よくある転生モノを書きたかった!   作:卯月ゆう

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手のかかる子たちだよ……

 夏休みも終わって9月。イマイチ休み気分の抜けきらない生徒達だが、私がホームルームの時間に学園祭のことを伝えると熱気の方向がそっちに向くことになった。

 まぁ、こんなことにも慣れたから、手を叩いてクラスを黙らせ、私に注目するようにしてからまた詳細を話していく。

 

 

「さてさて、みんなお待ちかねの学園祭が近づいてきた訳だけど、なにやる? あんまりお金がかかったり手間がかかったりするのは止めてね。詳しいことは明日の全校集会の後にやるけど、少しは考えておいて」

 

 私がそう言えば思春期女子達は一気にヒートアップ。やれシャルロットを執事にしろ、やれラウラを愛でろ、やれ先生を生贄に捧げろ。最後のは聞き捨てならんぞ? 生贄ってなんだ、生贄って。

 原作では2組は飲茶だかのはずだが、その発起人であろう鈴が1組に行ってしまった為、どうなるかと思ったが、メイド喫茶じゃなくてよかった。

 

 

「じゃ、企画書は前田さんに渡しとくから、それ書いて今週中に私のとこまで持ってきて。んじゃ、ホームルーム終わりっ」

 

 と、ひと騒ぎあったものの、休み明けの頭を目覚めさせる授業を1日こなして生徒会室でおやつを食べていると、楯無が唐突に言いだした。

 

 

「そう言えば杏音先生。織斑一夏君に会ってきたんですよ」

「ほぉ、それはまた唐突だね。どうせ変にちょっかい出して困らせたんだろ?」

「失礼ねぇ。普通にコンタクトをとったわ、普通に」

「え、今日の実技におりむー遅刻してきたよ? なんか青髪の女の子に絡まれた、とか〜」

「ああ、そう言えば遅れてきたねぇ。まさか……」

 

 目の前で明後日の方を向いて口笛を吹く楯無。顔面を掴んで無理やりこちらに向かせると激しく頭を揺さぶった。

 

 

「おら、なにしたんだ、吐け」

「んなっ、ただ、後ろからっ、目を、ああっ! 塞いだだけっ!」

 

 最後にデコピンを食らわせて開放すると軽くふらつくのか、目が泳いでいた。

 エロいいじり方をしても面白かったかもしれないが、さすがにそれをやると虚ちゃんから凄い目で見られそうなのでやめておいて正解だろう。あうあう、とか情けない声をだす主人を呆れた目で見ている。

 

 

「んでぇ? なにを企んでいやがるんですかねぇ?」

「企む、なんて失礼ね。私はただ、一夏くんを強くしてあげようと思って。学園祭、絶対に亡国機業が動くわ。最低限の自衛くらいはしてもらわないと」

「なるほど? 確かに一理あるね。んじゃ、私も一枚噛ませて頂きますかね。主に悪巧みの面で……」

 

 にししっ、と笑うと楯無まで私に呆れた目を向けてきた。なんだよ、ただ剥離剤(リムーバー)を作ってあらかじめ白式に耐性をつけようってだけだよ。別に悪くないよ。

 翌日の朝はSHRと1限を潰して全校集会だ。生徒会顧問である私は生徒の統制をケイト先生に任せて生徒会側に付きっ切りだった。

 軽く打ち合わせをしてから私が前に出て生徒を黙らせるとそのままマイクを虚ちゃんに渡した。

 

 

「みなさんおはようございます。これより全校集会を行います。今月行われる学園祭について、生徒会長より説明させていただきます」

「やあみんな、おはよう」

 

 虚ちゃんが演壇から降りるのと入れ替わりに上がった楯無の威厳もへったくれも無い挨拶で2,3年生は苦笑い、1年生は誰これ状態から始まった。

 この間の間にくるりと生徒たちを見回す楯無は1年の方に目を向けてにっこりと笑ったのだから、一夏くんを見つけたのだろう。あの笑い方はイタズラ成功の笑い方だ。

 

 

