よくある転生モノを書きたかった!   作:卯月ゆう

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謀られたよ……

 時計の針は回って昼過ぎ。お昼のピークタイムを過ぎたこともあり、飲食系の模擬店はこぞって休憩時間に突入する。ここぞとばかりに今日2回目の公演をかなりの客入りで終わらせた2組の面々もまた満足気な表情で早々と片付けを済ませて人混みに消えていった。

 そんな彼女らを送り出してから教室を施錠し、私も遅い昼食を……と思った矢先、目の前に楯無が現れ、「拉致」と書かれた扇子で口元を隠したまま空いた手で私の手を掴むと何も言わずにアリーナに拉致られた。

 

 

「んでぇ、いきなり人を拉致ってどうした」

「この学園祭、亡国機業が入り込んでるのはわかっているでしょう?」

「そりゃね。さっき挨拶も済ませてきたよ」

「はぁ…… それで、アイツらが動く目的と言ったら織斑一夏。だから彼を餌に釣るわ」

「そんな簡単に釣れるかね?」

「釣れるわ、確実に」

 

 オータムに警告はした。その意味を正しく理解してくれたかはまた別だが、手をかける隙は今まで確かに無かったし、彼女らも焦っているだろう。

 その隙を私たちが突けるのか。それはまた別の話になるだろう。彼女らの実働隊がオータム1人なわけは無いし、どこかでマドカもバックアップについているはずだ。学園の外、何処か高い場所から見ているのだろう。それをさらに外から見るのかスコールの仕事なはずだ。

 

 

「まぁ良い。それで、何するわけ?」

「シンデレラよ」

「は?」

「シンデレラ。演劇よ。観客参加型、生徒会への利益も兼ねた、ね」

 

 曰く、王子に扮した一夏くんの王冠を奪えば彼と同室になる権利をプレゼント。争奪戦の参加は"生徒会に投票した"一般生徒も含まれる。だから"観客参加型"と言ったのだ。山田先生の胃に穴が開きそうな話だが、もうすでに根回しをした上での事だろう。

 

 

「さ、開演よ。先生は一夏くんが逃げそうな人のいない場所に」

「はいはい…… まったく、先生をなんだと思ってるんだよ」

 

 ぶつくさ言いながらも彼女なりの作戦があるのだろうからおとなしく従い、更衣室周辺をウロウロする事にした。

 上で楯無のナレーションが始まるとチープなセットの上を駆け回る足音が響く。時折金属音も聞こえた気がしたが、気のせいだろう。

 歩き疲れて更衣室に入るとそっと気配を消す。その瞬間、今までの比にならない地響きがアリーナに轟いた。これが楯無の言っていた一般参加組だろう。アリーナいっぱいに詰め込んで何人か…… 数えるのはやめよう。とにかく一夏くんを狙うヒットマンはワンマンアーミーでなんとかなるレベルで無いことは確かなようだ。

 

 

「こちらへ」

「うわっ!? た、助かったぁ……」

 

 そんな間抜けな声で飛びかけていた意識を戻し、ゆっくり慌てて手近なロッカーに飛び込んだ。

 入ってきたのは案の定オータ……巻紙さんと一夏くん。だが、巻紙さんの笑みは明らかに目が笑っていなかった。あれはオータムの目だ。

 

 

「あ、あれ? どうして巻紙さんが?」

「はい。これを機に白式をいただきたいと思いまして」

「……は?」

 

 まだだ。まだ出るべきでは無い。少なくとも一夏くんが気絶か見えないところまで吹っ飛ばされてくれないと。今、彼に私と亡国機業の関係を悟られるのはまずい。

 

 

「いいから寄越しやがれよ、ガキ」

「えっと、あの、冗談ですか?」

「冗談でテメェみたいなガキと話すかよ。マジでムカつくぜ」

 

 しかし口調はオータムなのにニヤニヤと営業スマイルを浮かべる様は見ていて滑稽だ。こっそり写真を撮るとスコールにメールで送った。

 さすがに痺れを切らしたのか、未だにボサッとしている一夏くんを蹴り飛ばすと私の隠れる3つ隣のロッカーに叩きつけた。

 

