よくある転生モノを書きたかった!   作:卯月ゆう

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臨海学校2日目、だよ

 臨海学校2日目。ISの実機を使ったメニューがまる1日入る今日が本番と言える。私はもちろん専用機持ちの生徒のフォローに回る事になっている。

 まだ風のない凪いだ海を前に整列した生徒たちに千冬が簡単に朝礼を行い、長い1日が始まった。

 珍しくラウラが遅刻したり、色々あったが割愛しよう。

 

「では各自与えられたメニューをこなしーー」

「ちぃぃぃぃぃちゃぁぁぁぁぁぁぁぁん!」

 

 砂埃巻き上げ走ってくるのはISを生み出した世紀の大天災、篠ノ之束。手をブンブン振り回しながら走ってくる姿に千冬は眉間を揉み、山田先生はポカンとしている。他の先生や生徒も同様に。

 

 

「いやぁ、会いたかったよ! 久しぶりの愛の証にハグっ!?」

「いやぁ、久しぶりだな。私は会いたくなかったぞ?」

 

 千冬の胸に飛び込んだ束の頭を見事に鷲掴みにするとそのまま握りつぶすんじゃないかという力で強烈なアイアンクローをかます。どのくらいヤバイか、と言えば束から人が出しちゃいけない軋み音がする。

 と言えばお分かり頂けるだろうか?

 

 

「とうっ! や、やぁ、箒ちゃん。久しぶり、だね?」

「ええ」

「むぅ、冷たいなぁ。それにしてもしばらく見ないうちに大きくなったね! 特におっぱいが」

 

 ガスッと、出席簿とも違う打撃音が響くと、箒ちゃんは顔を赤らめながら胸を抱えていた。大きいものがさらに寄せられてボリューミー。なんで10個近く年下の女の子でもあんなものを持っているのに、私のは…… 悲しきかな、丘陵地帯は起伏に乏しい。

 

 

「殴りますよ!?」

「殴ってから言った! 酷い! あーちゃん助けてぇ」

「私を巻き込むな。……胸あるものには死を」

 

 私のつぶやきが聞こえた生徒の数人がハイライトの消えた目で頷いていた。

 

 

「いい加減自己紹介くらいしろ。生徒が困惑してるだろ」

「はろー。私が篠ノ之束だよ〜 以後よろしく〜」

 

 目の前のアリスが束だとわかると生徒はにわかに騒めき出す。千冬も予想済みだったようで、一喝して黙らせるとそのまま解散し、与えられた課題をこなすように指示した。

 箒ちゃんはそそくさと束のそばに寄ると、小声で何か言っているように見えた。

 

 

「それで、頼んでいたものは?」

「ごめんね、まだちょーっと仕上げが甘いからちゃちゃっとやっちゃうね」

「そう、ですか」

 

 うつむく箒ちゃん。そして、束は昨日取り決めた作戦を開始した。

 

 

「あーちゃーん! 一緒にISつくろー!」

「砂のお城作ろう、的なノリでよく言えるね…… って訳だから、ちょっとコレに付き合ってくるけど、何かあったら遠慮なく言ってね」

 

 専用機持ち達にそう声をかけてから束が呼びよこした懐かしい鏡面仕上げのキューブが砂浜に突き刺さると、箱を展開するようにパタパタと開き、中から鈍い紅の機体が顔を出した。

 

 

「箒ちゃんの反応は?」

「残念、というより悔しそうだったよ…… やっぱりーー」

「まだそう決まった訳じゃない。おあずけに耐えられるかが勝負の鍵だよ」

 

 白衣を脱いで下に着ていたISスーツ姿になると遠くから視線を感じた。今日の私のISスーツは私事用の旧日本代表モデル。千冬因縁の一品である。真っ白にピンクのラインが入るそれは2番目の人間が着るもの。当時の日本代表チームでは私が2番目だった、という訳だ。他の候補生を差し置いてエンジニアが…… なんて言われたものだが、模擬戦で千冬以外に負けなかったから仕方がない。

 学園指定の紺色のISスーツが圧倒的大多数。専用機持ちも流石に白いスーツは居ない。その中でこの格好は少し浮いていた。

 

 

「じゃ、始めよっか。軽く飛んできてよ」

「あいよっ」

 

