よくある転生モノを書きたかった!   作:卯月ゆう

44 / 71
臨海学校への前哨戦だよ

 こりゃあ思わぬ儲けもん。

 諸用(VTシステムの始末)でドイツを訪れていた私は襲撃した研究所で思わぬ発見をしていた。

 てっきりシステム系の研究施設かと思えば、あまり表沙汰に出来ない研究を一手に引き受ける施設だったようで、使われていない培養容器を見つけたのだ。もちろん、細胞を育てるなんて生易しいものではなく、ヒトやそれに相当するサイズのものを育てるものであるのは言うまでも無い。

 AICで磔になっている施設の人間をそのまま言葉通りの意味で消し去ると、データを漁り、ドイツの遺伝子強化体のプロトタイプがここで生まれた事がわかった。その他にも役に立つ真っ黒な研究成果を我が物にすると施設のセキュリティを書き換え、施設を私の手の内に収めた。

 束が自分のラボを持ってるんだ、私だって頂いたって構わないだろう。やり方はアウトローだが……

 

 さて、7月に入ると先のトーナメントでの一件は何処へやら、やれ夏休みだ、やれ臨海学校だと生徒が浮き足立ち始める。

 私は昨年1年生の担任を受け持って初めて臨海学校の過酷さを学んだのだ。いや、元気すぎでしょ。マジで。

 なんやかんやで私は臨海学校の直前に行う期末テストを作りつつ、隣の机の山田先生と他愛も無い話に花を咲かせていた。

 

 

「はぁ……」

「上坂先生お疲れみたいですね。受け持つ教科が減ったとは言え講義科目だけで6ですか……」

「講義科目は1年生の科目なので全然楽だよ。問題は……」

 

 少しばかり遠い目をして職員室の壁にかかる予定表を眺めると山田先生も同意、とばかりに「あぁ」と言った。

 

 

「臨海学校ですね…… まだトーナメントの事も完全に片付いた訳では無いですし、織斑先生なんて教頭先生とよく睨み合ってますよ」

「こればかりは国家の問題も絡んでくるのでおいそれと手を出せないんだよねぇ。それにウチのクラスはデュノアさんの事もあったし……」

「クラスの空気も悪く無い様ですし、先生のお仕事は増えちゃいましたけど、結果オーライじゃないですか? まぁ、部屋割りをまた考え直すのは流石に嫌気がさしましたけど……」

 

 そこにちょうど入ってきたのは教頭先生と一戦交えてきたと思われる千冬。少し乱暴に椅子に座ると持っていた缶コーヒーを開けた。

 

 

「教務部の連中はなんだ? あの無能どもは戦争でも起こす気か?」

「開口一番それとはかっ飛ばすねえ」

「さっき教頭にそう伝えたところだ。ドイツと戦争を起こしたいならどうぞ、とな。顔を真っ青にしてたからもう黙るだろう」

「お、織斑先生、少しはやり方を……」

「今まで下手下手に出てきたが今回ばかりは生徒の危険どころか学園の立場が危うくなるからな。それも含めて守らねばならんのだ。はぁ、まったく面倒な役を引き受けてしまったものだ……」

 

 もう一回缶コーヒーを煽ってから缶を握りつぶす千冬。それ、スチール缶だよね。さっきの発言と相まって先生の数人が引いたよ。やべえよ。

 何はともあれ、VTシステムも潰して教務部も黙らせたからひとまずの決着かな?

 教務部が何を口うるさく言ってきていたかと言えば、ドイツに学園を危険にさらした責任を取らせろと喧しかったのだ。

 だが、あの一件はニュースとなってしまった以上、ドイツは世間一般から責められる事になっていた。それに漬け込んで美味しい思いをすると学園としての中立が失われかねないと言うのが私たちの言い分だった。

 

 

「そうだ、買い物に行きませんか?」

「どうした、唐突に」

「織斑先生も上坂先生もお疲れみたいですし、息抜きがてらと言いますか、臨海学校の準備もありますし、どうでしょう?」

「いいんじゃない? テストの採点だってそんなにかからないでしょ?」

 

 この時、6科目20クラス受け持ってあんたが言うなよ。と職員室のすべての先生が思ったが、少し顔を引きつらせるだけで済ませたあたり大人の女性が集まっている。

 私はテストを全て生徒の机備え付けの電子端末による打ち込みで行うので、採点も全てアプリケーションで行うことができるからクラス数がいくら増えてもPCが落ちない限り数分で採点が終わるのだ。それに、ペーパーレスで環境にも優しい! いや、ホントは楽したいだけなんだ。ごめんよ。