 

「あーあ、クソッタレが。顔、戻らねぇじゃねーかよ。この私の顔がよ」

「ゲホッ、ゲホッ! あ、あなた一体!?」

「あぁ? 私か? 企業の人間になりすました謎の美女だよ。おら、嬉しいか?」

「くそっ、白式!」

 

 やっと一夏くんが白式を緊急展開したところで私も動き出す。まずは飛び出した一夏くんにオータムの視線が釘付けになった所でロッカーから飛び出し、裏に回る。このロッカーもいつ倒れるかわかったものじゃ無いが、あの場所よりマシだ。

 

 

「待ってたぜ、それを使うのをよぉ。ようやくこいつの出番だからなぁ!」

 

 ワザとらしい口上を述べてオータムもISを展開した。ここでハイパーセンサーに見つかるのも面倒なので私もこっそりファウストを起動するとステルスモードに切り替えて天井の隅に貼りついた。

 側から見ている分には互角に見えるが、一夏くんは逃げに手一杯、対するオータムはまだまだ余裕の姿勢だ。そもそもの手数が違うから仕方ないが、人間のスペックが違いすぎる。

 

 

「なんなんだよ、あんたは!」

「ああん? 知らねーのかよ、悪の組織の一人だっつーの」

「ふざけんーー」

「ふざけてなんかねーよ、ガキが! 秘密結社『亡国機業』が一人、オータム様って言えばわかるかぁ!?」

 

 着ていたサマースーツさえ捨て、完全にアラクネを展開したオータムは一気に攻勢に入る。8本の足から鉛玉の雨霰を白式に向けて撃ち込み、無理に避けた一夏くん…… 本人は好機と取ったのか雪片を振りかかっている。それを見事に白刃取りしたオータムは目の前の的になった白式に容赦なく弾丸を撃ち込んでいく。

 流石に武器を手放すことを学んだ一夏くんはその場は一旦後退、それから腕を蹴り上げてマシンガンを奪うと続いて雪片の奪還にも成功していた。確かに成長しているようだ。

 

 

「そうだ、良いことを教えてやる。第二回モンドグロッソでお前を拉致ったのはウチの組織だ! 感動のご対面だな!」

 

 あの後千冬に全滅させられただろ、と高笑いするオータムに思わず呆れてしまったが、一夏くんのヤワな血液を一瞬で沸騰させるには十分過ぎたようだ。頭に血がのぼると一気にただの木偶になってしまうから一夏くんは残念だ。

 その証拠に借りを返すだのと甘ったれたことを叫びながら真っ直ぐ突っ込んでいくではないか。オータムがそれを逃すわけも無く、特殊装備の網、というより蜘蛛の巣によって絡みとられた白式もろとも壁に磔られてしまった。

 

 

「んじゃぁ、お楽しみタイムと行こうぜぇ」

 

 オータムが手に取り出したのは案の定剥離剤(リムーバー)だ。それを見た一夏くんは"私が前に食らわせた"物との見た目の違いに少し頬を引きつらせながら精一杯の虚勢を張る。

 

 

「別れの挨拶は済んだか? ギャハハっ!」

「なんのだよ……」

「お前のISに決まってんだろ!」

「なにっ!?」

 

 一夏くんが驚愕の顔をした瞬間にオータムが剥離剤のスイッチを入れ、白式に紫電が走る。一夏くんも堪らず悲鳴を上げながら紫電を浴び続ける。だが、それが数十秒経つとオータムの顔が焦りに変わった。

 

 

「何故だ、リムーバーが効かねぇ!」

「そりゃ、1度使えば耐性が出来るからね」

 

 あまりの激痛に耐えきれなくなった一夏くんが気絶し、白式が待機形態に戻った所でオータムの後ろに立ち、姿を現した。その時のオータムの顔も面白かったのでこっそり撮ってスコールに送信だ。

 慌てて振り返って後ずさりするオータム。彼女から見たら私は何もないところからいきなり現れたように見えるだろう。それもISすら装備せず。

 

 

「なんで、クソっ、お前が言ってたのはこういうことか!」

「理解が遅い子は先生嫌いです。勉強してらっしゃい」

「だがっ!」

 