 紅椿に身を預け、起動させるとブースターは使わず、PICのみで少し高度を上げて洋上に出た。

 そこから展開装甲をブースターモードに切り替え、徐々に推力を上げていく。

 その間にも紅椿は"私に"合わせて機体を変化させ続け、アルマイト加工の紅の様だった鈍い機体色は鮮やかさを帯びてきた。

 

 

「さすがあーちゃん。データ取りは上々どころか欲しいものを着々と入れてくれるね」

「一緒に何したと思ってる。束がIS作るときに求めるデータなんて丸わかりさ」

 

 そう言って両腰に下がった刀の柄を掴むと思い切り振り抜いた。

 片方はエネルギー刃を飛ばすもの、もう片方は帯状にエネルギーを放出するものだった。すごく燃費悪そう。

 

 

「あ、今燃費悪そうとか思ったでしょ! それをカバーするための能力も用意、してる……」

「どうした?」

「ううん。あーちゃんはコアに好かれてるから多分すぐにわかるよ。でも、箒ちゃんの為の能力だから……」

「わかった。ワンオフアビリティは発現しない様に気をつけるよ」

「気をつけてもどうにもならないんだけどね」

 

 パッケージインストールを進める専用機持ちや、順番待ちの生徒らの視線を一身に浴びながらだんだんとペースを上げていく。

 機動は鋭さを帯び、攻撃は激しさを増す。初見の機体だからあまり飛ばせないな、とも思っていたが、蓋を開ければ中身はファウストとほぼ同じだ。まぁ、第4世代だし、原点(第0世代)から遠ざかる様で近づいてるのかもしれない。数字は離れるのに中身が近づくとは皮肉なものだ。

 

 

「あーちゃん、もう良いよ。すべてのデータ収集およびパーソナライズが完了。あれ? ちーちゃんを見てみて?」

 

 言われた通り、空中から千冬を見れば山田先生と手話で会話をしている。あれは候補生時代に仕込まれた自衛隊で使う任務用のハンドサインだ。ざっくり要約するならば、特任レベルAの非常事態発生。直ちに対策を始めよ。と言ったところか。

 内容は対IS戦闘。ついに銀の福音戦が始まる。

 

 

「束、そこから300メートル西に倉持技研のコンテナが見える?」

「ああ、アレね。それが?」

「中身を組み立ててくれる? 15分で」

「ええ…… 面倒だなぁ。でもあーちゃんの特製アイテムなら……」

 

 プライベートチャンネルで手短に伝えた次の瞬間にはオープンチャンネルで千冬の声が響いた。

 

 

「全員注目! 現時刻より教員は特殊任務行動に移る! 本日の稼働テストは全て中止。各班、ISを片付けて部屋に戻れ。以降の許可無き外出は禁止だ」

 

 慌てふためく生徒の誘導に私も加わり、全生徒を旅館に戻したところで紅椿を待機形態に戻して作戦司令室と化した広間に向かうと専用機持ちと千冬、山田先生、他数人のISに乗れる先生方が集まっていた。

 

 

「よし、揃ったな。概要を説明する。2時間前、ハワイ沖で稼働試験中だったアメリカとイスラエルの共同開発IS、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)が制御下を離れて暴走。監視空域から離脱したとの報告があった」

 

 私は壁に寄りかかりながらちらりと専用機持ち達の顔を伺うと、やはりと言うべきか一夏くんは面食らった表情で周囲を見回しているが、それ以外は流石国家代表候補生。真剣な目つきだ。特にラウラはもはや纏う空気が軍人のソレになっている。

 先生方も元軍属や候補生上がりが多いため、その空気はとても触れただけで切れそうなくらいに研ぎ澄まされていた。

 

 

「その後の追跡からの予想ではここの南2キロの空域を通過することが予測された。そのため、一番近い我々が対処に当たる事を決定した。教員は訓練機を使って空域、海域の封鎖を。作戦の要は専用機持ちに担ってもらう」

 

 その言葉に数人の眉が上がる。流石に軍用ISの対処を任されるとは思って居なかったのかもしれない。

 

 

「それでは、作戦会議を始める。意見がある者は挙手するように」

 

 早速手が上がる。その主はセシリア。

 

