よくある転生モノを書きたかった!   作:卯月ゆう

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夢の続き、だよ

 ラウラが語る夢、それは千冬が過去に起こした全てであり、暮桜とともにあった記憶だった。淡々と彼女は語るが、時々言葉に詰まるのを見るとやはり千冬の知られざる一面に触れてしまった、触れさせられてしまった、と言うべきか。どんな顔を向けていいのか、どんな感情を向けるべきかとても悩んでいることだろう。

 

「それで、織斑教官、私の見た事は…」

 

 全てを語ってから、ラウラは不安げに千冬に問いかけた。

 千冬は黙って俯きながら聞いていたが、久しぶりに開いた口はとても重たげで、その一言すら絞り出すようにして出されていたのだから千冬がどれだけ負い目を感じていたかが図られる。

 

 

「真実だ……」

「そう、ですか…… 上坂教官」

「なぜ、が聞きたいんでしょ? あくまで私の憶測になるけど」

 

 VTシステムとは、コアネットワークから強制的にヴァルキリーのISのコア情報をダウンロードして上書きするものではないかと考えている。

 そして、ISとは操縦者とともに自己進化するもの、ともに歩むもの。IS自体が見たものを記憶していて何がおかしいだろう? 操るものの技術、クセ、それを修正するデータ。全て含めてそのISの"個性"を形成していたら?

 それを無理やり他人に上書きして再生するのだから操縦者が同じものを見てもおかしくは無い。私はそう考えた。

 

 

「それで私が織斑教官に? そもそもそんなシステムがどうして……!?」

「少なくとも私が去年見たときにはなかった。そのあとのアップデートで入れ込まれたんだね。こんな不細工なシステム……」

「悪いものを見せたな、ボーデヴィッヒ。上坂先生は引き続き解析に努めてください」

 

 無理やり話を終わらせたかったのか、何時もの調子に限りなく声を近づけて区切りをつけると、私の脇を小突いた。要は出てけって事だ。あの話をするのだろう。

 私が少しムッとした顔を向けてから部屋を出るとある人物にISを通して連絡をつけた。

 

 

「久しぶりに連絡だと思ったら、あまりいい話じゃなさそうだね」

「そうだね。ISのコアが私の思ってた以上に進化してるっぽいし、それに、小汚いソフトを作る奴らも出てきたからどうしようかと」

「ふふっ。ISのコアに限りなく人格に近いものを与えたのはあーちゃんなのに、何を今更。ただ、コアネットワークに不正に近い逆アクセスの記録が残ってるのが気になるね」

 

 もちろん相手は束。その束が不正に近い、なんて曖昧な言葉を使うのが気になるが、続きを促す。

 

 

「うーん。ISが心に繋がるのはわかってると思うけど、これはその逆なんだよね。ISから人間に向かってるんだ。それもーー」

「暮桜のコアから別のコアに向けて」

「そう。暮桜はそっちの地下で寝てるハズなんだけど…… これはあーちゃんが確認してくれればいいかな。それで、その心に無理やり繋がれた子は?」

「無事だよ。心身ともに。ただ、千冬と関わりの深い子だから……」

 

 束は少し残念そうに息をついてから、コアの事は任せろ。と言うのでVTシステム本体については私がなんとかしろと言う事だろう。また厄介ごとが増えたなぁ、なんて思いつつ廊下を歩くと後ろから見知った気配がしたので振り返ると金髪の少女が少しビクッ、としてから背筋を伸ばした。

 

 

「上坂先生、今、いいですか?」

「決めたのかい? 随分遅かったけど。まぁ、仕方ない事だよね」

「はい。僕は、僕。シャルロット・デュノアで居たい。そう思うんです。だから、一度父と話をしようと思います。と言うよりもう一度したんです」

「ほう。それで?」

「父は先生から頂いたデータを受け取ったと言ってから、謝りました。私に。それだけだったんですけど、父はやっぱり僕にこんな事させる事に負い目を感じてるんだと思うんです。だから……」

 

 

 彼女は少し憂いを帯びた目をしてから再び顔を上げて一言「母を、いえ、マジョレーヌ・デュノアをデュノアから追い出したい」と思った以上に過激な事を言い放った。

 そのために父と話をしようと言うのだから思ったより過激派というか力技というか……

 

 

「それから、先生。僕、女の子になりたいです!」

 

 2人で並んで歩いていた脚が思わず止まった。私としては彼女の正体を聞いて以降、普通に女子と話すような意識で居てしまったのだ。だが書類上、生徒としては男子。それをすっかり忘れていた。制服改造自由のこの学園だから、スカートではなくズボンを選ぶ生徒もいるし、その1人のような感じだったのだ。

 

 

「あ、あぁ、そうだね。はぁ、また私と山田先生の胃が……」

「先生?」

「いや、なんでもないよ。書類は用意しておくから、またその時に声をかけるよ」

「お願いします」

 

 教室の前までやってくると、騒がしさのない少し寂しげな空間に足を踏み入れる。

 ケイト先生が教室の後ろでのんびりしてるなか、あんな事故があってピリピリした空気を放つ教室に入った私とシャルロットはもちろん強烈な視線を浴びる。

 

 

「上坂先生。ボーデヴィッヒさんは?」

「無事です。教務部から指示はありましたか?」

「指示あるまで教室で待機と」

「わかりました。全員注目!」

 

 緊張感ある空気がさらに締まる。シャルロットも自身の席に着いたのを見てから今回の顛末を話せる範囲で話すのが筋だろう。

 

 

「今回の事故は人為的なものだった。詳細は機密事項に相当するから話せないけど、ISに不正なシステムが組み込まれていた事がわかった。幸いにもボーデヴィッヒさんは無事だし、いまは織斑先生が付いてる。あんまり話せる事は無いんだけど、今後、同じような事態が発生した場合にも、落ち着いて、今回みたいに先生の指示に従って行動してほしい。よろしくね」

 

 無言の教室で私は自身の城である教卓に着くと、整備室に置かれたシュヴァルツェア・レーゲンのデータを再び覗きながら、教務課の先生の放送を待った。

 




歌をさあ、歌いましょう!

あ、違いますね。すみません

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