 足元に転がる一夏くんを片手で拾い上げると頭にアラクネのアームを一つ突きつける。まるで人質がいるから形勢逆転だ、とも言いたげな顔が非常に愉快だ。

 

 

「お前にISは無いし、こっちは本人ごとゲットだ。甘すぎんだよ!」

「オータム、甘いのはどっちかしら?」

 

 次の瞬間、アラクネのアームごと切り離して一夏くんを部屋の片隅に吹き飛ばすとオータムの首筋に赤黒く光るエネルギーブレードを突きつけた。

 

 

「チェック。今引くなら追わないであげる」

「このクソアマっ!」

 

 ブレードをアームで弾くと芸も無く6本の足から鉛玉を吐き出す。

 それを全てシールドビットで防ぎながら倒れたロッカーの隙間を縫うように走る。こんな閉所で有効な武装は限られている。それこそ、ブレードと特殊な何かくらいだ。

 

 

「お前もまたちょこまかと! いくらスコールのお気に入りでもこの場でぶっ殺してやる!」

「出来るのもならやってみなさい」

 

 シールドビットを8つに増やしてなお今度はレーザーを発射するビットを4機射出。もちろん、全てレーザーが曲がるのは言うまでもない。

 そして両手にサブマシンガンを持って部屋を駆け回りながらオータムに反撃を始める。

 オータムは基本的に実弾兵装しか使わないし、蜘蛛の巣も広がるまではただの玉だ。レーザーで撃ち落とせる。

 死角から飛んでくるレーザーに手こずりながらオータムはまだ私に向けて足を向け続ける。彼女も人間が普段見ている範囲しか見えないような甘っちょろいIS乗りではないのは既に分かっていることだ。

 だからレーザーはそこそこの数を避けるし、射撃も正確だ。だが、フレキシブルを駆使すると話は変わってくる。

 

 

「なんだ、このレーザーっ、面倒くせぇ!」

「このくらいエムにもできるでしょうに。それにしても、さっきからこの部屋暑苦しいね」

「んだぁ?」

「いや、この部屋さ、なんか暑くない? いくら熱いバトルでもこれはおかしいでしょ」

 

 私がさっきから飛ばしているビットはシールドやらレーザーだけではない。私に使えない武器はないのだから、一度見て実用化されている特殊兵器を真似るくらい朝飯前だ。

 さっきからオータムの周りをちょこまかと飛び回る水色のビット。攻撃するわけでもなく、視界を遮ったりするわけでもない。

 ただ、水蒸気を放出し続けただけだ。それも、粒子の細かい、濃密な。

 

「不快指数って湿度に依存するらしいよ。ねぇ、この部屋さ、蒸し暑くない?」

 

 誰のセリフかはこれからわかる。気絶した一夏くんを容赦なく扉に向けて蹴飛ばすとちょうど開いた扉に飛び込み、奥に立っていた楯無を巻き込んで廊下の壁に叩きつけて再び扉はしまった。

 そして、オータムは私の言うことを理解したのか、苦笑いとも驚きとも取れる顔をした。

 

 

「いやぁ、科学って楽しいねぇ!」

 

 次の瞬間、アラクネに纏わりついていた霧が一気に爆ぜ、爆心地とも言えるアラクネが次に見えた時には装甲は剝がれ落ち、自慢の足すら半分もがれた無残な姿だった。

 

 

「ざまぁないね。最後通告だ。エムの手を煩わせる前に失せろ」

「グッ……」

「させないわ!」

 

 ヒビの入ったドアを破って入ってきた楯無はランスを構えると逃げの体勢に入っていたアラクネに追撃をかけた。

 

 

「クソがぁぁぁ!」

「楯無!」

 

 私が楯無の名を叫ぶとともにオータムはISを脱ぎ捨て、その勢いで脆くなった壁の向こうへと飛び去っていた。

 そして、残されたアラクネが内部から光を放ち始めると咄嗟に楯無は水のヴェールで全身を覆い、私は正面にシールドビットを纏めた。

 

 