「さてさて、今年は色々と立て込んでちゃんとした挨拶がまだだったからまずはそっちからね。私は更識楯無。君たち生徒の長よ。以後よろしくね」

 

 演説慣れした楯無の一挙手一投足に熱っぽいため息が聞こえるのはなぜだろう? 気にしたら負けだろうか。負けだろう。

 

 

「では、今月の一大イベント、学園祭だけど、今回に限り特別ルールを導入するわ。その内容と言うのは……」

 

 楯無が懐から取り出した扇子に合わせて空間投影ディスプレイが浮き上がる。

 この辺りは私の小細工と虚ちゃんのプログラミングセンスが輝いていたりするが、生徒たちには関係の無いことだ。

 そして、楯無が扇子を開くと同時に一夏くんの写真がでかでかと映し出された。

 

 

「名づけて、織斑一夏争奪戦!」

 

 その響きに生徒たち、いや、ここは女の子、といった方がいいだろう。彼女らのボルテージは天元突破。雄叫びめいたものまで聞こえる始末だ。

 救いを求めてキョロキョロと辺りを見渡す一夏くんに楯無はウィンクをし、次に私がゆっくりと首を振ると一夏くんは神は死んだ、とばかりに項垂れた。

 

 

「えぇ〜 クラスには一夏くん来ないんですか〜!」

「そう言ってたじゃん。クラス替えとか面倒くせえ…… 手間なんだよ」

「言い換えられてない!」

 

 全校集会の後のHRではクラスからのブーイングを浴びながら学園祭での出し物企画が進んでいた。

 今回の企画は『部活対抗 織斑一夏争奪戦』なのであって、今まで出ていた人気の出し物をしていた部への特別助成金の代わりに一夏くんを入れる、と言うものであって、クラスへの何かは今まで通りこれといって無い。

 だが、そこは一夏くんの人気ぶりからか、クラスへもなにか還元されるべきとブーイングがあったわけだ。

 それを無理やり説き伏せてさっさと決めて企画書持ってこい、と教室を逃げ出してきたのが今のこと。

 隣の机では同じようにクラスを捨ててきた担任の織斑先生がいらっしゃる。

 

 

「千冬もクラスを投げてきたの?」

「ああ。なんだ、あの姦しさは…… 一夏とツイスターやポッキーゲーム…… 呆れて言葉もない」

「うちのクラスはその点は楽かね。なんでクラスに一夏くんが来ないんだ! って文句言われたけど」

 

 それから1コマ待つと各クラスの生徒が担任に企画書を提出している姿が見えた。かくいう我が2組も先ほど演劇をやる。と企画書を出されたので担任印を押して新しい書類を託したところだ。

 そして暫くしてコーヒーを飲みながらまったりとしているとシャルロットがやってきた。ウチのクラスの出し物が決まったのだろう。

 

 

「……という訳で、2組は演劇をすることにになりました」

「ほう、また無難なものを選んだね。ーーと言いたいところだが、どうせ何か企んでるんでしょ?」

 

 隣からも千冬の視線を感じつつもスルーして頑張る。個性派揃いの2組だ。ただの演劇ではないだろう。

 すごく嫌な間を置いてからシャルロットが、おずおずと口を開く。

 

 

「いや、その…… ハムレットなんですけど、先生にもやってもらいたいみたいで……」

「立案は誰だ? 中里さん? 美代さんあたりも……? まぁ、あの辺の騒ぎたい連中?」

「えーと……」

 

 さっきよりずっと嫌な感じ。ちらりと伺えば冷や汗すらかいているように見える。そんなに言いにくい子が立案なのだろうか? あのシャルロットだ。クラスメイトの名前が出てこない訳ではないだろう。

 

 

「ラウラです」

「…………」

「……は?」

 

 危うくコーヒーを吹き出すところだ。思わず隣に目を向けてみれば千冬の肩が震えてるのが視界に入る。

 彼女の「助けて先生……」という懇願の目をスルーして続きを待つ。

 

 

