よくある転生モノを書きたかった!   作:卯月ゆう

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銀の福音戦だよ……

「姉さん、あの話は嘘でしょう」

「な、なんの話かな?」

「"私の"ISが調整不足という話です。なぜ、そんな見え透いた嘘をつくのですか?」

「それはっ……」

 

 思わず言い澱んでしまう。

 言ってしまって良いのか。その言葉で傷つけやしないか。嫌われはしないか。これ以上関係が崩れることは避けたい。そう、私の心の奥からの叫びが口から飛び出す前に絞り出した言葉はあーちゃんが避けるべき。と言っていた最悪の一手だった。

 

 

「箒ちゃんはなんで、ISを求めるの?」

「それは……」

「いっくんの側に居るため? そんな甘えた理由だったら私は絶対に許さないよ。そんなの、箒ちゃん自身が一番嫌いな『力に溺れること』以外の何物でもない。そんな、偽物の力のためなら、私は嫌われても良いから箒ちゃんにあの子を渡すわけにはいかない」

 

 

 目の前で箒ちゃんが拳を握りしめ、俯いて唇を噛んだ。その拳の行き先は、まさかの箒ちゃん自身だった。

 

 

「私はっ! 一夏の側に居たいんだ! だけどっ! だけど、その為ならどんな手を使うほど落ちぶれては居ないつもりだった……」

 

 自分の頬を殴った箒ちゃんは吠える様に私に願いの根源をぶつけた。案の定、周りの有象無象を出し抜く為だったけど。

 

 

「箒ちゃん。いっくんはどんなISに乗ってるかで相手を選ぶ様な人間だと思ってるの? だから周りの有象無象より良いものを寄越せと私に願ったの?」

「そんな訳はっ!」

「箒ちゃんがした事はまさにその逆を行く事だよね。もうわかってるんじゃない? いっくんは人となりをちゃんと見てくれてると思うよ。だから、自分が不利な立場だ。なんて思わなくて良いんじゃないかな? みんなスタイルも性格も違うけど、立っている場所は同じだよ。ISが無いから向こうに行けない。そうじゃなくて今できる事を最大限にやる事を考えるべきじゃ無いかな?」

「まさか姉さんに恋愛を説かれるとはな…… でも、ありがとう」

 

 自分の部屋に戻った箒ちゃんの後ろ姿を眺めてから、厳戒令が敷かれ、人っ子ひとり居ない廊下を歩く。

 砂浜には景観破壊も良いとこな大型のレールガンが置かれ、それを操る女の子は真剣な眼差しで海の向こうを見ている。

 

 

「束」

 

 そんな時だ。耳慣れた声に振り返ると、ちーちゃんがいつも以上に怖い顔で私を見ていた。

 

 

「杏音が落ちた。銀の福音が強制的にセカンドシフトしたらしい」

「うそ、あーちゃんが落ちるわけ無い! だって! だって、あーちゃんにはファウストが……」

「事実だ。生徒たちには撤退命令を出した。あと数分で戻ってくるだろう」

 

 そんな訳はない。あーちゃんは現行ISを凌駕するスペックの紅椿に乗り、有象無象とはいえ、それなりに使える人間を5人も連れて行ったんだ。それなのに!

 

 

「ファーストコンタクトで破壊したはずのエネルギー砲が、セカンドシフトで復元。その攻撃から生徒を庇ったそうだ。幸いにも、と言うべきか、落下地点はマーキング済み。回収は可能。だが……」

「絶対に許さない」

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 絶対に館内に居ると思っていた束の捜索には思ったより時間がかかった。見つけた背中はいつもより小さく見えたが…… 恐らくは自室に駆けて行った箒が絡んでるのだろう。

 その小さな背中に声をかけ、淡々と事実を告げる。それがどれだけ難しいことか。これが生徒の保護者なり、IS委員会の人間ならもっと口は軽かっただろう。

 私と束の親友、そして、私たちを束ねていた糸が、いま切れかかっている。

 束の怒りは大きく2つのステージに分けられる。これは長年の付き合いからわかった事だが、冗談交じりに怒っている時は大した事はない。本気で怒っている時には黙って事を進めていく。決めて冷酷に。合理的に。

 目の前の束はまさにそれだ。空中に数多のウィンドウを浮かべだと思えばキーボードを無言で叩き続けている。

 

 