「楯無、無事っ!?」

「先生こそ、なんで!?」

「説明は後! 一夏くんを専用機持ちに回収させて保健室に、楯無は付いてきなさい!」

 

 即座に指示を出し、楯無を引き連れてオータムの痕跡を追うことにする。

 千冬に学園内で戦闘、主犯を追跡中。と一報入れてから学園からモノレールに乗り、さらに暫く歩いた場所にある公園まで追ってきた。蛇口から犬のように水を飲むオータムは満身創痍と見える。

 

 

「見つけた。今度こそ……」

「楯無、下がりなさい」

「先生! まさか亡国機業の肩を持つの?」

「いや、私に手がある。反対側に回って待ちなさい」

 

 ISを展開してオータムに手を向けると顔だけがあちこちを見回し、暫くしてから私のいる草むらに目を向けた。

 楯無が反対側にかけていくのを見つつ、草むらから体を出すとワザとらしく声をかけた。

 

 

「梃子摺らせてくれたね。おかげでアリーナは暫く使えそうにないよ」

「テメェ、どれだけの手札を……」

「う〜ん、数えたことないや。さて、お迎えはそろそろかな?」

 

 私の死角を狙った"光速の一撃"をシールドビットで防ぐとその方向に向けて一発撃ち出す。

 

 

「全く、食えない女だな。お前も」

「今は先生だからね。いつ来てくれてもいいよ、エム」

「はっ、笑えない冗談だ。さて、オータムを返してもらおう」

「それは無理かな?」

 

 AICで動けないオータムの頬にキスをすると「動いたら殺す」と念を押してから頭上のエムにライフルを向けた。

 それが開戦の合図かどうかはわからないが、ほぼ同時に撃ったと思うと真逆に回避して高度を上げていく。

 双方ともにビットを何機も飛ばして互いの攻撃を防ぎながら偏向射撃で如何に裏をかくかの頭脳戦だ。

 

 

『先生、学園からラウラとセシリアが』

「クソっ、こんな時に邪魔くさい!」

 

 思わず本音が出たが、それは同方向から飛んできた鉛玉とレーザーが上手いこと誤魔化してくれたと信じよう。

 

 

『『上坂先生!』』

「ラウラとセシリアは地上のオータムを拘束しなさい! こいつの相手は私がします!」

『サイレント・ゼフィルス……!』

「セシリア! 命令だ!」

 

 セシリアの動きが止まったのを見逃さず、怒鳴りつけるとおとなしく地上に向かった。

 

 

『お前も苦労しているようだな』

「そりゃね。良いのかい? オータム捕まっちゃうよ?」

『スコールに小言を言われるのは避けたい。何としても取り返させてもらう』

 

 ビットから撃ち出されたレーザーは大きな弧を描いて地上の3人に向かう。もちろん、死角からの攻撃は的確にそれぞれのウィークポイントを狙っており、シュヴァルツェア・レーゲンのレールガン、ブルー・ティアーズのビット、ミステリアス・レイディのクリスタルを撃ち抜いた。

 お返しとばかりに地上から飛び道具で雨のように迎撃されるが、空中には私もいることを忘れてはならない。

 有利が一転、見方からの迎撃で一瞬の隙を許してしまう事になった。シールドビットを前面に固めて一直線に地面に向かうサイレント・ゼフィルスから一瞬遅れて私も向かうが次の瞬間には上手いこと視線誘導されたセシリアがラウラを撃ち、楯無は直接攻撃を受けて怯んだところでAICをカットされオータムが連れ去られていた。

 

 

「全員怪我は?」

『無いわ。機体はボロボロだけどね』

『ラウラさん……』

『言うな、次が無いようにしろ』

「今は帰るよ。ラウラとセシリアは千冬の指示?」

『はい。織斑先生から2人の援護に、と』

「全く、ちーちゃんも……」

 

 親友に毒吐きつつ学園に戻ると戦闘があったのが嘘のような活気に包まれていた。

 即座に地下の千冬に報告をすると学園祭が終わるまではとりあえず今日やるべきだった仕事をする事となった。となると……

 

 