「ぶっ、はははっ! ボーデヴィッヒか! くくっ、それは意外だ。しかし、まぁ、あいつが演劇? よくもまぁ、そこまで変わったものだ。聞こえただろ、杏音、あのボーデヴィッヒがだぞ?」

「嘘ぉ……」

 

 私の精一杯のリアクションと私も今までに見たことあるか怪しいレベルの千冬の大爆笑でシャルロットも顔が引きつっている。

 

 

「そんなに意外、ですか?」

「それはな、あいつの過去を知っている分、おかしくて仕方がないぞ。くくくっ!」

「上坂先生、口開いてますよ?」

「ん? ああ、いや、ホント意外なんてレベルじゃないよ。ドイツの冷氷なんて言われていたのに……」

 

 ぬるま湯(IS学園)に浸かったら溶けてしまったのだろうか? まぁ、以前から弄られキャラの素質はあったし、真面目一辺倒だった訳ではなかったが、まさかごく普通の演劇を提案するとは思いもしなかった。

 入れ替わるように入ってきた一夏くんが、喫茶店やります、と報告してから職員室を出ると、廊下でバッタンバッタン騒がしい音がしたが、それには目をつぶって私に提出された企画書を改めて見返す。

 

 

「どうしてこうなった……」

「まぁ、学園祭っぽくていいじゃないか」

「ま、頑張るのは生徒だし、とも言ってられない……!」

 

 そう思い、騒ぎもひと段落した廊下に出て生徒会長への襲撃を企てた生徒たちに片付けを促してから私も生徒会室に向かった。

 道中もまた生徒が伸びていたり窓が割れてたり派手にやらかした跡が残っていたがそれには目を瞑り、生徒会室の重ったるいドアを開けると丁度一夏くんが虚ちゃんのおもてなしを受けているところだった。

 

 

「派手にやったみたいだね」

「一夏くんモテモテだから、妬かれちゃってツライわ」

「それは楯無さんが俺を連れ回すからでしょう……」

「あら、意識しちゃった? おねーさんとの校内デート? ふふっ」

「あまりからかいすぎないように。一夏くんは初心だからね」

「ちょっ、杏姉!」

 

 そう呼んだ一夏くんをちょっと強めの目で「先生と呼べ」と睨みつけるもシュンと縮こまって面白い。そのまま顧問の机に収まると虚ちゃんがお茶とケーキを持ってきてくれた。

 このフィルムのロゴから察するに、有名なパティシエが出したパティスリーのものだろう。美味しいに違いない。

 ふわふわのスポンジにフォークを突き刺しながら背後での会話に耳を傾けると一夏くんは楯無が稽古をつけることが気にくわないらしい。

 というよりも、自分が弱い扱いされてる事の方が嫌なようだ。だが、一夏くんが弱いのは事実。周りよりも求められるハードルが高い事は認めるが、それをクリアできるだけの実力を求められる立場にいる事への理解が未だ足りないようだ。

 

 

「ねぇ、杏音先生。一夏くんったら強情なのよ〜 おねーさんの指導受けたくないって」

「俺だってそんなに弱いつもりはないです。それにセシリアや鈴もいるし、教師役には不自由してませんし」

「ふぅん。ふぇも(でも)ふぃふぃふぁふんふぁ(一夏くんが)。んぐっ。弱いのは事実だしね。それに、教師役には不自由してないって言うけど、その教師だってたいした事ないじゃん」

「杏ね…… 先生。いくら先生でも言っていい事悪い事あるんじゃないのかよ」

「いいや、断言する。彼女らはそこの生徒会長よりずっと弱い。ラウラとシャルロットがタッグでやっとどっこいの勝負ができるくらいじゃないかな?」

「いいぜ、わかった。なら勝負だ。俺と楯無さん、それから杏音先生もだ。負けたら大人しくしてやる」

 

 その時の楯無は「してやったり」と、何時ものいたずら成功の笑みを浮かべていた。




長くなりそうなのでここでカット

感想でご指摘いただいた致命的な矛盾解消しておきました。
原作見ながらテキトーに書くからこうなる……

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