「束、そのファウストとは、なんなんだ」

「私とあーちゃんの最高傑作だよ。私たちの全て。持てる技術は全て用いた。使える知識は全て使った。そして、全てはあーちゃんのために。あーちゃんしか最大スペックを引き出せない最後の切り札(ジョーカー)

「そんな、聞いてないぞ」

「言ってないからね。いまそれを遠隔起動させてる。あぁ、もう起動してるね。あーちゃんのバイタルは……」

 

 そこまで言って束は手を止めた。脳裏に最悪の展開が浮かぶ。

 

 

「さすがだよ、あーちゃん。私はあーちゃんのそういうところが大好きだ」

「どうした?」

「あーちゃんの身体はいわば冬眠状態に入ってる。どういう理屈か知らないけど、多分ファウストの所為だね。そして、あーちゃんの脳は全力でスーパーコンピュータも真っ青な演算処理をしてる。場所は墜落地点の深度246メートル。海底だね」

「なぜそんな? 操縦者保護機能か?」

「ううん。ISの操縦者保護機能はそこまでカバーしてくれない。だから、きっとあーちゃんの意思にファウストが答えたんだ」

 

 杏音、お前というやつは…… 無理はしないでくれ。そして、絶対に帰ってこい。

 束を引き連れて司令室になっている広間に戻ると、専用機持ちが揃って室内を通夜のような雰囲気にしていた。

 束からの情報をディスプレイに付記し、空気を入れ替えるべく窓を開けた。

 

 

「これから上坂杏音の救出、及び銀の福音撃墜任務のブリーフィングを始める」

「私はファウスト経由であーちゃんをフォローするからちーちゃんは実働隊をよろしく」

「見ての通り、銀の福音は最後に交戦した地点から全く動いていない。そして、その地点の深海250メートルに上坂杏音が居る。第一目標は上坂杏音の救出だ。銀の福音は、篠ノ之博士が対処に当たっている。作戦概要はーー」

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 さて、原作通り、強引に二次移行してくれた銀の福音。まさか破壊したマルチスラスターまで復活するなんて思いもしなかった。

 邪魔な密漁船を退かしたと思ったのに、まさか餌食にされかかった鈴を庇ったら見事にエネルギー全損なんてね。そして、今はファウストの方に身体の維持を任せて銀の福音の対処に当たろうと思う。

 現在、銀の福音はコアネットワーク始め、全てのネットワークから孤立している。そこで私の3つ目のギフトが生きるわけだ。

 私の3つ目のギフト。それは《繋がる》能力。ネットワークでも、人の心にでも。繋がれるものならなんでも繋がることができる能力だ。まぁ、いままではコンピュータネットワークに主に使っていて、時折ISのコアネットワークに忍び込む程度だったが、今は本気を出して銀の福音のコアに繋がっている。

 繋がると、大抵そこは繋がったものを象徴する世界が広がっている。人間やISならば心象世界、とでも言おうか。その人の持つイメージの世界だ。そこで本人と私がアクションを起こす事で現実に反映させるのだ。

 この能力の欠点は繋がっている間は私の身体が動けない事。だから瞬間的に相手を操って……みたいな真似はできない。使い勝手が良いのか悪いのかよく分からない能力だ。

 そして、銀の福音の心象世界は…… イメージするならウユニ塩湖だろうか? 何もない空間を私は歩いている。

 だが、その雰囲気をぶち壊しにしてくれるのがこの黒光りするフレームのケージ。中には美しい鳥。そして天に広がるのは雷雲。恐らくはこの鳥が銀の福音のパーソナリティ。これを解放し、雷雲をなんとかすれば銀の福音は戻るはずだ。鳥は空へ、死体は土へ。ってね。

 

 

「さて、出してあげようかねぇ」

 

 ケージを開けようと手を触れると、紫電が走り、私の手を弾く。強固なプロテクトがかかっているようだ。

 面倒だが、この何もない空間からケージの鍵を探すか、模造するしかなさそうだ。

 そのためにもう一度ケージに触れる。私の腕が赤黒く焼け落ちようが構わない。繋がってさえいれば良い。それが骨の欠片であれ。

 ケージのプロテクトは大きなパズルだ。大抵この手のファイアウォールなんかはパズルやインペーダーゲームのようにして現れる。そのパズルを解くべく、脳みそ45個並列駆動だ。