「ああ、ロミオ、どうして貴方はロミオなの? お父様と縁を切り、その名を捨てて…… それが無理ならせめて私を愛すると誓って。そうすれば私はキャピュレットの名を捨てましょう。私の敵は貴女の名前。モンタギューでなくても貴方は貴方。名前がなんだと言うの? バラと呼ばれるあの花は、他の名前で呼ぼうとも甘い香りは変わらないわ! だからロミオ、その名を捨てて。そんな名前を捨てて私を、私を取って……」

 

 絶賛深窓の令嬢に愛をの言葉を投げられている。

 この回だけ私が出るなんて大っぴらに宣伝したところで意味ないだろうと踏んでいたが、私の思っていた以上に私は生徒から人気があるそうで、整備科の生徒が客の多くを占めていた。さらに言えば倉持から来ている技師さんや、その他海外企業の方々、暇な先生、おいおい知り合いばかりかよ、と嘆きたくなったが、一度請け負った以上、最後までやり遂げるのがスジだ。

 

 

「ああ、彼らの20本の刃より、貴女の瞳の方が私には恐ろしいのです。もし、あなたが私を優しく見守っていてくれるのなら、彼らの敵意など関係ありません! 彼らの憎しみによってこの命が終わる方が、あなたの愛なく生き長らえるよりもずっと、良いのです」

 

 大振りな動きとともにテラスのシャルロ…… ジュリエットに愛の言葉を返す。

 ロミオとジュリエットは若い、それこそ生徒たちと同世代の男女が恋に落ちるとどうなるかを皮肉った物語だと言われるが、それはこの情熱的な台詞回しが、言ってしまえばとてもクサいからだとも言われる。演じてる私も最初は恥ずかしくて仕方なかったよ。

 そんなクッさいセリフのオンパレードも長くは無い。ちゃんと修道士や修道女との真面目なシーンも挟んでから、街中での決闘でジュリエットのいとこ殺してから修道士に諭され、初めての夜(意味深)を過ごしてからジュリエットが数多の婚約話を持ちかけられるところも少し端折りつつもちゃんと演じていた。シャルロットはほぼ出ずっぱりだ。

 

 

「本当に、この薬を…… ですが…… いえ、今はロレンスを信じましょう」

 

 薬瓶を煽ると何事も無かったかのようにベッドでそのまま眠るように倒れるジュリエットは翌朝、結婚を約束したパリス伯に見つかることになる。

 悲しみにくれるパリス伯を演じるのはクラスのイケメン枠の一人、修道士ロレンスも同じくイケメン枠の中から選ばれた。そんな彼女らの熱演もあり、ついに墓場のシーンだ。

 ジュリエットの死の知らせを聞いたロミオは違法と知りながら毒薬を貧しい薬屋から買い、ヴェローナへと馬を走らせたのだ。

 道中、パリス伯を殺してしまうなどの重要シーンもキチンとこなし、彼の死体を抱えてキャピュレットの墓に埋葬してからあのシーンをこなさねばならない。

 

 

「さあ来い、無情な道案内、さあ来い、味気のない先導役。お前は破れかぶれの舵取りだ! 波にもまれ、疲れた小舟を今こそ岩にぶち当て打ち砕け! あぁ、我が恋人に…… 乾杯!」

 

 そしてロミオもまた薬瓶を煽ると打ち震えながら、そして、苦しみを味わうように。また、最愛の人の側で死ねることを喜びとしながら最後のセリフだ。

 

 

「おお、嘘は吐かなかったな、薬屋……! おまえ、の、薬はよく聞くぞ…… ははっ、こうして口付けを……」

 

 わざと台詞を最後まで言わずにそのままジュリエットに重なるように倒れると客席からため息が漏れた。

 ここまでいいリアクションをしてくれるとこっちも恥ずかしい演技をしている甲斐があるというものだ。

 

 

「なんと…… そんな、まさか……!」

 

 その後、ロミオとパリス伯との争いを見ていた者の通報で夜警が駆けつけた時には既に時既に遅く、墓地には修道士がただ立っているのみだった。

 




最後のロミジュリは読み流して要約に要約を重ねた上に最後まで書いてません。
本来の話が気になる方は青空文庫やネットで現代語訳が出てくるので一読することをお勧めします。

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