 

「目標ISの詳細なデータを要求します」

「ああ、そうだな。もちろん、漏洩は禁物だ。その場合は国際IS運用規定、及び関連法に従い罰則を受ける事になる」

「了解しました」

 

 ディスプレイに浮かぶスペックシート。それを元に具体的な作戦立案を始めた専用機持ち。

 それを一旦制するように今度は私が手を挙げた。

 

 

「上坂先生」

「はい。今回、私が大口径レールガンを持ち込んでいます。今束に作らせているのですぐにでも使用可能です。ただ、その運用は更識に任せる事になります」

「わかった。それと、上坂先生には専用機持ち達と同行して現場での指揮を任せたい。機体は、あるだろう?」

「……ええ、わかった。教員部隊の指揮権をダヴェンポート先生に移譲します」

「お任せください」

 

 その後の作戦立案には私も加わり、原作とは異なる流れで進んで行ったが、結論として出たのは原作と同じ作戦だった。

 機動力に優れる機体で一夏を運び、零落白夜で一撃必殺を狙う。

 そのため、一夏くんの運搬にセシリアが当たり、先発隊として防御パッケージを持つシャルロットと実質的なアップデートであるパッケージを持つ鈴が。真ん中にセシリアと一夏くんを置いて殿を砲戦パッケージを持つラウラが務める。私は一応真ん中に居る予定だが、現状次第で変わるかもしれない。

 そして、最後の砦に簪。レールガンでの超長距離砲撃での先制と最悪の場合に備えて特殊弾(剥離剤)を装填できるようにしてある。

 

 

「上坂先生……」

「大丈夫です。私を誰と思ってるんですか? 初代生徒会長ですよ? 篠ノ之束と肩を並べる天才科学者ですよ? そして、千冬と唯一まともに渡り合ったことのある人間です。生徒達は私の命に代えても守ります」

「よくそんなに肩書きが出てきますね。でも、少し安心しました。ただ、上坂さんも帰ってきてくださいね」

 

 

 作戦開始5分前の砂浜で山田先生に上目遣いで呼ばれたと思えばどうやら心配されている様だったのでできる限り冗談めかして本当の事を並び立てた。

 千冬は相変わらず黙って腕を組んでるし、束はレールガンを完璧にナノレベルの狂いもなく組み上げてから姿をくらました。

 

 

「作戦開始! デュノア、凰。行け! 更識、通常弾第一射用意!」

「「「了解」」」

 

 8メートル近い砲身を持つレールガンがISのエネルギーを餌にジリジリと不快な音を立てる。

 先発隊が福音との遭遇地点まで1キロを切ったところで足の速い2人を始め、私たちが出発した。

 

 

「更識、目標方位210。距離2700。第一射、撃て。射撃次第次発射用意、通常弾」

撃て(てぇ)!」

 

 直撃すれば絶対防御発動待ったなしの大きな一撃だが、すぐそばを掠めて衝撃で福音の背部のマルチスラスターを丸ごともぎ取って爆ぜた。

 それが開幕の合図となり、足を止めた福音に、一夏くんがセシリアの瞬時加速も相まって音速を超えた勢いで零落白夜を当てに掛かるが、紙一重の動作で躱され、大きく間を取られた。

 その間を埋めるべく、ラウラが遠距離砲撃でカバーし、少し遅れて到着した先発隊に繋ぐ。

 

 

「敵機複数捕捉。迎撃モード銀の鐘(シルバーベル)稼働開始。ウイングスラスター損傷。戦力再計算ーー」

 

 機械音声がすらすらと取説を読み上げる様な声を出す中で私が次の一手を打つ。

 

 

「ボーデヴィッヒ、そのまま砲撃。オルコットも距離をとって援護に回りなさい。デュノア、その距離を保って。凰、マルチスラスターからのエネルギー弾に気をつけなさい。織斑、焦ってエネルギーを無駄に使わないで」

 

 早口で捲したてる様に命令を下すと、まだ余裕のある声で返事が返ってくる。そして、原作での最大の失敗。そして、最高の進化である密漁船を私が捕捉すると全員のレーダーに警告を出した。

 

 

「密漁船を真下に捕捉しました。全員、高度を取って目を引いてください。私が対処します」

 


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