 そこにふと、猫の手ならぬうさぎの手。これは間違いなく束だ。ファウストのコアネットワーク経由で私から福音へと繋がって居るのだろう。

 作業スピードを上げ、カチャカチャとスライドパズルを組み立てる。そして、最後の1ピースを動かすと、逆十字のデザインが浮かび、そして爆ぜた。

 再び戻るは銀の福音の心象世界。さっきまで静かにしていた鳥が騒がしい。恐らくは外で何かが始まったのだろう。反攻作戦か、私の回収か。私を助けてくれるととっても嬉しいが、そのために邪魔なのが福音なのだろう。

 プロテクトの外れたケージを開け、鳥を外へ放つ。そして、隣に佇む兎を抱き上げてからそのあとを追うべく私も飛び上がった。所詮夢の世界みたいなもん。なんでもアリだ。

 雷雲はさっきのプロテクトとリンクしていた様で、少しずつ晴れてきている。だが、一瞬でキレイさっぱりとは行かないのがもどかしい。きっと中でできる事はこれ以上…… あった。鳥についていくと雷雲のさらに上、白い雲に浮かぶ庭園の真ん中で、金髪の美人が磔にされている。

 恐らくは彼女が銀の福音の操縦者なのだろう。その手足に絡む蔦は私の手ではビクともせず、兎の手を借りてもどうにもならない。

 こいつは、外からじゃないとダメかもしれんね……

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 私たちはこの目ではっきりと見てしまっていた。上坂先生が鈴を庇って落ちてゆく姿を。具現維持限界を迎え、生身同然で3000フィートからフリーフォールだ。操縦者保護機能があったとしても、大怪我で済めばラッキーだろう。

 その直後に織斑先生から撤退の指示が飛び、私とセシリアで遠距離支援を行いながら逃げてきたが、私たちは言葉一つ漏らさず、ただ、作戦司令室で膝を抱えるしか無かったのだ。

 そんな中で織斑先生が、篠ノ之博士を連れて司令室に戻ってきた。任務は上坂先生の救出。銀の福音は二の次だと言って。

 事実、現在交戦中の銀の福音は先よりずっと動きが鈍い。鈍いというより、躊躇いがある様な動きだ。私たちの容赦ない砲撃に晒されてもなお、高出力のエネルギー弾は明後日の方向へと撃ち込まれ、わざと私たちを避けているかの様だった。

 

 

「最後だ! セシリア、同時攻撃行くぞ!」

「わかりましたわ!」

 

 私の50口径レールガンとセシリアのスターライト。肩に当たった砲弾が福音を大きく仰け反らせ、セシリアの正確な射撃が頭部に命中。胴をガラ空きにさせた。

 

 

「「一夏(さん)!」」

「おう!」

 

 雄叫びと共に飛び出した白式がその刃を輝かせて銀の福音に突き立てる。最後の足掻きとばかりに一夏に手を伸ばすが、それも叶わず、銀の福音は具現維持限界を迎えて光の粒となり、操縦者を吐き出した。

 それを鈴が抱きとめると、ちょうど下からの報告が上がってきた。

 

 

「みんな、上坂先生を見つけた! 生きてる、生きてるよ!」

 

 シャルロットの泣きそうな、いや、あれは泣いているだろう。私たちの担任だ。そして、私にとっては生きる道を与えてくれた教官でもある。そんな"大切な人"なのだから。

 

 

「終わったか……?」

「ああ、任務完了だ。怪我はないな?」

「わたくしは問題ありませんわ。鈴さんも大丈夫そうですわね」

「あったりまえよ。今は早く戻りましょ。福音の操縦者も無事だけど、一応先生に診てもらった方がいいし」

「だな」

 

 全速力で戻った私たちを迎えたのは織斑先生の良くやった、という言葉と篠ノ之博士の涙だった。山田先生は作戦完了、の報告で泣き出したそうだ。

 上坂先生を博士に預け、福音の操縦者を医務室に寝かせてから司令室に戻ると、今度は博士自ら私たちに「あーちゃんを助けてくれて、ありがとう」とお礼を言ってくれた。人嫌いで有名な博士がこんなことを言うのは珍しいと後で織斑先生が教えてくれた。

 私が帰還報告を織斑先生にすると、先生は全員に怪我がないことを確認してから部屋で休むように言った。

 こうして長い1日が終わったが、臨海学校はまだ1日残っている。明日には上坂先生も目を覚ますといいが……

 




地の文超多め
そして、あまり使いたくない場面区切りの乱用
もうダメかもしれんね

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