観念したのかぼそぼそと何かつぶやいた。

 

 

「なんですの? 聞こえませんでしたわ」

「だから、アリスドレスを着たうさぎのぬいぐるみだ! それも1メートルくらいの!」

 

 女子ズが面食らう中、大爆笑したのは千冬。もちろん、アリスドレスの兎なんて束のオマージュ以外の何者でもなく、それを察した千冬は爆笑し、一夏くんは困った顔をしていた。

 

 

「それより、もっと価値のあるものもらったんじゃないの?」

「…………」

「学園祭終わった頃からだよね、手首に組み紐のブレスレット着けてるの」

「確かに、箒が和小物着けてても違和感なかったから気付かなかったよ。かわいいね」

「姉さんがいきなり来て渡してきたのだ。これは私が持つべきだと」

 

 その顔は不満とかではなく、困惑が色濃い。本当に私がこれを持っていいのか。夏に抱いた疑問が未だに晴れていないようにも見える。

 

 

「その様子だとまだ起動したことないみたいだね。箒ちゃんなりにけじめを付けたんだと思ってたけど」

「なので、私は私のやり方で、と決めた以上、その道を外れてコレに頼るのも……」

「箒さんのブレスレット、まさかISですの? 篠ノ之博士が作った!?」

 

 

 今更? とセシリアにジト目を向けると、一人で上げていたテンションを下げる。

 だが、束が箒ちゃんに紅椿を渡していたのは驚きだった。確かに、箒ちゃんは物語の本筋とは違うものの、ちゃんと年頃の少女らしく悩み、考え、彼女なりの答えを出したようだ。だから、束も紅椿を渡したのかもしれない。彼女の道には合わないようではあるが。

 

 

「私は何も見てないぞ、新型のISを持った生徒がうちのクラスにいるわけが無い。だが、もしも使うときがあるのなら、それは自身の道を揺るがす危機が迫ったときだろうな」

「ま、おしゃれなブレスレットをする分には何も言わないよ。箒ちゃんなりの道があるんならそれを信じればいい。邪魔なら『お姉ちゃんうるさい』とでも言っておけば黙るだろうしね」

 

 

 暗に「ISについては黙っててやる」と言うと、箒ちゃんも少しホッとした顔をした。周りは不服そうではあるが、他人のことなんだから放っておいてあげればいいのに。

 だが、それと同時に乙女センサーは箒ちゃんの宣誓とも取れる言葉に反応したようで、静かに闘志を燃やしているようだった。

 

 

「教官、今日は私達が作った料理もありますので、よろしければどうぞ」

「もう私は教官じゃないぞ。だが、オフに先生と呼ばれるのもなぁ」

「ま、職業柄仕方ないのかもねぇ。あ、そうだ、ラウラちょっと来て」

 

 側に寄ってきたラウラにこっそり耳打ちすると、少しビクッ、と可愛い反応をしてから小声で「そんなっ」とか「いや、承服しかねます」とか少しゴネたが、最終的に折れ、「一度だけですよ」と私の策に乗ってくれた。

 トテトテと千冬の側に擦り寄ると、手を取り、上目遣いで、

 

 

「ごはん作ったから、食べて? 千冬お姉ちゃん」

 

 

 後ろでグハッ、とか乙女が出しちゃいけない声を出してぶっ倒れた数人(シャル,楯無,簪)と、私の隣で赤くなった顔を背けて必死で堪える一夏くん。

 肝心な千冬は…… 照れていた。

 

 

「おね、お姉ちゃん…… ははっ、ええ……?」

「こ、これはどうすれば」

「いやぁ、ラウラ最高だよ。期待以上の仕事をしてくれたね! ちゃんと録画しておいたから後で見る?」

「教官! 今すぐ消してください!」

「私のこともお姉ちゃんって呼んでくれたら考える〜!」

 

 私が携帯を掲げるとラウラがそれを掴もうと飛び跳ねる。それがまた可愛くて可愛くて。楯無がこっそり携帯で撮っているのが見え、簪ちゃんに制裁された。

 シャルロットはもう生き地獄ならぬ、生き天国状態で「ロッテお姉ちゃん…… でへへ」とだらしない笑みを浮かべて伸びている。

 セシリアはこの惨状に対応する術を持たず、首をせわしなく回しては「あー」とか「うー」とか言っていた。 

 

 

「うぅ〜、あ、杏音お姉ちゃん、携帯貸して?」

「うぼぁっ!」




シリアスと見せかけたラウラ天使回
この時点で楯無と簪の関係が良好なので、専用機持ちタッグトーナメントは思い切り端折る方向で考えています。
なので原作7巻まるっとカットですかね? 流石にいきなり修学旅行はかっ飛ばし過ぎなので日常回、と言うなの私の趣味全開話を少し挟もうと思います。

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