 実技科目は一人一人5分程度で終わる実技と、レポート提出(もちろんメールで私に送らせる)で採点なのでこっちの方が手間は掛かるが、整備科4クラスだけなので各クラス授業1コマとレポート採点に5時間程度で終わる。テスト時間割の前に行う(と言うか今週末だ……)ので、テスト期間にはレポートの採点をすれば良いだけだから、土日には全て終わらせられるだろう。

 

 

「まぁ、たまにはそう言うのも悪くないな。テスト明けは予定を空けておくよ」

「いつでも暇だろうに……」

「何か言ったか?」

 

 私みたく副業をしているわけでもないだろうに、休日は休日なはずの千冬が何を。と思ったら睨まれたのでそっぽ向いて山田先生が淹れてくれたお茶を啜る。暑くなってきたところに水出しの緑茶が美味しい。

 

 そして生徒諸君には悪夢とも言える1週間が終わり、先生達の悪夢が始まりを告げたのがつい先日。私が2人の採点を手伝うことでなんとか金曜の日付が変わる前に全ての仕事を終わらせ、無事に土日休みを確保した私たちはもはや定番中の定番、駅前の総合ショッピングセンター、レゾナンスに来ていた。

 流石に就寝が遅れた分、出遅れた感じはあるが、まだ昼前。昼食を後ろ倒しにして混雑を避けれは快適なショッピングが楽しめるだろう。

 

 

「んでさぁ、千冬。もっとこう、なんかないわけ?」

「と言ってもなぁ…… 私はそんなに服を持ってない」

「そう言う上坂さんも白衣の有無くらいしか違いませんけどね?」

 

 そう、せっかくの休日だと言うのにこの鋼鉄の女はサマースーツを着てきたのだ。まだ軽く着崩してるから良いものの、そんな服ばかりじゃ男も寄りつきゃしない。さっきからある程度の視線は感じるものの、それは大概山田くんの胸から千冬の胸、そして私の顔に移ってもう一度千冬に戻ってから下に向いている。

 大体姉妹か何かと思われてるのが関の山だ。そして長女(千冬)がヤバそうだから手を出さないのが正解、と判断して撤退。素晴らしい判断力の持ち主ばかりだ。私だって見た目に自信がないわけではないし、それなりの顔面偏差値だと自負しているが、ここまでとは思わなかった。全部千冬のせい。

 

 

「と、とりあえず上から見ていきましょうか。せっかくですしお二人の夏服を買いましょう!」

「でもさぁ」

「この中でまともなセンスの持ち主は山田くんだけだ」

「……がんばります」

 

 年がら年中スーツの女と年がら年中シャツとジーンズの女だ。まともなファッションセンスなんて持ち合わせているはずがない。

 特に千冬なんて全て一夏くん任せだからこうなる。私は最低限自分の服は自分で調達する。主にユニ○ロやG○などで。

 女子力高めの山田くんに連れられて上から順番に回り、CMで見かけるようなブランドの店で普段着てるTシャツをら5枚は買えるんじゃないかという値段のワンピースやらあれよあれよと買い物袋を増やして午前(時計の針はとっくにてっぺんを過ぎているが……)の最後としてやってきたのは期間限定オープンの水着売り場。そして、そこにたどり着く前にチラリと見慣れた金髪と茶髪の2人を見かけ、売り場の中で彷徨う銀髪も見つけたのでコレは原作通りの流れと読み、内心ほくそ笑んだ。

 

 

「最後に水着、ですっ!」

「えぇ〜私海きらーい。あつーい」

「杏音……」

「上坂さんだってスタイル良いんですからピッタリのがありますって」

 

 ちなみに私は去年、わざと学園指定の生徒と同じスク水を発注してそれの上に白衣を羽織って過ごした。生徒達には私らしいと好評だったんだが……

 

 

「あっ、これなんてどうです? そんなに露出多くないですし、パレオとかが女の子っぽくて」

 

 と、山田くんが私に押し付けてきたのは白のホルターネック。そこに透け感のある水色のパレオを合わせたもの。まぁ、単体で見れば可愛いけどさ。ねぇ? 救いを求めて千冬を見れば「似合うと思うぞ。試しに合わせてみれば良い」と試着室を指差された。

 不承不承と試着室に向かうとちょうどよくカーテンが開かれ、見慣れた顔が現れた。

 

 

「えっ?」

「おっ?」

「あわわわっ?!」

 

