よくある転生モノを書きたかった!   作:卯月ゆう

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招かれざる客だよ

 無事に夏休みに入ったIS学園。生徒達は帰省や部活動、ISの練習で散っているようだが、先生達の夏休みはもう少し遅い。

 とは言っても、授業が無い分勤務時間は短いし、仕事も部活動や委員会の顧問でもないと残った事務処理をする程度だ。こんなに仕事が無いのに給料はめちゃくちゃ良い。夢のようでは無いか?

 とも言っていられないのが今の状況だ。私が顧問を務める生徒会はダメ無が溜め込んだ紙束の処理に追われていた。

 

「かいちょー、おやつにしようよぉ」

「そうね、虚ちゃん、お茶を淹れ、て……」

「そんな余裕があるとお思いですか? お嬢様?」

 

 絶賛修羅場である。後ろに「ゴゴゴゴゴ」ってエフェクトがついていそうな修羅()が楯無に微笑んでいる。

 その間にも手だけは止まらずにサインと判子を押しているからすごい。私? もう無心だよね。ロボットのように顧問欄に判子をポコポコするだけだ。

 

 

「う、虚ちゃん、大切なメンバーを労わるのも会長の仕事かな? って思うのだけど? 上坂先生もお疲れの……」

「お疲れのようですね……」

「杏音先生が虚ろな目でロボットみたいになってるよー」

「顧問欄に印、顧問欄に印……」

 

 もちろん、数分後にはお茶とお菓子が出てきたのは言うまでも無い。

 すっかり日の暮れた頃には燃え尽きた生徒会メンバーが各々の机て伸びているのが千冬に見つかり、楯無が小言を言われたとかなんとか聞いたが、私には関係無い。顧問だけど。

 学園で夕食を済ませてから"自宅"に帰るべく車を走らせると、学園の専用トンネルを出て、高速に乗ったあたりからなにやら怪しげな車に後をつけられている事に気づいた。

 

 

「なんでアメ車の黒いSUVなんだろうねぇ、こういうのは……」

 

 ボイスコントロールで楯無のお仕事用携帯に掛けると、数コールで彼女は出た。

 

 

「こっちに掛けるなんて、ただ事じゃないようね」

「誰かに後をつけられてる。映像を送るよ」

「この黒い車? ナンバー隠してるし、先生が車線変更した通りについてくる…… 確かに怪しいわね。今部下を送るわ。30分くらい引き回してくれる?」

「おっけ。頼んだよ」

 

 こちとら伊達にスポーツカーじゃないぞ。と思っても通常通り安全運転を心掛ける。向こうに対策を打ったことがバレては意味がないのだ。首都高速に入り、ワザと道を間違えたように振舞って環状線に入る。後ろから車が来たタイミングで車線変更しようとして途中で諦めるのがコツだ。クラクション鳴らされちゃったら大成功。

 黒いSUVは相変わらず私の後をついてくる。2台後ろだ。そこにちょうど楯無から電話があった。

 

 

「ほいよ」

「先生、今環状線で間違いない? クルマはいつものスポーツカー?」

「そう。赤いの」

「5台後ろに居るわ。そのまま次で降りて頂戴」

 

 言われた通り、ふらりと高速を降り、ビル街に入る。ここでも楯無のナビゲーションに従い、人通りの多い所を通って海に近づく。

 工業地帯が広がる一角、トラックの休憩所になって入る駐車場に入ると私の車には余りあるスペースに止めた。

 すると先の黒いSUVが突撃してきて私の車の前に横付け。中から屈強なスーツの男たちが降りてきて私の車を囲んだ。

 更識の人間は少し離れたところで降車し、隠密行動で駐車場を包囲したそうだ。

 気づかないフリをしてナビをいじっていると、コンコン、と窓を叩かれた。

 

 

「ハロー、ドクター」

「は、ハロー? どなた?」

「貴方が知る必要はないよ。こちらも手荒な真似はしたくない。おとなしく降りてきて貰えるかね?」

 

 男は夏だというのに暑苦しいジャケットを軽く開くと腰から下がるホルスターを見せてきた。

 おお、こわいこわい。(棒

 

 

「ハイハイ、今行きますよ」

「おっと、変な真似はしない事だ。ドアパネルにナイフでも隠しているんだろう?」

 

 おや、鋭い。

 ドアポケットに入ってるタオルの中に挟んであるのに何故わかったし。定番の隠し場所なんだろうなぁ……

 サイドシルの広さを生かして降りにくいフリをして時間を稼ぐと、腰を半分上げたくらいで男に腕を掴まれた。

 

 

「スポーツカーはやはり普段使いには難しいでしょう。ただ、ステータスとしては最適だ」

「あはは、手荒なエスコートどーも。大声出すとか考えなかったわけ?」

「ドクターは利口な方だ、そんな選択はしないだろう?」

「いや、わからんよ? もっとずる賢いかもしれない」

 

 その瞬間、いつの間にか周りの警戒に当たっていた男たちが崩れ落ち、私はそのまま男の手を引いた。

 私は車のシートに収まるが、男はそのままルーフに顔面を強打。その隙に手を振りほどくと更識の人間が後ろに引き倒して拘束した。

 流石対暗部のプロ。一切気配を感じさせず、駐車場という遮蔽物のない空間にも関わらず接近、無力化させたのは並大抵の技術ではないだろう。

 部隊を率いていたと思しき男性が私の元に寄ってきて、お怪我はありませんか? と声をかけてくれた。

 

 

「ええ、どこも。ありがとうございます」

「いえ、仕事ですから。見たところこいつらは中の上と言ったところ。バックに居るのは大きな組織ではなさそうですね」

「そんなところまでわかるんですね」

「あくまで予想ですかね。私からも楯無様に報告をしますが、上坂博士からも楯無様にご連絡をお願いします。博士がファントムタスクと接触して以降、楯無様は博士の動向に目を光らせておられます。この手の輩は警察などでは対処できませんから、その時にはまた、ご連絡ください」

「便利屋さんみたいで申し訳ないです。また、更識さん経由でお礼を贈らせて頂きますね」

 

 彼らが黒スーツ共を回収するのを見届けると、大分遠回りになってしまったが、私も家に帰る事にした。

 今度は尾行なんて無く、無事に帰って無事に一晩過ごせたのは言うまでもない。

 後日、楯無経由で水ようかんを送ったところ、大好評を頂いたのはここだけの話だ。

 

 

 

 


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