 ちょうど開いた試着室の中には年頃の青年らしくこざっぱりした格好の一夏くん。そして水着姿のシャルロット。顔を赤くしているのは一夏くんに見られたからだけでは無さそうだ。

 とりあえず後ろを見ると千冬は眉間を揉んでるし、山田くんは顔を赤くして胸の前で手をパタパタと振っている。

 

 

「何をしている、馬鹿者が……」

「2人で試着室に入るのはアウトだよ、それが許されるのはゲームとマンガとアニメだけだ。バレたのが私たちじゃなかったら一発で警察のお世話だよ?」

 

 このご時世それが本当にありえるからマズイのだ。全く、この世の女は……(長いので以下略

 そして私が後ろを振り向き、ポケットから飴玉を取り出して高速デコピンの要領で店の向かいの観葉植物に2発撃ち込むと見事に「フゴッ!?」と情けない声がした。

 

 

「ちょっと! 何すん…… あ、あ、杏音さ……上坂先生!?」

「どこからの襲撃ですのっ!? 上坂先生! 織斑先生に山田先生まで……!」

「やぁ、ちょっとフェアじゃない乙女心をレーダーで探知してね」

「「…………」」

「そうだ、罰として私の荷物持ちだ。山田くん、次は君の水着を選ばないとね。あと1人いるはずだからついでに探そうか。それはデュノアさん、お願い」

 

 視線で千冬と一夏くんを見ると山田くんも意図を察してくれたようで、「そうですね。上坂さんのはそれで決まりですよ?」と言ってくれた。他の3人はただ気まずそうな顔をして私たちについてきたが、2つ挟んだ棚で固まるドイツ人形を拾うと私と山田くんの水着を買って早々に退散した。

 混雑もひと段落したファミレスに入るとセシリアがまず口を開いた。

 

 

「どうして先生方が? それに、なぜあの場所が見つかりましたの?」

「私たちは普通に休日に買い物に出てるだけ。そんで、2人の後ろを通ったからあの場所がわかったの。それで水着売り場を見ればラウラが彷徨ってるし、ねぇ?」

 

 隣に座るシャルロットを横目で見ながら口だけ「デートは台無しだねぇ」と言ってやればシャルロットは顔を赤くして少し拗ねたような顔をするし、鈴やセシリアはそれ見たことかとしたり顔。ラウラはバニラアイスをつつきながらメロンソーダを飲んでいる。かわいい。

 

 

「でも、先生達が僕らを連れ出したのは別の理由があるんじゃないですか?」

「もちろん。ま、それを言うのは野暮ってもんよねぇ、山田くん」

「ですね。このあとは解散にしますけど、くれぐれも、立ち振る舞いには気をつけてくださいね? 皆さんは国家の顔でもあるんですから」

 

 国家の顔、という言葉に一番反応したのかセシリア。まぁ、プライド高いし、そういう意識も高く持っている。だからフレキシブルの習得のために放課後頑張ってるの、先生は知ってるよ? 誰にも言わないけどね。

 ラウラは相変わらずグラスに残ったメロンソーダをチューっと吸い上げるとパタパタとドリンクバーに歩いて行ったので問題無いだろう。あれはただの天使。いいね?

 

 

「そう言えば、誰がラウラを連れてきたの?」

「わたくし達ですわ。鈴さんと2人で一夏さんとシャルロットさんの後をつけようとしたところ、ちょうどお散歩しているところを見つけましたの」

「それで連れてきた、と。確かに尾行はバレてなかった…… わけでも無さそうだね?」

「そりゃそうだよ。ISをステルスモードにしたのか知らないけど、学園にも何処にも3人の反応が無いんだもん。これは見つかりたく無い理由があるんだろうな、ってすぐにわかったよ」

 

 バレバレだったらしいぜ。ま、これも思春期の思い出1ページさね。

 この後は昼食まで一緒に取っていた織斑姉弟と合流し、大人達は再び買い物に、少年少女は…… しらないけど、まぁ、年相応の遊び方でもしてたんじゃないかな? ゲーセンにヤバいシューターが出たとか、ダンスゲーの神が居たとかそんな噂を耳にしたから多分そうだ。

 さてさて、テストが終われば臨海学校。こいつには銀の福音なんて厄介なのが出てくるから、わたしは事前にISのテスト名目で倉持から私お手製の175mm45口径試製超大型3連電磁投射砲を持ち込んでいるので最悪これで銀の福音を消し飛ばすつもりだ。

 17.5センチのセラミックコートされた鉛玉が音速の10倍で発射されるのだ。たかがマッハ2で動く人形に当てるなんて容易だろう。問題は…… 束だ。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。